第1話『飛び立て翼ある者よ』

◆◆◆1◆◆◆

 暖かな日差し。なかなか集まらない仲間達を待ち詫びながら、リドルは甘いミルクティーを口に運んでいた。これでリドルは中々の甘党だったりする。傍らでは相棒のティガが、港町でも中々お目にかかれないスモークサーモンに舌鼓を打っていた。

「うーん。いい仕事するねぇ」

 嬉しそうに微笑みながら、油まみれの手もきれいにお掃除っと。

「みんな遅いねぇ。どうしちゃったんだろう?」

「さぁな。ま、集合地点で情報収集をしていたオレ達が一番乗りになるのは当然ってことだよな。お姉さん、これおかわり」

「はーい」

 よく食べるよね……結構、しょっぱいのに。ホント、ティがって変なトラだよね。

 食欲旺盛なティガを後目に、窓から空を見上げるリドル。午後の昼下がりを港町でも人気の喫茶店で、ティータイムだなんてマダムにとっては至福の一時なのかも知れないけど、ちょっと退屈だよね。

 不意に賑やかな演奏が聞こえてきた。ついでに湧き上がる歓声に、ティガが耳をピク付かせる。

「ほう? どうやら、第一陣がご到着のようだぜ?」

「その様子だね」

 スノーマン達とのセッションで学んできた新しい音色は、切れのあるクールさの感じさせる民族音楽の音色は今までに無かった曲調。これはこれでなかなかに悪くないね。思わず窓から身を乗り出しながら聞き入ってしまうリドル。そよ風が実に心地良い。

 すっかり人気者となったクマトリオの演奏はどこへ行っても、間違いなく通用するほどのモノになったように思えた。

「はぁーい、みなさん。どうもありがとうございましたー」

「また来るからねー」

「サインは勘弁してくれよっ」

 陽気な男性陣に手を振り、愛らしい女性陣に投げキッスとまぁ、賑やかな立ち振る舞いをしてみせるクマトリオ。男性陣にさえ投げキッスを送られて大爆笑してみせる。

 賑やかなファンたちを避けながらも、颯爽と喫茶店に集結するクマトリオ。

 会った頃と比べると、格段に場慣れした感じが伺える。それでいて、洗練された曲調は聞く者を魅了する程って、これじゃあ、まるで音楽評論家みたいじゃないのさ? 苦笑いしつつも、久方ぶりの再会に喜ぶリドル。

「残るはミケ達の一群だけか……」

「珍しく遅いな。時間にうるさいグレイドが遅れてくるっというのも考えにくいな。道中何かあったのか?」

 口々に心配そうな言葉を発するクマトリオであったが、ミケ達には最強の名を欲しいままにする発明家のグレイドがいる訳だ。何かあるとしたら、奴らに関わったおバカさん達だけに違いない。

 そうこうするうちに、どこからか風に乗ってミケの声が流れてきた。

「気のせいか? 風に乗ってミケの声が聞こえてきたような……」

「ああ、確かに。だが……混じって聞こえてくる、この調子外れな歌声は一体何だろうな?」

◆◆◆2◆◆◆

 通りの向こうから歩いてくるミケたちに気付いたのはリドルであった。妙に楽しそうに、踊るような足取りで歩くミケに不信感が沸く。子猫特有のニャーニャーという高い声に混じって、カールの調子外れな歌声がブレンドされて、実に妙な感じである。

「なんだかなー。この調子外れな声……」

「なんとかならないのかねぇー?」

「遅かったじゃないか?」

 親しみ深そうに微笑んでみせるスモーキーに苦笑いのグレイド。傍らでは、ミケとカールが楽しそうに情熱的なタンゴを踊っている。

「遅くなって済まない。言い訳にもならんが……港町に到着したら悪いことにブドウの収穫祭が行われていてな。ミケの奴、ジュースと間違えてワインを一気飲みして、ご覧のようにご機嫌な状況になった次第だ」

「あははー。みんなおひさしぶりー」

「おいおい、大丈夫なのかよ?」

「えへへー、世界はまわっていますぅー?」

「ダメだこりゃ……」

 今度はカールと情熱的なサンバに填まり出してみせる。

 思わず背筋が凍り付くクマトリオとリドルであったが、グレイドは何事も無かったかの様に冷静な表情で腰掛けてみせる。

 お馴染みの地図をテーブルの上に広げれば、今までに訪れた街に印が付けられている。残る場所は僅かということになる。

「さて。みんな揃ったところで、落ち着かなくて申し訳ないのだが次なる目的地を示させて貰うとする。知っての通り、皆の活躍の甲斐もあり、残るポイントは四ヶ所となった。うち三箇所を今回のターゲットとする。さて……今回は、三者共に長距離の旅となる。それなりに過酷だと思うがよろしく頼む……ミケ。静かにしないか」

「にゃーん、グレイド、おこっちゃ……だ・め?」

 すっかり酒がまわっているのか、妙に可愛らしい顔でグレイドをおちょくってみせるミケ。その瞬間、グレイドの眉間からプチっという効果音が聞こえたような気がして、ティガが怯えた。

(……い、今、なんか、『プチ』っていう効果音が聞こえたぞ!?)

「ミケ……フリーズ?」

 にっこりと爽やかな笑顔。懐から取り出した黒い銃口をミケに着きつけてみせる。さすがに酔いもふっとぶコンビであった。

「ぐ、グレイド……落ち着いてっ!」

「話せば判るっ! な? な?」

「ミケ、良い子にしてなきゃ駄目じゃない?」

「にゃー。ぼく良い子でーっす」

 リドルに笑顔でなだめられて、再び可愛らしい声で微笑んでみせるミケ。

(ううーん、なんて単純なヤツなんだろう)

 ヒゲをいじりながら冷や汗タラタラなティガ。残りのスモークサーモンをかじってみせる。

「話を続けるが、良いな? ミケ?」

「うん。大丈夫だにゃー」

 再びグレイドの眉間から、ブチっという豪快な効果音が聞こえたような気がして、ティがは体中の毛が総毛立つ感覚を覚え、恐れ戦いていた。

(空耳何かじゃない! このドラゴンの兄貴、只者じゃ無いぜ!?)

「……さて。リドル達には、南東の端に小さな村がある。東と西に分かれている、少々風変わりな村だ。ここは古くから商業の盛んな地域でな。自由市場では各国の名産品なんかが交易されているそうだ。文化に触れるには非常に有用な場所だ。好奇心旺盛で、各地を旅しているリドルならではの場所だと思うが……いかがかな?」

「自由市場……なんか、面白そう。多少遠いかも知れないけど、ティガに乗せて貰えば、そこまで苦労することもないよね?」

 オレは交通手段じゃないぜ!? 思わず飛び上がってしまうティガであった。

「だが……厄介なのは、ここだ。この一帯には広大な砂漠が広がっている。砂漠越えをするのは決して楽なことではない。暑さに耐えて頑張ってくれ」

「はいっ、頑張ってきます。ね、ティガ?」

「オレかよ……」

「クマトリオには……小さな港町、パムを目指してもらう。ここは港町という顔と同時に、遊園地と呼ばれる遊び場があるそうだ。是非ともエンターテイメントに自信のある君達に盛り上げてきて貰いたい。なんでも……この街は盛り上がりに欠けているらしくてな。君達の優れたエンターテイメント性を見込んでお願いするよ。得るものも多い筈だ」

「エンターテイメントと来れば……」

「そりゃあ、オレたちしかいねぇよなぁ?」

「新しい街でも、名前を広めてこようっ!」

「案外、ギャラは弾むかも知れないな」

 ニヤリと不敵に笑うとグレイドに、思わず笑いが凍るクマトリオ。この人を、マネージャーにすれば、向かうところ敵無しに違いないっ。

「さて……ミケ。今回の目的地はここ、カジノタウンだ。賑やかな街でな。この街を治めるシャルルという人物とは古くからの知り合いでな。まぁ……少々クセのある男だが、砕けた言い方をすれば究極のギャンブラーだ。何しろ、一枚のコインから街を築き上げちまうのだからな」

 一枚のコインから街を築き上げるって……ドンだけ不可思議な人なのだろう? まぁ、グレイドの友達が、ふつーの人の訳が無いか。思わず納得してしまうミケであった。

「その街なのだが……厄介なことに、世間を騒がす謎の怪盗にお宝を狙われているそうでな。助っ人の依頼を受けたこともあり、今回の旅の目的地としたワケだ。フフフ……怪盗が相手なら相手に不足はない。新兵器の実験台になって貰うには最適だ……ククク」

 グレイドの不敵な笑みに、ミケとカールの酔いは完全に吹っ飛んだ。

 なんか、目が怖いし……コイツ、怪盗が相手だってコトにかこつけて、新兵器の実験も兼ねちゃおうなんて、途方も無く恐ろしいことを考えているに違いない。

 かくして、三者は目的地も決まったところで行動を開始するのであった。

◆◆◆3◆◆◆

「うにゃー、あ、頭が割れる……」

「子供のクセにブドウ酒なんて飲むからだ」

「あの色合い、どう見たってブドウジュースにしか見えなかったもの」

 まぁ、何でも良いさ。酔いが醒めてくれて助かった。終始あんな調子では、一緒にいて疲れて仕方が無い。

 ミケ達は喫茶店を後に、街の北外れを歩いていた。高台に位置する北外れの山道からは港町が一望できる。吹き抜ける風が涼しくて心地よかったが、ミケは不思議に思っていた。

「ねぇ……目的地は南でしょ? それなのに、どうしてこんな場所に?」

「なぁに。この辺に、世界最速を誇る究極の乗り物屋がいるらしくてな」

 世界最速だって? グレイドが喜んで飛びつきそうなフレーズだこと。ミケとカールは顔を見合わせて苦笑いしてみせる。背後から聞こえる笑い声に気付き、思わず咳払いするグレイドであった。

「わぁ……見てみて。綺麗な羽だね。何の鳥だろう?」

 足元には見たことも無い羽が落ちていた。淡いエメラルドグリーンとマリンブルーにキラキラと輝き混ざる不思議な色合いの羽は、今まで見たこともない美しい色合いであった。初めて目にする素敵な宝物にミケは心躍っていた。だが、ふと冷静になる。

「鳥の羽にしては、物凄く大きいよね……」

「こいつぁー、きっと、すげーでっかい鳥の羽に違いないぜ?」

 自分の羽と比較しながら、カールが小躍りしてみせる。

「それにしても……ホント、綺麗な色だよね」

「そうかい? そんなに誉められると嬉しいねぇー」

「へ?」

 いきなり頭上から声が聞こえてきて思わず飛び上がるミケ。次の瞬間、何者かに襟を掴まれて、派手に空中に跳ね上げられる。

「にゃー!?」

 ドサっと落ちた場所は、妙にフカフカとした暖かな感触。すぐに、そこが巨大な鳥の背であることに気付き焦るミケ。

「始めまして、子猫のお坊っちゃん?」

「にゃーっ! でっかい鳥ーーーっ!」

 これだけ大きな鳥ってコトは、フライドチキンにしたら、一体何人前になるだろうか? 恐ろしい計算をしてみせるミケ。

 だが、ミケは気付いていない。その思想は全世界の鳥一族を敵に回すこと間違い無しということに。

「あはは。そんなに驚かないでくれよ?」

 ニヤリと笑ってみせる鳥に向き合いながら、グレイドが微笑む。

「久方ぶりだな、ミック」

「何年ぶりだ? お前、中々遊びに来ないから心配していたんだぜ? たまには顔くらい見せろよ。それで、今日は何処へ運んで欲しいんだい?」

 巨大な鳥の出現に驚いたけれど、何と、この巨大な鳥はグレイドの友達らしい。

 まったく……グレイドの友達って変な人ばっかりだよね。と言いながらも、ぼくもその一人じゃん!? ううーん、類は友を呼ぶ? それはそれで嬉しくないなぁ。

「カジノタウンに運んで欲しいんだ。仲間からの応援要請が来てな。出陣ってワケだ」

「しゅ、出陣って……ちょっと、ちょっと」

 ああ。今、グレイドの心の声が聞こえたぞ……。出陣だなんて、戦う気満々じゃない。ああ、怖い、怖い。せめて自分の身だけでも自分で守らなくてはっ!

「ああ……気のせいだ。気にしなくて良い」

 気にするよっ! 何よりも、その目の輝きが真剣さを物語っているもの!

