第5話『光輝く新天地』

◆◆◆1◆◆◆

 ぼくらは一定期間ごとに集結する。それはお互いが得た情報を交換するため。でも、今まで集結の日に雨が降ったことは無かった。これは不吉なことなのか? それとも何か新しいことへの予感? ミケは空を見上げながら、窓に吹き付ける雨に気を配る。

「ミケ、ヒュアン・デュラルの物語の一説を覚えているか?」

 にっこり微笑んでみせるグレイド。

「確か第三章の冒頭であったな。ごうごうと降り注ぐ雨の中、荒れ狂う大海原に旅立って行ったデュラルは、大荒れの天候の最中に新天地を発見するという内容だったと思ったが。つまりこの雨は不吉の象徴ではない。新しい出会いへの予感と言えるかも知れないな」

 何時ものレストランで仲間達を待ちわびるミケ達。ソファに深く腰掛けながら、外の景色を見つめるグレイド。雨はなおも強く降り続ける。戸口の方から水を弾き飛ばす音が響き渡る。

「どうやら、待ち人達が到着したようだな」

「ひゃー。すごい雨だよー」

「……毛玉ができるっ! ああーっ! 毛が湿っているし、気持ち悪い。最悪だぜ……」

 虎であるティガにとっては、濡れることはかなり精神的な大ダメージに繋がる。苛立ってみせたりヘコんでみせたり、実に賑やかな表情を見せている。慣れているのか、リドルは気付かないフリをしてみせる。ティガは必死で毛繕いをしてみせる。

「あーっ、気持ち悪いっ! だから雨の日に外に出るのはイヤなんだよっ……」

 濡れた体を毛繕いするも、今度は水気が手足に付着してもう八方塞り。いよいよマジキレモードなティガに焦りまくりのミケ達。

「ティガ、おとなしくしてよ。君はただでさえ体もおっきいし、腕力も強いんだから、ストーブの前でおとなしくしているの」

 リドルに叱り付けられて、ブーたれた表情をみせるティガ。スゴスゴとストーブの前で拗ねてみせる。レストランの給仕の姉さんが、拗ねて、丸くなる巨体のティガに失笑してみせる。ふと耳を澄ませば、賑やかな歌声が響き渡る。

「おーおー。雨なのに賑やかなのが来たぜー?」

 ミケの頭の上でケラケラ笑ってみせるカール。「やかましい」とばかりにミケが乱暴にはじき落とせばカールはくるくる回転しながら、テーブルの上に舞い降りる。何事も無かったかのように、カールを掴んで放り投げると、グレイドがテーブルの上にこれまでの旅の流れを記した地図を広げてみせる。

◆◆◆2◆◆◆

 大きな収穫があったらしく、クマトリオはほくほく笑顔で颯爽と話を切り出してみせる。

「今回は大収穫があったんだぜ」

 嬉しそうに笑ってみせるスモーキー。傍らではハスキーとターキーが身を乗り出してみせる。

「新天地ってヤツだな」

 自慢気に身振り手振りで語ってみせるハスキー。

「ぼくらが見つけてきた無人島があるんだ」

 にこやかに笑うターキー。

「まぁ、まだ下見もしていない、本当の未開の地なんだけどな」

 苦笑いをしながら、頭を掻いてみせるスモーキー。グレイドは静かに考え込んでみせる。

「ふむ……候補地としては有力ではあるが、未開の無人島っということは、当然のことながら整地が必要だろうな」

 これは困ったものだと思案するグレイドであったが、クマトリオの出身を考えて、頭の上にライトが輝く。

「そうだ。お前達ならば、開拓と整地は可能なはずだろう?」

 にやりと笑うグレイドに、戸惑い気味のクマトリオ。

「おいおい。冗談だろ?」

「オレ達三人で開拓に整地だって?」

「いくらなんでもねぇ……」

 口々に不可能を口にする三人。だがグレイドはなおも続けてみせる。

「なに。必ずしも開拓と整地を行う必要も無い。下見程度の感覚で考えてくれて構わない。今回は我が故郷の仲間達の力を借りることにする」

 グレイドの仲間達だって? うーん。こんなアブないのが一杯いるの? 妙な想像をしながら背筋が寒くなるミケであった。傍らではカールが踊ってみせている。

「ふにゃー、うっとうしい!」

「けーっ!」

 陽気に踊るカールを弾き飛ばすミケであった。

「我が故郷……遺跡の街には、オレ達が向かう」

「了解。それならば、オレ達は無人島の調査に当たることにするよ」

 力強く微笑んでみせるスモーキーにやれやれと言った表情をみせるハスキーとターキーであった。

「ぼくらはどうしよう?」

 きょとんとしてみせるリドルを見つめながら何かを思案するグレイド。少々考え込んでから、顔をあげてみせる。

「ふむ……やや気が早いかも知れないが、リドルにお願いしたいことがある。これまでに皆が訪れた街、出逢ってきた人達に新しい街の情報を伝えて欲しいのだ。郵便屋である、お前の能力を存分に活かして欲しい」

