第2話『新天地を求めて』

◆◆◆1◆◆◆

 昼下がりの喫茶店は引っ切り無しにお客が出入りしていた。

 ルルブは多くの人々が訪れる街。この大陸において西の山岳地帯と東の地域、さらには南東へ向かう主要な都市部への交通に際しても重要な街。宿場町が発祥となったとされてはいるが、いまではご覧の通りの賑わいぶり。

 大陸でも屈指の図書館や、古い時代の歴史を語る上で欠かせない教会なども建立している街だけに、人も多いというもの。

 行き交う人の多さに、興味津々に目を輝かせるのはスモーキー。引っ切り無しに出入りする人々を上手い具合にさばいて見せるお店の主人の力量にも驚かされる。

「それでね、今後の計画なんだけどね……」

 軽やかな口調でミケが語り出す声に気付き、慌てて振り返るスモーキー。机の上に広げられたのは簡略化された地図であった。ミケはこの地図を見ては、見知らぬ街への夢を膨らましていた。夢の白地図とも呼べる地図であった。

「ぼく達がいるのはここ、大陸の西側に位置するルルブの街。交易の盛んな賑やかな街なんだよ。クマの兄ちゃん達は、山間の開拓村から来たんだよね? それでね、ルルブの街からさらに西に行くとね、山の中に街があるんだ。ぼく達は、この山の街を目指してみようと思うんだ」

 説明しながら、ミケは皆の表情を覗き込んで見せる。

「ここは古くから芸術家達を産み出してきた街でね。山奥にありながらも、芸術の道を極めようとする人達が集まる街らしいんだ。辺境の地にあるけど景色は最高らしくてね。大自然がとても豊かな場所なんだ。もしかしたら、意外な出逢いもあるかも?」

 ミケは嬉しそうに笑いながら、クマトリオに語ってみせる。

 西の方角はルルブを除けば、主要な街は山の街くらいだ。まずは制覇しやすい西部を完全に抑えようという訳か。ミケの考えを判断し、グレイドが頷いてみせる。マネして腕組みして頷いてみせるカールに、思わず吹き出すリドル。

 良い香りのするハーブティーを啜りながら、ターキーが口を開く。

「じゃあ、ミケ君達は西を完全に抑えてしまう方針だから……ぼくらは、逆に東を押さえておこうか。この大陸も、一見小さそうで広大なのは事実だよね。国境を越えてしまわない範囲で動かないと、何が起きるか判ったものじゃないからねぇ……。いきなり攻撃されても困るものねぇ?」

 思わず苦笑いしながらスモーキーに目をやってみせる。当のスモーキーは、通りかかった給仕の娘に愛想を振舞いている。スモーキーの後頭部に、静かにターキーの鉄拳が飛ぶ。

「うぉっ!? ほ、星が見えたぞ、オイ……」

「余所見していると、突然の飛来物も避けられなくなっちゃうよ?」

 そんな飛来物が存在している日常というのも中々刺激的だな。グレイドは腕組みしながら、感慨深そうに頷いて見せた。

「東かぁ。東の方角には雪と氷の都がある。スノーマン達が住んでいる街だと聞く。なんでも連中は音楽好きと聞く。音楽だったらオレ達とも通じる部分はあるはず。良いんじゃないか?」

 横からくちばしを入れてみせるハスキー。のり気なのか陽気に微笑んでみせる。これまた妥当な線だな。グレイドが頷く。

 国境に引っ掛からないように移動しようとすれば東西の線は短い。むしろ南に向かい大きく展開している。となれば、東西から抑えるのは至極妥当な線だ。よし。第一陣はこれで行こう。

 話し合いの行方を見守りつつも、リドルは戸惑いを隠せなかった。

(西と東か。うーん。ぼくはどうしよう? 出来ることと言っても手紙の配達くらいしか無いからなぁ)

「あ。閃いた。閃いたんです!」

 不意に、元気良く立ち上がってみせるリドルに、思わずきょとんとしてしまう一同。みなの視線を一手に集めてしまい、思わず真っ赤になってしまうリドル。

(あちゃー、目立ち過ぎ?)

「あ、あのですね、南東の地域に広がる小さな平原があるんです。そこには小さな農村がありまして、そこで収穫祭が行われる予定なんです。ぼく、丁度そこに手紙を届けに行く予定があるんです」

「なるほど。あの一帯はケンタウロス達が住んでいる地域だな。遊牧することなく、土着しているケンタウロス族達だ。幸運なことに、今年は相当の収穫高を見込んでいると聞く」

 物知りグレイドが静かに語って見せれば、そうなんですよとばかりに嬉しそうに微笑んでみせるリドル。水を得た魚の如く元気に語り始める。

「ぼく、賑やかなお祭りに参加したいと思っていたんですよ。それに、美味しい野菜作りのプロ達ですからね。街を作る上でも、きっと役に立つと思うんですよね。どうでしょう?」

 照れくさそうに微笑むリドルに、ミケが頷いて見せる。

「うん。それは、この地域を良く知っているリドルならではの情報だと思う。是非ともお願いするよ」

 おいしい野菜かぁ。山猫さんのサンドイッチ美味しかったなぁ。昼に食べたサンドイッチの味を思い出し、悦に浸るミケの眉間をコツンとカールが突付いて見せれば、すかさずカウンターパンチが飛ぶ。

「ミケ、リドルが向かおうとしている村の傍には、先程世話になった山猫さんのレストランもある。リドルよ、ついでと言っては申し訳ないが、山猫さんも尋ねてきてはくれないだろうか? なんでも、街にレストランを出したいと考えていると聞く」

 ミケとカールがバトルを繰り広げる様を、横目で見つめるグレイド。だが、全く動じることなく淡々とリドルに語り掛ける。当のリドルは引きつった表情で受け応える。

「山猫さんと言えば、超腕利きのシェフさんですよね? わぁー。その山猫さんにお逢いできるなんて、なんだか感激です」

 嬉しそうに、照れくさそうにはしゃいでみせるリドル。グレイドは意味深な笑みを浮かべつつ、ミケに流し目をくれてみせる。

(ああ、あんな素敵なゴチソウを毎日食べられるなんて、なんてぼくは幸せなんだろうか……)

 一人感動に溺れるミケ。大方そんなことだろうと想ったが予想通りだな。一人、納得しながらグレイドが微笑む。

「これで各自の進む道は決まったな。だが、各自がそれぞれの方向に進んでは話がまとまらないな。そうだな。一週間後の同じ時刻に、この街に戻ってくるとしよう。そこで、各自の情報を照らし合わせながら、街造りへと進めよう」

 きれいにまとめて見せるグレイドに、思わず皆が感心する。

 街造りには人を集める必要がある。芸術家達に、農作業の達人、音楽を愛する者達……。ふむ。出だしとしては良い感じではないだろうか? グレイドは静かに目を閉じて、納得したような表情を見せた。

「そうと決まったら、ぼく、早速出発します。それでは、一週間後にお逢いしましょうっ!」

 言うが早いか、リドルは笑顔で手を振って見せると、まるでつむじ風の如き速さで、愛用のカバンを手に店を飛び出していった。

 給仕の娘が、その風をもろに喰らってくるくると回転してみせる。そのまま、きれいにストップ。

「ハイっ!」

 次々と十点の札をあげてみせる、ノリの良過ぎるお客に微笑みながら投げキッスを送ってみせる娘。

「……ある意味、イイ人材かも知れないな」

 その様子を見つつ、ポツリと呟いてみせるグレイド。真顔で、そのシュールな光景を見つめる彼は、やっぱりどこかヘンだとミケは思った。

 グレイドは頭良いんだけど、頭良すぎて、時々ヘンだったりするんだよね。ま、完璧な奴なんてちっとも面白くないもの。だから、ぼくはグレイドとは仲良しなんだと思う。

「ミケ、オレ達は山の村に物資を届ける馬車にでも乗せてもらうこととしよう。夕方頃に、出発するはずだ」

「うん。馬車かぁ……わぁ、なんか冒険って感じで素敵だなぁ。デュラルは船の旅しかしたことないから、馬車の旅も悪くないかも」

 夢見る子猫ミケが、うっとりとした目で夢を見れば、膨らんだ夢をカールが突付いて割ってみせる。

『パーン!』

「わぁ!?」

「……チチチ。判ってねぇなぁ。ミケ、馬車って言ったって、御者が運転するような立派な奴じゃないぜぇ? どーせ、藁の束でも積んで、ロバが引っ張っているような、だっさーい馬車に違いないぜ?」

「……ご名答だな。カール」

 失笑してみせるグレイドに「そんなぁ」と力が抜けるミケ。

 現実って、意外に厳しいモンなんだねぇ……。ま、それもイイか。

 残ったクマトリオは意外に落ち着き払っていた。何しろ既に助っ人は登場していたのだから。

「そういえば、クマの兄ちゃん達はどうやって移動するの?」

「良いところに気が付いたなぁ、ミケ? だがな、心配はいらないぞ? 東に向かって列車が走っているんだ。知っているだろう? 黒いボディの蒸気機関車だ」

 にっこり笑ってみせるスモーキーに、思わず電球がピッカリのミケ。

「ああ。なるほどね。汽車に揺られての旅かぁ。うーん、それも悪くないね」

「やぁ。ゼベク爺さん、また逢ったね」

 喫茶店の入り口で、手を振ってみせるゼベク爺さんに、にこやかな笑顔で手を振り返してみせるスモーキー。待っていました、とばかりにニヤリと笑ってみせるハスキーとターキー。

「決まりだな……。それでは、一週間後に逢おう」

 グレイドは静かに微笑むと席を立った。

 後は、我々が移動するのに手を貸して貰う馬車を探さなくてはならないな。

「さて……ミケ。馬車を探すぞ。こちらは列車と違って定期運行便ではないからな。見つけられないと先へ進めない」

「それは大変だ! じゃあ、クマの兄ちゃん達も、頑張ってね」

 小さなミケの小さな手を握り締め、任せておきな、とばかりに微笑んでみせるスモーキー。手を振りながら店を後にしようとして、後ろ向きのまま看板に頭を派手にぶつけてみせる。

「ぐぉっ!? いたたた……」

「ちゃんと周囲は見て歩こうね」

 苦笑いしてみせるターキーを先頭に、ゼベク爺さんの一行も動き出す。

 東へ向かう汽車には、恐らく沢山の乗客も乗り合わすことだろう。精一杯賑やかに演奏して、活気付けてやろうじゃないか。自然と力が入ってしまうスモーキーの笑顔に気付いたのか、ハスキーが肩に手を乗せてみせる。

「いっちょ、派手にやってやろうじゃん?」

「ああ、そのつもりだ。二人とも、頼むぜ?」

 いよいよ冒険の始まりだ。デュラル以上の大冒険をしてみせるんだ。ぼくも、きっと素敵な記録を残すからね。

 力強く手を振るミケの姿を見つめながら、グレイドはどこか満足そうな笑顔で微笑んで見せた。

 ミケは、まだ子供ではあるが、きっと夢を叶えてくれる。街造りに、世界一周旅行。まさに発明のための旅ではないか?

 三者三様、それぞれの想いを胸に、今動き出すのであった。

◆◆◆2◆◆◆

 ガタンゴトン。揺れる馬車の荷台からひょっこり顔を出してみせるはカール。荷台に積まれた藁の束は意外に心地良いらしい。

「な、何かが違う……絶対……」

 ひとりむくれてみせるミケ。昼下がりの長閑なあぜ道を歩く馬車は、時間の流れさえも忘れてしまうほどに静かだった。

「ミケ、何が不服なんだ? わざわざ乗せて貰っているのに、失礼ではないか?」

「だぁーってさぁー」文句を言おうとして、ミケはグレイドの手のひらの中でキラリと光った黒い銃口に気付いて、慌ててピンと背筋を伸ばして見せた。

「いやぁー。馬車の旅ってのも、悪くないモンだよねっ」

「そうか。喜んで貰えて光栄だよ」

 ニヤリと笑ってみせるグレイド。

 冗談じゃない。鉛玉に打ち抜かれたら、冗談抜きで風穴ができちゃうじゃない!?