◆◆◆4◆◆◆

 自慢の楽器のチェックに余念の無いクマトリオ。今回はどうしたことか、妙に乗客が少ない。港町……しかも遊園地と来れば、人も多そうなモンなのだが? スモーキーはふと考えた。なるほどね。つまりはだ。それほどまでに、不人気ってコトだな。こりゃあ、中々に深刻な状況かも知れないなぁ。

「よぉ、兄弟。今回のは、中々に強敵かも知れないぜ?」

「ああ。予想外に人が少ない。こいつぁマジで不人気と見たぜ……」

「なぁに。ぼくらが盛り上げてあげれば良いってコトじゃない?」

「ま、世界一の色男三人で構成される、ボーカルユニットがハズすワケが無いってモンだよなぁ。はっはっはー、大船に乗った気分で行こう」

 陽気に笑い出すスモーキーにつられて、さっそく楽器を手にとって見せるハスキーとターキー。この楽器と歌声、ついでにパフォーマンスで何としても盛り上げてくるんだ。あわよくば、クマトリオの名を、さらに売り込んできてしまおう。早くも気合い十分のスモーキーは、早速作戦を巡らせるのであった。

「今回は随分と気合い入っているじゃねぇかい?」

「おお。ゼベク爺さん。当たり前さ。なんたって今回は遊園地というでっかい舞台なんだからよ。気合いも入るさ」

「港町は賑やかなところだ。名を売るには良い場所だぞ。観光船も乗り入れているからな……意外な出逢いもあるかもな」

「港町かぁ。多分だけど、酒場もあるだろうし、客引きには困らないな」

「観光船のお客もゲットしちゃえば、ますますOKだね」

「問題はだ……その遊園地とやらが、どんな状況かによるな」

 次第に列車は森を抜け、潮風の漂う環境へと移動していくのであった。

「おお、海だっ!」

「海か。果てしなく広がる海原……ううーん、いい感じだぜっ!」

 嬉しそうに微笑むと、スモーキーは陽気にギターをかき鳴らしてみせる。そうこなくっちゃ。ハスキーとターキーもスモーキーに習って楽器を構えると、陽気に演奏を始めるのであった。カモメ達が陽気な音楽に誘われて、列車の屋根に次々と舞い降りてくる。

「ひゅー。兄ちゃんたちイカすねぇー」

「オイラ達も仲間に入れてくれよぉー」

 気の良いカモメの若者達が、我も我もと集ってくる。

「カモメが相手じゃあ、乗車料金は取れねぇな……チッ」

 苦笑いしてみせるゼベク爺さんであったが、気を取り直し大海原の景色を見つめつつ、運転に戻るのであった。

 スモーキー達の歌声に逢わせるかの様に、カモメ達が盛大なコーラスを響き渡らせる。海鳥達の陽気なコーラスが街に、海に響き渡り、豪華で陽気な演奏会が繰り広げられた。ついつい乗ってしまうゼベク爺さん。運転が微妙に危なっかしいことになっているが、構うこと無く列車は港町パムへと突き進んでゆくのであった。

◆◆◆5◆◆◆

 ルルブの港町を後にしたリドルとティガのコンビは、ひたすら東を目指し突っ走っていた。今回の目的地は砂漠を越えた場所にあると聞く。砂漠なんて見たこと無い。リドルの胸は期待に高鳴っていた。

 街を抜けて、ティガにまたがり、ひたすら駆け抜けていた。次第に空気が乾燥してきた。心なしか気温が上がってきたような気がする。

「な、なんか暑いな……」

「うん。なんか、暑くなってきた気がするね」

 街を出てから数時間経つ。さすがのティガも、これだけ走り続ければ苦しいものがある。ましてや、気温が上がってくれば、ますます過酷になるというものである。暑さに弱いティガは少々、ふらふらとし始めていた。

 気が付けば、辺りは荒涼とした世界。吹き抜ける風にあおられて砂が舞い上がる。一瞬、目の前が真っ白になるくらいの激しい砂塵嵐が巻き起こった。たまらず、リドルはティガから飛び降りた。

「うわー、飛ばされるー!」

「おいっ! リドルっ!」

 微かに感じるリドルの気配を頼りにティガは力一杯飛び跳ねた。確かな感触、なんとかリドルを捕まえることはできた。だが、次の瞬間着地のタイミングを誤り、派手に転がり込んでしまった。その衝撃で、ティガはあろうことか、気を失ってしまうのであった……。

◆◆◆6◆◆◆

 砂漠は果てしなく広く、どこまで続いているのか計り知れなかった。風が吹けば砂が舞い上がる。

「……う、ううーん。ありゃ? ここは何処だ?」

「ああ。ティガ、気が付いた?」

「良かったわ。おはよう。ティガくん?」

 誰だ? この妙に馴れ馴れしいお姉さんは? 確か、オレはリドルと二人で行動していたような?

「こ、ここは!?」

 意識がハッキリしてきたところで、思わず飛び起きすばやく身構えてみせる。苦笑いするリドル。

「ちょっと、ティガ……。命の恩人に牙を向けるとは、どういうコト?」

「なに!?」

「君の悪いクセだね。何時だって早とちりする。もーちょっと状況を見てから、考える様にしないと」

「そんな悠長なコトやっていたら、相手が敵だった場合には、やられちまうってモンだぜ」

 二人のやりとりを見つめながら、女性がクスクス微笑む。

 ティガは周囲をぐるりと見渡してみた。何頭ものラクダと荷馬車。何時の間にか、空には星が瞬く。こんなにも長い間気を失っていたのか。改めて驚くティガ。

「この人達は砂漠越えのプロフェッショナル、キャラバン隊の皆さんなんだって。ほら見て、この服?」

 良く見れば、お馴染みの郵便屋さんスタイルとは違った格好。白い布で頭も口元をすっぽり隠して目の部分だけ出す。服もゆったりとした真っ白な布。まるで物語の世界に出てくる導師みたいな感じだと、ティガは思わず考えてしまった。

「ティガの分もあるんだ。砂漠越えをするにはこの服を着ていた方が良いんだって。ほら、砂も入ってこないし、白い色だから日差しも遮断するんだよ?」

 得意そうに習い立ての話を聞かせてみせるリドル。わざわざティガにあわせて、丈をあわせて貰ったのだ。

「さぁさぁ。着てみてよ」

 思い切りイヤそうな表情をしてみせるティガ。そもそも虎である自分に、服などというモノは似合う訳が無い。だが……。

「な、何をする!」

「良いから、良いから。文句言わないのー」

「きゃーっ! エッチーっ!」

 リドルは笑いを堪えるのに必死だった。似合うには似合うのだが……なんとも微妙な似合い方であった。それはもう、反則的なまでに妙な似合い方をしていた。

「ぷぷぷっ」

「わ、笑うなっ!」

「だってさー、まるで……柄の悪い盗賊の虎って感じなんだもん。ティガ、柄悪いー」

 腹を抱えてゲラゲラ笑い転げるリドルに、思わず怒りが込み上げてくるティガ。だが、ここでムキになれば、ますますからかわれるのは目に見えている。

「それにしても、何時の間に夜に……」

「砂漠の夜は冷えるのよ。さ、喉渇いたでしょ? お口に逢うかどうか判らないけど、お手製のコーヒーよ」

 キャラバン隊の女性隊員から煎れたてのコーヒーを頂くリドルであった。なんと、ティガの分は気を利かせて、温めに仕立て上げてあったのだから、実に抜け目が無い。

「おお。ちょうど良い温度だ。ありがとうな」

 ここで、もうちょいと気を利かせて、甘党のオレのために……。

「そうそう。砂糖は一杯あるから、自由に使ってね」

「なっ! こ、このお姉さん、只者じゃない……出来る奴なのか!?」

「うふふふ……」

 思わず目がキラーンとなるティガと、不敵な笑みを浮かべてみせる女性隊員を見つめながらリドルは三歩下がった。

(な、何なのこの人! 妙な火花を感じるんですけどっ!?)

 目に見えない火花を感じたリドルは、しばし硬直しつつも……そのやりとりを見つめるのであった。

◆◆◆7◆◆◆

 砂漠の夜は冷え込む。昼間の暑さがウソのような、異様なまでの寒さにリドルは焦りを隠し切れ無かった。

「砂漠って……暑いと思っていたのに、夜はこんなにも寒くなるなんて……ぶるる、寒いぃー」

 小さく震えるリドルを後目に心地良さそうな表情のティガ。ティガはフカフカの毛皮のおかげで、暑さには弱いが逆に、寒さには非常に強かったりする。もともとティガの出身地は雪深い山奥だったということもあって、殊更寒さには強い。

「砂漠に伝わる唄、聞いたことあるかしら?」

 不意に背後に人の気配を感じて、リドルは驚いて振り向いた。何時の間にか、隣にキャラバン隊の女性が佇んでいた。何やら弦楽器のような変わった形の楽器を手にしている。星空を見上げながら微笑んでみせる。

「砂漠の昼はとても暑いけれど、夜はうってかわって急に寒くなるのね。砂漠には緑がないでしょう? だからね、空気の流れが違うの。温度差の激しさもそのためなのよ?」

「へぇー、なるほどね」

「ね。皆で唄を唄いましょう?」

「えっと……ぼく達も?」

「そう。あなた達を歓迎する唄を皆で唄うの。砂漠に伝わる唄。砂漠の母なる大地を称える唄なのよ?」

 何も無い砂漠。果てしなく遠くまで、ずっとずっと同じ景色が続いているように思えた。空を見上げれば数え切れないほどの星が見える。

 不意に、弦楽器の不思議な音色が響いてきた。ギターの音色に、竪琴の独特な音色が混ざる。聞こえてくるのは、大地を称えるキャラバン隊の歌声。遠く、遠く、砂漠に染み入るような音色にリドルは聞き惚れていた。夜は更けてゆく。やがて訪れる暑い日中に備えて、リドルはそろそろ眠る準備をしようと考えるのであった。傍らでは、相棒のティガが既に静かに寝息を立てていた。

◆◆◆8◆◆◆

 見た目のゴツさとは裏腹に、中々に気の良いミックにミケはすっかりご機嫌。

「目的地はカジノタウンか。お? 多少……風がでてきたな」

 真剣な眼差しで風を読んでみせるミック。今回は背中の上にミケ達を乗せての旅だけに、下手に気流の中でも突っ切ろうものならば大変なことになってしまう。

「ミック、準備は完璧だ」

「そっちの準備は整ったか? ちょっと待ってくれ。風が出てきた……無理に突っ込むのは少々危険だ」

 ミックの背の上では、すっかり打ち解けるミケ達の姿があった。静かに目を閉じて風を読むミック。そっと空を見上げてみせるグレイド。

「よし。良いだろう。風が一端収まってきた……今のうちに抜けるぞ。しっかり掴まっていてくれよっ」

「にゃー、いよいよだね」

 ミックは大きく息を吸い込み、そして……力強く翼を広げた。陽射しに照らされてエメラルドグリーンの羽がキラリと輝く。次の瞬間、激しく大地を蹴り上げるとミックが大空に舞い上がった。その凄まじい衝撃に、思わずミケの目は真ん丸くなった。

「……び、びっくりしたぁ」

 危うくチビってしまう寸前であったミケを他所に、グレイドは眺めの良い景色を見て、満足そうに微笑んでいる。

「うわぁー、港町ルルブがあんなに小さいよ」

「遥か彼方見える煌びやかな街並み……あれが、カジノタウンだ。よし。グレイド、一気に敵陣目掛けて突っ込むぞ。しっかり掴まっていろよ」

 羽ばたきを止めてみせるミック。一瞬の静寂……だが、次の瞬間、巨体が激しく下降する。その凄まじい衝撃に飛び上がるミケ。

「にゃーっ! 怖いーーっ!」

「いやっほうっ!」

 元気良く笑ってみせるミックに、ひたすら青ざめるミケであった。

 凄まじい衝撃が伝わってくる。激しい空気の流れ。思わずミケは最期の瞬間を覚悟してしまうのであった。にゃー、短い人生だったなぁ……。

「おいっ! ミック、地表に激突するぞっ!」

 急降下し過ぎて、うっかり地表スレスレの所まで来てしまったミック。慌てて身を翻し、少々乱暴な着地。激しい衝撃で、グレイドが吹き飛ばされる。

「痛たたた……おい、ミック! なんて乱暴な着地なのだ!」

「いやぁ、済まんな。少々遊びすぎてしまったようだ。ミケ君、ケガは無かったかい? って、あれ? ミケ君? 大丈夫?」

 力無くヘタと座り込むミケは、まるで腹話術の人形みたいに口だけパクパクしている。よほど怖かったのであろう。

「ミケ、恐怖のフライトは終わったぞ。無事に目的地に着いたぞ」

「……へ? えっと……ここはどこ? ぼくは生きているの?」

「生きているに決まっているだろー」

「いてっ! ふーっ! 何するんだよっ!」

 ケラケラ笑いながらミケのヒゲを引っ張ってみせるカール。思わず飛び上がるミケ。ホント、賑やかな奴らだとグレイドが苦笑いする。

 ミケ達の目の前には、煌びやかな建物が輝くカジノタウンが広がっていた。

「ミック、世話になったな」

「なぁに。こんなこと朝飯前だ。また遊ぼうぜ?」

「ああ。元気でな」

「グレイド……Good Luck !!」

 ニヤリと笑いながらキメてみせるミックにグレイドは、そうこなくてはとばかりに敬礼してみせる。

(……やっぱり、ミックも変な奴だったなぁ。グレイドの友達だもんなぁ。それにしても、ミックも、ただでさえアブない奴を焚き付けるかなぁ……)