 なるほどねと頷いてみせるミケ。新しい街が出来ても人がいないのでは、何にもならない。リドルとティガのコンビなら、今まで回ってきた場所を訪れることは、それほど難しくはないだろう。

「雨は古い時代から、恵みの象徴とされている。我らの未来が幸あるものだということを示しているのだろう」

 そうかも知れない。そうじゃないかも知れない。でも、みんなの心がひとつになろうとしている。ミケは外を眺めながら、一歩ずつ歩んでいく自分達に実感を持ち始めていた。きっとこの旅は成功する、と。三者はそれぞれの想いを胸に、思い思いの道へと歩み始めた。

◆◆◆3◆◆◆

 リドルはティガと共にルルブの街に繰り出していた。何時の間にか雨は上がっていた。

「雨、あがったみたいだね」

「……ああーっ! 地面が濡れているっ!」

 歩く度に足に染み込む水気に、背筋が凍り付きそうになるティガ。一歩、また一歩と歩んでいく。体中の毛を逆立てて、苛立つティガに街の人々も怯える。

「ちょっと、ティガ? ただでさえ見た目が怖いのに、そんな必殺の殺気を放っていたら、ますます怖いじゃない?」

 苦笑いするリドルに低い声で唸ってみせるティガ。リドル達は手始めに、この街に住む骨董屋のマーシャとモーリスの元を訪ねることにした。

「あらあら、リドルちゃん」

 相変わらず陽気なモーリスおばさんに声を掛けられ、にこやかに微笑んでみせるリドル。

「まぁ。おっきな猫ちゃんも一緒なのね? 今日はね、あなた達が遊びに来そうな予感がしていて、おばさんね、新作のクッキーを作って待っていたのよ」

 クッキーの言葉に反応して、ティガが鼻を利かせてみせる。

「ほう?」

 オレンジの皮を使っているのだろうか? なんとも爽やかな香りだ。焼き加減も悪くはなさそうだ。それでいて、しっとりとしたこの香り。むう……中々に気品があるな。

「美味しいティーも煎れましょうね」

「だってさー、ティガ?」

 さも興味が無さそうに振舞ってみせるも、興味津々な雰囲気を隠し切れないティガ。甘党なティガにとって、クッキー&ティーの誘惑はかなり効果的なはず。クスクス笑ってみせるリドル。

「ほらほら、素直になりなって」

「な、何のことだ?」

 精一杯反論してみせるティガがお茶目で、モーリスおばさんが微笑む。しかし、それで終わらないのが、このおばさんの強いところ。ティガの不意をついて、ティガの目の前にクッキーを差し出してみせるモーリス。思わずパクっと食べてしまうティガ。

「フフ……青いわね、おっきな猫ちゃん?」

「ぐ……こ、このおばさんっ……」

 しかし、こ、このクッキー、見事なまでに美味いっ! って、そんなことしに来たワケじゃないような……?

「ところでリドルよ、当初の目的は何であったか……?」

「ああ。そうだったよね。マーシャおばあちゃんに用があってきたんだ」

 用事を思い出したリドルが顔をあげてみせる。呼応するかのように、微笑んでみせるモーリス。

「ええ。そうじゃないかと思ったわ。マーシャおばあちゃんなら、お庭でお花の手入れをしているわ?」

「ありがとう。行こう、ティガ」

「がってん」

 スタスタと骨董屋の裏庭へと走りこんでゆくコンビ。雨上がりの庭は緑の良い香りがしている。軽い足取りで庭へと向かう二人。

◆◆◆4◆◆◆

 マーシャは庭で花の手入れをしていた。淡い色合いの花達が、雨に濡れてひときわ華やかに輝いてみせる。

「あらあら、いらっしゃいな」

 リドル達に気付いたマーシャが微笑む。

「こんにちは。今日は、おばあちゃんに耳寄りなお話があって、遊びに来たんだよ」

「あらあら? なんでしょう」

「おじいさんの想い出を蘇らせるんだ」

「え?」

 いきなり結論を言ってのけるリドルをつついてみせるティガ。おいおい、リドルよ。いきなり結論を言っても、何のことだかサッパリ判らないだろうに……。

 こいつはいつもこうだ。気が早すぎて順序が逆転する。だから話の内容が意味不明になること多々あり……。傍らでぶつぶつ言っているティガに気付くことも無くリドルは嬉しそうに語ってみせる。

