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朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故の真相解明に挑む

 
3. 事故発生直後の県の事故原因調査組織
 
新潟県は事故発生2日後の2003年8月28日に県庁内に「事故調査班」を組織した。この調査班の班長は、港湾空港局の当時の副局長で、国土交通省からの出向官僚である。
そして、この調査班が、4日後の9月1日に「事故原因調査委員会」を組織し、この日に調査委員の一部の方々が事故現場を観察している。
しかし、この委員会が発足する前に、国土交通省は調査員を現地に派遣していた。

何とも不透明な新潟県の事故原因調査体制である。下の組織図を見れば誰でもわかる。

 
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設計、監理、施工を発注した局が、その体制だから事故を起こしたにも係わらず、発注当事者が、事故原因調査班と調査委員会を組織して、その全体の指揮官に発注局の副局長(後日、この副局長は昇進して局長になる)が座る。

誰が見ても嫌な予感がすると思う。

この調査班と調査委員会は、上表の設計、監理、施工のメンバーを「事情聴取」と称して設計内容と工事中の記録の提出請求から始めた。警察が、犯人らしき者を捕まえて、まだ犯罪を特定できないから「事情聴取」する構図である。犯人候補者にされたものは何を言っても犯人だと解釈できる発言だけが採り上げられ、その他は全部捨てられる。結局、「事情聴取」に引っかかると、犯人候補生は犯人になるしかない。

要は、事故原因をもっとも知り得る設計・監理・施工に従事した専門家を、原因解明のために役立てるのではなく、単純に「事故犯人」と位置づけてしまったから、真相を解明する重要な議論は一切、当事者間で行われないことになる。

だけど、僕は、極端に楽観主義者だから、自然落下の現象を解き明かすのは、そんなに難しいことではないし、最初の2ヶ月ぐらいでその作業を終わらせ、その後の1ヶ月で関係者が忌憚無く話し合えば、合計3ヶ月で、この事故の真相は、はっきりするだろうと考えていた。
自然落下だから、大雑把に言えば、設計と施工のいずれか、あるいは、双方に直接的問題があったことは自明である。だから、事故原因さえ、はっきりすれば、その後、2ヶ月ぐらいの時間をかけて、責任問題を議論すれば、誰がどういった形で責任を果たさなければならないかは、明白になる。
その上で、こういった事故が二度と起こらないようにするための社会的提言を事故関係者全員の合意のもとに発表することになる。全部で5ヶ月のプログラムである。

しかし、このストーリーは、2ヶ月後には、あっさりと崩れた。

最初の出だしは良かったのである。

2003年9月、SDGは事故原因を明らかにするために、コンピュータ内での崩壊シミュレーションに全力を傾注した。当時、徹夜を繰り返しながら、崩壊起点を探し出す作業に没頭した。
SDGが採用した事故原因解明は、事故に至るもろもろの事情を、一切、無視することにある。もとの設計内容に間違いが無かったのか、施工上の手順に問題なかったか、第一回のジャッキダウンで発生した損傷はどの程度であったか、などなどを調べても、少なくとも崩壊起点を発見することは不可能だ。

実際に破断した全ての箇所を崩壊起点だと仮定して、解析を行うのである。例えばA点が最初に何らかの原因で破壊した、そうすると構造力学的に次はB点が破壊に至る、その次にはC点だと順次、追いかけていく。最後に、全体が崩壊に至る。その最後の崩壊した形が、現場での形(それに崩落1時間前に大きく揺れたという証言も含めて)と一致していれば、A点が崩壊起点とみなせるし、一致していなければ、A点は崩壊起点ではないことがわかる。

構造体の性質は自分で設計したのだから隅々まで分るし、崩落したのは自然落下だから、この手法がもっとも早く、崩落起点を発見する方法である。
A点には全部で23箇所ある。それを全部やるのである。この崩壊シミュレーションでは、力学的観点だけでは真実はわからない。本当は、時間軸を導入しA点からB点、C点と破断が移動する時間、多分、一秒の何分の一だと思うが、が解析できれば真実を探し出すのが早いが、それが出来るまで今の僕たちの技術工学は進歩していない。だから、それに代わる方法として、僕たちは、幾何学的シミュレーションを併用した。A点、B点、C点と破壊が進むにつれてデッキの形がどんどん変化する。それを追跡することで崩壊過程の時間はわからないけど、プロセスの妥当性を検証することができる。

要は、力学的シミュレーションと幾何学的シミュレーションを同時並行して進めることで真実を発見できるのではないか、という手法である。

その結果、僕たちにとっては記念すべき日であるが、2003年10月10日に、「R27上弦材鉄骨破断」が崩壊起点であることを発見した。他の破断している箇所は起点にはなり得ない。このときには、何故、R27上弦材鉄骨が破断したのかは分らない。それは、現実にR27の鉄骨は現存しているのだから、それを調べれば済むことである。
再度チェックし間違いないことを確かめて、それら検討資料の整理をして、新潟県と調査委員会にこれを送ったのが11月15日である。いつでも説明に行きますよ、というレターも添えた。

しかし、新潟県当局、調査委員会からも、まったく応答はなく、無視された。それでも僕たちは真因解明だけがテーマだから、R27上弦材鉄骨の検証をしたい。それさえできれば「上弦材鉄骨破断説」を完全に証明できる。で、新潟県に、彼らの保管倉庫にある鉄骨部材の検査を申し出たが、それも新潟県当局は拒否。

「無視」と「拒否」とに出会い、すでに、新潟県はSDGが犯人であることを決めていることを知った。このときからSDGの楽観的事故処理プログラム(5ヶ月あれば完了できる)は、現実性を失ったのである。



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Updated October 05, 2005