 ミケは今度こそ、命の危機を感じえずにはいられなかったのだ。

◆◆◆9◆◆◆

 揺れる汽車の中でクマトリオは、珍しく何やら針と糸を手にお裁縫をしていた。妙に静かだなぁと覗き込めば、真剣この上ない顔で裁縫をしているクマトリオに飛び上がるゼベク爺さんであった。

「……おいおいおいおい、どうしちまったんだよ?」

「ああ、コレかい? 何しろ今回は場所が遊園地だろう?」

「ビジュアル系ってワケじゃあねぇんだけどよー」

「盛り上げるには、衣装も重要でしょうという訳でね。自前で製作中なんだよ」

「へぇー。器用なモンだな。お前さん達は、何でも出来ちゃうんだなぁ」

 クマトリオの器用な指先に感心するゼベク爺さんであった。こりゃあ、なかなか今回は気合い入っているみたいだな。どういう展開になるか楽しみといえば、楽しみだな。

「うしっ、一丁あがりっ!」

 得意そうな笑顔を浮かべてみせるスモーキーが取り出したのは……なんと、バニーガールをイメージしたスーツであった。

「マジかよ……何だよ、その最悪なシュミは……」

 苦笑いを浮かべるハスキー。

「いやー、この網タイツがポイントなんだって」

「ねぇ、スモーキー? お笑いも度が過ぎると……アレだよ?」

「まぁ、良いから見てろって」

 自身満々に着替えてみせるスモーキー。おしりの部分にはご丁寧にも、うさぎの真っ白な尻尾をあしらってみせるあたり、なかなかに芸達者である。

「どうよ?」

「……」

 声も出ないハスキーであったが、ふと何かを思いついたターキーが、思わず飛び上がって喜んでみせた。

「スモーキー、その後姿! クッキーそっくりだよ!」

「なんだってぇ!? クッキーそっくりって……マジ?」

「イイかも知れない……」

 何故か頬を赤らめながら、ぼーっとなってしまうハスキー。

「で、でも、中身はスモーキーだよ?」

 ターキーの残酷な一言がハスキーを現実に戻した。

「そう考えると不気味だな……。ううーん、それにしても、気味悪い位に似合っているぞ」

「ホント。なんか、妙にマッチしちゃっているよね」

「おいおい。これでも一応、ダンディな二枚目俳優を気取っているんだぜ?」

「ダンディ?」

「二枚目俳優?」

「えぇー!? 誰が!?」

 二人揃って激しく突っ込みを入れるハスキーとターキー。それにしても不気味なまでに似合ってしまうスモーキー。やっぱり、生粋のお笑いキャラってコトだね。思わず納得してしまうハスキーとターキーであった。

「そんなに似合っているのか? おおっ!以外にイケてるじゃん!」

 鏡を見て一人感動するスモーキー。しかし、そこで喜んでいいのか!? 突っ込みたくなる二人。そんな三者のやり取りを遠くから、白い目で見つめるゼベク爺さんの姿があった。

「あいつら、お笑い芸人の才能もあるたぁ、ますます大した奴らだぜ。おっと、そろそろ港町が見えてくる頃だな」

 ブレーキに手を掛けながら、ゼベク爺さんが元気に声を張り上げる。

「おーい、港町パムが見えてきたぞー!」

 新天地での活動に期待弾むクマトリオ。汽車はゆっくりと速度を落としながら港町へと入っていった。

◆◆◆10◆◆◆

 風が吹けば舞い上がる砂。砂漠はどこまでも果てしなく続いている。不思議な、不思議な景色。砂と大地と、何よりも強烈な陽射し。なるべく移動は明け方から日が昇るまでの時間を選ぶのが良いそうだ。

 それにしても……半端じゃなく暑い。靴を突き抜けて、熱砂の途方も無い暑さがジリジリ伝わってくる。

「ホントに暑いね」

「……」

 ティガは声すら出ない様子であった。ただ、静かに黙々と歩いている。なにしろティガは裸足だから、直撃するような暑さとの戦いに、ひたすら苦戦していた。

「砂漠越えは何時だって大仕事なのさ」

「キャラバン隊は、そんな砂漠を渡り物資を届ける旅人達さ」

 届けるだって? どこか自分と通じる部分に共感を抱いたのか、リドルはそっと顔を上げて見せた。キャラバン隊の人々の表情は、白い布のおかげで判り辛いが、皆しっかりとした信念を貫きながら生きているに違いない。リドルは妙に嬉しくなった。

 ラクダ達は、その背に力を蓄えてゆったりと荷馬車を引く。のんびりした顔つきだけど実はとても働き者なラクダ達。ティガは尻尾の先まで力が抜けっぱなしってな顔している。

「砂漠は長い旅になるの。でも、私達の到着を待っている人たちがいてくれる。だから私達は、どんなに大変でも頑張ってしまいたいと思うの」

「ぼくも郵便屋だから、その気持ちは判るなぁ。ぼくは街から街へ手紙を届けるんだ」

「砂漠を越えれば街があるの。小さな街だけど自由市場はとても活気があるのよ。いろんな街から集まった商人たちが、各地の名産品を売りに出すのよ」

「キャラバン隊は参加しないの?」

「私達は品物を送り届けるのが役目だからね」

「あくまでも、届けるだけなの」

「砂漠は暑いけれど、とても素敵な場所だからね」

 見渡す限りの砂の平原。照り付けるような熱砂と陽射しにリドルは顔がチリチリと焼けるような感触を感じていた。

「あ、見て。オアシスだよっ!」

「ああ。あれは蜃気楼といってね。幻なんだよ」

 我先にと突っ込もうとしたティガが、慌ててブレーキを掛ける様子が見えた。

「逃げ水って言ってね。遠い場所にあるオアシスが、まるで近くにあるかのように見えてしまう幻なの。砂漠ならではの不思議な現象なのよ?」

 リドルは不思議な砂漠の光景にしばし見入っていた。見渡す限りの砂の楽園。

 サボテンという変わった外見の植物が生え、砂地に生きる健気な生き物たちが暮らす場所。太古の時代からの、どこか神秘的な雰囲気さえ感じられた。

「暑くなってきたな。日が昇ってきた。ここらで一端休憩することにしよう」

 リドル達は砂漠の一端に腰を据えるとしばしの休息を取ることにした。静かに響き渡るギターの音色は、砂に染み入るようにどこまでも響いていた。柔らかな音色に包まれながら、リドルはしばしの一時をゆったりと過ごすのであった。遥か彼方に街が見えてきたのは、翌朝のことだった……。

◆◆◆11◆◆◆

 高くそびえ立つ建物は、どれも煌びやかな外観。コイン一枚でこれだけの街を築き上げてしまった凄腕の人物との出会いに、ミケは心弾んでいた。でも、きっとグレイドの知り合いだけにマトモな奴じゃないに違いない。ミケは期待と不安の入り混じった不思議な感覚で一杯だった。

「今回、友人のシャルルからの要請でな。助っ人も兼ねて、この街を訪れたってところだ」要請? 助っ人? ああ、響きからして危険な香りがプンプンするよね。何しろ、グレイドが喜んじゃいそうな単語ばかりだもの。なるほどね。この街を目的地に選んだのはそういう裏があったんだね。

「そんなコトだと思ったんだよねぇ」

「ん? 何か言ったか?」

「にゃー。なぁーんにも言ってないよ」

 耳だけは鬼のように鋭いから困る。ボソっと呟いても聞こえちゃうんだもんねぇ。

「見えてきたな。あれがシャルルの家だ」

「へ? 家?」

 それはまるで、どこかの大聖堂の様な、とにかく無駄にでっかい家であった。上品な飾り付けというか……どこかシャレの利いた、それでいて妙に高貴な雰囲気の漂う、なんとも妖しい感じのする建物だった。

「センス良いのか悪いのか、良く判らない家だねぇ」

 カールがミケの肩の上でケラケラと笑ってみせる。

「シャルルは良い奴なのだが……少々クセのある男でな。まぁ、仲良くしてやってくれ」

「グレイドよりもクセのある人?」

「ただモンじゃーねぇな、きっと」

「そう。本当に只者では無い奴だ。何しろ、たった一枚のコインから、大平原のど真ん中にこの街を築き上げてしまうという究極のギャンブラーなのだからな」

 街を作る……ぼくの夢、グレイドの夢、カールの夢……みんなの夢。その夢を、一足お先に叶えちゃった人なんだ。きっと、ヘンだけど、すごい人に違いない。あくまでも『変』という部分を強調したがるミケであった。

◆◆◆12◆◆◆

 ミケ達は巨大なゲートをくぐりぬけ玄関先まで歩を進めた。玄関の戸に付けられた鐘を鳴らすと、なんとも上品そうな女性が現れた。

「いらっしゃいませ。失礼ですが、どちら様でしょう?」

 あくまで物腰豊かなその立ち振る舞い。マネしてみせるカールに思わず失笑してしまうミケ。

「どちら様でしょう? だぁってよっ!」

「こらっ! カール!」

「まぁ。可愛らしいお坊ちゃま、ようこそ」

 にっこり微笑みかけられて、ミケとカールは思わず倒れてしまった。

(なななな、なんて美しい笑顔なんでしょーっ!)

 阿呆なコンビに苦笑いを浮かべるグレイドであった。

「ルルブ港よりグレイドと、そのお供が来たとお伝え願う」

「お、お供だってぇ!?」

 ニヤリとVサインを送ってみせるグレイド。にゃー、こんにゃろー。後で見ていろってんだ。

「んん?」

 不意にゴージャスなオーケストラの楽団の奏でる荘厳な音楽が辺りに響き渡った。その美しい音色、超一流の楽団の本格マジな音楽だった。

「やれやれ、相変わらず派手好きな奴だ……」

 突然現れた召使い達が真っ赤な絨毯を敷き詰めれば、その上を颯爽と歩んでくる貴公子……もとい、どこか腰の低い感じのする気弱なお兄さんが目に入った。大きな眼鏡に質素な服装。まるで、どこかの山奥の学者さんみたいな感じ。

「えっと……あの人がシャルルさん?」

「そうだ。見た目に騙されるな。一見すると弱そうな感じだが、そこがギャンブラーの恐ろしさなのさ」

「ふーん」

「やぁ。グレイド来てくれたんだね」

「怪盗ブルー・ウォルフとの対決なぞ、そうそうチャンスがあるものではないからな」

 ミケは思わず、自分の耳を疑ってしまった。怪盗ブルー・ウォルフだって!? その名を知らぬ者はいないとされる、世界一の大怪盗と詠われるほどの凄腕の盗賊。とにかく派手好きで、豪快に、そして美しく! 盗みを行うらしい。最近では……某国の伝説の宝、一振りで嵐をも巻き起こす『ストームブリンガー』を盗みその戦闘能力は、さらに無敵のモノと化しているらしい。

「まさか、その相手って……」

「そう。ストームブリンガーを持つ最強の怪盗ブルー・ウォルフだ。シャルルの家宝……美しき名画『クジラのヘソ』を盗み出そうとする不届きな輩だ」

 クジラのヘソ? なんじゃそりゃ……はじめて聞いたよ。いやいや、タイトルからして胡散臭いし……。やっぱり、この人ってヘンな人? それとも……実はすごい人?