「ぼくら、無人島に新しい街を作ろうとしているんだ。それでね、そこにオルゴール館をつくろうと思うんだ」

「まぁ。素敵なお話ね」

 長い間、眠り続けていたオルゴールが再び日の目を浴びるときが来ようとしている。ずっと忘れられていた、過去の時が再び流れ出そうとしている。

「なぁ、リドル。倉庫の中をもう一度探索してみようぜ?」

「そうだね。オルゴール館に合いそうなオルゴールを選りすぐってあげないといけないよね」

 二人の話に目を細めてみせるマーシャ。たっぷりの焼きたてクッキーを手籠に、モーリスが庭から声を掛ける。

「さぁさぁ。お茶にしましょう」

「おほほ。せっかくクッキーが焼けたんですもの。お茶にしましょう。倉庫のお片づけは、その後でね」

 微笑むマーシャを尻目に、颯爽とクッキーに群がるリドルとティガであった。オレンジの淡い香り漂うクッキーと緑一杯の庭。何が起きるのかと楽しみに思うマーシャであった。

◆◆◆5◆◆◆

 ミケ達はミックの元を訪れていた。あの時と同じように、町外れの坂道を登っていた。

「……また、あんな怖い想いするの?」

 耳を伏せて、嫌そうな顔をしてみせるミケ。グレイドは不敵に笑うばかり。

「徒歩で移動しても良いが、途方も無い距離があるぞ?」

 こいつ、ムカつくー。そう思いながらも、迂闊にグレイドを怒らせると、何をしでかすか判ったものではないからな……。

「目的地は、遺跡の街?」

「途中のカジノタウンで下車ってところだな」

 あー。なるほどね。自分の手で派手にぶっ壊しまくった街だけに、復興状況が気になるってワケだね。なるほど、なるほど。こいつにも自責の念なんつーモン、あるんだねぇ。

 実際のところは、違うのかも知れないが、ここはグレイドの人格を尊重して、良く解釈をしてあげようかなーなんて考えてしまう、結構あざといミケであった。

「ミケ、早くいこーぜー」

 カールは相変わらず陽気に頭の上を旋回してみせる。

「にゃーっ! やかましいっ!」

「ぐけぇっ!?」

 ミケの鋭い突きを喰らって撃墜されるカールであった。相変わらずの賑やかなコンビを後目にスタスタと歩を進めてゆくグレイドであった。やがて、巨大な鳥の姿が見えてきた。

「よぉ、グレイド。今日はどうした?」

 相変わらず、妙に落ち着いた態度のミック。淡々とした口調で語ってみせる。

「遺跡の街へ行きたいんだ。途中、カジノタウンにも寄って貰えないか?」

 ニヤっと笑ってみせるミック。

「遺跡の街だって? お前の故郷に里帰りか?」

「里帰りと言えば里帰りではあるが、今回は故郷に錦を飾ると言うよりも、ドラゴン達の力を借りたいという事情なのさ。お前も知っての通り、オレ達は街造りを生業としている身だからな」

 語り出すグレイドに続けてみせるミック。

「新天地も見つけた。そこで、建造物を作る能力に長けている、お前の故郷の仲間達に助っ人を依頼する。そういうことか?」

「判っているなら話は早い。シャルルは今回の街づくりには欠かせない人材のひとりなんでね。途中下車をして欲しいと言ったのはそこらへんの事由によるわけだ。今回こそは、安全運転で頼むぜ。ミケの奴がすっかりトラウマになってしまっているようなんでな?」

 グレイドの言葉に思わず毛が逆立つミケ。

「にゃー。ぼくのこと、何か言ったでしょ?」

「何にも。さ、そんなことよりカジノタウンに向かおう」

 軽く受け流すとグレイドが頷いてみせる。呼応するかのように、ミックは静かに目を閉じると次の瞬間、力強く大地を蹴り上げると大空高くに舞い上がってみせた。

「ひゃー、たっかーい」

 嬉しそうに笑ってみせるミケに戸惑いを隠しきれないグレイド。

「ミケ、怖くないのか?」

「うんっ。慣れちゃうと楽しいもんだねぇ」

 さすがは偉大なる冒険家、ヒィアン・デュアルを目標にしているだけあるな。この程度のことには、すぐに慣れてしまうというわけか。

 確か……ヒィアン・デュアルの冒険記の中でも巨大な鳥に乗って、大海原を渡ったという一節があったな。だとすれば、ミケも真似したいという訳か。相変わらず、判りやすい奴だ。にやつくグレイドに、一抹の恐怖を感じつつも慣れてきた空の旅を、しっかりと堪能するミケであった。

