Structural Design Group

「横浜港大さん橋国際客船ターミナル」の構造デザイン

a. コンペ案からのファーストステップ
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コンペ時のパース

バーデン 私はこのプロジェクトに関して、最初の契約に関するやりとりをしていた頃にSDGの担当者としてかかわっていました。その後、私が独立したので、設計についてはほとんどかかわっていません。今日は、その後どのようなプロセスを経てこのプロジェクトが完成したのかお伺いしたいと思います。

そもそも、コンペ結果発表時のfoa案に対してどのような印象をおもちでしたか?

渡辺 コンペ案は、従来の建築のように柱や梁で支えるのではなく、上階の床をうねらせて下階の床につなげることで上部から基礎まで力を伝達させるという空間構成をしていて、その斬新性に驚きました。SDGで構造設計を受けることになってから、コンペ時の資料を見ていくと、そこでは「カードボード構造」というものが詳細に提案されていました。ただ、僕には、元のコンセプトと力一ドボード構造がどうしてもつながらないと思いました。つまり、 カードボード構造という1方向にしか力が伝わらない構造では、床が自由にうねってそれが次から次へと力を伝達させる構造にはならないと考えたのです。それで、別の方法の検討をはじめたのです。


b. カートボード構造からの変化
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基本設計その1段階で検討されたラチスグリッドのフレームパターン模型の数々

バーデン 基本設計その1の段階ではどのように考えていましたか?

渡辺 カードボード構造の根本的な考え方は、まず上面と下面にフランジとして薄い鉄板があって、その間が何らかのかたちでつながれて“面”のユニットになり、それが力を伝えていくというものです。
そうするとフランジの間をどうつなげるかが問題になります。
それをラチスクリッドのフレームで組むと、スペース・フレーム構造になりますが、その組合せ方はひとつのパターンではなくて、必要な応力によっていろいろな形態が生まれます。最終的な到達点は有機的な形態をした床の連続体なので、その表面は、たとえば植物の葉の細胞のように自然が生み出した形態に近くなるのではないかと想像していました。
応力が集中するところはフレームの密度が高くなり、応力が少ないところは希薄になり、形態が自ずと生まれるだろうと。
またそれは、限られた工事費内で実現するため、部材量を減らす意味も含まれています。

バーデン foaでは当時はどのように受け取っていましたか?

foa コンペ案の構造のコンセフトで重要だったのは、1枚の鉄板、面材を折り曲げることで構造を成立させるということでした。
コンペ時にはそれをカードボード構造と呼びましたが、実現された折板構造もまったく同じ考えに基づいています。
基本設計その1の案にも興味深い点がありますが、元のコンセプトとはややずれているように感じました。

渡辺 SDGでは、foaが進めたスタディ図を元に、各部位ごとに上下フランジ間の距離=床の厚みがどのくらい必要になるのかをスタディしていました。
これは力と変形の関係から数値化されます。そうしていけば、天井面のかたちは自ずと決まっていきます。それを今度はfoaに送って、互いにフィードバックを繰り返して全体の形態を収斂させれば、計画と構造の問題とがすべて解決すると考えていました。
中身はともかくとして、上下フランジの距離をどうとるかによって、表面のデザインが決まると考えていたのです。

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基本設計その1段階の部分断面


c. 力の方向性をどうとらえらえたか?
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コンペ案(上)と基本設計その1(下)の短手断面の比較。コンペ案のものより各施設の天井高が約50%高くなっている。

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応力解析する際のメッシュモデル
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応力ベクトルを表示した図

バーデン 構造システムに機能させる力の方向性を1方向にするか、2方向にするか、あるいはある程度は2方向にしながらも多方向に伝わるものと考えるか、そのあたりは構造設計者として悩むところだったと思います。結局は、ガーター(桁梁)部が1方向。それに直交して架け渡される折板面も1方向の構造になっていますが、当時は構造システムの方向性についてどのように考えていましたか?

渡辺 まさしく3次元に力が伝達する構造を目指していました。ガーター/床/屋根別に応力によってとヒエラルキーをつけるのではなく、2枚の鉄板が場所ごとにその厚みを変えながらも、全体を一体化させたものを目指していました。うねった床面の中で力を伝える方向と大きさとが場所ごとに刻々と変化していくのですから解析が大変でしたね。


d. カードボード構造からの展開マトリックス
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渡辺 基本設計その1が終わった時点ではまだ、 foaはカードボード構造を求めていたようなので、力一ドボード構造を基点としてどのような展開があり得るかを図にしてみたことがあります。
カードボード構造は力の伝達が1方向なので、それと直交する方向ヘカを伝達させる際に曲げが生じます。それを吸収するにはフランジ板を厚くするか、ウェブパネルを台形の断面となるように折り曲げたものになります。その発展形としてフランジの軸線とウェブの軸線を一致させるものもあるのですが接合の問題が生じます。それを解消すべく等方性で座屈にも強い部材配置を考えるとウェブ材をまとめて配置するものが考えられます。それを鋼板ではなく線材でまとめていくとスペース・フレームに向かっていきます。