「いずれにせよ、今回の仕事はシャルルの家宝を守るという内容だ。すまないが手伝ってくれるか?」

 ええ、お手伝いしますとも。何しろ、このままグレイドを暴走させておいたら、カジノタウンが崩壊するだけでは済まないような、途方も無い危険性を感じてしまうのだから。何よりも、その目の輝き! それこそ、国際的テロ組織と呼ばれてもおかしくない。

「ありがとう、グレイド。このお礼は……ん?」

「ほう? 星が現れたようだな……」

 不意に空を覆い尽くす黒い雲。高らかな笑い声が響き渡った。

「はーっはっはっはっは!」

「屋根の上だぜっ!」

 カールが語気鋭く叫んだ。慌てて振り返れば、尖塔の上にマントを翻す一人の男の姿が映った。えぇー。その格好はいくらなんでも時代錯誤甚だしって感じでしょ。あまりのコテコテさに、思わずシラけるミケであった。

「お宝を奪いに参上したぜっ! とうっ!」

 まるでバンパイアのようにマントを翻しながら、ブルー・ウォルフが大空高く舞い上がった。だが次の瞬間、けたたましい音と共に地面に突き刺さった。

「……は、はいぃ?」

 その場に居合わせた全員の目が点になってしまった。それはあまりにもお約束過ぎて、逆に、誰にも予測のつかない事態であった。

「あたたたたた……よ、予想外に高かったか?」

 つーか、無傷のアンタって一体何者なの!? ミケは、あまりにもタフすぎる怪盗に恐怖を覚えていた。

「……ああ、またしても奇人変人の登場かぁ」

◆◆◆13◆◆◆

 港町パムはとにかく賑やかな街だった。まるで一年中お祭り騒ぎをやっているかの様な勢いだ。

「こいつぁ活気があるなぁ」

「お、客船が到着したようだぜ?」

「ますます賑やかになりそうだね」

 場の雰囲気に呑まれるかのように、一緒になってワクワクしてしまうクマトリオであった。至る所から陽気なリズムが響き渡り、ブドウ酒の香りと、賑やかな声が聞こえてきた。

「悪くないな。こういう街も」

 洒落た傘をさした貴婦人が通り過ぎたかと思えば、賑やかな子供達が隣を駆け抜けて行く。通り過ぎて見ているだけで飽き無そうな光景である。スモーキーが嬉しそうに微笑む。

「良い場所じゃないか?」

「ああ。とびきりの場所だぜ」

「それなのに、なんで儲からないんだろうねぇ?」

「そこだよな。それが疑問なのさ」

「なぁに。オレ達みたいな盛り上げ屋がいねぇんだろうよ」

 船の汽笛が聞こえてきた。派手な造りの船はおそらく観光用に作られた遊覧客船と言ったところであろう。だが、度派手な飾り付けもどうやらホンモノを使っているようだ。こいつぁ本格的だぜ。満足そうに頷いてみせるスモーキー。

「おっと」

 不意に誰かにぶつかったスモーキーが驚く。

「いや、すまない。よそみしていたよ」

「ああ、こちらこそ……」

 赤と白のシマシマ模様の帽子。まるでジョーカーだ。どこかコミカルなその格好は、ピエロそのものだった。

(ははぁ? 察するに……このお方は、尋ね人のようだな?)

 ハスキーがニヤリと笑いながら腕まくりしてみせる。

「よぉ、オレ達はルルブから来たんだ」

「はぁ……ルルブの港町からですか?」

 相変わらず気の弱そうな返事のピエロ。

「遊園地を盛り上げに来たんだけどなー?」

 にやにやしてみせるターキー。

「な、何と! お、お待ちしておりましたっ!」

 不意に笑顔が戻るピエロに苦笑いのスモーキーであった。だが、気の良さそうなピエロの話を聞くのも悪くない。

「立ち話もナンだな。冷たいモンでもやりながら話そうじゃないか?」

 冷たいモン……スモーキーの表現に眉をひそめるハスキーとターキーであった。

「この野郎、昼間から一杯やる気だぜ?」

「勝利の前の契機付けってところかな?」

「やれやれ。相変わらず困った野郎だぜ」

「ま、文句言わないで頑張ろうよ」

「そうだな。奴に何かを言っても無駄だからな」

 一行は、そのまま近場の酒場へと迷うことなく直行してしまうのであった。

◆◆◆14◆◆◆

「まっ、ここは大船に乗った気分でオレ達に任せとけって」

 早くも出来上がってしまったスモーキーは、調子に乗って立て続けに地酒やら、ワインやら、それは、それは豪快な勢いで呑みまくった。

「まったく……このバカたれ。救いようがねぇな……」

 ブツブツと文句を言い出すハスキー。そういう彼も結構呑んでいたりする。呑んで愚痴を口にし始めるあたり、オヤジが入ってきている。

「いずれにしても、盛り上がりには欠けるのでしょう?」

 中々手厳しい切り込み方をしてみせるターキー。笑顔とは裏腹に手厳しい言葉。ちゃっかり彼も結構呑んでいる。

「そうなんですよね。ワザに自信が無いワケじゃないんですけど、今ひとつ盛り上がりに欠けるのは事実でして、それは否めない部分なんですよね」

「敷地面積がそこまで広いワケじゃない。アトラクションで惹きつけるのは難しいな」

「遊園地と言えば、パレードなんかやるんだろ?」

 ハスキーが切り出せば、なるほどねと微笑むスモーキー。

「それだ。それで盛り上げればいい。ど派手な催し物は、それだけでも人の心を惹きつけるさ。ましてや、この街の連中は年中お祭り騒ぎの陽気な奴らだろ? なおさらイケるさ。オレの想像だが、この街の連中を惹きつけるには、ど派手なイベントで、騒ぎまくってればイヤでも来てくれるさ」

「ま、オレ達でお手本を見せてやろうぜ?」

「そうだね。こうやれば上手く行くんだよってね?」

「それは良い考えだ」

 三人は微妙にふらつく足取りで立ち上がると、颯爽と楽器を手にして見せた。

「なんと……」

 思わず驚くピエロ。

「これは面白そうだ。みんなーっ!」

 赤いピエロが声を掛けると、どこから飛び出したのか遊園地の従業員軍団が総出で酒場に駆け込んできた。

「な、なんだぁ!?」

「ぼくら、遊園地の仕掛け人軍団です」

「なるほどね。それじゃあ、始めようか?」

 スモーキーは足で軽快なリズムを取り始めた。不意に酒場の客たちが反応する。ど派手なリズム、豪快なサウンドに逢わせてピエロたちは自慢の曲芸を披露してみせる。空中を舞い上がり、ワイングラスでお手玉。口から炎を噴出して見せれば酒場は熱狂に包まれた。派手なパフォーマンスに後から後から人が押し寄せてくる。

 これは上手く行きそうだな。ニヤリと笑ってみせるスモーキーであった。こうしてクマトリオによる、遊園地改造計画はスタートした。

◆◆◆15◆◆◆

 リドルとティガは活気に溢れる自由市場を散策していた。広い街並みには、所狭しに商人達が軒を連ねていた。色とりどりの装飾品に、見たこともないような変わった色合いのツボ。その全てがリドルに取って珍しいものであった。

「すごいや。見るもの全てが珍しいよ」

「相変わらず強烈な暑さだ……」

 興奮冷めやらぬ表情のリドルとは対照的に、暑さに弱いティガはけだるそうな表情を見せる。

 リドルに取って、目にするものすべてが珍しかった。暑さなど感じることすらなく、目を輝かせながら歩き回るのであった。もっとも、相棒のティガはヘロヘロであったが。

 不意にリドルは何かにぶつかるような感触がした。

「うわっ」

「きゃっ」

「ああ、大丈夫? ごめんね。ぼく、よそ見していて……」

 リドルにぶつかった拍子に転んでしまったらしい。少女はカゴに慌てて荷物を拾い集め始めた。

「ぼ、ぼくも手伝うよ」

「ああ、ご、ごめんなさい。あたし、ふらふらしていて……」

「謝るのはこっちだよ。よそ見して歩いていたんだもの」

 緑色の透き通る瞳をした、不思議な少女はそっと立ち上がると微笑んで見せた。

「君、見かけない子ね。どこか別の街から来たの?」

「そうだよ。いろんな場所を旅しているんだ」

「旅かぁ……。良いなぁ。あたし、生まれつき体が弱くてね。ほら、見て? あそこがあたしの家なのよ。素敵な木が見えるでしょう?」

 少女が自慢気に指差す先には、白いレンガ造りの家が見えた。豪華という訳ではないけれど、大きな木が見えるのが印象的だ。でも、なんだか妙な木だ。葉が数枚しか残っていない。

「あの木の葉がみんな落ちてしまったとき、あたしも一緒に死んじゃうんだって……」

「はぁ!?」

 少女の発言に思わず眉をひそめるティガ。おいおい。こいつぁ妙な話になってきたぞ? それに、何だ、その胡散臭すぎる話。そんな話、信用できるものか。

「そんなこと、ある訳ないじゃない?」

 リドルの発言に「その通りだ」と頷くティガ。

「でも、占い師様にそう言われたの。あたし、怖くて、怖くて仕方ないの。だって……」

「そんな迷信、信じちゃダメだよ。ぼくが何とかしてあげるっ」

「そうそう、それでいい……って、えぇ!? イヤイヤ、良くないっ!」

 ティがは思わず飛び上がった。勢いに任せて、妙な話に乗るのは、如何なものかと思うぞ。「困っている人を放ってはおけないよ。その、占い師に逢いにいってみようよ」

 まったく……勝手に妙な話に乗っているし、困った奴だ。だが、一度言い出したら引かないからな。ここは無理に逆らうのではなく、せめて道を踏み外さないように誘導せねば。

「きっと、ぼく達が解決策を見つけてあげるね」

「あ、ありがとう」

「それじゃあ、待っていてね」

 こうしてリドル達は、街外れに住むという謎の占い師のもとを訪れることとなったのだった。

◆◆◆16◆◆◆

 占い師のテントはすぐに見つかった。その恐ろしく妖しい外観。数々の原色でコーディネートされた、目が痛くなるような色合いとセンスの悪さはピカイチだった。

「……間違いなく、ここだね」

「ああ。『占い師の館』だなんて、フザけた看板掲げていやがるな」

「胡散臭いなぁ。ま、とりあえず行ってみよう」

 あまり気は進まないが少女を助けるためだ。リドルとティガは、あからさまに胡散臭いテントに入っていった。

 静かに風が吹けば看板を吊るす鎖がちぎれて、看板が宙吊りになった……。思わず硬直するリドルとティがであった。

(色々とアウトな気がするのだけど……)

「ようこそ、占いの館へ」

 キラキラと輝く不思議な衣装をまとった占い師。どこか高貴な雰囲気も漂うクジャクの占い師。その妖しい外見からは、男なのか女なのかも判別は難しかったが、多分女性なのであろうとリドルは思った。

「よくぞ参られたな。して……悩み事はなんじゃ?」

「占い師さん。あなたは、ある女の子に『木の葉が全て散った時、命も尽きる』……こんな占いを伝えた覚えありませんか?」

 まるで刑事ドラマの事情聴取状態だな。それも三流のヘボ警部のやらかしそうなノリだし。思わず傍らで失笑してしまうティガであった。

「いかにも……斯様な占いをした覚えはある」

「やっぱり! どうして、そんなデタラメで女の子を困らせるの!? そんなこと、あるわけないじゃない!?」

 そうだ。良いぞ、リドル。此処は思い切り、ガツンと言ってやれ。ティガは何時に無く強気なリドルに、すっかり満足そうな表情であった。

「デタラメではない……わらわには見えるのじゃ。あの木に掛けられた忌まわしき呪いの力がな? 少年よ。そなた……何も疑問に思わぬか? 砂漠の真ん中にそびえる、この街に、あの様な巨大な木があることに?」

「え?」

 い、言われてみれば……確かに奇異な話だなぁ。うむむむ、これは予想外の展開になってきやがったぜ?