◆◆◆6◆◆◆

 程なくして一行はカジノタウンの上空に差し掛かった。

「そろそろ目標地点に到着するぞ。しっかりつかまっていろよーっ!」

 ミックは急旋回しつつ、地表めがけてらせん状に滑空していった。

「ひゃっほーぅ」

 嬉しそうに騒いでみせるミケにミックも戸惑いを隠しきれない。嬉しそうに微笑みながら、地上を目指す。静かに地面に降り立つミック。その背から、ひょいと飛び降りるミケ。

「ひゃー。楽しかったぁ」

「今回のフライトは、楽しんでいただけたようで?」

 微笑んでみせるミックに力強く頷いてみせるミケ。

「慣れちゃうと楽しいもんだねぇ」

「ふむ……。これは、実現は可能そうだな」

 感慨深そうに頷くミックに、怪訝そうな表情のグレイド。

「おい、ミック? 何を企んでいる?」

「お前達の新しい街にオレも、これを商売として名乗りをあげてみるのも悪くないのかも知れないな」

 苦笑いしてみせるグレイド。

「運び屋ミックか……ほう? 新しい商売だな。しかもお前にしか出来そうにない商売だ。良いのではないか? オレ達は歓迎するぞ。なぁ?」

「うん、面白そうだね。じゃあ、ミックもぼくらの街の住人だね。頑張って一緒に街造りしていこうね」

 ミケの言葉に嬉しそうに頷くとミックは再び大空へと羽ばたいていった。抜け落ちた鮮やかな羽を見つめながらミケが笑う。

「ミックの羽って綺麗だよね。これって……結構、工芸品なんかになったりして」

 ミケの言葉に思わず、体中の羽を抜かれた間抜けなミックを思い浮かべて、慌てて頭を振ってみせるグレイドであった。

「身包み剥がされたミック……」

 恐ろし過ぎる映像が脳裏を過ぎり、大慌てで映像をかき消すグレイドであった。

◆◆◆7◆◆◆

 一行はミックのお話はひとまず置いておいて、目的地のカジノタウンへと向かうのであった。

「思い起こせば数週間前……」

「グレイドと、アホな怪盗とのバトルが原因でー」

 ミケとカールに、ケラケラ笑われて憮然とした表情を見せるグレイド。

「過ぎたことを蒸し返すな」

「うわっ! 開き直ったよ?」

「けー。世界はオレ様を中心にーってか?」

 さらに囃し立てるミケとカールに向かって、静かに豆鉄砲を構えてみせるグレイド。

「Freeze、ミケ&カール?」

 実弾さえも装着可能な恐ろしい豆鉄砲に、さすがのミケも静かになってしまうのであった。

 街は着実に復興を遂げようとしていた。高台に登って復興の様子を眺めるシャルルの姿があった。

「ん? あれは?」

 グレイド達に気付いたシャルルが嬉しそうに手を振ってみせた。

「今、そっちに行くから、待っててー」

 グレイドの元を目指して、シャルルは軽快な足取りで走りこんで来てみせる。

 相変わらず妙に腰の低いシャルル。手にしたタオルで、額の汗をゴシゴシやってみせる。

「いやー、なんとか街も復興しつつあるよ」

「そうか。それは良かったじゃないか」

「モトを正せば、グレイドが街をぶっ壊すから……」

 ボソっと呟いてみせるミケの眉間に、そっと豆鉄砲を宛がってみせるグレイド。思わず引きつった笑いを浮かべてみせるミケであった。

「街の復興の方は順調だよ。君達のうわさも耳にしているんだよ。なんでも、新しい街を作るんだって?」

「もう知っているなんて、情報が早いねぇ」

「さすがだな……。オレ達は新天地を得た。そして、そこに街を作ろうと考えている」

「面白そうだね。この街にも飽きてきていたし、ぼくも仲間に入れてくれないかな? その街でカジノをやってみたいもんだなぁ」

 にこやかに微笑むシャルルを見つめながら嬉しそうに笑ってみせるミケ。

「もちろん、歓迎するよー。ね、グレイド?」

「ああ、今日はお前を誘いにきたのだ。話が早いな。街造りに協力して欲しい」

「お安い御用さ」

 微笑むシャルルの背後に、不意につむじ風が舞い上がった。

「!?」

「ちょーっと待ったぁ!」

「こ、この声は……」

 聞き覚えのある声に、眉をひそめるミケ。

「オレ様達も仲間に加えろー」

「あたくし達、パラディン5もお手伝いしますわ」

「はいぃ?」

 あまりのことに、シャルルが、ミケ達が、思い切り、言葉を失うのであった。

「……どうする?」

「フン。こういうお笑いキャラがいるのも街としては盛り上がりがでてくるだろう。構わないさ……その代わり、しっかりと、手は貸して貰うぞ?」

 グレイドの言葉に喜びの表情を見せるB・ウォルフ。

「よかったですわー。あたし達、職を失って……」

「だぁーっ! そ、そんなことは、どーでもいいっ!」

「なるほどな……」

「武士の情けだよね。一緒に頑張ろうね」

 にこやかに手を差し出してみせるミケ。照れくさそうにしながらも、そっと手を差し出すB・ウォルフ。

「よーっし、グレイド。次の街へ行こう」

「ああ。目的地は遺跡の街……オレの故郷だ。ミックの奴に連絡を取るから、しばらく待っていろ」

 復興しつつあるカジノタウンを見つめながらミケは新しい街への、希望に胸を膨らませるのであった。

◆◆◆8◆◆◆

 ゼベク爺さんの運転する列車に揺られてクマトリオは港町パムを目指していた。陽気にかきならすギターの音色が響き渡る。まずは盛り上がる港町を経由して目的の無人島を目指すことにした。

