SDG

朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故の真相解明に挑む

 
4. 最終的調査組織
 
調査班と調査委員会は、SDGの事故解明手法とはまったく逆に始めた。
設計と工事の資料を収集し、そこから問題点を発掘するという手法である。これでは真相は絶対にわからない。なぜなら、どこかに悪意があって崩壊した場合、どこかに意図的思惑が存在して崩壊した場合、などはそれでも良いが、建設に従事した全員が善意を基本にし、しかも、自然落下である。地球引力の法則にしたがって落下したものを、人的プロセスを調べても落下原因は特定できるはずが無いのである。

2003年9月、事故発生の翌月である。
この工事を請け負った第一建設が、PC定着部の実大実験を行った。彼らは、こういった事故が起こると、いつも施工者に責任があることにされて、賠償を請求されることを知っているから、早々に、この事故の原因は、設計そのものにあることを証明しておきたい。それで、実際の定着部と同じものを製作して、実験したのである。その結果を第一建設のホームページに掲載した。

僕は、この姿勢を高く評価した。自分に責任が無いことを早めに物的に証明する、これは今までのゼネコンにはなかった積極的な発想だ。

しかし、第一建設のホームページを見ると、その実大実験の試験装置があまりにもお粗末なものであり、とても現地を再現したものではない、慌てて実験したためにコンクリートの養生期間(4日間)があまりに短すぎる。破壊した定着部の写真が現場で破壊した実物とまったく違う。だから、この実大実験は、第一建設の意欲と姿勢を表明したもので、技術工学的には価値がない、と考え、黙認していた。

そしたら、10月になって、調査委員会は、この第一建設の実大実験はきわめて信頼性の高いものである、と突然、言い出したのである。調査委員会はこの実験結果、定着部は65トンの耐力しかないことを採用すると言い出した。
第一建設の実験は、調査委員長と調査班長の指導を受けて実施されたと思われる。両氏と第一建設との関係は不明だが、調査班によって誘導された結論である痕跡はある。

そして、調査委員会の原因調査は終了し、結論として、崩壊原因は、@定着部の設計ミスが主因、A定着部の補強筋不足が崩壊を早め、さらにB第一回ジャッキダウンがさらなる崩壊の促進を起こした、とした。その根拠は、第一建設の実験結果にある。滅茶苦茶な論理である。

 
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委員会は、それだけで、調査報告書を書くわけにはいかないから、崩壊シミュレーション解析を行い、その体裁を整えなければならない。しかし、調査委員会には解析能力が無いから、調査班が土木コンサルタント会社の(株)長大を雇った。
このあたりの事情も透けて見える。
事実、長大の社員が第三回調査委員会から最終回までこの「事故原因調査委員会」に出席して、解析結果を委員に説明している。

しかし、調査委員会は最初から「ロッド定着部破断」の結論を決めているから、長大の解析と議論がかみ合わない。それは、最後の調査報告書を見れば歴然としている。

一方で、SDGは上弦材鉄骨破断が起因だと、レポートを調査委員会に提出しているから、これを完全否認しておかないと、報告書に後になってケチを付けられることも自明だ。そこで、この工事の鉄骨供給会社である新日鐵の子会社、日鐵テクノリサーチに、調査班が破断面調査を発注している。

上の表を見ればわかるように、最早、ドロドロの調査体制である。

結局、2004年1月19日に調査委員会は「調査結果報告書」を県知事に提出して、解散してしまった。この調査報告書に調査委員の署名捺印は無い。

この報告書で、「事故はロッド定着部の強度不足が主因」と決め込んでいるから、したがって、定着部の破壊はいつでも起こり得る状況だから、残存4スパンのデッキも解体撤去すべきだ、との提言も付記している。知事は、この報告を受け、残存デッキの解体撤去を決定した。

PC工事を担当した黒沢建設は、知事の解体撤去声明以前から、残存デッキを利用して定着部の耐力実験をすれば、多くの事実がはっきりするではないか、新潟県が実行する能力が無いのであれば、代わりに黒沢建設が公開でやってあげます、と再三、新潟県に申し出ていたが、これも無視されていた。

SDGは、残存デッキの再利用を、県は多分、考えるだろうと想像し、他の実験方法はないかと模索していた。しかし、実物を再現する供試体の製作が難しい。
困っているときに2月の県議会で知事が解体撤去を発表したのである。
そこで、SDGはどうせ解体撤去するなら、その前に、必要な試験を行ってこの定着部や鉄骨の耐力を調べれば、原因究明は一挙に解決します、という書簡を、知事に送った。返事は、港湾空港局長から来て、「調査は終了しており、調査上、追加するべきものは皆無である。」とあり、解体の準備を進めていた。