「木の呪う声が聞こえるのじゃ。暑い砂漠によくも自分を連れてきたなと。森に帰らせてくれとな?」

 うぉお! や、ヤバイぞ! 何という説得力だ! し、しかし……あながちデタラメに聞こえないのが怖いな……。

「そうか。それで、木は自分自身の葉が全て散るとき……つまり、自分自身が枯れる時にあの子も一緒に道連れにしようとしているのか。でも、そんなことさせない!」

「勇敢な少年よ。お前に本当に勇気があるならば……道は切り開かれようぞ? わらわには見えるのじゃ。遠き、風の吹き荒れる谷の彼方に咲き誇る一輪の花。淡い色をした花……希望を呼ぶと言われているフロルの花。疲れ果てた、あの木にフロルの花を見せてやれば、木の怒りは収まるであろう。その谷は……ふむ、ここより南に向かったところにある、ドラゴンズバレーを指しているのだろう」

「そうか。判ったよ。占い師さん、どうもありがとうっ!」

 あちゃー、最悪の展開だ……。リドルのことだ。こうなるとは予想していたが、ここまで模範解答な返事をしてくれるとは……。

「行くよ、ティガ! 時間が限られているんだ!」

「おいおい、マジかよ?」

「ぐずぐずしないでっ!」

 あーあ。最悪の展開だぜ……。仕方が無い。リドルは一度言い出したら、聞き分けがないからな。ちょいと予想と違う展開になっちまったけど、まぁ、いっか。いつも通り、予定通りの展開だ。

◆◆◆17◆◆◆

「今日こそお宝を頂戴するぞ!」

 何という生命力。高い所から転落したにも関わらず、傷一つ負うことなくピンピンしている。ミケは驚愕の表情を浮かべながらブルーウォルフを見つめた。

「残念だけど、お宝は渡せないよ。今日はぼくの友達が援護に来てくれているんだ。いくら、ストームブリンガーが強力とはいえ、こっちには……」

 朗々と説明してみせるシャルルを他所にグレイドは、何時の間に準備したのか、巨大なバズーカをその手に携えていた。ミケは思わず飛び上がってしまった。

「このバズーカの前に敵はいない」

「ほぉ? 助っ人ねぇ。それでは、こちらも援軍を呼ぶとするか……」

「なに?」

「出番だぜ。お譲ちゃん達!」

 不意に空から降ってきた五つの光球。赤、橙、黄、緑、青の五つの光は地面に降り立つと、眩いばかりの光を発した。

「うわっ、まぶしい!」

 次の瞬間、光の中から五人の少女が現れた。これまた、どこかのパクリみたいな時代錯誤な五人組。間違っても某アイドルグループには勝てそうもないが……。

「お待たせしましたわ、ブルーウォルフ様! まぁ、こいつらが悪者ですのね? 見るからに悪党顔ですわ!」

 あ、悪党顔って……グレイドはともかく、ぼくは違うでしょ!

「シャルル。一つだけ聞く。こいつらは悪党……その認識で合っているか?」

「ああ、そうさ。ぼくの家宝を狙う悪党さ」

「なるほど。悪党相手ならば、命の安全を保障する必要は無い。そうだな?」

「もちろんだよ。家宝さえ守れれば、彼らのことは好きにしてくれちゃって構わないよ」

 度胸が据わっているのか、それとも何も考えていないのか、シレっと恐ろしい発言を口にしてみせるシャルルに、ミケは思い切り耳を疑った。

「オレ達に喧嘩を売ったことを後悔するが良い。フンっ!」

「マジですかぁ!?」

 目の前でポーズを決めようとしている女の子五人衆とブルーウォルフ目掛けて、グレイドは元気良く、しかも一切のためらいもなくバズーカをぶっぱなした。

 一瞬、目の前が真っ白になるような凄まじい閃光に包まれた。次の瞬間、けたたましい轟音を立てて大爆発が起きた。

「ぬおおおおぉぉぉぉ!?」

「きゃーーーーーーっ!」

「ああ。凄いよ! グレイド! これだよ……この刺激がたまらないっ! ああ、ずっと待っていたんだよっ!」

 や、やっぱり、この人もグレイドと同種だったか。それにしても恐ろしい破壊力だね。一瞬で、庭の一角が消失しちゃったんですけど……。

◆◆◆18◆◆◆

 要は盛り上がりに欠けるワケだろう? だったら盛り上げてやればいいんじゃないか。うんうん。実に簡単なことではないか。

 何時になく自信に満ちた笑みを浮かべるスモーキー、不安を隠しきれないハスキーとターキーであった。

「まったく。あの根拠のない自信は、どこから来るのだろうな?」

「そこがスモーキーの良いところじゃない」

「同時に悪いところでもあるけどな……」

「それでだ。まずはお手並み拝見ってコトで普段どおりのイベントにオレ達も参加してみることにしよう」

「ほぉ? スモーキーにしては、珍しく妥当な発想だ」

「だろぉ? オレもそう思うんだけどさ……って、なんだと!?」

「まぁまぁ。それで……ぼくらは何をすれば良いのかな?」

 ターキーの問い掛けに「その質問を待っていました」とばかりの反応をしてみせるピエロ達。妙に愛想良く笑ってみせる。

「各地に設置してあるアトラクション自体は、そうそう簡単に動かせるものじゃないですからね。ここはアイデア勝負ということで、玉乗りや曲芸などでお客の興味を引こうとはしているのですが、なかなかどうして……」

 なるほどね。古典的な手法なワケだ。だが、それでは派手さには欠ける。パフォーマンスでは大勢を引き付けるには弱い。良し。今回はここにオレ達の歌を加えてみるか。

「それでは、さっそく準備に取り掛かろう」

「ええ。お願いします」

 玉乗りでの曲芸、玉や小道具を使ってのジャグリングでは確かに少数の客は掴めても、大勢をかき集めるのは難しい。もっとインパクトのあるものじゃないとダメだな。まぁ、まずはお手並み拝見ってところだ。

「ハスキー。ターキー。聞いてのとおりの状況だ。これではインパクトに欠ける。まずは、オレ達の歌で盛り上げて見るとしよう」

「なるほどね。それは名案だな」

「いきなり大幅な改造は難しいものね」

「そういうことだ。小さいところから、少しずつ、だな」

◆◆◆19◆◆◆

 大急ぎではあったが、実に手際よく動き回ったクマトリオ。その見事な動きに目を真ん丸くするピエロ達。広場に特設会場を容易く作り上げてしまう辺りからして、素人仕事では無いのは容易に伺えるというものである。今度はコミカルな衣装に着替えると、颯爽と街へ駆け出していくクマトリオ。そのあまりにも軽やかな動きに、ピエロ達はただただ呆然とするばかりであった。

「よぉし。今日もしまっていくぜー」

「ガンガン、お客を呼び込んでやろうぜー」

「ついでに、ぼくらの唄もアピールっと」

 外見からは想像もつかない程に軽やかな動きを見せるクマトリオ。街へ出ると自慢のパフォーマンスで、しっかりアピールして見せた。

「はぁーい。そこのお嬢さん、良かったらオレ達のライブを聞きに来ないかい? 安くしておくよ?」

 にっこり微笑みながらウィンクまでしてみせるスモーキーに、声を掛けられた娘が照れくさそうに笑ってみせる。まんざらでも無さそうな反応に、思わず胸を張ってしまうスモーキー。勢い余って見事に足を踏み外す。

「遊びにおいでよー、ぐぉっ!?」

「あーあー。台無しだねぇ、色男さんよぉ」

「なぁに。水も滴る良い男って言うだろぉ?」

「スモーキーの場合、なんか違うと思うけど……」

「細かいことは良いんだよ」

 陽気な三人組に、これまた陽気な港町の人々はすっかり興味津々。若い海の男達は陽気なクマトリオに声を掛ける。

「よぉ。兄ちゃん達、見ない顔だな」

「おうっ、兄弟。オレ達は山の上、牧場から来たんだ。いうなればカウボーイって奴だ。仲良くしてくれよな」

「おう。こちらこそよろしくな」

「兄ちゃん達ノリがいいなぁ。ライブ、オレ達も遊びに行くぜ」

「おうおう。サンキュ、サンキュ。是非とも遊びに来てくれよ」

 スモーキーの陽気な喋りと、個性的なキャラクターが次々人をかき集めていく。こういうことに関して、スモーキーは恐ろしく力を発揮する。喋りは彼の最強の特技でもある。

「相変わらず、恐れ入る見事な喋りだな」

「ホント。こういう場面では頼もしい限りだね」

 何時の間にか三人の周囲には人だかりができていた。中には、ますます陽気なバーテンまでいて、朝から酒を勧めて見せたりする。これには流石に焦りまくりのハスキー。

「おいおい、スモーキー。大丈夫だろうな?」

「大丈夫、大丈夫。こんなの呑んだうちに入らないって。はーい、それじゃあ、みなさーん、遊園地で待っていますので、是非とも来てくださいね」

「おーうっ!」

「これで人集めは万全だな。良し。急いで戻ってオレ達もスタンバイだ」

「がってんだぜっ」

「ここからが見せ場だからね」

 拍手喝采の街の人々に、精一杯の愛想を振るいながらも大急ぎで現地へと駆け戻るクマトリオなのでありました。

◆◆◆20◆◆◆

 現地では相変わらずの、マイペースで手際の悪いピエロ軍団。見かねたスモーキーは、黙っていられないのか、息を切らしながらもスマイルを称えて大接近。

「よぉ。どんな感じかな?」

「はい、順調です」

 順調そうに見えねーからスモーキーの奴が声掛けているんだろ? ボソっと囁いてみせるハスキーに苦笑いしてみせるターキー。

「オレ達がライブやるから、アンタ達はステージで一緒に盛り上げてくれ」

「へ? あ、アドリブで、ですか!?」

「なぁに。何時もやっているようにやってくれればいい。失敗したらその時はその時だ。笑いのネタにしちまえばいい。なぁに、オレ達が上手くフォローしてやるから安心しなって。なぁ?」

「へっ、大船に乗った気分で良いぜ?」

「頑張って盛り上げようね。さて。ぼく達も準備しないとね」

「ターキーの言うとおりだ。急がないと客が来ちまうからな」

「そうだな。よし、各自作業に掛かろう」

 何時しか日は昇り、街にも活気が出始めてきた。陽気なクマトリオの噂は、瞬く間に新しいもの好きな街の人々の間を駆け巡っていった。街角でコーヒーを片手に満足そうに頷くはゼベク爺さん。

「あいつら、どんどんデカい奴らになっていくじゃねぇか。こいつぁ、面白いことになってきやがったぜ。さぁって。オレも行くぜ」

◆◆◆21◆◆◆

 そして、訪れた開園の時間……。

「……こ、これは一体!?」

「す、凄い人だぞ……。長蛇の列が出来ている……」

 その光景に、ただただ目を真ん丸くするのはピエロ達だけではなかった。受付の係員達もまた、こんなにも人が集まった光景を見たのは初めてだった。

「あのクマさん達、実は凄い人達なのでは!?」

「まだ時間に開園まで時間はあるが、この行列では支え切れそうにないな。さて、どうしたものか?」

 考え込む係員達の下に、一人のピエロが駆け込んでくる。息を切らしながら、焦った表情で声を張り上げる。

「おーい! 開門をしろとの指示だ。みんな、頑張るぞ!」

◆◆◆22◆◆◆

「おうおう。イヤに賑やかじゃねぇかよ?」

「ま、オレ達の人気も、どんどん上がっているってワケだ」

「嬉しいものだよね。どんどん、みんなに知って貰えるのも」

「さぁって、今日は陽気なバックダンサーも一緒だ。気合い入れていくぜ」

 スモーキーが手を差し出せば、その上に手を重ねてみせるハスキーとターキー。三人の心を一つにして、気合いを込めた。

「お待たせしましたーっ!」

 ステージに出れば、待ち詫びた客たちが所狭しに集まっていた。一瞬、度肝を抜かれそうになるピエロ達。だが、ステージの幕は開かれたのだ。退くことは出来ない。後は突き進むだけだ。

 スモーキーが大きく息を吸い込み、自慢のギターに手を掛けた。第一ステージの火蓋は切って落とされたのだった。

◆◆◆23◆◆◆

「とは言ったものの、どうやって探そう?」

 ドラゴンズバレーなる場所に、フロルの花という花があるという情報は掴めた。でも、一体……どんな花で、どの辺に咲いているのかさえ定かでは無かった。さてさて……。

「ねぇ、ティガ……」

「フロルの花ってどんな見た目でー、どの辺に咲いているのか知っているー? だろ?」

「わぁお、ご名答。良く判ったね!」

 伊達に、ずっと一緒に育ってきたわけじゃないぜ……。まったく。相変わらず無鉄砲、無計画、無神経な上に、出たところ勝負で望む、その癖。まるで改善される余地は無さそうだな。

「……残念だが、どんな花なのかなど知るはずもない」

「そうだよね。ぼくも初めて耳にした名前だったもの」

 ドラゴンズバレー。その名の通り竜族が住む谷。竜族は同じ種族内でも、その外見は様々であったりする。空を飛ぶのが得意な奴らもいれば、水中を高速で駆け巡るのに長けている奴らもいる。共通しているのは、その圧倒的な腕力にある。なにしろ巨岩でお手玉を出来てしまうというのだから、実に恐ろしい腕力を持っているのである。

「さて、どうしたものか……」

 腕組みして考え込むリドルの服の裾を、何者かが引っ張った。

「ちょっと、ティガ? いたずらしないでよ……って、あれ?」

「あのなー。お前の前を歩いていて、どうしていたずらができる?」

「じゃあ、だぁれ?」

 恐る恐る振り返ってみれば、巨体のドラゴンが佇んでいた。

「見掛けない顔だね。どこから来たんだい?」

「ああ。ちょうど良かった」

「んん?」

 質問に答えるよりも先に、妙に目をキラキラさせながら問い掛けてくるリドルに戸惑いを隠せないドラゴン。それにしても……その外見、誰かに似ていると思ったらグレイドと良く似ているではないか?