「遊園地も大盛況のようだな」

「ああ。賑やかな声がここまで響いてくるな」

 満足そうに微笑んでみせるスモーキーとハスキー。

「ここは……新しい街の宣伝、不要だよね?」

 ふとした疑問を口にしてみせるターキー。

「まぁ、目と鼻の先だからな。無理に宣伝する必要は無いな」

 さらりと返すハスキーの傍らで地図を広げながら、苦い顔をしてみせるスモーキー。港町パムと無人島を線で結んでみる。

「ううむ……」

「ん? どうした、スモーキー?」

「こいつを見てくれ。ここが港町パムだ。んで……ちょうど、この辺りが例の無人島だ」

 難しい顔をしてみせるスモーキーの言葉に静かに耳を傾けるハスキーとターキー。

「厄介なのは、港町パムと無人島との間には……」

 スモーキーの言葉を聞きながら、苦い顔をしてみせるハスキー。

「そうだったな。港町パムと無人島の間には海が広がっているんだったな。しかも、この周辺は潮の流れが早いらしいからな……」

「橋……それも、海流に怯まない強い橋が必要だね」

 言いながらも「どうやって実現するか?」考え込んでしまうターキーであった。

「道がなければ切り開けば良い。それがオレ達の流儀だろう? 開拓者精神さ」

 スモーキーの言葉に、何か希望を見出したハスキーとターキー。家作りみたいな大工仕事は得意だが、海上建設となるとこれはまた話が違ってくるものさ。さて、どうしたものか?

「問題は橋の建造などとなった時に、どうすれば良いかという問題に直結する」

 困った表情を浮かべるスモーキー。

「橋の建設かぁ……土台を組み立てるだけでも結構大変だと思うぜ? 流れの早い海の中に立てるんだ。そうそう簡単にいくとは、とても、とても思えないな」

 感慨深そうに腕組みしてみせるハスキー。

「でもさ、悩んでいてもしょうがないでしょ? きっと道は開けるはずだよ。そうでしょう? ぼく達は今までだって、困難を切り抜けてきたんだもの」

 ターキーの言葉に反応するかのように、力強くギターを弾き始めてみせるスモーキー。

「そうだったな。オレ達は進むしかないんだ。だったら、ひたすら突き進むしか無いんだよな」

「ああ。きっと何とかなるはずだ。港町はでっかいんだ。きっと、誰か知恵を持っているはずだぜ」

 なんだか微妙に他力本願な気もするけど、なるようになれば良いと思うあたり前向きな、クマトリオだったりするのかも知れない。

 にぎやかな街の眺め。クマトリオ達の盛り上げた遊園地は実に順風満帆に盛り上がっていた。自分達の成し遂げた偉業に満足そうな表情のクマトリオ。とは言え、それに甘んじていては、それ以上の進展は無い。そのこともクマトリオはしっかりと判っているのであった。だからこそなのか、前を見つめて生きようと考えていた。

「遊園地の方は、順調に動いているようだな」

 腕組みしながら頷いてみせるスモーキー。そこへ遊園地のピエロ達が訪れた。

「ああ。これは、これは皆さま」

 クマトリオの存在に気付いたのか、陽気に手を差し伸べてみせるピエロ達と支配人。

「おかげさまで遊園地の方は大盛況です。ホントにありがとうございました。ワタクシ、感謝感激でございます」

「そっか。そいつぁ良かったじゃないか」

 嬉しそうに笑ってみせるハスキー。その傍らからターキーがくちばしを突っ込む。

「以前、この街を訪れた時に、無人島の話を聞かせて貰ったよね?」

「ああ。地図上でお話したアレですか?」

 支配人が首をかしげてみせる。

「そうそう。その話なんだけどな」

 スモーキーが話を続けてみせる。

「無人島なんて位だから、ここ港町パムから向かうとしたら船を使う以外ないだろう? でも、それじゃあ街が完成した時に不便なことこの上ない」

 スモーキーの言葉に耳を傾けていた支配人が静かに微笑んでみせる。

「つまりは、橋が欲しい……。そう、仰っているわけですね?」

「そうそう。そうなんだ。問題は、どうやって実現するか? なんだよな」

 困った顔をしてみせるスモーキー。まさか、ここにいるピエロ達が橋になるなんて……あり得ない想像を、頭を振って振り払うスモーキー。

「橋に関しては申し訳ないですが、我々でもどうすることは出来ませんねぇ。取りあえず、船で運ぶことは可能だと思いますけどね」

「……仕方が無いな。ここは、ミケ達と合流してから何とかすることにするしか無いな」スモーキーがやれやれ、とやってみせる。

「そうだな。取りあえず、オレ達は船で無人島に上陸だな」

 ハスキーが親指を立てて笑って見せる。

「方針は決まったじゃない? 後は、船に乗せて貰って、無人島を目指そうよ」

 ターキーがにっこり笑ってみせる。

「よし、港へ向かうぞ。船を借りるんだ。新天地を目指して行くぞ!」

 力強く声を挙げるスモーキーに呼応するかの様に、にやりと笑いながらハスキーとターキーが後に続く。

◆◆◆9◆◆◆

 ティガにまたがりながら、リドルは荒野の草原を駆け抜けていた。

「次は農業の村だね」

「ああ。この草原もひとっ走りだな」

 ティガの言葉に頷きながら、なおも走り抜けるふたり。草原を抜けて広大な森林を抜ければ次の目的地、農業の村が見えてくるはず。空は晴れ渡り、さんさんと照りつける太陽がまぶしい。だいぶ村が近づいてきた。