 一方のカールは、藁の中でぐっすりとお休み中。ぬくぬくした感触がとびきり心地良いらしい。

 荷台にはたっぷりの藁。のんびりと歩くロバは、この長閑な景色と一体化しているように思えた。

「お前さん達、山の街へ行くのであろう?」

 馬車を運転するおじさんが、親しみ深そうに微笑んでみせる。でっかいキセル煙草からは、モウモウと白い煙が立ち上る。長年使い込んでいるのか、深い色合いが年月の深さを象徴する。

 歩く度に首から下げたベルが、カランコロンと鳴り響くロバ。おじさんとのコンビも長いのか、妙に息が合っている。

 それにしても……道行く人達の歩く速度と大差がない馬車というのも、なんだか凄いなぁと、一人感心してみせるミケであった。

 空は青空。時折、大きな雲を見かければ、まるで焼き立てのパンみたいだとミケはクスクス笑って見せた。カールはすっかり夢の中。どんな夢を見ているのか、時々不気味な笑みを浮かべてみせる。

「……どんな夢を見ているのだろうか? いやに楽しそうだな」

「どうせ、妙な夢でも見ているんでしょ。ブロードウェイに立って、ご自慢の喉でも披露している夢でも見ているんじゃない? 気分はまさに超売れっ子、世界一流の最高のイケてる歌手とか」

 イケてる歌手と言いつつも、実際のところはイカれてる歌い手なんだよなぁ。シビアな考えを浮かべてみせるミケ。不意に砂利道に入れば馬車は激しく揺れる。その衝撃に驚いたのか、思わず、カールが飛び上がる。

「……な、なんだよ。オイラの素敵なライブショーを邪魔するなよぉ」

 半分寝ぼけ眼で、ポツリと呟いてみせるカールの発言に、思わず顔を見合わせて吹き出してしまうミケとグレイドであった。

◆◆◆3◆◆◆

 ゆっくりと日は傾きつつあった。ミケ達は、そのまま目的地の小さな村へと向かった。山の街は古くから鳥人族の住む村。場所が場所だけに、他の種族では入り込むのも大変な場所。だが、それだけに自然のままの景色は、芸術心溢れる者達には最高の修行の場でもあった。

 だが、やはり外部との接触を為さずして村の発展、あるいは文化の交流は為し得ることはできない。そこで時の技術者達が集まって作り出したのが、この登山列車である。急な坂道をも登り切る、その馬力はまさに技術力の結晶。なぁんて、これは全部グレイドに教えてもらったお話。グレイドはこういう話が大好きなんだよね。機械をさわらせると本当に子供みたいに真剣になっちゃう。ぼくには、ちんぷんかんぷんだけど。

 いつだか、グレイドが作った機械を弄くっていて、うっかり爆発したことがあってね。カールの頭がアフロヘアーになっちゃって、どうしようかと思ったこともあったもの。知らない人は、迂闊に触らないのが一番だよね。

「もうじき駅に到着するよ。いやぁ、お前さん達が乗ってくれたから退屈しないですんだよ。もしかしたらこりゃあ、なかなかユニークな商売になるかも知れないな。ロバの馬車で往く山の村への旅……ううーん、悪くはないかも知れないな」

 一人、嬉しそうに微笑み、相棒のロバ君に微笑みかけるオジサン。ロバ君、静かに振り向くと、ブルルと鼻を鳴らせて見せた。

「おお。そうかそうか。お前も妙案だと想うか?」

 ますます上機嫌のおじさん。だが、ロバ君の心の内は違った。

『はぁー!? これだから人間って奴ぁ、おバカさんなんだよなぁ……まったく、やってられねぇぜ。大体、今の時代、そんなダサい商売、売れるかっつーの』

「はっはっは。お前の後押しを受けたとあれば心強いな。ふむ。このまま商売化を前向きに善処してみようではないか。のう?」

『マジかよ、このボケオヤジっ!? 早まるんじゃねぇって!』

 思わず慌てた表情をしてみせるロバ君。そんなことは露知らず、ますます上機嫌のおじさんであった。

「どうもありがとう。おかげで、予想よりも早く到着できたよ」

 嬉しそうに微笑み、手を振ってみせるミケ。

「まぁ、良かったよね。日が変わる前に到着できて……」

「ケケケ。ミケぇ、聞こえちゃうぜぇ?」

「聞こえるように言っているの。さ、行くよ」

 辺りを見渡せば、一面見渡す限りの大平原。緑の草の淡い香りがする。

 小奇麗な駅は、人も少なく静かな気配を称えていた。眼前には、広大な大草原が広がるが、振り返れば傾斜も急な険しい山が展開している。そんな対比的な光景の中、ミケ達一行はのんびりとした時間の流れを感じさせてくれる駅へと入っていった。

 気の良い駅員に切符を切って貰い、しばしの待ち時間。緑の風が吹き抜ける、静かな駅で三人はしばしの時を過ごした。それは、まるで時間の流れさえも止まってしまいそうな空間だった。

◆◆◆4◆◆◆

 自慢の脚力をフルに活かして、リドルはさながら疾風の如く走り抜けていった。街を歩く女の子達の横を突っ走れば、スカートが一斉にめくれあがる。思わず悲鳴をあげてしまう女の子達。

「きゃーっ!」

「うわぁっ、ごめんなさーいっ!」

 謝りつつも、相変わらずのスピードで走り抜けるリドル。

 さながらコマのようにキリキリ舞い舞いしてみせる少女達。一斉にスカートがめくれあがり、クルクルと回転しだす様は、それはそれで何かのショーみたいであった。待ち往く男性陣、思わず頬を赤らめながらも、しっかりと見てしまう。

「……か、彼が街でも有名な郵便屋……リドルちゃんね?」

「あたし達を、キリキリ舞い舞いさせるとはやるじゃない……」

「いっそのこと、このままデビューしちゃおうかしら?」

 くるくる回りつつも少女達が鋭い目線で語ってみせる。

 イケるわ……ええ、イケるわ! このままデビューの道へっ!

 やはり、最近の若い女の子達の考えは理解できないな、と再び男性陣達は各々の仕事へと戻っていくのであった。

 相変わらずルルブの街は平和であった。しかし、そうこうする間にもリドルは、自慢の脚力でさらに突き進んでいくのであった。

 街を出れば、物資を運ぶために整地された道が広がっている。

 古くから交易の栄えた街だけに、周辺の道はきれいに整地されているのだ。元気に走るリドルにぴったりと追いついてくる者がいた。 「やぁ、ティガ」

 ティガと呼ばれた巨体の虎がにっこり笑ってみせる。

「いよぅ、リドル。今日は何処まで行くのさ?」

「南東の村だよ。収穫祭が開催されるんだ。ルルブの街でも大人気なんだよね。だから注文の手紙を一杯持って村に向かうところだよ。ティガも一緒に来る?」

 相変わらずのスピードで走りながらティガに語りかけるリドル。巨体の虎はおかしそうに笑ってみせる。自慢の長いシッポが風に揺れる。

「面白そうじゃないか? オレも連れていけよ。それに、小鳥達から聞いたぜ? なんだか、でかいコトをやらかそうとしているんだって? 面白そうじゃないか?」

 ティガは自慢の牙を見せながら、微笑んで見せた。

「キミのことだ。きっと、一緒に来たいと言うと思ったよ。みんなに紹介してあげようかと思ったんだけどさ、何しろティガは、怖い顔しているからね。みんなを驚かせてはいけないと思ったからさ」

 クスクス笑うリドルに向かって、苦笑いして見せるティガ。

「悪かったな、強面で。これでも気の良い、良い男だって思っているんだぜ?」

「収穫祭、一緒についておいでよ。ティガは、ぼくと違って力持ちだから、きっと役に立つと思うし。あ……くれぐれも牛さん達がいても、食べちゃったりしたらダメだからね?」

「最近はダイエットも兼ねて、ベジタリアンになっているから安心しな。健康には気をつけないとな」

 なんだか妙に健康志向な珍妙な虎、ティガをお供にリドルは、さらに走るのであった。

「この先は広大な森が広がっている。リドル、乗れよ」

 ティガがシッポで、自らの背を示してみせる。いくらリドルが脚力に自信があるといっても彼の足の早さには到底叶わない。ティガとは何度かけっこしても、勝ったことないし。さすがに足は早いよね。それに、ティガは毛並みが綺麗だからまるでフカフカの絨毯みたいで、とっても気持ち良いんだ。本人もご自慢の素敵な毛並み。

 でも……ビックリするだろうなぁ、いきなり虎にまたがって村に来る郵便屋なんて前代未聞だろうし。

 リドルとティガは昔からの友達。各地を回っている間にケガをしてしまった、まだ小さかったティガの手当てをしてあげたのが始まり。今では、こんなに大きくなっちゃって、ボディガードとしては居るだけでも十分に迫力あるんだけど、迫力ありすぎちゃって、みんな怖がっちゃうのが難点だよね。ティガは強面だけど、ホントはとっても面白い奴なのにね。

 ティガの背にまたがると、リドル達はさらに加速して、一気に森の道へと突っ込んでいった。

 すっかりと成長してしまった森の木々は、道さえもしっかり塞いでしまって困ったことになっていた。

 なるほどね。どうしたことか、街との交流が少なくなったと思っていたら、こういう訳だったということだね。

「こいつぁ、すごいな」

「ティガ……どうしようか?」

「村の連中、こんなになるまで放っときやがって」

 さて、どうしたモノかとヒゲを撫でながら考え込むティガ。

 不意に自慢の爪をキラリと光らせてみせると、大きな手で力一杯、道を塞ぐ、絡まる木々に一撃をかましてみせた。

「……わぁお!?」

「フン。ま、ざっとこんなモンだ」

 まるで映画みたいに、道が一気に開けてしまった。驚くべきはティガのワザ。ただ腕力が強いだけではここまで綺麗には道を切り開くことはできやしないものね。

「さっすがぁ!」

 嬉しそうにはしゃぐリドルをみて、自慢気に満足そうな表情で毛繕いしてみせるティガ。指の隙間に引っ掛かった、小枝まできれいに取り除いてみせる。何たってオレは綺麗好きだからな。さて、行こうかと大きく伸びをしてみせるティガ。

 不意に周囲に人の気配を感じてリドルとティガは警戒するかのように、互いの背を守ってみせる。草むらでゴソゴソと音が聞こえてくる。ティガが低い声で唸る。

「誰だ! 出てきやがれ! それとも……そっちから来ないなら、こっちから攻め込むぞ」「待って、ティガ。ケンタウロスさん達だよ」

「なに?」

 きょとんとするティガ。ばつが悪そうな表情をみせながら、ケンタウロス達がゾロゾロと出てくる。

「君達がこの道を切り開いてくれたんだね。感謝するよ。あまりにも、大変なことになっていてどうすることもできなくて、ほとほと困り果てていたんだ」

「さすがに、こんなに大きな虎君がいたんじゃあ思わず、ドキドキしちゃって、出るに出られなかったんだ」

 口々に言葉を放ってみせるケンタウロス達。道を切り開いてくれたこと、リドルが持ってきてくれたたくさんの手紙、その総てに感謝するかのように友好的にケンタウロス達は微笑んでみせる。

 ティガがリドルの友達だと知ると、今度はティガに対しても好奇心旺盛な対応を見せる。

「感謝するよ。そうだ。よかったら、収穫祭、一緒に楽しんでいかない? こんな辺鄙な村にいると外のことが判らなくてね。良かったら、是非ともお話きかせて欲しいなぁ」

「うん。ぼく達も……収穫祭、お手伝いしにきたんだ」

「力仕事くらいしかできないが、オレに任せな」

 自慢そうに微笑んでみせるティガ。

 気の良いケンタウロス達に歓迎されながら、リドル達は村へと向かった。久方ぶりに道が開けた森の道は、なんだか緑色のいい香りがしていた。

◆◆◆5◆◆◆

 ガタンガタン……汽車が揺れる。風は穏やか。日は暖かく、まさに秋の収穫日よりといった気候。あちらこちらで、収穫にいそしむ人々に、気の良い笑顔で微笑んでみせるゼベク爺さん。何たって今日はご機嫌だもんよ。