「グレイドさんに良く似たドラゴンさん。ぼく達、花を探しているんだけどね?」

「ほぅ。グレイドの友達かい? じゃあ、オレとも友達だな。小さなお友達よ、花を探しているのかい? なんて花を探しているのかな?」

 人の良さそうなドラゴンの青年は、話し好きなのか物怖じすることなくリドルの隣に立ってみせる。

「フロルの花っていう花なんだけどね、知っている?」

「ああ。フロルの花か。知っているとも。あの花は高台にしか咲かないんだ。そうだねぇ、ちょうど……あの崖の上あたりかな?」

 指差す先には、切り立った崖が目に入った。苦笑いしてみせるティガ。

(おいおい、まさか……あそこまで乗せて行ってくれなんてシャレにならないようなこと言わないだろうな……)

「さすがに、上っていくのは大変だよね。でも、ラッキーだったね。オレが運んであげるよ」

 その背にある、雄大なる翼を見せ付けてみせるドラゴンの青年。

「これでも空を飛ぶのは得意なんでね」

 随分と体格が良いのに、空を飛ぶのが得意だなんてなんだか妙な種族だよなぁ。苦笑いしてみせるティガ。

「虎君、君も一緒に来るかい?」

「へ? お、オレ!? だって……オレ、重たいぜ?」

 おいおいおいおい、なんか恐ろしいこと言い出しちゃったぜ……。やめてくれよ、オレは高いところは苦手なんだよ!

「まぁまぁ、遠慮しなさんなって」

「遠慮なんかしてねーーーっ!」

「ははは。そんな喜んじゃって。じゃ、行くよっ!」

 ティガも抱きかかえると、その外見からは想像も着かないような凄まじいスピードで大地を蹴り上げ、大空高く舞い上がる……というか、超強烈な大ジャンプって感じ。高く、高く、舞い上がるとグライダーのように滑空してみせる。

「はいっ。到着したよ?」

「し、死ぬかと思ったぜ……」

「凄いや。もう到着しちゃった。あ。あの花が、もしかして……フロルの花?」

「お。幸運なことに、ちょうど咲いていたね」

 小さな花。薄桃色のベルみたいな形の花を咲かせている。こんな小さな花に、一体どんな力があるというのだろう? 不思議に思うリドルであったが、その香り、その輝き、なんとも涼しい気持ちにさせてくれるものがあった。

「不思議な花だね。なんだか涼しい気分になるね」

「ああ。素手で触っちゃ危ないよっ!」

「え?」

「涼しい気持ちじゃなくて、フロルの花は氷よりも遥かに冷たいんだ。うかつに素手で触ったら、手がカチンカチンに凍っちゃうよ。見た目よりも、ずっと怖い花なんだ。気を付けて採らないとね。そこら辺から枝を見つけてきて、そっと採るんだ。いいね?」

「しゃらくせぇな……オレが採ってきてやるよ」

「ああ、ティガ、ダメだってば!」

 リドルの声も聞こえないのか、大地深く爪を突き刺すと、そのまま大地ごと抉り取ってみせるティガ。

「なるほどね。虎君、中々に頭良いね」

「フン。そうでもないぜ?」

 謙遜しているつもりなのだろうが、これみよがしにヒゲを爪で伸ばしてみせたりして自信満々ってな顔している姿に、思わず失笑するリドル。

「良かったね。これで、手に入ったね。そうそう、その花をどこへ持っていくの?」

「ここから北にいったところにある、オアシスの街まで持っていくんだ」

「うんうん。なるほどね。それならば、すぐに到着できそうだね」

「お、オレは自分で帰れるから……」

「遠慮しなくても良いって言っているのになぁ。それじゃあしっかり花を持っていてね。いくよーっ?」

「いやぁああああ!」

「ひゃっほーう」

 リドルとティガを抱えたまま、ドラゴンの青年は力一杯大地を蹴り上げるのであった。大空高く舞い上がる頃……眼下では、蹴り上げられた崖が崩れ落ちるのが見えた。恐るべしは竜族の尋常ではない腕力であった。

◆◆◆24◆◆◆

 もうもうと立ち込める白煙の中から、血相を変えたブルーウォルフが現れる。

「なななな、なんて非常識な奴なんだっ!」

「残念だが、正義は勝つと決まっているのでね?」

 グレイド、それは絶対意味が違うと思うんだけど……。

「よくもやってくれちゃったわねっ!?」

「もう、許さないんだからねっ!」

 キーキー怒りの声を発してみせるパラディン5に対して、なおも冷酷な表情でバズーカを向けてみせるグレイド。

「もう一激、叩き込んでくれようか?」

「冗談じゃないわっ! こぉの、爆薬男めっ、容赦しなくってよっ!」

 パラディン5の少女達が横一列に並んでみせる。ポーズを決めた瞬間、凄まじい閃光が辺りを包み込んだ。次の瞬間、空から七色に輝く巨大ツララが降り注いだ。

「ひっ!?」

「にゃあ!?」

 間一髪身を翻して逃げ切ったミケとカール。こいつら、どちらも危険な奴らであることには何ら変わりは無い。こんな危険な人達を野放しにしておいたら本当に、街がひとつ壊滅してしまうかも知れないっ!? なんとしても止めなくては……。グレイドは、この際放っておいて……。

「カール、行くよ! このままじゃ、街が崩壊しちゃうよっ!」

「けーっ! グレイドの野郎、オイラを焼き鳥にする気かよっ!」

「彼だったらやり兼ねないでしょう? だからこそ!」

「あのアホ共を阻止しなくっちゃな。行くぜ、ミケっ!」

 もはや、どちらが正義の味方なのか判ったものでは無くなっていたが、とにかく、自分の身を守らねば。ミケは必死で駆け回るのであった。

「あーっはっは、いい気味ですわ……って、えぇ!?」

「おいおい。随分と物騒なワザを使ってくれるじゃないか?」

 不適な笑みを浮かべてみせるグレイド。

「こ、こういう場合は……どうするのよっ!?」

「えっと、えっと……と、取り敢えず逃げるわよっ!」

 何か危険なスイッチが入ってしまったのか、目が据わっているグレイドは何時も以上に怖かった。何しろストッパーが居ない上に、セキュリティシステムも完全崩壊済み。後は元気良く爆走するだけって感じな、グレイドであった。

「屋根の上を伝って逃げるのよっ!」

 勢い良くジャンプすると、シャルルの屋敷の屋根に舞い上がってみせる五人衆。だが、グレイドも空は飛べるのだ。屋根の上に舞い上がると、逃げ惑う少女たち目掛けて再びバズーカをぶっ放す。

「って、えぇーっ!?」

『ドドーン!』凄まじい轟音と共に、シャルル邸の屋根から勢い良く火の手があがった。

「ちょ、ちょっと! あたしたちを殺す気!?」

「四の五の言わずに神妙にお縄を頂戴しろ」

「お縄を頂戴するまえに、消し炭になっちゃうわよっ!」

「やれやれ。物分りの悪いお嬢さん達だな……穏便に片付けたいと考えていたのだがな」

 再びバズーカに手を掛けてみせるグレイド。何時の間にか、物好きなシャルルも屋根の上まで追い付いてきた。

「そこまでだぜ!」

「……ブルーウォルフよ、素直に捕まれ。そうすれば、生命の安全は保障してくれる」

 だがブルーウォルフは高らかに笑いあげてみせる。

「オレ様には、このストームブリンガーがあるっ!」

「ぐ、グレイド! あの剣はまずいよっ!」

 シャルルが叫ぶ。だが、ブルーウォルフは力一杯剣を振りかざすと、そのまま空を切り裂いて見せた。一瞬の静寂。だが、次の瞬間、凄まじい疾風が当たりを包み込んだ。

「きゃー! 飛ばされるー!」

 その凄まじい風圧で、屋根の板が剥がれて、建物は大きな打撃を受けた。煙突が吹き飛び、家の一角さえも粉々にするほどの、凄まじい破壊力に皆が驚愕する。

「素晴らしい! 実に素晴らしい力だ!」

「確かに凄まじい力だ。ふむ……。研究材料に是非とも欲しいところだな……」

「ぐ、グレイド? あ、あの……なんか、本来の目的を……」

「本来の目的? 盗賊討伐という大義名分のもとに、我が新兵器の数々を用いての生体実験を行うという内容だったと認識しているが?」

「え? そ、そうだったっけ……」

 ここにきて、ようやく素面に戻ったのか。背筋が寒くなるシャルルであった。

 いくらなんでも、自慢の街を木っ端微塵にされてはかなわない。なにしろ強烈な火薬兵器の使い手と、絶大な力を秘めたストームブリンガーの使い手とが、正面から全力でぶつかり合えば、周囲は大迷惑というものである。

◆◆◆25◆◆◆

「カール、あの人達を阻止するための、何か良い知恵は無いかなぁ」

「のんびり構えていたら、街が木っ端微塵だぜー?」

「もう十分、大被害を出しているような気がするけどね……」

 街は大騒ぎになっていた。それもそのはず。天変地異を起こす程の破壊力を持った、二人が全力で、真っ向から勝負しているのだ。平和的に解決できる訳が無かった。

「うぉっ!? こっちからも火の手があがったぞ!?」

「ねぇ、カール……被害総額、幾ら位になるのかな?」

「オイラたち、きっと縛り首だぜ……」

「ん? カール、あれは何?」

「ああ。ほら、火事の時なんかに使う消火栓だぜー?」

「消火栓……そうか! これだよ、これでいけるよっ!」

「はぁん? どうするんだい? こんなもので?」

「カール、街の人たちの力を借りるんだ。ぼくら二人では、とても無理だからね。大丈夫、上手くいくよ」

「ああ、君達。ここは危ないよ!」

 不意にミケに声を掛けてくれたのは、治安部隊の青年。ますます、ラッキーな人に声掛けられちゃった。

「お願い。力を貸して! 街を救うための、秘策があるんだ!」

「えぇ?」

「良いからぼくの言うとおりにしてっ! このまま街が木っ端微塵になっちゃってもいいの!?」

「あわわわ、な、何がなんだか判らないけど、とにかくこっちへ!」

 駆け抜けるミケ達の頭上では、なおもグレイドとブルーウォルフの激しい攻防戦が繰り広げられていた。火薬が飛び交い、凄まじい炎と突風のぶつかり合い。それはもはや、天変地異以外の何者でもなかった。

◆◆◆26◆◆◆

「どうも、ありがとうっ!」

 クマトリオのライブコンサートは大成功だった。それまで、見向きもされなかった遊園地に、こんなにも人が集まろうとは誰も予想できなかった。

「す、すばらしいですよ!」

「なぁに、こんなのは序の口だ。それに、これはオレたちがライブをやったからこそ、ここまで人が集まったんだ。だが、オレ達が去った後も盛り上がらなくては意味がない。そこでだ、オレに考えがある。パレード何か催して見たらどうだろう?」