「もう少しだな」

 絡まる木々を口で取り外しながらティガはなおも走り続ける。やがて農業の村が見えてきた。何かを焼いているのか、香ばしいかおりが漂っている。

「うーん、良い香りだね。トマトたっぷりのピザってところかな?」

 にこにこ笑うリドルを見上げながらまんざらでもない表情をみせるティガ。

「そろそろ着くな」

 ティガは静かに走る速度を落とす。柔らかな草の感触にティガの表情もほころぶ。

「緑の香りが良いところだな」

「そうだね。この村はとても素敵な村。料理名人の山猫さんがいる村だからね」

 リドル達は良い香りのする村の中へと歩いていくのであった。

 にぎやかな村。リドル達に気付いたのか、ケンタウロス達がパタパタと駆け寄ってきてみせる。

「わぁー。久しぶりだね」

「久しぶりだねー」

 嬉しそうにはしゃぐリドルであったが、本題を忘れてしまうわけにはいかない。リドルは村人達に軽く挨拶を済ませると、山猫さんのレストランへと向かうのであった。おいしそうなピザの香り。ちょっと名残惜しいけど本題は山猫さんへの挨拶だからね。

 リドルとティガは山猫さんのレストランを目指した。農業祭の時と同じように、民族的な香りのする、トーテムポールが立ち並ぶ。鮮やかな色合いの旗に、どこからともなく聞こえてくる陽気な歌声と民族楽器の音色。耳を済ませながら、リドル達は歩いていった。この素敵な音色を聞き逃さないようにするためにね。

 山猫さんは相変わらず、のんびりとレストランの前の庭の掃除をしていた。大きなほうきを片手に、せっせとちょこまか動く様がどこかコミカルに思えた。

「今日も綺麗になりましたね」

 満足そうに頷いてみせる山猫さん。空を見上げてみれば、どこからともなく落ち葉が舞い降りてくる。

「あらあら。これではキリが無いですね」

 はにかんだ笑顔を浮かべてみせる山猫さん。再びほうきを手にすると、ゆっくりと掃除を始めた。そんな、相変わらずマイペースすぎる山猫さんに、少々冷や汗たらたらのリドル達であった。

「ん? おやおや、君達は……」

 リドル達に気付いたのか、嬉しそうに笑ってみせる山猫さん。

「久しぶりですね。今日はお食事ですか?」

 にこやかな山猫さん。このまま笑顔に呑まれるとペースがのんびりモード。リドルはレストランでの食事の誘惑を振り払いながらも、山猫さんに向き直ってみせる。

「今日はね、お話があって来たんです」

「お話? 私にですか?」

 きょとんとした表情をみせる山猫さん。ただでさえ大きな瞳を真ん丸く見開いてみせる。

「オレ達は新しい街を作っているんだ。まだ……製作途中ではあるけどな。そこで、あんたのレストランを開いて欲しいのさ」

「なるほど。確かに、大きな街で店を開けば多くの人に、私の料理を召し上がっていただけますね。長年の夢でした。多くの人に、私の料理をご披露することがね?」

 嬉しそうに微笑んでみせる山猫さん。

「このレストランは、私の弟子の海猫が後を継いでくれるでしょう」

「では、問題はなさそうですね」

 にっこり微笑むリドルを見つめながら山猫が微笑んでみせる。

「ええ。街が完成した折には、是非ともお声を掛けてくださいね。そうだ。せっかくですから、お食事でもいかがですか? 山猫の新作、召し上がっていってくださいな。村の人々から、おいしそうな野菜をたくさん頂いたので、どうでしょう?」

 山猫の言葉に嬉しそうな反応を見せるティガ。リドルもまんざらではない表情をみせる。

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

「おうっ。オレもちゃっかり、ご馳走になっちゃうぜ?」

 嬉しそうに笑ってみせるティガを連れて、リドルはレストランへと入っていった。

◆◆◆10◆◆◆

 相変わらず小ぎれいな山猫さんのレストラン。傍らではキツネさんとリスさんが忙しそうにウェイターしている。どこか暖かな雰囲気が、このレストランの人気の秘密なのか?