 遥か後ろの車両からは、賑やかな歌声が聞こえてくる。小奇麗な汽車の客室では、クマトリオが自慢の唄を披露していた。恰幅のいい三人組。陽気な演奏に、その歌声。のどかな緑の景色と相まって実に良いコーラスになっていた。ギターにベース、バイオリンの絶妙な組み合わせはまさにカントリーを物語っている。

 気取った貴婦人には、どこから取り出したのか、真っ赤なバラを一輪差し出して見せるスモーキーに、賑やかな歓声があがる。嬉しそうに微笑みながら貴婦人がそっと立ち上がる。花をたっぷりとあしらった大きめの帽子は、古典的なファッションながら、実に良く似合っていた。口にバラをくわえると、トリオの愉快な曲にあわせて踊って見せた。

「ひゅー。お綺麗な奥さん、やるじゃないか?」

 ハスキーがヒューと口笛を吹いて見せれば我も、我もと、次々と女性陣が立ち上がってみせる。その賑やかな光景に、乗客達が次々と集まってくる。

「今日は、かなりの大盛況ぶりだね」

「ああ。こんなに盛り上がったのは初めてだ」

「人の数が全然違うぜ。あんな田舎じゃあ、こうはいかねぇな」

 口々に喜びを表現してみせる三人。いつしか、すっかり人気者となっていた。若者から年寄りまで男女関係無く、すっかり彼らの愉快な演奏に聴き入っていた。

◆◆◆6◆◆◆

「ずいぶんと賑やかじゃねぇか。ど派手に盛り上げてくれているみたいだな。いやいや、大した腕前だよ。あそこまで客を喜ばせるなんてなぁ」

 感心したような口調で、後ろを振り返りながら耳に手を当ててみせるゼベク爺さん。まるで、豪華客船にでも乗っているかのような賑わいぶりだ。

「嬉しいモンだな。地味だけど小奇麗さでは負けないぜってな触れ込みだったオレの汽車がよ、こんなにも豪華な演奏付きで走れるなんて」

 もうじき次の駅だな。よしっ、そろそろスピードを落として……。

 汽笛が軽快な音をあげる。周囲は一面の緑色の森。木々の良い香りがする。秋の森は、収穫の香りを孕んでいて良い香りがする。

 ゼベク爺さんは静かにブレーキを掛けた。軋む線路の音。やがて駅に汽車が到着する。駅員が手を振る。赤色のレンガ造りの屋根も美しい、森の駅は静かながら素敵な空気を感じさせてくれる場所だった。

「んん? なんか妙に賑やかだなぁ……ありゃあ!?」

 やけに賑やかな気配に驚いて、そーっと首を出して駅のホームを覗き込めば、ご丁寧にもクマトリオが演奏をしているではないか。駅に停車している間さえも客を飽きさせない工夫なのであろうか? これには、さすがのゼベク爺さんも驚いた。そこまでやるたぁー、最近の若いモンにしちゃあ、珍しいほどに気が利くじゃねぇかよ、オイ。

 そうじゃないでしょってな気もするが。すっかり大人気のクマトリオ。普段はさほど人も乗らない駅なのに、物珍しさに惹かれてか次々と人が乗ってくる。さぁ大変! こりゃあ、普段の数倍は気合い入れていかないと汽車が走れなくなっちまうぞ。

 慌てるゼベク爺さん、手袋をしたまま汗を拭えば顔が真っ黒。その顔に焦りつつも慌てて石炭を入れる。

「今日は大賑わいだぜ、オイ。こりゃあ、名物になるなぁ。あいつらと手を組んだのは、大正解だ。こんな楽しい仕事を毎日できるなら、これ以上の幸せはねぇぜ。オレも是非とも街ができた際には、機関車乗りのゼベクとして参加だな」

 嬉しそうに微笑みながら、ザクザクと石炭を放り込む。炉の中では石炭が煌々と真っ赤な色を発して燃えている。その熱気に凄まじいまでの力を感じる。

「……爺さん、大丈夫かい? 手伝おうか?」

 ひょいと現れたクマトリオに驚くゼベク爺さん。

「おお、お前さん達か? ああ。ここは大丈夫だ。それより、すげぇじゃねぇかよ。乗客が、あんなにも喜んでいるなんて、もう……オレぁ、嬉しくて、嬉しくてよ」

 満足そうな笑みを浮かべるゼベク爺さんは、まるで若かりし日に戻ったかのような爽快な笑顔を称えている。

「ここはオレ一人で十分さ。お前さん達は、ご自慢の演奏で楽しませてやっておくれよ」

「はは。任せておきなって。もっとも……目的地に着くまでだけどな。ま、それまではジャンジャン行くからよ」

 微笑むスモーキーに、「任せた」とばかりに手を振るゼベク爺さん。

「よぉし、ターキー。ハスキー。このまま絶好調に演奏を続けていくぜ。ここまで人気が出るとは予想外だ」

「ああ、まったくだ。驚きだぜ」

「みんな、すごく楽しそうだもん。頑張ろう」

 日も暮れようとしている夕焼け空を背にして、広大な森は萌えるような紅い色を称えていた。煌々と瞬く灯火のような色合いに、スモーキー達はさらに堅く誓うのであった。きっと、成功させてみせると。「もういっちょがんばるさ」と気合いを入れると、陽気な足取りで客室へと戻っていった。聴こえてくる声援に、ゼベク爺さんは満足そうに微笑んだ。

◆◆◆7◆◆◆

 どれほどの時間が経ったのだろうか。緩やかな時の流れに翻弄されるようになりつつも、ミケ達は、やっとこさ訪れた登山列車にワイワイと乗り込むのであった。

 急な傾斜も昇ってしまう、その列車の馬力と仕組みにミケは興味津々な表情をしてみせた。昇るに連れて。駅がどんどん小さくなっていく。

「わぁー。すごいね。どんどん昇っていくよ」

「鳥人族の住む街は、この山の山頂付近だな。険しい場所だが、芸術を志す者達が多く集まる街だ」

 グレイドは静かに語ってみせた。

 何時しか日も落ちようとしていた。空の遥か彼方に日が沈んでいくのが見えていた。列車には乗客もさほど乗っていなく静まり返っていた。山道を走る振動感が伝わってくる。

「それにしても、すごい力だよね。なんたってこんな急な斜面も昇っちゃうんだもんね。すごいなぁ……」

 ミケは感心したように、そっと身を乗り出して後ろを覗き込んでみた。連なる山々が遥か下に見えて思わず驚いた。こんなにも昇ってきちゃったんだ。この山の高さにも驚かされるけど、景色もすごいなぁ。

「……気球に乗って旅をすれば、あんな山など遥かに下界に存在するさ。見えないくらいの高度を飛ぶことだって可能なのさ。文明の力とはそういうものだ」

「へぇー。ますます乗ってみたくなった」

 グレイドの話に耳をピクピクさせてみせるミケ。陽気な笑顔で、嬉しそうに微笑んでみせる。

 そういえば、いつもはやかましいカールが妙に静かだな……。妙な危機感と不安感に駆られてミケは周囲を見渡してみた。

「あれ? カールのやつ、どこに行っちゃったんだろう?」

「そういえば、先刻から見かけないな……」

 その時であった。どこからともなく聴こえてくる妙な歌声。まるでアヒルが陽気にコーラスをしているかのような、耳障りな歌声に思わず顔を見合わせてしまうミケとグレイド。

 そうか。屋根の上か。当然のことながら、カールは空を飛べるワケで、素敵な景色に誘われて、列車の屋根の上に乗ってみれば夕日が沈む山は萌えあがるような色合い。あまりの美しさにすっかり心弾んでしまう。気がつけば、浮かんでくる陽気なメロディ。

「……あそこだよ」

「まったく。乗客が少なかったから良かったようなものの……」

 苦い表情を浮かべながら、列車の屋根に腰掛けて陽気に歌ってみせるカールを見つめる二人。さて……どうやって、あの唄を止めさせようか? ミケが考え込んでいる間に、静かにグレイドは銃を構えた。

「ちょっ、ちょっと! グレイド!」

 い、いくらなんでも、そんな野蛮な方法で黙らせちゃうってのは、どうかと思うし、そりゃあ、ドラマなんかで悪役が『死人に口無し』なーんて言っているけど、何もここで悪役にならなくても……あわわ、何を言っているんだ、ぼくは!? そんなことより……。

「んんー? 何か賑やかだなぁ……って、うそぉっ!?」

 カールが振り向いた瞬間、グレイドの銃が火を吹いた。銃から玉が飛び出す。だが、妙にゆっくりとした動きであった。

「……あ、あら?」

 不意にカールの目の前で玉が破裂した。それと同時に、もうもうと黄色い煙があがった。

「ううーん、なんか……眠くなってきちゃった……ぐーぐー」

「誰が鉛玉をぶっぱなすと言った?」

 心配そうにしているミケに、にやりと微笑んでみせるグレイド。

「あのまま、山頂までぐっすり眠っていてもらおう。聞き苦しいヘンな唄を聴かされては、せっかくの景色も台無しというものだ。ふふ、幸せそうな顔で眠っているではないか?」

 グレイドの笑えない冗談に、ミケは思わず力が抜けてしまって、その場に崩れ落ちた。

「もう、グレイドったら……笑えない冗談やめてよ」

「ふふ。オレの考えを見抜けないとは、まだまだミケも甘いな」

 クスクス笑いながらグレイドは、再び客席に着くと愛用の本を手にしてみせた。日も沈む頃の萌えるような景色を背に、静かにティーを口元に運ぶグレイドは、妙に様になっているように思えた。

(あとは、あの妙なキャラクターさえ無ければ、格好いいのになぁ……)

 そんなことを思いつつも、ミケも景色を肴にミルクで晩酌。だって、ぼくはまだ可愛い、可愛い子猫だもの。ワインで乾杯なんてやった日には、あっけなく完敗させられちゃうからね。

 時間は過ぎ去ってゆく。気の良さそうな車掌が、ひょこひょこと歩いてくるのが見えた。帽子を手にとって、ペコリとおじぎをしてみせる。

「ご乗車ありがとうございました。まもなく山頂駅に到着いたします。お忘れ物をなさらないようにしてください。またのご利用を、心よりお待ちしております」

 気の良さそうな車掌はにっこり微笑むと、再び戻っていった。ミケは切符を手にすると、カールを起こしに窓から身を乗り出した。

「わぁー。高いなぁ。それに、すごい景色だ。きれいだなぁ……」

 その圧倒的な景色にミケは驚きを隠し切れない。標高もさることながら、その景色の美しさは語り尽くせない。さっき乗ってきた駅が、まるで成り掛けのトマトくらいの大きさに見えてしまう。相当高いってことだよね。

 さてっと。カールも持ったし、忘れ物はないよね。

 夢の世界に旅立っていったカールを抱えながら、ミケは軽やかな足取りで駅に降り立った。吹き抜ける風は冷たかった。

「さすがに寒いや。それだけ、標高が高いってことだね」

「ご乗車ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 相変わらず気のいい車掌に、アリガトウと手を振るとミケ達は、山頂駅を後にした。

 断崖絶壁の景色。街は、すぐそばにあるらしく、かすかに人の声が聞こえてくる。いつしかあたりは夜になっていた。その景色の美しさ。遠くには月が見える。

 山の向こうには、どこかの街があるのか闇夜の中、そこだけが点々と明かりが見える。ミケはなんだか嬉しくなってきた。知っているはずの自分の国でさえ、こんなにも知らないもの……そして、素敵なものがあるなんて。世界を旅すれば、もっと素敵な景色とも出会えるに違いない。好奇心に満ちた目で、辺りを見回すミケを見つめながら、グレイドが微笑んだ。その肩の上では相変わらずカールが幸せそうな寝顔で眠っていた。