「お。良いんじゃないか?」

「だろぉ?」

「賑やかに盛り上げれば楽しいものね。人も集まるんじゃないかなぁって気がするな」

「そこでなんだが……ハスキー、すまないが手を貸してやってくれないか?」

「なるほどな。大工仕事が必要になるもんな。構わないぜ? オレの腕力、こういう場面でこそ生きるってもんだ」

「それから……ターキー。あっちこっちにある食べ物関係の店の面倒見てやってくれないか?」

「なるほど。料理通とくれば、ぼくが適任だね。良いよ。任せておいて」

「それで、残りのピエロさん達は、オレと一緒にパレードの仕掛け作りだ。パレードだけじゃ、今ひとつ足りない気がするな。アトラクションもちぃっとばかり手を加えないとダメだな。ま、オレ達に任せておきなさいって」

 妙に自信に満ちているスモーキーは、頼もしい反面、時に悪巧みをしているから油断ならない。密かに警戒してみせるハスキーとターキーであった。

 そして、各自が作業に着手し始めた。

「おーい。のこぎり取ってくれーっ!」

 ハスキーは、その自慢の腕力と、大工技術を活かして見る見るうちにパレードの仕掛けを作り上げていく。その手際の良さ、完成度の高さに皆が目を奪われていた。

「ほらほら。もたもたしていると、終わんねーぞ!?」

「はいぃーっ、ただいまっ!」

 青空の下、キビキビと動き回るハスキーとピエロ軍団。トンテンカンカン。ハスキーがクギを打つ音が響き渡る。

「なるほどね。ここが調理場なんだね」

 なるほど、なるほど、とキッチンを見渡しながら頷いてみせるターキー。料理場としては綺麗に整備されているし、機材も問題なし。問題があるとすれば、料理人の腕前じゃなくて……出している料理にあるのかも知れないね。

「ねぇ。お店で出しているメニューとか教えてくれる?」

「はい。ええ……ポップコーンに、ソフトクリームに……」

 なるほど。一般的過ぎるのが原因かも知れないね。確かに、教科書通りの回答だね。でも、それじゃダメなのかも知れない。もっとインパクトあるものにしなくちゃ……。でも、何がいいだろう? 港町というイメージ……そうだ。これにしよう。

「えっと、誰か、ちょっと買い物行って来て貰えるかな? 材料はメモに書くから。ええっとね……トマトと、ピクルスと……」

「それでだ。まぁ、堅くなることはない。座ってくれよ」

 どっちが支配人なんだか判らなくなるようなスモーキーの振る舞いに思わず苦笑いのピエロ達。

「アトラクションを改造したいと思うんだ。今のアトラクションが悪いとは言っていない。ただ、ちょっとインパクトに欠ける。良いか? ここは港町だ。絶好の場所であるが……同時に、とてもシビアな場所でもある。港町は各地からの人で賑わう。だからこそ、人々の目もおのずと厳しくなる。酒場が繁盛するのは当然だ。海の男達は酒好きだからな。ここは遊園地だろう? どう展開していくのかが重要な訳だ」

 朗々と語ってみせるスモーキーの話に、真剣に耳を傾けるピエロ達とピエロの支配人。

「それでだ……。これはオレの案なんだけどな? まぁ……ちょっと耳を貸してくれ。商売敵に盗み聞きされる訳にはいかないんでな」

「ふむふむ。それでは……」

「その案というのはだな……ごにょごにょっと……」

「な、なんと斬新なっ! す、素晴らしいっ! こ、これならば……これならばぁーーーっ! イケるーーっ!」

◆◆◆27◆◆◆

「大体、完成ってところだな」

 額の汗を拭ってみせるハスキー。久方ぶりに大仕事しちゃったって感じかな? くぅー。昼下がりの日差しが眩しいぜ! なーんてな。

「見事に完成ですね」

「ああ。こういう派手目な馬車を走らせてだな、人目を集めるわけよ。そこでお前さん達の技が光るわけだ」

「なるほど。感謝、感謝ですっ」

「礼には及ばないぜ。後は腕を磨いてくれってところだな」

 ニヤリと笑ってみせるハスキー。慌てて顔を見合わせるピエロ達であった。

「さてっと。スモーキーのところに戻るか」

「了解です!」

◆◆◆28◆◆◆

 材料は揃ったね。うんうん。さすがは港町。新鮮な材料が一杯だよね。本来だったら港町なんだし魚をメインにするべきなんだろうけど、遊園地みたいなテーマパークでは……こういう料理がウケると思うんだよねー。

 慣れた手つきで見せる包丁さばき。踊るような足裁きで軽やかなステップを踏みながらも、陽気に料理をするターキー。

「あ、そこのボウル取ってくれる?」

「はいっ。ど、どうぞっ」

 その神業のような動きに、ただただ圧倒されるピエロ達。

「よーし。サルサソースはこれでOKだね。後は……これに、厚切りのハムと……レタスに、小エビっと……」

「おおー」

「ううーん、完成しちゃった。ねぇねぇ、みんな食べて見て?」

 ターキーが作り上げたのは、お手製のタコス。サルサソースが実に見事な味を出している。

「こ、これは……イケますね! しかも、個性的だし、とても良い感じです。これならば十分にアピールできますっ」

「良かった。大成功だね。それじゃあ、皆、スモーキーのところに戻ろう?」

「了解です!」

◆◆◆29◆◆◆

 一方その頃。スモーキー達は……。

「よし。改造第一弾はコレだ! 高速回転メリーゴーランドだ!」

「……ま、マジっすか?」

「お、ちょうどいい。お前、乗ってみてくれないか?」

「へ!? わ、ワタシですか!?」

「良いから、良いから。遠慮するなって」

 引きつった顔をしてみせる赤ピエロを半ば強引にメリーゴーランドに乗せて、さっそく試運転。

「うぉお!? こ、これはぁーっ! ひぃやぁーっ!」

 悲鳴をあげまくる赤ピエロを眺めながら満足そうに頷く支配人とスモーキーであった。

「素晴らしい! これは意外性アリアリですなっ」

「だろぉ? こういうな、パンチの利いたのが欲しいのよ?」

「よぉ、お疲れさん。どうだったよ?」

「こ、これは、意外ですけど、面白いっス! 本来、地味なイメージのあるメリーゴーランドを絶叫マシンに変えてしまうなんて、意外過ぎですっ!」

 目が回るのか、千鳥足の赤ピエロであった。

「よしっ、次に行くぞー」

「改造第二弾はコレだ! 高速回転観覧車だ!」

「聞いた感じだけでも、とてつもなく危険な響きなんですけど……」

「まぁ、気にするな。よし、次はお前だな」

 スモーキーに指をさされてギョっとするのは青ピエロ。

「まぁまぁ。気張らずに楽しんできてよ」

「ああ……短かったな、我が人生……って、わぁおぉー!?」

 凄まじい勢いで回転する観覧車。その迫力、その凄まじい勢い、これまた絶叫マシンの王道である。

「す、素晴らしい! これまた、意表を突いた仕掛けです!」

「だろぉ? この強烈なインパクトで、ラブラブなカップルの距離も急接近ってモンだぜ? なぁ?」

「はぁはぁ……す、すごいですっ……天国、見えました……」

 口から泡を吹くと青ピエロは倒れてしまった。ひゅー。そこまで派手に感動されると嬉しいねぇ。

 その後もスモーキーの活躍は続き、高速回転ティーカップに、大海原の中を突っ走る窒息OKジェットコースター、ホンモノの猟銃を使った射的だの、なかなかに意外性のあるアトラクションを作り上げていった。

「それでだな。これが、取っておきなんだよ……」

 にやりと笑うスモーキー。自信の程は最大限。

「お化けの出るミラーハウスだ」

「へ? 意外にも地味ですな……」

「そう思うかい? それじゃあ、支配人さん。あんた挑戦してみてくれよ」

「わはは、ワタシはこれでもお化け屋敷通でしてね……このワタシを驚かせるほどのモノ、作れますかねぇ?」

「お。言うねぇ? それじゃあ、是非とも挑戦してみてくれよ?」

「それでは……楽しみにしていますよ?」

「よぉ、お前ら、気合い入れてやってくれよー」

「がってんです」

 自信満々な足取りでミラーハウスに入っていく支配人。だが、数分後には……。

「ひぎゃぁあーーー!」

「わっはっは! 大成功だぜっ!」

 凄まじい絶叫が響き渡っていた。腹を抱えてゲラゲラ笑ってみせるスモーキーであった。

「よぉ、支配人さん。どうだったよ?」

「……ワタシ、あんな怖い体験したのはじめてです……。いやぁ、どこから忍び寄ってくるか判らない上に、どこを見てもお化けだらけ! いやぁ、凄まじい恐怖ですね……完敗ですっ……」

「お。どうやらあいつらも片付いたようだな」

「スモーキー、モノは作っておいたぜ?」

「サンキュ、ハスキー。お前なら出来ると思っていたよ」

「料理の方も、ばっちりだから」

「さすがは、名料理人。ありがとうな」

「いやいや……何から何まで、本当に感謝します」

「なぁに。オレたちも好きでやらせてもらったことだ。気にするこたぁ無いぜ? さぁって、明日が楽しみだな。さらなる盛り上がりを期待しちゃうぜー? なぁ、相棒達よ?」

「おうよ、見事にキメてくれよ?」

「大丈夫、大丈夫。自分を信じてガンバってね?」

 こうして、スモーキー達は翌日の開園を楽しみに待ちつつ、再び街へと繰り出していくのであった。

◆◆◆30◆◆◆

 文字通り、決死のダイビングになってしまった……。早鐘の様に鳴り続ける心臓を抑えながら、ティガはふらつく足取りで歩き出してみせる。

(ああ……マジで死ぬかと思ったぜ。大体だな、虎が空を飛んで良い訳がないんだってのさ……。まったく……)

「うぉっ!?」

 不意に背中の上に重たい感触。慌てて振り返って見せれば、背中の上にはしっかりとリドルが乗っていた。

「さぁ、急いで行くよっ!」

 何て人使い……もとい、虎使いが荒いのか。だが、リドルの言うことは、確かに一理ある。ここまで来て、あの木の葉っぱが全部散ってやがったなんてなったら、オレはあの胡散臭い占い師を、本気で噛み殺しちまうかも知れないからな。

「しっかり掴まっていろよ……」

 大地を蹴り上げると、凄まじいスピードで駆け抜けていくティガに、街の人々は疾風でも走り去って行ったのかと驚きを隠せない表情をみせる。

「ひゅー。見事な走りっぷりだねぇ。オレも追い掛けていっちゃおーっと。負けないぞ、虎君っ!」

 ロケットスタートの姿勢……。次の瞬間、ホンモノのロケットを思わせるような凄まじい砂煙をあげながら猛スピードで発射するドラゴンの青年。今の突風は何だったのかしら? きょろきょろする井戸端会議に花が咲く女性陣の隙間を、今度は大砲の弾のような凄まじい勢いの巨体が駆け抜けていった。これには、さすがに女性陣もきりきり舞い舞いさせられてしまうのであった。何事が起きたのかと戸惑いを隠せない。

 そして問題の少女、アンナの家までたどり着くと、性能抜群のブレーキを掛けてティガがストップする。ブレーキを搭載していないドラゴンは、そのまま家々を破壊しつつ町外れまですっ飛んでいくのであった……。

「あの人、一体、何しに来たんだよ……」

「街を壊しに……な、ワケないよね?」

 色々と破壊しまくりなんですけど……。

「さあ、急いで行こうぜ」

「うん。まだ……! ひゃあ!? 葉っぱ、あと一枚だよっ!」

「にゃにぉー!? ますます急げっ!」

 ティガとリドルは大慌てでアンナの部屋を目指して突っ走るのであった。花瓶を倒そうが、犬に吠えられようが、お手伝いさんをくるくる回転させちゃおうが関係なしに。

「もうすぐ、あたし、お終いなのね……」

「お終いなんかじゃないよ?」

「あ。君は、あの時の……えっと、リドル君ね?」

「見て? この花を……」

「まぁ。きれいな花……」

「大丈夫、君を死なせなんかしないから」

 リドルは窓際まで駆け寄ると、窓の外の木にフロルの花を差し出して見せるのであった。

「見て? フロルの花だよ……暑い砂漠でフラフラでしょ? でも、この花で涼しくしてあげるから、もう少しだけ待っていて」

「リドル君、その花を投げるんだ!」

 何時の間にたどり着いたのか、ドラゴンの青年が木の傍で吠える。リドルはその言葉通りに花を投げるのであった。その瞬間、フロルの花から青い光があふれ出した。

「きゃ、まぶしい!」

 不思議なことに、フロルの花は自ら根を伸ばすと木の根元に、しっかりと根を生やすのであった。その時であった……。

「げげっ!?」

 ティガは体中の毛を逆立てて飛び上がって見せた。なんと、最後の一枚が静かに抜け落ちようとしているのであった。だが……次の瞬間、木からザワザワと音が聞こえてきた。

「な、何の音だろう?」

「この音は木から? 木が音を出しているみたいよ」

 慌ててリドルとアンナは、窓から顔を出して見せた。

「わぁ……」

 なんと、凄まじい勢いで芽が生え、そして瞬く間に全身を見事な新緑で覆い尽くした木へと大変身して見せたのであった。

「見たかい? これがフロルの花の力なんだ。フロルの花は、他の木の根元でひっそりと咲くのを好むんだ。そして、フロルの花は強い日差しを嫌うから、手近にいる木の葉を生い茂らせて、自分自身を護ろうとするんだ」