以上の方向はVoidへと向かうものです。
逆にSolidに向かう方向も考えられました。フランジ間のウェブを格子状に配置するもの、ハニカム状にウェブ材を配置するもの剪断力の伝達が難しいですがスタイロフォームやウレタンフォームを挟み込むもの、CFT柱のように鋼板の間にコンクリートを充填させたものが考えられました。
ふたつの方向性があったのですが、 構造的にいえば、 Void方向は「引張」 が支配的な構造に適しており、 Solid方向は「圧縮」が支配する構造に適しています。 foaの建築を考えると、基本的には 「圧縮」 系の構造だと思いました。メイン構造はボックス状の巨大アーチですし、跳ね出したスラブは圧縮側の高い剛性が変形を止めるでしょうから…。


e. 応力ベクトルに対応した混構造案
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渡辺 基本設計その1では∨oid方向のみに向かいましたが、基本設計その2ではSolid方向、∨oid方向共に両方向の追求を総合的に行い、フランジ間の構造を応力計算の結果に基づいて適材適所に配置することを考えたのです。

バーデン foaではミックスされた構造をどのようにとらえていましたか?

foa この建物では空間の連続性を重視し、仕上げに使われる素材を限定しています。素材を限定しながら同じディテールのバリ工−ションで空間を覆っています。構造についても−貫性のあるシステムを考えていました。

渡辺 混構造案の最大の欠点は、どのようにして施工するのかを当時は答えを導き出せていない点です。
フランジ間を構造別に区切るための単位(=フランジ間の仕切り)をつくったとしても、一体的に力が流れる構造ですから、建物全体ができ上がらないとサポートが外せないのです。そこが当時最大の悩みでしたね。

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プラザ階ユニット区分図
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プレート面6角形ユニット詳細
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f. ハニカム案の検討

バーデン そうしたことを受けて、混構造案並行して八ニカム案がfoaからあらためて提案されたのですか。

foa そうですね。鉄板を曲げたものを構造体にしたいという意味で八ニカム構造を提案しました。

渡辺 八ニカム構造は、元のコンセフトにもすごく近い構造です。八ニカム構造で一番難しいのは、ハニカム・コアと表面のフランジ面をどうつなげるのかという問題です。普通は接着剤を使います。そのほかに特殊金属を用いて電気で溶着する方法もあります、ですが既存のハニカムの製造法では、今回のような大規模の構造にはとても耐えられないうことがわかりました。新しい八ニカムの製造法の開発にも取り組んだのですが、それは成功しませんでした。

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foaからファクシミリで送られたハニカム案の提案図

g. 折板構造へ
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foaからファクシミリで送られた折板構造の提案図。

バーデン この時期lはSDGとfoaでアプローチの仕方に違いがあり、ある意味で非常に面白い時期だったのでしょうね。
そこから、実現した構造に近い、力一ドボード下面のフランジが消えたものが出てきたのでしょうが、それほどのようなプロセスで登場したのですか?

渡辺 僕らが応力ベクトルに対応した混構造案で、建物の施工上の問題をどうするかを考えていたところに、foaからあるファクシミリが届きました。
どうやら構造の模型を見ていくうちに思いついたようなのですが、それは「力一ドボード下面の鉄板を剥がして、フランジ間の構造を折板橋造にしてはどうか?」という提案でした。フランジである鉄板内部のストラクチャーをうまく表現して空間の面白さをアピールしようという意図でした。

foa それ以外に、プログラム上の問題とも関連しています。ガーターの斜路が左右で同じように上がり下がりをしているので、それを構造に生かそうとして、2本のガーターに折板を架け渡すことを考えたのです。その時点で3次元的に力を伝達するものではほかなるのですが、それよりも、ガーターと折板とが共に“鉄板を曲げてできたもの”ととらえられる点を優先させようとしました。

渡辺 折板構造は、合理的できれいにできるのですが、それはコンクリートという一体鋳造されたものだからうまくいくのです。それを鉄板でやるには座屈の問題が出てくるので難しいなと感じました。やるなら、おそらくデッキフレートを使うことになるのではないかと思っていました。


h. 折板接合部の問題点

渡辺 実際に計算してみると、折板であれば非常に薄い鉄板でできることがわかりました。
そうすると可能性が広がります。ただし、溶接にすると折板が変形しますから新しい接合システムの開発が必要になりました。そこで発見したのがヒルティ鋲(火薬の爆発力を用いて鉄板を貫通させる鋲、1本4.5mm径のもので1.5tの剪断耐力がある)です。その発見が非常に大きかったですね。
薄い鉄板が構造的に機能して、それが溶接でも八イテンションボルトでもない鋲で止めることができるというストーリーに興味を惹かれました。そこからfoaとやりとりをしながら展開させていったのです。

バーデン 「ヒルテイ」という名前を聞いて非常に懐かしく感じました。イギリスの現場では、仕上げパネルとか2次的な部材を止める際にほとんどヒルティ鋲で止めているからです。でも、本構造としては使われていないので、その意味でも大きな進歩がありますね。

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ヒルティ鋲による施工の様子

i. “コントロール・ライン”の導入

バーデン 設計者が施工に関与したところは、複雑な形態を整理して把握するための“コントロール・ライン”という曲線による座標軸の導入だと思います。通常の直交座標軸を廃止したのはいつの段階ですか?