「うーん。良い香りだね」

「さすがは一流のシェフってわけだな」

「やぁ、君達は。いらっしゃいませ」

 にこやかな笑顔で案内してくれるウェイターのキツネさん。

「ささ、こちらのお席にどうぞ」

 リドル達が腰掛けるとすぐにリスさんが、お水を運んできてみせる。

「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」

 陽気に挨拶してみせるリスさん。

「ごゆっくりどうぞ」

 忙しそうにササササっと走り抜けていく。そのコミカルなやりとりに、リドルも思わず微笑む。

「あれ? 君達は……」

 不意に背後から声を掛けられて驚きを隠せないリドル。あわてて振り返ってみれば、そこには親しみ深そうに微笑んでみせる鳥人。

「もしかして、君はリドル君?」

 にこやかに話し掛けられて驚くリドル。ティガが毛を逆立てて警戒してみせる。

「やっぱりそうなんだね。ぼくはレヴィ。こっちは、ぼくの兄のパーン。以前、子猫のミケ君達とお逢いしたことがあるんだ」

 相変わらずにこやかな笑顔のレヴィ。

「さっき、君らが山猫さんと話していたのを聞いちまってな。まぁ、オレ達も……ってな?」

パーンが指を立てて、何かを提示してみせようとする。なるほどな、とティガが頷く。

「リドル、この人達も新しい街への移住予定みたいだぞ?」

「そうみたいだね。ぼくはリドル。ミケくん達と一緒に街づくりに参加しているんだ。レヴィさん、パーンさんも、ミケくんに誘われたの?」

「そういうことになるな」

 パーンが帽子を被りなおしながら笑ってみせる。

「オレは山間の村で喫茶店を開いている。弟は絵描きだ。その腕前は、オレの目から見ても見事なものだと思うが、なにしろ山奥の村だからな。そんなわけで、弟の才能を開花させられるような場所をオレ達はずっと、ずっと、求めていたってわけなんだ」

 パーンの話に、思わず熱く聞き入るリドル。ティガが傍らでヒゲを撫でてみせる。

「決まりだな……」

「うん。街の完成が近づいてきたらきっと声を掛けるから。新しい街、一緒に盛り上げていこうね」

 リドルが手を差し伸べれば力強くレヴィが、パーンが手を握り返す。仲の良い兄弟かぁ……。ちょっと羨ましいなぁ。ぼくには兄弟いないからな……。リドルの妙な視線にティガが戸惑う。ま、こいつが……ぼくの弟みたいなモンか。

「さ、弟よ。次の街へ向かうよ」

「ああ……って、誰が弟だ!?」

 食って掛かるティガの首根っこを掴みながら、リドルはレストランを後にしようとする。鳥人兄弟は、新天地での活躍に胸を膨らませるのであった。今度こそ、必ず夢を叶えてみせる。見えてきた希望に託してみよう。去り往くリドル達を見つめながら鳥人兄弟は決意を固くするのであった。

◆◆◆11◆◆◆

 ミックに乗せられてミケ達が訪れたのは広大な草原の一角。石造りの建物が斜面に織り成す様はなんとも神秘的な趣さえ感じられた。

「ここがオレの故郷、遺跡の街だ」

 グレイドが静かに目を伏せてみせる。

「ふーん。じゃあこの街にはアブない発明品を作っているような、こわーい人達が一杯いるんだねー」

 クスクス笑うミケのこめかみに冷たい感触。

「ミケ、豆鉄砲は好きだったよな?」

「にゃー!? ぼ、ぼくはお魚のほうが好きかなーっ」

 冗談の通じない奴だ……。にやにや笑うグレイド。高台からそんなやりとりを見つめる者がいた。大柄なドラゴンの青年……嬉しそうに笑いながら、飛び立ってみせる。

「んん?」

 不意に背後に聞こえた、地響きのような物音にミケが静かに振り返ってみせる。

「よぉ、グレイド。久しぶりじゃないか?」

「そ、その声は……」

 背後から聞こえる声に、グレイドがピクっと反応してみせる。にゃー? グレイドのお知り合い? じゃあ、きっとアブない人に違いない。

「カール、焼き鳥にされないように気をつけるんだよ?」

「くけー、焼き鳥になんかされてなるものかー」

 二人のやり取りを見ながらケラケラ笑ってみせる陽気なドラゴンの青年に、グレイドの表情が曇る。

「にゃー。グレイドのお友達?」

 好奇心旺盛にミケが尋ねてみせればグレイドが静かに頷いてみせる。

「奴は……オレの兄貴だ」

「オレはドラン。可愛らしい子猫君、君は?」

 グレイドとは打って変わって、妙に人懐っこい性格のドランに、興味津々なミケ。

「にゃー、ぼくはミケランジェロ……愛称はミケだよ」

「ミケ君か。よろしくね。それで、こっちの……」

 変な鳥と言い掛けて、慌てて言葉を呑むドラン。カールは仰々しいお辞儀をしながら挨拶してみせる。

「オイラはカールさ。よろしくなー、グレイドの兄ちゃん」

「カール君か。よろしくね」

 親しげに握手を求めてみせるドランに、嬉しそうに翼を差し出してみせるカール。

「それで、久しぶりに故郷に戻ってくるなんて、どういう風の吹き回しだい? 何か困ったことでもあったのか?」

 相変わらずにこにこ笑顔のドランに、グレイドは大きなため息。

「まぁ細かな話を抜きにして、目的だけ話すとオレ達は無人島に街を作ろうとしている。そこで建築技術を持つ故郷の仲間達の力が必要なんだ」

 グレイドの話を聞きながら、静かに頷くドラン。

「なるほどね。面白そうじゃないか? そういうことだったらオレ達も力を貸そう。未開の無人島に街を作るか……スケールのでかい話だな」

 嬉しそうに笑ってみせるドラン。見るからにパワフルな彼らの力を持ってすれば街づくりも、だいぶスムーズに進むだろう。ミケは期待に胸が弾んでいた。夢に向かって歩き出して、いよいよ手が届きそうなところまで、夢が訪れている。そんな現実を噛み締めながら、ミケ達は遺跡の街へと入っていくのであった。

