SDG

朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故の真相解明に挑む


第25章
「発注者責任」に該当する法律はあるか?

2013年の年が明けたが、何だか暗澹とした気分であった。東京高裁は早期決着を目指し、控訴人と被控訴人の主張と争点の整理を着々と行っている。

「設計者責任」とか「施工者責任」はよく言われることで、僕は実際の法的根拠は知らないが「常識」となっているようだ。しかし、「発注者責任」の法的根拠は少なくとも建築関係の法令を調べてもどこにも無い。春になるまで悶々としていた。裁判所は手続きを着実に進めている。僕も初めてあせりを感じた。困り果てた結果、また、世戸弁護士に相談したのが2013年4月5日であった。

で、2013年4月19日に補助参加人SDG準備書面(2)を東京高裁に送った。その要旨は以下。

SDGは、控訴人新潟県自身がいわば発注者責任(民法第418条および第722条2項)を負うべきであること、控訴人が本件の設計および工事の発注者として果たすべき責任を致命的に怠った事実を以下に指摘する。

1. 設計委託契約について
 (1) 控訴人は被控訴人協同組合と設計の委託契約を平成12年10月11日に行
   っている。委託契約条項の中で「乙は、委託業務の処理について、そ
   の全部又は大部分を第三者に委託し、又は請負わせてはならない」と
   してその後段で「ただし、あらかじめ書面により甲に申請し、その承
   諾を得たときはこの限りでない」としている。そして契約当日に被控
   訴人協同組合は、控訴人に対して業務の全てを福地事務所に再委託す
   る「設計業務担当者承認申請書」を提出した。契約の当日である。こ
   れでは被控訴人協同組合は、実態のない単なる委託料受け渡しのため
   途に関する重大犯罪ともいえる。
 (2) また、この「設計業務担当者承認申請書」にSDGの名前はない。
 (3) この設計委託契約書には「設計委託特記仕様書」が添付されている。
   委託契約書の表紙には履行期限として平成12年10月11日から平成13年
   1月25日まで(107日間)と明記されているが、添付の「特記仕様書」
   では「12年度の設計書及び図面については平成12年10月20日までに納
   入すること」とされている。わずか9日間である。実行不可能な日数で
   あり、しかもその理由はなんら書かれていない。全長200mの連絡デッ
   キを設計するのにどんなに期間を詰めても約3ヶ月(90日)は必要で
   ある。
 (4) この異常な設計契約を行ったのは控訴人であり、控訴人には設計に関
   するいわば「発注者責任」があることは明白である(民法第418条お
   よび第722条2項)。
2. 工事契約について
 (1) 控訴人は被控訴人第一建設と「工事請負契約」を平成12年11月13日に
   行っているが、この時点で本件連絡デッキの設計図書はまったくの未
   完成である。未完成であるばかりか、このとき作成していたSDGの構造
   図は5スパン連続橋を前提にしていたもので、工事発注は4スパンだけ
   を行っているのだから、控訴人は設計内容にはまったく無関心のまま
   工事発注を行ったことになる。
 (2) 「工事請負契約書」に工事期間の条項があり、平成12年11月13日から
   平成13年3月26日まで、とある。着手期限は平成12年11月19日以前で
   ある。この工事期間では本件連絡デッキの完全な工事を行うことは不
   可能である。新潟の厳寒期に当たるからである。
 (3) SDGが制作していた本件連絡デッキの設計案は、下弦材をPC床版で上弦
   材を鉄骨としたものであるが、北風が吹付ける厳寒期にあっては以下
   の工事をしてはならないからである。
   ■ PC床版は長さ6mで工場製作されそれを現場で組立てる、そのとき6m
     のPC床版の間にはモルタルの目地が必要である。現場でモルタル
     を挿入したとき、強度発現(約3日間)の間に外気温が5℃以下に
     なるとモルタルの水分が凍結してしまい構造強度を発揮できな
     い。新潟の12月から2月の厳寒期に施工は困難である。
   ■ PC床版には長手方向にプレストレスト力を導入する。これを実際
     に行うためにPC床版はシースと称する小径の管が工場で埋め込ま
     れ現場でPC床版を貫通するストランド(PC鋼線)の両端にジャッ
     キを当てて緊張する。緊張後に先ほどのシース内にモルタルをグ
     ラウトする。前項と同じで、このシース内のグラウトモルタルの
     水分が凍結してしまったら、この構造方式そのものが成立しな
     い。
   ■ 上弦材鉄骨は。門型に工場で組立てておき、現場に建てこんだあと
     で6mのH型鋼の両端を現場溶接する。現場での溶接作業は気候に支
     配される。気温、湿度、風速、降雨、降雪などに制限があり、新
     潟の厳寒期は適正な現場溶接をする気候に適さない。
 (4) 前項も、控訴人が設計内容をまったく理解しないで工事発注した証拠
   である。本来であれば、適切な工期を設定するか、あるいは工事契約
   上の工期を優先するのであれば、厳寒期に実現可能な工法の構造に設
   計変更することを設計者に求めるべきであった。控訴人は工事発注者
   でありながら、そのいずれも行っていない。
 (5) この不合理な工事発注を行ったのは控訴人であり、控訴人には工事に
   関する、いわば「発注者責任」があることは明白である(民法第418
   条および第722条2項)。
3. 計画通知について
 (1) 控訴人が新潟市主事に対して「計画通知」を提出したのが平成12年11
   月28日である。そして新潟市が検討の上「確認済書」を発行したのが
   平成12年12月15日である。着工は平成12年11月19日以前であることを
   控訴人は工事請負人の被控訴人第一建設に義務付けているから、着工
   後に控訴人は「計画通知」を提出しており、「確認済書」が新潟市か
   ら発行されたのは、すでに工事が始まって25日以上が経過してからで
   ある。
 (2) 本来、「確認済書」を受領してから着工すべきところを、その受領以
   前に工事を進めていることを「事前着工」といい、建築基準法で厳に
   禁止されている。いわゆる「事前着工」は、建築基準法上の確認制度
   を根本的に崩壊させてしまうものだからである。
 (3) 「確認申請」おとび「計画通知」は、事務的な手続きではない。構造
   安全性だけでなく集団規定といわれる都市における建築ルールに適合
   しているかどうかの根本的な検討を行う場である。控訴人は、なにか
   を建築しようとするときに日本国民の全員が守らなければならないル
   ールまでをも侵しているのである。
4. 結論
  控訴人は、本件連絡デッキの設計契約においても工事契約でも、自らが
  果たすべき責務を怠っており、正常な設計契約と工事契約が成立してい
  れば本件事故は起こり得ないのである。したがって、事故賠償責任は控
  訴人自身が負うべきである。さらに、控訴人は「事前着工」という重罪
  を犯しているのだから責任のすべてを負った上で、新潟県民に謝罪すべ
  きである。

以上がSDGの準備書面(2)の要約。
ここで、民法第418条は「債権者の過失」、民法第722条2項は「被害者の過失」を指しているらしい。世戸弁護士のアイディアは、「発注者」がこの事件の場合「債権者」であり「被害者」だと自分で言っているのだから、この民法の条項がいわば「発注者責任」に該当するというものである。




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Updated 12.NOV.2011