渡辺 2期工事着工後,各種の施工計画打合せがはじまったときの最初の議題になりました。僕らはガーターがうねっていても、うねっているもの以外は直交座標軸上に置くのがいいだろうという意見で、foaはガーターを基準軸にしてそれに合わせて設定したほうが部材の取り合いがシンプルになっていいだろうという意見でした。僕は最終的にはつくり手である鉄骨会社のアドバイスを受けて最終決定すればいいと考えていました。メイン・コンサルタントのエンジニアからfoaの提案した方法でいけるんじやないかという話が出たので、以降は図面をそちらの座標軸に合わせました。僕が一番気になったのは、ガーター面に直角にキャンティレバーを取りつけたときにキャンティレバーの向きがバラバラになってうるさくならないかでした。でもでき上がるとほとんど気になりませんでした。“コントロール・ライソ導入の利点は、きれい/汚いの問題ではなくて、やはり、生産性の問題だったのです。

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92通り芯のガーターのテンプレート施工図。テンプレートは、長手方向に1,800mmピッチで形336個、おのおの別の形状のものが工場製作された。
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コントロール・ライン概要図
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部分屋根伏、ガーターにとりつく最初の折り板は、基本的にコントロール・ライン

j. 折板面の変化
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施工直前時のウェブ面材概要図

渡辺 折板部は座屈対応のためデッキプレートのように凹凸のついた面で考えていました。
ですが、後にfoaから折板の面は平坦なほうがいいとの意見が出たのです。

foa 面材そのものも折板と同じように折れ曲って強度を増している。ガ一夕ーの大きい襞と、折板の中くらいの襞、面材の小さな襞という自己相似的な構造はたいへん面白いと思いました。ただし、構造システムの一貫性という意味では、ガーターの面もデッキプレートになるほうがよく‥。

渡辺 結局、凹凸をつける場合に、FR鋼でのプレス加工の困難さなどの不具合が生じたこともあり、座屈止め部材を配置して折板の面を構成することにしました。

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折板のスタディ模型。上はデッキプレート状のもので考えられていたときの模型。

k. ガーターと折板との接合部の変化
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施工直前時の折板ガーター側元端接合部詳細

バーデン ガーター部と折板部のつなぎ方が悩み深いところだと思います。その接合部についてはどのようにしましたか?

渡辺 施工直前の段階で変更が加わっています。最初は、ガーターと折板の両方に金物をつけて、それをジョイントしていました。反対側の接合部が同一座標軸上にない可能性があるのでユニバーサルジョイントにして対応させていました。
これだとガーターと折板との間にスリットを設けて接合することになります。3点のポールジョイントだけでつながっていて、折板がガーターから浮いて見えるものでした。

foa ですが、われわれが考えていたのは折板とガーターとが一体となって、1枚の紙を折り曲げただけでできているような天井面でした。

渡辺 これについては結局、より施工性もよくなるよう、42mmφの八イテンションボルトを使った接合にしました。
“コントロ−ル・ライン”に直角に取りつけることになったので、何もユニバーサルジョイントにまでする必要がなくなったという理由もありました。


l. 現代技術/職人の技と建築
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バーデン 設計から施工までコンピュータやファブリケーションなど技術的問題があったかと思います。それについてお聞かせ下さい。

渡辺 foaではすべてコンピュータによる設計方法で進めていて、こちらもそれに対応してコンピュータでデータのやりとりをしました。そのデータはゼネコン、ファブリケーターヘと流されます。でも最後に行き着く工場では手作業でしたね。プレカット的な作業はデータで対応できると、てっきり思っていたのですが、データ対応できるのは図面の原寸出力までで、実際に部材をカットするときは結局、鋼板をケガいて職人さんの手作業でカットするしかないのです。最後の段階でコンピュータによるデータの流れが切れてしまい、そこに対応するのに膨大な人的エネルギーを使いました。また、ヒルティ鋲がいい例ですが、それをきれいに止めていくには、職人の技がないとできないのですよ。そうした体験を通じて、人間が本来もっている技とコンピュータの力が合わさらないとコンピュータ建築はできないと感じました。人間がもっている技をどうやって建築の中に生かすかということは非常に大事なことで、そのうえでコンピュータがつくり出すものをうまく合わせていけば、新しい建築が生まれるのだと思いました。

バーデン 職人性が新しい局面で現れてきましたね。コンクリートによる古典的な折板構造からヒントを得てそれを改善して鉄骨造としている点も面白いですし、いろいろな意味で歴史に残る建築だと思います。



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Updated Dec 8, 2002