 さて、街へ向かおうかな? グレイドは荷物を持ち上げると、そっと空を見上げてみた。満天の星空。詩人でなくても詩が浮かんできそうな世界であった。

◆◆◆8◆◆◆

 街から預かってきた、たくさんの手紙の整理にリドルは大忙しだった。なにしろ、これだけ大量に手紙があると、仕分けをするだけで一苦労というものである。

「ひゃー、こんなにいっぱいあると、だんだん混乱してくる……ううーん」

 大量の手紙を抱えながらリドルは半ば混乱していた。傍らで大きなため息をついてみせるは、相棒のティガ。まったく、何やっているんだろうなぁ。

 辺りはすっかり夜。収穫祭を楽しもうと来てみたまではよかったが、まずは手紙に大苦戦のリドル。

 心ある村人達がリドルのために、たっぷりのトマトを使ってピザを焼いてくれた。大きな、大きな石の窯はとても立派な外見。煙突からはもうもうと白い煙が上がっている。

 一先ず手紙を抱えたままリドルは村長の家にお邪魔していた。焼きたてのピザは、自然の恵みを受けて育った小麦とトマトをたっぷり使っていて、とびきりおいしかった。マルゲリータ。トマトとモッツォレラチーズをベースにバジルをあしらったシンプルなピザ。だけど、こんなにもおいしいなんて。

 リドルは、すっかり嬉しくなって、照れくさそうな笑いが止まらない。

「なぁに、ニヤけた顔しているんだよ……」

「だってさ、このピザホントにおいしいんだもの」

 そんなこと言われなくても判っているさ。アツアツのピザはティガには、少々食べづらかった。なにしろ、この良く伸びるチーズが上手く食べないと、大事な毛皮にくっついてしまう。きれい好きなティガにしてみれば、なかなか手強い相手である。

「いやいや、しかし……よく来てくれたね」

「ホント、あの森を何とかしてくれて、ホントに助かったよ」

 暖かなケンタウロス達に囲まれて、リドルはなんだか照れくさい気分でいっぱいだった。手紙を届けるだけの、郵便屋なのに……こんなにも暖かなもてなしを受けたのは初めてだもの。なんだかくすぐったいような、照れくさいような気持ちでいっぱいだよ。

「今年は、今までみたことないほどの大収穫ぶりでね」

「小麦も野菜も、大収穫でね」

「へぇー。大収穫だなんて、嬉しいお話だよね。あ! そうだ。ねぇ、おじさん、山猫さんって知っている?」

 ミケ達の話題にあった山猫さんの話を思い出したリドル。食べかけのピザを一旦お皿に置くと興味津々な目で返事を待つ。

「ああ、山猫さんかい? そのピザもね、山猫さんに教わったものなんだよ。山猫さんは、この村から、ちょっと山のほうにいったところに小さなお店を出しているんだよ。なんでも、いつの日か大きな街に店を出すのが夢らしいよ」

 人の良さそうな村長の言葉に、もうリドルはウキウキしてしまって、思わずティガに向き直ってみせた。

「聞いたかい、ティガ? 山猫さんに逢えるかも知れないんだよ?」

「……山猫さんっていえば、創作料理の数々を作り出してきた、凄腕の料理人と聞く。なるほどな。山猫さんの直伝のピザならおいしいワケだな。よし。今日はもう遅い。明日にでも行ってみようじゃないか」

「そうだね。収穫祭の手伝いが一段落したらいこう」

 嬉しそうに微笑みながら、ティガとがっしり手を組んでみせるリドル。

「おやおや。収穫祭の手伝いまでしてくれるなんて、ありがたいことだ。子供達と一緒に楽しんでいってちょうだいな。今日はゆっくりしていっておくれ」

 気のいい村長さん、すっかりお酒がはいって上機嫌。きっと、さっきから呑んでいるお酒も、この村で作ったのだろうな。

「あら、このワインが気になるの? このワインはね、この村で採れたブドウで作ったの。ホントに、この村は色々なものが採れるのよ?」

 今度は奥さんが優しそうに微笑んでみせる。さすがにワインを飲むわけにはいかないなと戸惑うリドル。気を利かせて、奥さんがブドウで作ったジュースをリドルに振舞ってくれた。

 お日様をたっぷり浴びての甘い香りのブドウのジュースは、その香り通り、甘くておいしかった。

「おいしい! うわぁ……すごいや」

「ああ。こりゃあ……旨いじゃないか」

 リドルとティガは、すっかり嬉しくなってきた。これは、ホントにすごい収穫際になるに違いない。

 ずっと昔に、この村に手紙を届けにきたことあったけど、収穫祭がこんなにも楽しいお祭りだなんて。ああ、明日は、ぼくも一緒に祭りに参加するのか。今までの自分にはできなかったことだけに、とても楽しみだよ。

「おや? 村の子供達が遊びにきたようだね」

「わぁー。はじめまして。ぼく、郵便屋のリドル」

 先程、村まで案内してくれた子供達も混じっていた。虎のティガに、最初は恐れを感じた子供達も、次第に緊張がほぐれてくれば、賑やかに騒ぎ出してみせる。

 その夜は、遅くまで子供達とリドルは、すっかり楽しく騒いでしまった。

 人の多い街と違って、この村は人も少ない。少ないからこそ、子供達の顔も見えてくる。人も見えてくる。街では、触れることができなかったものが、そこにはあった。リドルは心から感謝していた。あの時、ミケ達に出逢えなかったらぼくは、ただの郵便屋で終わっちゃっていたかも知れない。そんなの、なんか勿体無いもの。ティガと出逢えたのも、チャンスがあったから。だから、チャンスを無駄にしたくないんだ。ああ、明日も楽しみだ。山猫さんに逢いに行くんだ。お祭りの準備を手伝うんだ。ああ、もう……ワクワクするなぁ。

 希望に満ちたリドルの笑顔をみつめて、ティガもなんだか嬉しくなってきた。リドルには、子供の頃に拾って貰った恩がある。兄弟みたいに育ってきた二人は息もぴったり。さてさて、どうなることでしょうか?

◆◆◆9◆◆◆

 夜になっても、乗客は一行に減りやしない。こいつぁ、どういうこった? ゼベク爺さん驚きを隠せない。何しろ、今回は目的地が遠いから、途中の街で一日停泊。しかーし、ここでもクマトリオは、すっかり大人気。

 小さな街は古くから汽車の宿場町として使われてきたのだ。長い距離を走行するゼベク爺さんは、時に別の宿場町に停泊することもあるが、ゼベク爺さんの家は、ここ宿場町ムルアにあるというワケなのである。途中下車することさえ忘れてしまうほどに乗客達は熱狂してしまったのだ。それほどまでに、反響があるとはクマトリオも予想もしなかったのか、驚きを隠せない。

 ゼベク爺さんは街に着くや、待っていた奥さんに帰りの報告をするよりも先に、大ホールの予約を依頼したのだ。

「えぇ!? 大ホールを予約して欲しいですって!?」

「ああ。とんでもない頼みだとは思うが、バーのマスターに声を掛けておいてくれ。飲み物もあったほうがいいだろうよ」

 忙しい表情で咳き立てるゼベク爺さんに、奥さんびっくり。こんなにも、希望に満ちて、活き活きとしているゼベク爺さんを見たのは、いったい何年ぶりだろう? 奥さんは、何も言わずににっこり微笑むとくるりと踵を返すのであった。

 きっと、あの人のことですもの。なにか、素敵なものを発見したに違いないわ。まぁまぁ、これは楽しみだわ。爺さんの張り切りぶりに、何かを感じたのか奥さんも走り回る。

「……爺さん、大変なことになっちまったなぁ」

「みんな、あまりにノリ過ぎちゃって、途中で降りるのを忘れちゃったんだってさ。驚きだよね」

「そんなにウケちまうたぁ、予想外だったなぁ……」

 驚きを隠せないのは、ゼベク爺さんだけではなかった。スモーキー達も、あまりの盛り上がりに驚きを隠しきれない。確かに、楽器の扱いはもちろん、歌やパフォーマンスも故郷にいた頃から磨き続けていた。しかしながら、自分達の力量には、それほど気付いてもいなかった三人にとっては驚きの連続であった。

「いよぅ、大人気じゃねぇか?」

 ひょっこり現れたゼベク爺さんに、慌てて振り返る三人。

「ああ、爺さん。なんだか凄いことになっているなぁ」

「お前さん達は本当に面白い奴らだぜ。久しぶりに、こんな若い気持ちになったさ。へへ、お前さん達のためにな……大ホールを借りてやったぜ?」

「マジで!?」

 思わず、三人そろってコーラスノリで悲鳴を挙げてしまう。

「オレはお前達が気に入った。新しい街を造るなんてでっかい夢、面白いじゃないか。久々に若返った気がしたよ。お前達が望まなくても、オレはどこまでも着いていっちゃうぜ?」

「ははは、こりゃあ参ったよ、どうするよ?」

「乗りかかった船だ。最後まで突っ走ろうじゃないか?」

「さぁって、夜のライブだなんて、まるでスターになったみたいだものね。もう一頑張りだね」

 三人は手を重ね合わせると、お互いの顔を見つめあって気合いを入れた。クマトリオの背を見守るゼベク爺さんと奥さんの表情は、どこか暖かかった。

◆◆◆10◆◆◆

 まさか……こんな、大スターみたいな人気を獲得してしまおうとは夢にもみていなかったスモーキー達は、驚きを隠し切れない。大ホールにはたくさんのお客達が集っていた。まるで流星のごとく現れた無名の新人スターといった気分である。

「うぉっ!?」

 ステージの袖から、そーっと様子を伺ってスモーキーは、思わず飛び上がった。

「なななな……なんだよ、この人の数は!?」

「マジで?」

「ああ。これが夢だとしたら、どんなに幸せか……だがな、驚くべきことに、これは現実なんだよ。ほら……」

 スモーキーは、きょとんとしているハスキーの頬をつねってみせた。

「いててて、何するんだよ!」

「ほらな、痛いだろ? 現実なんだよ」

 ふつー、それは自分の頬でやるモンだと思うぞ……。思い切りムスっとした表情でハスキーが呟いてみせる。

「まぁ、何にしても、これは夢ではないみたいだ。だとしたら、ここは派手にやろうじゃないか? オレ達の夢への距離も、ちったぁ縮まるに違いないさ」

 ステージはショーパブをイメージしたような造り。観客達は丸いテーブルを囲んで、飲み物を飲みつつ、唄やショーを楽しむという造りである。宿場町とはいえ、かつては多くの人が訪れていたのだ。だが、近隣の炭鉱が寂れてしまうと、人も減ってしまったというワケなのであるが。

 今か今かと観客達が待ち侘びる。パブのマスターはゼベク爺さんとは古くからの知り合い。愉快な奏者達がいると聞かされて、退屈な街に飽き飽きしていたマスターはさっそくOKを出したというわけである。

「はーい、皆様お待たせいたしました。それでは……クマトリオで、カントリーパフォーマンスライブです、どうぞ!」

 なんだか、妙な盛り上げられ方で、ずっこけそうになるスモーキー達であったが、ステージの幕が開くと同時に勢い良く飛び込んで見せた。

 軽快な音色に、力強いボーカル。大きな体に似合わず、茶目っ気たっぷりのトリオはすっかり人気をかき集めていた。

 その曲、その唄、なによりも、パフォーマンスが目を引いた。三人は、楽しそうに歌い上げてみせるのであった。サービス精神旺盛な三人は、たっぷりの愛嬌とパフォーマンスで観客達を飽きさせることなく、見事なライブを演じて見せた。