「じゃあ……あたし、死ななくて済むのね?」

「もとより、あの占い師の言葉も胡散臭かったけどな……」

「何にしても助かって良かったよね」

「ドラゴンさん、あなたもリドルくんのお友達ね? 上がってくださる? みんなでお茶にしましょうよ? ね?」

「ひゃっほぅ。それじゃあ、お言葉に甘えまーす」

◆◆◆31◆◆◆

 ケンカ両成敗って言葉もあるじゃない? ここまで迷惑な人達だったら、両成敗どころかお仕置きモードって感じ? 今回ばかりは、ちょっとやりすぎかなぁって感じだよね。グレイド、少しは頭を冷やして貰うからね。

「皆さん、準備は整いましたか?」

 その手にホースを持った街の人々が静かに頷く。指揮を取るのは見張り台のカールとミケ。下では治安部隊率いる街の人々が構えていた。

「こちらミケ。右舷前方より目標急接近中……」

『了解! 皆の者よ、構えっ!』

「くぉのぉ、爆弾野郎めっ!」

 ブルーウォルフがストームブリンガーを振りかざせば凄まじい大嵐が竜巻となってグレイドに襲い掛かる。

「何のこれしき! サイエンスの底力を甘く見るなっ!」

 背中に背負い込んだバズーカを一旦、足元に置くとさらなる兵器を構えてみせる。大砲の筒のような見た目……。

「くらえっ! 拡散波動砲っ!」

「な、なにぃー!?」

 凄まじい閃光! 大爆発が辺りを包み込んだ。ミケは双眼鏡で眺めながら、冷や汗が収まらない。

「どこまで傍若無人な人達なのだろう……」

「ミケ、準備はオッケーだぜー」

「カール。みんなに伝えてきて。もうじき、彼らが此処に到達するってね?」

「オッケー、ミケ。危なくなったら非難するんだぜー?」

「相手はグレイドだからね……どこに逃げても危ないから」

「だよなーって、うぉ!? 急接近!」

「にゃあ!? 予想外に早いじゃん!」

 二人の姿は、何時の間にか肉眼で確認できる程の大きさになっていた。なおも、高速で突っ込んでくる二人にミケの毛が逆立つ。

「打ち方、準備してーっ!」

「打ち方、準備ーっ!」

「にゃろぉー! これ以上の暴挙は許さないぞーっ!」

◆◆◆32◆◆◆

「てめぇ! オレ様を殺す気か!?」

「素直に身柄を拘束されろと言っているだけだ!」

「傍若無人にも程があるだろうが!」

「貴様こそ、その物騒な剣を捨てろ!」

「そこまでだよっ!」

 まるで子供のケンカだね……。しかも、お互いに強烈な武器を持っているだけに、ますます性質が悪いんだから……。

「ミケ、邪魔をするなっ!」

「グレイド! 街を破壊してまでの追い掛けっこなんてダメでしょ!」

「なに!? 街が!?」

 えっと……もしかして、今頃気付いちゃったりした訳? ホントに……無神経というか、厚顔無恥というか、何と言うか……。

「喧嘩両成敗ですわっ、ブルーウォルフ様!?」

「おいおい、お前達、オレの味方じゃなかったのかよ!?」

「問答無用ですっ! ミケさん、やっちゃってください!」

「がってん承知っ! ファイヤー!」

 ミケはトランシーバーに向かって、可能な限りの叫びをあげた。

「ミケからの連絡だぜ! みんな、発射ーっ!」

「放水開始っ!」

 人々の手にしたホースから一斉に凄まじい水量が発射された。それは、屋根の上でまごまごするグレイドとブルーウォルフごと洗い流すほどの威力だった。

「うぉお!? な、なんじゃこりゃあ!?」

「くっ! な、流されるっ!」

 こうしてぼくらの活躍により、シャルルさんのお宝の防衛にも成功。迷惑三昧なグレイドとブルーウォルフはこの後、治安部隊にたっぷりしぼられていました。ま、当然の結末だよね。正義は勝つのです。

「ミケ君、本当にありがとう。この絵は、先代から授かったお守りみたいなものでね」

「お守り?」

「そう。どんなギャンブルでも勝たせてくれるお守りでね」

「へぇー。すごいんだね」

「だからこそ、この家宝だけはどうしても、守り抜きたかったんだ」

「そういうことだったんだね。でも、街……大変なことになっちゃったね」

「大丈夫、大丈夫。すぐに戻して見せるよ?」

 にっこり笑いながらコインを見せてみせるシャルル。やっぱり、この人は生粋のギャンブラーで、なおかつグレイドの友達……まともな人じゃないわけだよねー。

「あの、ミケさん……」

「にゃあ? ああ、ペチャパイ5のみなさん……」

「誰がペチャパイよっ!? って、そうじゃなくてね……」

「街造りを夢見ているんですってね」

「どうしてそれを?」

「オイラが話したんだよ。こいつら、きっと一流のお笑い芸人になってくれると、オイラ信じているし」

「なんでですのんっ! は!?」

 五人は思わず思ってしまった……。それも悪くないかも知れないと……。

「まぁ、取り敢えず迷惑なコンビは置いておいて、一度ルルブに戻るとしよう。皆もそろそろ戻るはずだからね」

「ちょぉっと待てっ、オレ様を差し置いて!」

「ミケ、オレを置いていくとは、どういうつもりだ!?」

「にゃー、困った人達だなぁ。ほらほら、ぼさっとしてないで行くよ?」

 ぼくの夢はどんどん達成する一方で、どうも、変な奴らばかりかき集めている気がする……。ま、それも仕方ないのかもしれない。さぁって、気を取り直していこうじゃない?

◆◆◆33◆◆◆

 翌日、前日を遥かに凌ぐ大盛況ぶりに支配人は笑いが止まらない。従業員もてんてこ舞い。

「素晴らしい! この遊園地が、こんなにも盛り上がるなんて!」

 スモーキー考案の、めちゃめちゃなアトラクションが地元の若者たちに大ヒット。その意外性、奇抜かつ独創的で、パンチの利きまくったアトラクションに大満足。

「大成功ってところだな?」

「あ、見てよ。あれはハスキーのつくった奴でしょ?」

「おうよ。オレの作品だぜ」

 満足そうに微笑むハスキー。その視線の先にはパレード用の派手な馬車が颯爽と駆け抜けてゆくのであった。

「ターキーの店も、大盛況みたいだな」

「そうみたい。大成功だったみたいだね」

「さて……。オレたちの役目はここまでだな。後は、この状況を活かすも殺すも……ここの連中次第だ」

「そういうことだな。さて、行こうぜ」

 遊園地をそっと後にするクマトリオであった。不意に誰かに肩を叩かれて、慌てて振り返るスモーキー。

「ありゃ、支配人さんじゃないか」

「本当にお世話になりました」

「後は、あんたらの頑張り次第ってところだな」

 にこやかに微笑んでみせるスモーキー。

「そういえば、聞きましたよ。なんでも、新しい街を造るための旅をされているとか? いやいや。これでも情報にだけは敏感なんですよ。ええ、世間の情報を……ってそんな話をしにきたんじゃないです。ちょっと、この地図を見てください」

 妙な芝居をしてみせる支配人に、少々焦りを隠せないクマトリオ。

「この周辺の地図なのですが……ここ。ここです」

「んん? 大陸から切り離された小島ってところか?」

「そうです。ここは、ちょうど無人島らしいんです。皆さんの新しい街の場所として適するかどうかは判りませんが、何かのお役に立てればと思いまして……。ちなみに、天気の良い日は、この街からも遠くに見えるんですよ」

 新天地としては悪くはないな。だが、海の上……。しかも切り離された島か……。それに、どんな島なのかもわからない以上は簡単には決められないな。ここは、一度戻る必要があるか。

「スモーキー、らしくねぇなぁ?」

「そうだよ。迷うことなんてないじゃん?」

「しかしだな……どんな地形なのかも判らないのだぞ?」

「構うことないじゃん。そんなの、行ってみてのお楽しみだよ」

「そうそう。ターキーの言うとおりだぜ」

「とにかく一度、ミケたちと合流しよう」

「それでは、ワタシはこの辺で。街、作られた際には是非ともワタシ共にも声をお掛けくださいませ」

「ああ。新しい街にも、面白い遊園地を作ってくれよ」

「ええ、是非とも。それでは、いろいろとありがとうございました」

「元気でなー!」

 追い求めていた夢、見えてきた気がする。ずっと探していたもの。それは以外に近くにあったのかも知れない。

 街造り……。その願いが達成できた時、その時こそ故郷に錦を飾って帰れるというものだ。オレだけじゃない。ハスキーも、ターキーも同じ気持ちのはずだ。きっと、きっと! 夢を叶えて帰ってみせるさ!

◆◆◆34◆◆◆

 相変わらずティガはクールな振る舞い。魚の乾物をかじるのに忙しいらしい。

「ティガってば、お行儀悪いんだから」

「ガリガリ……これ、いけるぜー」

「うふふ、面白い猫ちゃんね」

 面白い猫だって? はぁん? 猫……猫? えっと、もしかして……オレのこと言っている!?

「おいおい、お嬢チャン。オレは猫じゃなくてだな……」

「うふふ、可愛い猫ちゃんねー」

 なんて思い込みの激しい奴なんだろ……オレは猫じゃなくて、列記とした虎なのになぁ……。

「ねぇ、リドルくん? あたしね、お話を書くのが得意なのよ?」

「それじゃあ、ぼくらの旅のお話とかどう? 波乱に満ちた冒険物語で、きっと面白いと思うよ」

「それは興味深いね。オレも聞きたいな」

 クッキーをかじりながら身を乗り出してみせるドラゴンの青年。

「そうそう、まだ名前も言って無かったね。オレの名はドラン。グレイドはオレの弟でね。おっと、話を止めてしまったね。失礼。それで、話、聞かせてよ?」

「うん。ぼくとティガ、それに……一緒に行動している仲間たちでね、新しい街を作ろうとしているんだ。そのために、各地を回って色々なことを学んでいるの」

「まぁ素敵。とても面白そうなお話ね。ねぇ、街を作ったら、あたしも呼んでよ? とても、面白いお話が書けそうな気がするの」

「うん、是非とも遊びに来てね」

「リドル君、グレイドにもよろしく伝えておいてよ」

「うん、判ったよ。色々とありがとうね」

「礼には及ばないよ。それよりも、帰り道も運んであげようか?」

「な!」

 これを聞いて飛び上がったのはティガだった。普段クールにしているティガが、珍しく見せる動揺の色に、思わず吹き出すリドルであった。

「ドランさん、ティガに乗って帰るから大丈夫だよ」

 また、あの暑い砂漠超えでヘトヘトになるクセにねー。まぁ、いいや。今回の冒険も面白かったな。

「さ、ティガ、急いで帰るよ。皆、きっと戻ってきているはずだからね」

「おうっ、行くぜリドルっ!」

「大きな猫ちゃん、また遊びに来てね?」

 だから……オレは猫じゃないって言っているのになー。

◆◆◆35◆◆◆

 クマトリオの発見した新天地の情報……。そして、ぼくらは港町ルルブに集結し、いよいよ街づくりへの第一歩を踏み出すのでありました。気のせいか、空は青く澄み渡り、風は暖かくて、優しくてぼくらを出迎えてくれているような気がしていたのです。

                             第五回へ続く