2004年4月に、県は実際の解体を強行する姿勢を示したので、僕は、困り果てて、新潟地方裁判所に証拠保全の申請書をつくり、提出しようとした。そしたら、どこにスパイが居るのか知らないが、新幹線に乗る前日に、局からFAXがあり、「SDGが残存デッキを利用した試験をやりたいなら、同じ申出を黒沢建設も清水建設も行っているから、3者で協議して試験計画書を提出せよ、試験に要する費用は全額自己負担だ」という内容であった。

突然、清水建設の名前が出てきたので、何だろうと思い清水建設に電話したら、「自分たちは自費でそんなことをやる積もりは全く無い、県は何か勘違いしてるんでしょう。」(清水建設はこの連絡デッキの佐渡汽船側2スパンの施工会社)
その後、県から、黒沢建設は試験に参加しない、と言って来たが、SDGは単独でもやる積もりがあるのか、との問い合わせが舞い込む。

で、僕は、黒沢建設の黒沢社長に会いに行った。

渡辺「黒沢さんは、残存デッキの試験の実施はやめたのですか。」
黒沢社長「ええ、やめました。県は、もうこの事故の賠償請求をするために提訴する、という文書が当社に来ているからです。」
渡辺「試験と裁判と関係あるのですか。」
黒沢社長「訴訟になれば、原告がその主張を"実証"する義務があるからです。被告にされる者が、費用を負担して実証する必然性がないのです。県が県の費用で行うべきです。それを手伝えというのなら分りますが、やりたきゃ勝手にやれ、では全然、(県は)意味がわかっていない。」
渡辺「なるほど、それは筋ですね。」
黒沢社長「去年から黒沢建設は実物で試験をやりなさい、と何度も提案しています。それを無視して、報告書をつくっておいてから、さあ、勝手にやれとは、あまりに非礼じゃないですか。」
渡辺「その通りですね。しかし、新潟県は事故原因を最初から明らかにしようと思っていないから、ほっとけばこのまま捨ててしまいます。僕は、裁判のことは別にして、この事故の真因を知る必要があるので、相当な犠牲を払ってでもやり遂げます。」
黒沢社長「黒沢建設は、既に、自社で定着部のモデルをつくり、技術的に知りたい内容、性状とか強度は、ほぼ全容を解明してきました。」
渡辺「しかし、実物がそこにありながら、それを使った試験をやらないのはまずいと思います。真相解明に直接的に役立つと思います。」
黒沢社長「渡辺さんがやろうとしていることには、全面的に協力しますよ。黒沢建設は筋を通すために表には出ません。」
渡辺「わかりました。よろしくお願いします。」

5月の連休が明けて、SDGは、「落下デッキおよび残存デッキを用いた試験計画書」を県に提出した。
その最初の打ち合わせで、僕は、試験の内容について県の職員に説明しようとしたら、彼は、内容は話さなくても結構です、その試験費用はあなたが全額負担することと、試験実施のための費用を県に支払うことが実施の前提です、といきなりお金の話をしてきた。
何のことか分らないし、県に何故、金を払う必要があるのか、詳しく聞いたら、約1400万円用意しろ、であった。僕は、「これじゃ暴力団と一緒しゃないの。僕は貧乏人だから、それを知っていて、試験をさせないための嫌がらせだ。」と抗議。相手は、まったく動じない。「金がなければ、出来ませんね。」という態度。

結局、いろいろな嫌がらせがあったが、残存デッキを利用した試験を強行したのが6月9日、他の定着部を切り取り、日大の実験場を借りて試験が出来たのが、8月13日から22日の一週間。試験に取り組んで頂いた方々は、全員、お盆休みを返上しての大変なエネルギーを注入して頂いた。6月の現地試験には、調査委員会の一人の委員が見学に来たが、結局、コメントを残さずに消えた。

日大の実験場には、調査委員は姿を現さず、その代わり、長大の社員と県の職員が毎日来て、試験の様子を観察していた。

このときの試験で、ロッドを引張るジャッキのキャパシティ150トンを超えても、定着部が健全なままの供試体が3体あった。それを実験室の脇に置いといたら、県の職員がトラックを用意して、僕たちに無断で、新潟に持ち去った。後の鉄骨と同じで、簡単に、拉致された。

これらの試験は、ロッド定着部だけであった。鉄骨部材の試験が行われていない。
残存デッキを早期に解体撤去したいという県の意向を尊重して、定着部についての試験「協定書」を作成したからである。しかし、SDGの「試験計画書」は、鉄骨部材も含んでいたから、解体に先立ち、こことここの鉄骨は切り取って下さい、試験対象にします、と県に話したら、切り取り費用をSDGが負担するならいいですよ、ということになり切り取ってもらった。新潟県は事故原因究明のための申出を、すべて金銭に換算して諾否を判断する役所だ。

しかし、SDGが解体業者にお願いして切り取った鉄骨部材は、そのまま県の保管倉庫に拉致された。

いまだに拉致されているので、鉄骨に関する調査が何もできていない。



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Updated October 05, 2005