「みんな、今日はどうもありがとう。まったくの無名の新人……それもそのはず。田舎から出てきたばっかりのオレ達が、ここまで人気あるとは予想外だったよ。なぁ、ハスキー、ターキー?」

 ステージでマイクを片手に語りだすスモーキー。

「みんな、今日はどうもありがとうなっ!」

「ぼく達は、街を造るという夢のために旅をしています。機会があったら、またお逢いしましょうねー」

「オレ達は、これからスノーマンの住む雪深い街へ行く予定なんだ。いずれ、どこかに場所を見つけて開拓し、街を造ってみせるさ。その時は、みんな、初ライブの仲間として是非とも、また来てやってくれ。最後の一曲はみんなで一緒に歌って、踊ろうぜ! はぁい、皆様、ご起立くださーいっ!」

 スモーキーの言葉に応じるかのように、老若男女関係無く皆が席を立った。スモーキー達の奏でる愉快な音色につられるように、手拍子し、時にダンスを踊り、愉快で、暑い夜は更けていくのであった。

「今日は……本当に、どうもありがとうっ!」

 余韻を忘れることなく観客達は、熱狂していた。

 ライブ終了後も、スモーキー達は引っ張りだこだった。その人気ぶりには、皆が驚いた。おそらく、これをキッカケに各地で、その名も広がるだろう。これは願ってもないチャンスだ。オレ達の名を売り込むこともできれば、街づくりにも大きなチャンスとなるはず。予想もしなかった展開だが、こりゃあイイ。スモーキーの頭の中では、次々と計画が浮かんでは、形になっていった。

 その夜、結局三人は、熱狂的なファンと共に食事を取ったりと、ますますの大人気で、結局眠りに着いたのは明け方であった。だが、心地よい疲れに三人は、心底満足するのであった。これは、この先の旅も、きっと素敵な旅になるに違いない。

◆◆◆11◆◆◆

 ミケ達は、今晩泊めてくれる宿を探していた。なにしろ到着したのは、完全に日が落ちてからだった。

「まずは、今晩寝泊りできる場所を探さなくてはな」

 落ち着き払った口調で、グレイドが静かに口を開く。ミケは静かに頷きつつも、暗い夜道が怖いのか、グレイドの服の裾を掴んだまま、きょろきょろと周囲を見渡してみせる。

 ぼく、お化けの話とか苦手なんだよね。暗い夜道を歩くだけでも、おっかないんだ。だってさ……。

「おお……ミケ、来てみろ。きれいな景色だ」

「え?」

 グレイドに誘われるままに、ミケは恐る恐る歩みだしてみた。足元で砂利が擦れる音がする。パキッ、渇いた枝を踏む音がした。思わず、ヒャっと飛び上がってしまう。カールはミケの肩の上、すっかり夢心地な表情をしてみせている。

「わぁ。すごいや……」

 グレイドが見つめていたのは、遥か彼方に見える夜景。どこの街であろう? 港町は夜の酒場が大賑わい。周囲が真っ暗な山に囲まれているだけに、満天の星空と遠くに見える街明かり。船が訪れる様は、月明かりが照らしてくれる。そんな静かな景色にミケは、すっかり見入ってしまっていた。

 なんて綺麗なんだろう……ああ、なんて素敵な景色なんだろう。もしかしたら、ぼくは世界一幸せな子猫なのかも知れないや。ミケは、すっかり上機嫌になって、大きく伸びをしようとした。うーんっと、大きく伸びをしようとした、まさに、その時であった。

「ああ、動かないでっ!」

「にゃあ!?」

 不意に背後から聞こえてきた声に、慌てて振り返るグレイド。気の良さそうな鳥人族の青年が、どこから持ってきたのか小さな椅子に腰掛けて鉛筆を構えているではないか。

「……」

 言葉を失うグレイド。一体、何がどうなったのか? それ以上に、いったい何時の間に、この青年はちゃっかり陣取って、ついでに椅子まで用意しちゃって腰掛けて、挙句の果てには鉛筆片手に……妖しすぎるぞ。

「いやぁ、すいませんねぇ。月明かりを受けながら、遠くの夜景を眺めている子猫君が、妙に填まってね。良い絵が描けそうな気がしたんです。ああ、申し遅れました。ぼくはレヴィ。この街で、絵描きをしています」

 気立ての良さそうな青年はぺコリとお辞儀すると、ミケに握手を求めてきた。気の良さそうな笑顔が妙に気に入ったミケは、にこにこ笑顔で手を差し出してみせる。

「ぼく、ミケ。よろしくね。んでね、こっちがグレイド。それから……ぼくの肩の上でぐーっすり寝込んでいるアホ鳥が、カールっていうの」

 ミケの捻りの利いた紹介に、思わず吹き出す青年。頭に巻きつけたバンダナが印象的な好青年。それにしても……ぼくが絵のモデルだなんて、なんか……照れくさいや。そりゃあ、ぼくってさ、可愛いしさ、その気持ちは判るケドね……って、ちょっと!? 一人悦に浸るミケを他所に、グレイドはすっかり街の話やら、なんやらで話に盛り上がり、ミケをすっかり忘れている。すたすたと歩き出すグレイドに思わず慌てて追い掛けるミケ。冗談じゃない。こんな真っ暗な所に置いていかれたら、もしかすると誘拐されちゃうかも知れないじゃないのさっ! ミケは、マイペースで歩いていくグレイドの後を追いかけて、慌てて走り出すのであった。

◆◆◆12◆◆◆

 程なくしてミケ達は、レヴィに案内されるままに街へと向かった。さすがは芸術家の集まる街。その造りは洗練され尽くしていた。彫像から家作りまで、とても凝っていた。

 木目を基調とした家は、自然の中にあっても違和感のない質素な造り。それでいて、洗練され尽くした街は街灯の一つを取ってみても、どこか古風な色合いのゆらゆら揺らめく灯火で飾られた街灯。ミケ達はそんな、感性豊かな街並みに、すっかり心奪われていた。

「へぇー、世界一周の旅をしたいんだ?」

 レヴィは、驚いたり、はしゃいで見たり、実に豊かな表情を見せた。

「ぼくもね、ミケ君と同じくらいの年の頃にこの大陸に来たんだ。兄と一緒にね、海を渡っての大冒険だったんだよ。それは大変な旅だったよ」

 何気なく、さらりと語ってみせるレヴィの言葉にうんうんと頷きつつも、ふと我に返り飛び上がるミケ。

 ひゃー! 海を渡っての大冒険だなんて、なんて凄い!

 妙にウキウキした表情のミケを横目に、グレイドは微笑んだ。

「子供の頃にね、翼をケガしてしまったぼくはずっと、空を飛んでみたかったんだ。んでね、子供心に思ったのさ」

 わざと、もったいぶるように語ってみせるレヴィの話にすっかりミケは呑み込まれていた。なにしろ、デュラルの航海日誌とは違った、生の話だけに、ミケにしてみれば期待と感動というワケである。食い入るように耳を傾けるミケが気に入ったのか、レヴィは自分とどこか通じる冒険心に満ちあふれた、ミケに微笑んでみせた。

「もうじき、ぼくの家に着くよ。小さな喫茶店をやっているんだ。ぼくの兄のシュミが転じてね。今の店になったんだよ。ぼくが絵を描き、兄が店に飾る。兄弟、二人三脚で頑張っているんだ。はい。到着したよ」

 キャンプにでも来たのではないか、という気分にさせてくれる立派なログハウスは、手作りならではの暖かさと、木の良い香りがする家だった。小綺麗に片付いた店は、マスターの人の良さを伺わせるような落ち着いた造りだった。

「わぁ。なんて素敵なんだろう」

 吹き抜けの天井は、満天の星空が良く見える素敵な造り。レヴィの作品なのであろうか? 風景画のような、どこか幻想的な香りのする絵画にグレイドは見入っていた。

「ほぅ……これは素晴らしい。街にでも出れば売れるだろうに」

 グレイドは上機嫌な口調で語ってみせるが、レヴィは静かに微笑んでみせる。自分には街は似合わないと。

「都会の雑踏は苦手なんでね。ここは良い所だよ。山の遥か上だから、空気もとてもきれいなんだよ。自然も豊かだし、訪れる人々も芸術家が多いでしょう? 学ぶことがたくさん見つかる街なんだよ。ああ。兄さん、ただいま」

 兄さんと呼ばれた青年は、突然のお客に目を真丸くする。

「お客さんとは……先にそれを言えよ、気が利かないなぁ……」

 ぶつぶつ文句を言いながら、手際よくポットを用意する。花柄をあしらったセピア色のティーポットと、木目色のティーカップ。飛び切りのコーヒーの良い香りが漂ってくる。良い香りに誘われてか、さきほどまで、ぐーすか寝ていたカールが目を覚ました。

「ふにゃ……なんか、いい香りがするぞ……」

「起きたよ。現金な奴だねぇ」

「ミケ君達、夕食はまだかな? 良かったら……兄さんがゴチソウしてくれるよ?」

「おい、レヴィ。なんでオレの名が出て来るんだよ?」

 キッチンから聞こえてくる、調子外れな声に思わず微笑むミケ。

 兄の名はパーンだとレヴィが教えてくれた。帽子を被っちゃってなんだか、みょうに決まっている感じのお兄さん。でも、そこは兄弟なのかな? どこか似ている感じがする。

◆◆◆13◆◆◆

「はい。お待ちどうさま」

 パーンは自慢のコーヒーを披露してくれた。グレイドはブラックで。さっすがぁ。ぼくはお子様だから……たっぷりのミルクと、お砂糖はスプーンで二杯。甘いの大好きさ。ついでに、熱いのは苦手だからミルクで薄めるの。カールも鳥のクセにコーヒーを飲んだりするんだよなぁ……やっぱり、ヘンな鳥だよね。普通の鳥は、もっと違ったものが好きなんじゃないかなぁ、とぼくは思うのだけど。

「ついでに……お口に逢うかどうか判らないけど、山で採れたきのことトマトで作ったパスタだよ。良かったら食べてみて」

 気の良いパーンに奨められるままに、ミケ達はすっかりゴチソウになってしまった。オリーブオイルが利いているのか、しっかりした味わいに香辛料のアクセント。良い香りの正体は、山で採れたクルミを細かく刻んだ欠片。

「今日はうちに泊まっていくといいよ。何もないログハウスだけど、景色だけは最高だからね。ドラゴンのお兄さんには、ワインでも用意してあげようかい?」

 気の良い兄弟は陽気に笑いながら、ワインを差し出してみせる。思わずピクリと反応してしまうグレイド。だが、ミケは知っていた。お酒が入ったグレイドは、何時もとはまるで違うキャラになることを……。

 カールと顔を見合わせると、さっさとパスタを食べてその場を逃げることを協議するミケ達。こういう時だけは仲が良い。

 かくしてミケ達は……大陸西端の山奥の街で、楽しい一時を過ごすのであった。

 夜空には、大きな月と満天の星。フクロウの鳴く声が聞こえてくれば、秋の夜は更けてゆくというワケだね。

◆◆◆14◆◆◆

 酒が入ったグレイドは普段とは違った姿を見せる。それは、それは、饒舌に……といえば、聞こえは良いのだが、悪く言えば酷いおしゃべりになるというワケである。

「それでだな、オレは思うんだよ。判るかい?」

「さすがは発明を志すだけある。話の内容が奥深いな」

 すっかり意気投合しちゃった、パーンとグレイドはワインをガブガブ呑みながら、噛合わないトークに花が咲く。レヴィ達は、さっさと避難しながら夜空を眺めていた。

「兄さんも酒癖悪いけど、ドラゴンのお兄さんも強烈だね……」

「でしょう? お酒飲むと、普段の物静かな性格とは大違いの、やたら良く喋る性格に変わっちゃうんだ。しかも、絡んでくるし……普段はイイ奴なんだけどねぇー」

 ミケの言葉に、そうだそうだ、とばかりにカールが頷く。

「ミケ君は世界一周の旅に出たいんだってね」

「うん。あの有名な航海士、ヒィアン・デュラルみたいな大冒険をしてみたいんだ。世界は広いし、大きいし、夢いっぱいだもん」

 嬉しそうに微笑んでみせるミケ。レヴィは大きな翼を広げて見せると、大空に向かって大きく向き直ってみせた。月に明かりに照らされて、大きな翼が淡い月光色に輝いて見えた。

「ぼくら、鳥人には翼がある。この翼でぼくはこの大陸まで来たんだよ。子供の頃はね……雪の降る寒い、寒い街で暮らしていたんだ。ミケ君は雪が好きかな?」

「うん、雪は大好きだよ」

 レヴィの冒険の香りのする話に、なんだか嬉しくなってきたミケ。長いシッポがゆらゆらと空中を泳いでみせる。

「雪だるま作ったり、雪合戦したりね」

「ぼくら兄弟の故郷は遠く、遠く、海の向こう。兄さんと一緒にね、この大地を目指して……長い、長い旅をしてきたんだよ。この翼だけで。自分の力だけでね?」

 自慢気に大きな翼をはためかせて見せるレヴィ。

「ぼくには、翼はない。でも、気球を使えば……なんでも、大きな風船みたいなモノらしいんだ、それに乗って大空を旅するんだ。素敵でしょう?」

「気球? 初めてきいた言葉だ。でも、空の旅は素敵だよ。きっと、素敵で、夢いっぱいの冒険になるのだろうね」

 月明かりに照らされてミケの笑顔は月光色に染まっていた。優しく微笑みかけるレヴィの笑顔も月光色に染まっていた。大冒険の予感がする。ミケは、なんかそんな気持ちでいっぱいだった。

「さて……そろそろ戻ろうか? 素敵な満天の星空を眺めていたいならもう少しここで見ているのもいいかも知れない。ああ。安心して。ミケ君達のベッドは用意しておいたよ」

 にこにこ微笑みながらレヴィはログハウスへと戻っていった。ミケは星空を眺めながら、素敵な夢を膨らましていた。

 ああ。気球に乗っての旅。翼で空を羽ばたく気持ちかぁ……。

「ひゃー!」

「レヴィ兄ちゃんの悲鳴だ……」

「グレイドの奴、また大暴れしているに違いないぜぇー」

「レヴィ兄ちゃんには悪いけど……もうしばらくここで星空を眺めながら、退避していたほうが良さそうだね」

 ミケの提案に、その通りだと言わんばかりに深々と頷いてみせるカール。

 ログハウスからは、グレイドとパーンの陽気で豪快な笑い声と、恐怖に怯えるレヴィの悲鳴が聞こえてきた。迷わず成仏せーよ。アーメン……思わず十字を切ってしまうミケ達であった。

 夜空には満天の星空。朝日が訪れる頃には、どんな景色になっているだろうか? ミケは膨らむ冒険の心で一杯だった。

 相変わらずログハウスから聞こえてくる賑やかな声は絶えることはなかった。なんだかミケは素敵な気分で一杯になっていた。星空を見つめながら静かに、静かにお気に入りの唄を口ずさんでみた。もちろん、相棒のカールの口はしっかりと、抑えてからね?

◆◆◆15◆◆◆

 抜けるような青空とは、まさにこういう景色をいうのだろう。リドルは早起きして、朝の景色を楽しんでいた。

 顔を洗う水はびっくりするほど冷たい。相棒のティガは、まだ夢の中なのか、ぐっすり寝ている。

 ニワトリの声で目覚めれば、抜けるような青空。リドルは、なんだか嬉しくなってきてしまった。

「あら、リドルちゃん。早いのねぇ」

 一番の早起きかと思いきや、農家の女性達は朝が早い。村長さんの奥さんは既に朝食の用意に勤しんでいる。採れたての野菜をふんだんに使っての朝食。やかんがピーっと元気な音をあげれば、思わず飛び上がってしまうリドル。

「ちょうど良かったわ。そこにね、トウモロコシの干してあるのがあるでしょう? それからね、その下の棚の中に……」

 次々と語りかけてくる奥さん。リドルは両手を武器に必死で覚えようとしたが、とても覚えきれない。うーん、うーんと考え込んで、ついでに難しい顔をしてみせる。

「あら? さすがに覚えられなかったみたいね」

 クスクス笑いながら奥さん、まるで魔女のお婆さんみたいにてきぱきと材料を手にすると、次々と鍋に放り込んでいった。

 一体、何ができるのだろう……リドルはドキドキしていた。

 ちょうどその頃、寝坊助の相棒ティガが起きてきた。大きく伸びをしてみせる。ついでに、顔を洗うのも忘れない。体こそ大きいが行動パターンはまさに猫。まだぐっすり眠り込んでいる子供達に、毛布を掛けてやるのを忘れない辺り中々気が利く。

「ああ、ティガ。ずいぶん寝坊助さんだね」

「朝はぐっすり眠るに限るモンだぜ」

「今日は山猫さんのところに行くのだから、早起きしなくちゃダメじゃない? 場所的には、そんなに遠くではないって聞くけどさ、せっかく逢いに行くのだもの。いろいろとお話してきたいじゃない? 楽しみなんだ、ぼく」

 嬉しそうに語ってみせるリドル。誰もいない空に向かって嬉しそうに語りかける、お茶目な姿にティガは思わず吹き出しそうになった。

「さぁって。そろそろ朝食にしましょうか? 特製のスープができたわ。いろんな野菜がたっぷりなの」

「うわぁー。おいしそう」

 山猫さんを差し置いても、取りあえずは目の前のおいしそうな料理の誘惑には勝てそうもない。子供達も次々と起きてきては、冷たい川の水で顔を洗う。

 太陽がさんさんと日を照らせば、カカシ達も目を覚ます。小鳥達が歌い出せば、長閑な歌声と共に、男達は朝の収穫に出かける。

 朝日を背にして陽気な唄を歌えば、朝が来たよと村に告げる。緑瑞々しい大地に、黄金の光が差し込めば、畑は宝の海と化す。収穫を祝う陽気な唄。豊作を喜ぶ明るいメロディー。

「わぁ。素敵な景色だね……」

 窓から精一杯背伸びして外の景色を眺めるリドル。ティガも真似して覗き込んでみせる。長いシッポがゆらゆらする。

「あらあら。この村が気に入ったみたいね」

 ケンタウロスの奥さん、クスクスと微笑みながら子供達の人数分、お皿を用意するのを忘れない。焼きたてのパンを用意して、バターをぬりながら陽気に唄う。

 表で収穫する男達も、その歌声に逢わせて歌いだす。子供達もタオルで顔を拭きながら、それに逢わせて唄いだす。あまりのことに、思わず戸惑ってしまうリドル。

「ひゃー、まるでオペラ劇みたいだよ……」

「この村の人々は、みな唄好きでね」

「あ。村長さん、おはよう」

「おはよう。今日は山猫さんのところに遊びに行くそうだね? よかったら、村の収穫祭の招待状を届けて欲しいのだけど」

 気の良さそうな村長さん、おおきなキセルで煙草を吹かしてみせる。小奇麗な招待状を受け取ると、リドルは慌てて部屋に戻り、愛用のカバンの中に大事に仕舞うのであった。

「確かに、お預かりしました」

 リドルはにっこりと微笑んでみせる。傍らでティガが大きなあくびをしてみせる。

「さ、朝食にしましょう」

 暖かい野菜のスープに、こんがりと焼けたパンはとびきりおいしかった。

 すっかり満足したリドルは収穫祭の準備を一時中断し、山猫さんのレストランを目指すのであった。ティガに跨って走り去るその様は、まるで風のようだった。その様を見つめながら、陽気なケンタウロス達は、長閑に唄いながらも、収穫祭の準備を進めて行くのであった。

◆◆◆16◆◆◆

 秋の山は収穫の香りでいっぱい。山猫さんは小さなレストランのお掃除に励んでいた。深い木目色の椅子もテーブルも、ぜんぶお手製。木でできたこだわりの品なんです。木のいい香りがするレストランは山猫さんのご自慢のレストラン。山猫さんのお店にはメニューはないんです。お客さんにあった料理を、その場で考えちゃうのが山猫流。ちゃんときれいに、掃除を忘れないのも山猫さんの流儀。ちょっと太めのお腹もご愛嬌です。

「今日はいいお天気ですね。キツネさんとリスさんにお願いしておいた、きのこ狩りも、きっと順調ですね」

 どんな料理を作ろうかなぁー、のんびり考えている間にもせっかく掃除しても、落ち葉はまた落ちてきてしまいます。

「あらあら。せっかく掃除しても、これではキリがないですね……」

 思わず苦笑いの山猫さん。真白い服はシェフの証。

「おや? お客さんですか? ちょっと気が早いですねぇ」

 呼び鈴を鳴らす音に気付いて、慌てて飛び回る山猫さん。

 リドルは、もうドキドキしちゃって仕方がないといった表情。呼び鈴を、あまりにも緊張して連続して鳴らしちゃったし……。

「はいはい。おや? これは可愛いお客さんですね」

 小さなリドルを目にして、山猫さんは大きな目を細めてにこにこと微笑んで見せた。まるでぬいぐるみみたいな毛並みの山猫さん。絵本の中から出てきたみたいだ。思わずリドルは、その大きな目に見入ってしまった。

「あ。そうだ、お手紙です。はい、受け取ってください」

 傍らで毛繕いをしているティガに気付いているのか、気付いていないのか、まったく動じない山猫さん。手紙を手にすると丁寧に封をあけてみせた。

「どれどれ……おお。もう収穫祭の時期でしたか。月日が流れるのは早いものですね。これは大変だ」

「あのー……」

「いやいや。どうもありがとうございます。わざわざお手紙届けてくれるなんて、ありがたいことですね。そうだ。もうじき、私のお友達がきのこ狩りから帰ってきます。よかったら、しばらくゆっくりしていってくださいな。収穫祭には私も参加させて貰えそうです。嬉しいことです。そうだ。手紙を届けてくれた親切な郵便屋さん、あなたのお名前は?」

 山猫さんは柔らかな大きな手で、リドルの手を握りながら優しく微笑んで見せた。その手の中にはまるで手品のように、ちいさなキャンディが転がっていた。思わずびっくりのリドル。相変わらず優しい笑顔の山猫さん。

「ぼく、リドルっていいます。こっちの虎は、ぼくの友達のティガっていうの。ぼくね、大きな旅をしたいと思っているの。ミケ君っていう素敵な子猫君。世界一周旅行の旅に出るんだ。だから、ぼくも一緒に旅しているの」

 何だかしどろもどろな口調で、緊張も相まって、何を言っているのか本人もよく判らないお話。しかし、山猫さんは大きな目を、さらにまん丸くして微笑む。

「素敵なお話ですね。私も街に出てみたいと考えていたのですよ。ここは、確かに素敵なところです。でも、私はもっといろいろな人に逢ってみたいのです。料理は……面白い世界ですよ。いろいろな世界を見せてくれる。私がつくった料理を食べてくれて、喜んで貰えるのが実はですね、最高の幸せだったりするんですよね。ふふふ」

 大きな手と、大きな瞳の山猫さん。人の良さそうな印象に、すっかりリドルは緊張を忘れていた。

「そうです。お茶でも煎れましょうね。おや、キツネさんとリスさん、きのこ狩りから帰ってきたようですね。これはちょうどいい。せっかくです。ゆっくりしていって下さいね。収穫祭での料理をあれこれと考えていたのですよ。試作品ってことで、試食願えますか?」

「わぁー、いいの!? やったね!」

「やったな。リドル」

 嬉しそうにはしゃぐリドルを見て、ティガは思わずガシっと手を組み合わせてみせた。せっかく掃除した玄関は、すっかり落ち葉で埋もれていた。キツネさんとリスさんのコンビが戻ってくれば、ますます賑やかに、陽気に木漏れ日が差し込むレストラン。

 山猫さんの優しい笑顔と、嬉しい気持ちでいっぱいのリドル。そこには緩やかな流れと、静かな幸せがあったような気がします。

◆◆◆17◆◆◆

 朝も早くから大賑わいのクマトリオ。目覚めてみれば、お宿の外には大勢のファンが。これにはさすがに驚きのクマトリオ。話題騒然といったところか?

「ひゅう。今日もすごい人だな……」

 口笛を吹きながらも、苦笑いの消えないクマトリオ。おいおい。いくらオレ達がイイ男だからって、こんなにも朝も早くから大勢で出迎えてくれなくてもエエんでないかい? 思わず失笑してしまうスモーキー。やっとこさ起きて来たハスキーとターキーも笑いが引きつっていた。

「すごい人だね」

「驚きだぜ……。こんなにも大人気になろうとはね」

「朝食の準備が整いました、どうぞ食堂のほうへ」

 宿の娘は、妙に礼儀正しい態度で語ってみせる。可愛らしい少女に思わず口元がほころんでしまうスモーキー。

 朝食は一般的な食事。しかし、なかなかに趣向が凝らされている。焼きたてのパンは、なんとも絶妙の焼き具合。カリっとしていてそれでいて、ふんわりとしている。スクランブルエッグは何とも言えない柔らかな感触。微妙にスパイスが利いていて良い香りがする。シンプルながらも、なかなかに気の利いた朝食に三人は大感激。さて。そろそろ出発するかと、宿の主人に厚くお礼をする。

「いやいや、なんにも無い街だけど、またよかったら遊びにきてやっておくれよ。ゼベク爺さんの知り合いなら大歓迎さ」

「ああ。また遊びに来させて貰うよ。さて、行こうか」

 宿の外には大勢のファンが待っていた。思わずギョっとする三人。しかし、どうも様子が違う。大きな花束なんか抱えちゃった女の子もいたりして……。

「昨日は素敵なコンサートをどうもありがとう」

「また、良かったら遊びに来てくださいね?」

 花束を持った娘達に口々に挨拶されて、すっかり真っ赤になってしまうクマトリオ。そういう素朴な姿がまた、田舎の青年らしくて好感を持てるのであろう。

「新しい街を造った際には、是非とも遊びに行きますわ」

 街の人々からの熱い歓声と、止むことのない拍手に三人は最後まで手を振りながら、微笑むのであった。

「なんて熱い歓迎ぶりだ……マジで、感動しちゃったよ」

 照れくさそうに笑うスモーキー。嬉しそうに微笑むハスキーとターキー。

 三人は懐かしい余韻を胸に一路、ゼベク爺さんの汽車に揺られて、雪深いスノーマンの街を目指すのであった。

 行く末には、大きな灰色の雲。しかめっ面をしてみせるゼベク爺さん。こいつぁ、大雪の危険性もあるな……。

「スノーマン達は、音楽に深い造詣があるそうだ。なんでも天然の氷晶を使って、氷の楽器を創るそうだ」

「氷の楽器? へぇー、そりゃあまた、ずいぶんとシャレてるな」

「きっと、とてもきれいな音を響かせてくれるに違いないね」

「スノーマン達は、その自慢の楽器をなんとか各地に広げたいらしいのだが、なにしろ……場所が場所だろう? あまりの寒さに滅多に旅人も訪れないってことらしいのさ。それじゃあ、せっかくの逸材も発掘されないまま終わっちまうだろう?」

「なるほどね……それで、今回の探索の場に選んだワケね?」

 ニヤリと微笑んでみせるハスキー。ご名答だと、スモーキーがウィンクしてみせる。

「そう。オレ達には唄と楽器があるだろう? スノーマン達は独特の楽器を使ってのオーケストラさ。方向性こそ違うが、そこは同じ音楽だからな。通じる部分はあるはずだ」

「わぁ。見て、すごい雪だよ……」

 ターキーの声に慌てるスモーキーとハスキー。慌てて窓の外を見てみれば、いつしか周囲は銀世界。白一色の雪の世界。どおりで寒いワケだよ、と思わずくしゃみが飛び出すスモーキー。

 雪はシンシンと降り続いている。なにしろ……溶けることのない氷で楽器を創るワケだから、その寒さも半端ではないハズである。列車の中でも十分に寒い。

「おぅ、そろそろスノーマンの街に到着するぜ」

 ゼベク爺さんの元気のいい声が聞こえてくる。さすがに場所が場所だけに、その寒さは筋金入りというワケである。

「さすがに寒いな……しかも、かなり大荒れの天気だ。こりゃあ、スノーマンの街に行くまでが大変だ」

 列車は次第に速度を落とすと、急速にブレーキを掛けた。キキーっと軋む音。雪が深いのか、スリップするような感触。激しい衝撃に体ごと吹っ飛ばされそうになる三人。

「いてててて。爺さん。もうちょっと優しく停車しようぜ……」

「すごい雪だな……。これは街まで大変なこったな」

 あたりはシンシンと降り積もる雪で埋もれていた。街は見えるには見えるが、駅からはかなりの距離があるはず。

「さすがに、これだけ寒いと厳しいモノがあるな。ま、ゆっくりと街を探索してくるといいよ。また明日の同じくらいの時間帯に迎えにきてやるから、しっかり暴れてきな」

 暴れてきなって……何をして来いっていうんだよ、爺さん? 思わず顔を見合わせてしまうクマトリオ。

 白い屋根も愛らしい小さな駅を後に、三人は歩き出した。膝まですっぽりと入ってしまうほどに深い雪に、思わず真っ青になる三人。ホントに大丈夫かな……こんなところで遭難したくないよな……同じことを考える三人。

「……もし? よろしかったら乗っていきませんか?」

 不意に背後から声を掛けられて驚くクマトリオ。だが、そこには誰もいない? 気のせいかと思い再び歩き出した。

 その時であった。不意に、誰かに腕を掴まれてスモーキーは思わず悲鳴をあげてしまった。

「うわぉ!?」

「……ども、こんにちは」

「ゆ、雪だるまが喋ったぁ!?」

 すっとんきょうな悲鳴をあげるクマトリオ。いきなり大きな悲鳴を挙げられてしまった、雪だるまもびっくり。

「わぁー、ぼくは怪しい者ではありませんっ!」

 自分で、自分のことを怪しいも者ではありませんなんて、言える奴ほど怪しい奴もいないと思うんですけど……。失笑してしまうスモーキーであったが、人の良さそうな雪だるまの言葉を信じてみることにした。

 お客が来るのが珍しいのか、妙に焦った表情の雪だるま。それ以上に不思議なのが雪だるまなのに表情が非常に豊かだということ……。ここまで来てスモーキーはようやく気付いた。

「ああ、そうか。あんた、スノーマンだな?」

「おお。知っていましたか? 雪だるまと呼ばれた時は、ああ、またか……と思いましたが、その言葉を知っているならあなた方は、きっとイイ人に違いありません。うん、きっとそうだ」

 勝手にイイ人だと相手を決め付けてしまう先入観はとーっても危ないような気もするんだけどなぁ……。そんなことを考えつつも、スモーキーは気の良いスノーマンに握手を求めた。友好の印は、まずはこういうコミュニケーションからだよな。

「よ、よろしくお願いします……」

「うぉっ!? ひゃー。あんた、冷たい手だなぁ……」

 あたり前だろ……思わずツッコミをいれたくなるハスキー。

「おや? その楽器は……」

 スノーマンは、スモーキーのギターに興味を示したのか、興味津々な目で覗き込むように見つめている。

「ああ、これかい? オレ達、これでも列記としたミュージシシャンなんだぜ? ギターとベースと、バイオリンさ」

「おお。カントリーミュージックですね? 格好良いなぁ」

 やはりスノーマンは音楽好きらしい。スモーキーは思わず納得する。

「是非とも、街に来てください。何にもない街ですけど、みんな音楽には、大変知識のある人達ばかりです。ちょうどこの時期はオーロラも見られるんで、野外コンサートなんかも良く開催されているんですよ。奇遇なことに今日は、そのコンサートの日なんです。他の街からきた人が音楽を聴かせてくれれば、きっと、みんな大喜びしてくれると思いますよ」

 気のいいスノーマンは、不意に雪の中に顔ごと突っ込むと何かを引っ張りあげて見せた。予想外に巨大な何かに苦戦する。

「なんだい? 何かあるのかい?」

「力仕事なら手伝うぜ」

 にやにや笑ってみせるハスキー。一見お笑いキャラだが、ハスキーはクマトリオの中では、最も力持ち。大工仕事なんかも得意とする彼はとにかく腕力が強い。こういう場面では格好良いところを見せたくなってしまうのも、頷けるワケである。

「いよっ! なんだこりゃ? 重たいなぁ……」

 もう一度、力一杯引き上げて見せれば、それは一枚の板であった。銀色にキラキラと輝く楕円形の巨大な板。なんだこりゃ? きょとんとするクマトリオに、嬉しそうに語りかけてみせるスノーマン。

「いやいや。すごい雪ですっかり埋まってしまいましたね……これ、スノーボードといいます。スキーってやったことありますか? あれと原理は大体同じです。ただ、このスノーボードはちょっと変わっていまして、平らな地面の上でも高速で移動できるんです。え? どうしてかって? それは企業秘密でして……ささ。どうぞ、ご一緒に」

 スノーマンはにこにこ笑いながらボードに乗ってみせる。しかし、こりゃあ……ただの板だべ? 掴まるところもないし大丈夫かな? ちょっと心配になるクマトリオを尻目に、真っ赤なマフラーを締め直して、帽子をしっかりと被ると、スノーマンが声を掛けた。

「それじゃあ、行きますよ。しっかり掴まっていてくださいね」

 不意に凄まじい加速。雪景色の中をスノーボードはまるで坂道を駆け下りるが如きスピードで走り抜ける。

「ひゃっほう。こりゃあイイや!」

 バランスさえ取れれば、これは、実に面白い道具である。雪景色が飛ぶように過ぎていく。雪原を、雪を巻き上げながらも颯爽と走ってゆく様は、なかなか素敵な体験である。スノーマンは、器用にも曲芸まで見せてくれた。

「はい。宙返りですっ!」

「わぁお!」

 すっかり大はしゃぎのクマトリオを乗せたままスノーボードは、街のすぐ側まで到着した。

◆◆◆18◆◆◆

 建物から、石床から、何から何まで、透き通るような青一色の世界。寒さは厳しいが、身を切り裂くような険しい寒さではない。どこか柔らかな涼しさを称えた感じが、すっかりクマトリオに気に入られた。雪は相変わらず降り続けていた。

「足元が滑りやすいので、気をつけてくださいね。もう少しでコンサート会場に到着します。みなさんもよかったら、その楽器の音色を聴かせていただけると光栄です」

「音楽が好きなんだな」

「ええ、私……この街の音楽を各地に広めたいと考えて、いろいろと試行錯誤しているのですけど、何しろ、ここは辺鄙な場所ですからね。それに寒いでしょう? なかなか旅人も来てくれなくてね。どこか、街に出たいと……」

 そこまで聞いた時点でスモーキーの心はすでに固まっていた。

「決まりだな?」

 ハスキー、ターキー、二人揃って、そうこなくてはと、ばかりににっこり微笑んでみせる。きょとんとするスノーマン。

「オレ達は、新しい街をつくろうと考えているんだ。新しい街ができた折には、是非とも、来てくれないかな?」

「な、なんと。それは素晴らしい! ええ、是非、是非、よろしくお願いいたします」

 興奮しきって、すっかり上ずった声になってしまうスノーマン。不意に、広場の方から盛大な拍手が聞こえてきた。見上げてみれば空には、淡い色合いを称えたまま、キラキラと輝くオーロラが瞬いていた。

「おお。何と美しい……」

「ささ。コンサートがそろそろ始まります、みなさんもどうぞ」

 三人は案内されるままに、コンサート会場を目指した。当然のことながら、雪だるま……もとい、スノーマン達がずらりと席に腰掛けている。空にはグリーンやブルーにその色を変えながらも、あざやかに輝くオーロラがあった。

「あれが氷の楽器か……きれいだな」

 透き通るような青い楽器は、街を形作っているあの青い材質と同じ材質に見えた。きれいな青の楽器。

 そしてコンサートが始まった。氷とは思えないような暖かな音色は、忘れていた子供の頃の思い出をも思い出させてくれるような澄み切った音色。透き通るような、柔らかな音色は独特の色合いで、普通の楽器では、決して出すことができない音色であった。

「これは素晴らしい……」

「氷の楽器……。噂にはきいていたけど、これほどだなんて……」

「ますます、こんな田舎街に放って置くのはもったいないぜ」

「今日は素敵なゲストをお招きしております……山奥の村から遠路はるばる、ここ、雪と氷の都まで足を運んでいただきました。紹介します、クマトリオの皆さんです!」

「へ?」

 いきなりステージの上の司会に呼ばれて、驚きを隠し切れないクマトリオ。盛大な拍手に推されて三人は氷のステージの上に立った。

「いっちょやりますか?」

「おうっ!」

 三人は、にっこり微笑むと自慢の楽器と唄を披露した。オーロラと、氷のステージ。スノーマン達に囲まれて透き通る音色と、キラキラと舞い降りる雪。最高のステージで三人は、精一杯の音楽を披露した。

 音楽は人と人を繋ぐ……。スモーキーの心の中に一つの言葉ができあがった。それは、白い吐息となって、輝くオーロラに散ってゆく。盛大な拍手、響き渡る音色……雪と氷と、そしてカントリーが。

◆◆◆19◆◆◆

 明けてみれば抜けるような青空。山の上だからこそ空気が澄み切っている。きれいな風と景色。雲の流れさえも早く感じてしまう。

 ミケは夢を見ていた。夢の中でミケは壮大な大空の海を気球に乗って旅をしていた。ぼくは、きっと世界一素敵な子猫に違いない。笑顔で街の人に手を振ってみせる。だが急に気球の機体が傾きだした。

「わぁー、カール。気球は風船じゃないんだからっ!」

 ミケの制止も聞かずにカールは自慢のくちばしで気球に大きな穴をあけて見せた。凄まじい勢いで気球が傾き落下していく。うわー! 大変だ、大変だ! 落ちちゃうー!

「うわぁ!?」

 どうやら夢だったらしい。ミケは、そっと胸を撫で下ろす。ああ、よかった……夢で。傍らではのんきな顔して、ついでに安らかな寝息を立てているカール。

「もうっ……。夢の中にまで出てくるとは、不届き千万!」

 ミケは、そーっとカールの鼻の穴を指で塞いでみた。

「うーん……。うーん……」

 一体どんな夢を見ているのか、眉間にしわを寄せて険しい顔をしてみせるカール。もう、ミケはおかしくて、おかしくて、吹き出しそうになった。

「……ぷはぁっ! ミケ、お前か!?」

「ありゃ? 起きちゃったの?」

 目を真っ赤にして、慌てて飛び上がるカールの姿がおかしくて、ミケはお腹を抱えて笑い頃げた。階下では賑やかな声に気付いて、微笑む鳥人兄弟。

「……どうやら、お坊ちゃま達もお目覚めみたいだな」

「兄さん、朝食の用意お願いね。ぼく、ちょっとパンを買ってくるよ。ほら、残っていたの、みんな使い切っちゃったじゃない? ちょうど焼きたてのが出来る頃だし」

「なるほどね。せっかくのお客人だからな。歓迎しなくてはいけないな」

 そういえば、グレイドはどうしたのかといえば、結局、あの後も……夜明け頃まで賑やかに騒いでいたのだ。んで……当の本人はというと、……二階のベッドで爆睡していた。

「ぐぉー。ぐぉー」

 その地響きのようないびき……起こしにきたミケ達をも驚愕させるほどの轟音。思わず耳栓をしつつ、ついでに……大きな鍋蓋を盾に,いつ銃撃されても良い様な態勢で、慎重にグレイドを起こしに掛かる……。

「グレイド、朝だよ。起きてよ……」

「おお、朝か……。すまないな……。どうも、久しぶりに酒なんか飲んだから、妙に騒いだ気がする……」

 おぼつかない足取りでベッドから起きるグレイド。まだお酒が残っているのかなぁ? なんか、焦点があっていないし……ちょっと心配に思いつつも、グレイドはむっくりと起き上がると、トイレにでも向かったのであろうか? なにやら、危なっかしい足取りで歩いている。不意に凄まじい音と悲鳴に驚くミケ。

「うぉお!?」

「ぐ、グレイド!?」

 どうやら……うっかり階段を踏み外して転げ落ちてしまったらしい。これには、さしものパーンも思わず飛び上がってしまった。

 なにしろ朝食の準備をしていて、お皿をテーブルに並べていたら、急に凄まじい物音と共に、階段を転げ落ちてくる巨体……。驚かない訳が無かった。もっとも、当の本人は至って無傷。相変わらず恐ろしい奴だと、改めて彼の凄さを認識するミケ達であった。

◆◆◆20◆◆◆

 かくして……やっとのことで、朝食にありつけたミケ達。レヴィが買ってきたパンは、近所のパン屋のおいしいパン。なんでもトウモロコシの粉をたっぷりと練りこんでいるらしく、ほんのりと黄色い色合いのパン。お日様の良い香りがした。

「うーん。このパンおいしいね」

「そうでしょ? ぼくらも、大好きなんだよ」

 パーンのお手製のコーンスープと、実に良い相性である。

「ミケ君達は、また旅を続けるんでしょう?」

「うん。世界一周旅行のためにね。そして、新しい街をつくるためにね?」

「大きな夢だね。その街ができた折にはぜひとも、ぼく達にも声を掛けてよ。ね。兄さん?」「そうだな……レヴィ、お前の絵画の才能を、こんな山奥の街で終わらせるのは勿体無いからな。街に出て、もっと世界に触れて、才能を伸ばすのがいいさ」

 にっこり微笑むパーン。なんだか照れくさくなってレヴィは、慌ててパンをかじってみせる。でも、確かにその絵の腕、眠らせて置くのは勿体無いよね。ミケもなんだか納得してみせる。

「この街には、多くの芸術家達が訪れる。中には新しい街に出て、自分の作品を世に送り出したいと考えている奴らも多いはずだ。街ができたら、きっと多くの仲間達が動くだろう」

 パーンは静かに微笑んでみせた。そう。かつての自分達が、故郷を離れ、新しい地を求めたように。鳥人族は翼があるからこそ、遠い地にでも移動ができる。いろいろな世界をみることができる。だからこそ、旅が好きな者達が多いというのも頷けるというワケである。

 自慢のコーヒーをミケ達に振舞いながら、パーンの頭の中では新しい世界への飽くなき期待が渦巻いていた。この子達は面白い子達だ。きっと、自分や弟にはできないような、なにか大きなことを成し遂げてくれるに違いないだろう。楽しみじゃないか?

「朝食を食べ終わったら、街を案内しよう。ここには、いろいろな人達の作品があるんだよ? 絵画に彫刻。ほかにもいろいろな作品がい一杯あるんだ。ううん、むしろ……そういった作品で、この街はできているといったほうがいいのかも知れないね。ほら、外はいいお天気だよ」

 良いお天気に、嬉しそうな笑顔をみせるレヴィ。

 澄み渡る空。青い空、懐かしい故郷を思い出す景色。素敵なお友達……ミケ達と出逢えてよかったなぁ。レヴィは、そっと微笑むと自分の運勢に感謝するのであった。弟の嬉しそうな笑顔をみて、パーンも優しい笑みを浮かべる。きっと、大きな夢を叶えられるはずさ。この子達といればな……。

◆◆◆21◆◆◆

 トーテムポールは、農作物の収穫をお祝いする木彫りの人形。陽気に唄うカカシまでいて、なんだか不思議なお祭り。でも、ぼく、とっても幸せです。リドルはすっかり村の人達と一緒になって楽しんでいた。収穫はまさに大漁といったところ。今年は特にすごい収穫だったんだって。目の前に山積みにされた実りに、リドルはすっかり嬉しくなっていた。

 いつも食べているパンは、この小麦から作られるんだよね。興味津々でいろいろな作物を見て回るリドル。その背後にぴったりくっついて、一緒になって見ているのは山猫さん。普段はおだやかな山猫さんも、食材を選ぶ目はまさにプロの目。鋭い目で、しっかりとチェックしているんだって。さっすがぁー。ぼくには、どれが、どうなのかなんて判らないや。

「ふむ……。今年は、本当に豊作だったみたいですね。どれをみても本当に良い出来ですよ。これは文句なしに花丸あげちゃっても、いいと思いますね」

 嬉しそうににっこり微笑む山猫さん。朝から続いていた収穫際の準備も、いよいよ大詰め。広い広場のど真ん中には、大きな、大きな火が燃えてパチパチと盛んに、燃える木が音を立てている。豊作をお祝いするお祭りがいよいよはじまるんだね。

 山猫さんはお友達のキツネさんと、リスさんと料理の打ち合わせをしているみたい。子供達は、今か今かとはじまりを楽しみに待っている。もちろんリドル達も待ち侘びていた。

「あ。いよいよはじまるよ!」

 村長さん、なんだか物語にでてくる神様みたいな派手な格好している。きっと、収穫をお祝いする何かなんだろうな。なんとなくリドルは理解してみせた。当の本人は、派手な格好にちょっと照れくさそう。

 傍らでティガがクスクス笑ってみせる。つられて笑ってしまいそうになって、リドルは慌てて手で口を抑えてみせた。吹き出しちゃったら格好悪いもん。

「今年も、大豊作を迎えられました。また、来年も……大収穫を得られるように、みんなで今日は盛大にお祭りといきましょう。さぁ、祭りが始まるぞ!」

 村長の声に呼応するかのように、合唱団が賑やかに唄い始めれば、みな、次々と大きな、大きな炎のまわりを思い思いの踊りで踊りながら、回り始めた。

「わぁー。ぼくらも行こうっ!」

 すっかり馴染んでいるリドル。いっしょになって輪に加わって、なんだか様にならない踊りを見せてくれる。ティガは、うっかりシッポが火の中に入ってしまって慌てて火を消そうと飛び回っている。

 皆が幸せそうに笑っていた。皆が幸せそうに唄っていた。そして、辺りが暗くなるにつれて盛り上がりは増すばかりだった。

「はーい、みなさん。お待たせしました。山猫特製のピザができましたよ。みなさん、どうぞ、召し上がれー!」

「わぁー!」

 まるで満月のように大きなピザは、たっぷりの野菜と小麦粉を使って、おいしそうに焼きあがっていた。村人達が、思わず嬉しそうに反応すれば、リドルもいっしょになってピザをほおばってみせる。

「わぁ、熱いっ。でも……おいしいー!」

 あちちと、やりつつも嬉しそうにピザをほお張るリドル。祭りはさらに賑わいを増していた。

「はいはい。いっぱいありますから、押さないでくださいねー」

 山猫さんがピザを配り、キツネさんとリスさんが村人を上手に誘導する。息のぴったりとあったチームワーク。リドルはこの村で、大きな何かを見つけた気がした。それは、豊作とも呼べるほどの、五穀の豊穣であったような気がした。

 ああ、良かったな……ミケ君達と出逢えて。郵便屋やっているだけじゃあ、きっと、こんな体験できなかったもの。楽しみだな……今度は、どこに行くのだろう? きっと……もっと、もっと素敵な旅をしてみせるからねっ。


 三者三様の想いを胸に、各々が各地で見つけてきたいろいろな出逢いや、思い出を胸に、旅立ちの街に再び集結したのは……それから、一週間後のことであった。

                                第三回へ続く