 石造りの街並みは古き時代を感じさせる。味のある石造りの建物にミケは興味津々。ドランに案内されるままに、街へと歩んでいくのであった。

◆◆◆12◆◆◆

 港で船を借りたクマトリオはさっそく無人島に上陸するのであった。

「サンキュー、船長さんっ!」

「なぁに。お前さん達がやらかそうとしていること、オレ達も興味津々なんでな。手が必要なら何時でも声掛けてくれ」

 気の良いアザラシの船長に手を振るとクマトリオは、さっそく無人島の散策に乗り出した。何しろ人跡未踏の地。まともな状態のわけもなく「こいつぁー予想外に強敵ってわけか……」荒れ果てたジャングルのような森を見ながらスモーキーが乾いた笑いを浮かべてみせる。

「なんだか、恐ろしい地形だぜ、おい……」

 でこぼことした地形が目立ち、ジャングルのような森林とは対照的な荒れ放題の茂みは、とても、とても、整地に手間取りそうだ。こいつぁ本格的に大仕事になるぞ。ハスキーがお手上げポーズで笑ってみせる。

「水は……確保できるのかな?」

 周囲を見渡しながら、水の確保できそうな場所……川、泉、なんでも良い。水辺を探すターキーであった。森と、茂みと、それにでこぼこした地形。どこから手を付けたものか……。ターキーは思わず考え込んでしまうのであった。そんな沈んだ空気を吹き飛ばすかのようにスモーキーが立ち上がってみせる。

「こいつぁ、予想外に厳しい状況だ。ま、こうなることは予想していたがな。だが、オレ達は開拓者だ。悪条件の最中でも道を切り開く。それがオレ達さ」

 スモーキーの言葉に、ハスキーが、ターキーが頷く。

「ああ、そうさ。島全体が悪条件とは限らないさ」

「街を作るのに適した場所、そこを基点にしてそこから開拓を始めれば良いだけのことだもの。大丈夫。基本に忠実に設計していけば、きっと上手くいく」

 ふたりの言葉にスモーキーが力強く頷く。

「よし。まずは街作りの基点となる場所を探索しよう。ターキーの言うとおり、水を確保できる場所を基準にしよう」

 意外とアタリマエのことのように思えて、水の確保というのは重要なことなのである。大きな大陸ならまだしも、こういう小さな島に街を作る場合、ライフラインの確保は最重要課題になる。すなわち生活を送る上で必要最低限のもの。それも重要性の高いものほど優先順位は高くなる。

 水の確保……すなわち、上水道、下水道の確保は街作りの最も基礎となる部分のひとつなのである。

「よし。こうしていても埒が明かない。取りあえず島の中を散策してみることにしよう」

スモーキーの提案に、ハスキーが、ターキーが頷く。

◆◆◆13◆◆◆

 見事なまでの荒地、好き放題に生い茂ったつる草に苦戦するクマトリオ。

「こいつぁ、なかなかの強敵だなっ」

「ああ。こんなことだったら、何か道具を持ってくるべきだったぜ」

 足に絡み付いてくる、つる草に悪戦苦闘するクマトリオ。中にはイバラのようにトゲを持っているものまであって、もう大変ってな感じなのである。悪戦苦闘しつつ、茂みを抜ければ、目の前に広がるのはまるでジャングルの様なうっそうとした樹海。

「この辺りなんかどうよ?」

 引きつった笑いのスモーキー。

「涼しいかも知れねぇけど、こいつぁ、未知の生物とコンニチワなんて日常茶飯事だぜー?」

「それに、ここじゃあ、お洗濯ものは乾かないでしょ……」

 ハスキー、ターキーにあからさまな反応を見せられて「やっぱり?」と、笑ってみせるスモーキー。

 しかし、行けども、行けども、森は果てしない。地図に乗らないような島だから、小さな島だろうとクマトリオは考えてはいたが、予想は的外れ。なぜ、この無人島が今まで手付かずであっただけでは無く、地図にさえ載らなかったのか疑問がよぎる。

「それにしても、こんなにもでっかい島だとはな……」

「小さな大陸くらいあるんじゃないのか?」

「確かにね。かなり歩いているはずなのに、未だに森を抜けることもないし、海も見えてこない」

 単純に迷子になっているんじゃないのか? そう突っ込まれると、そうかも知れないのだが、方向感覚は誤ってはいないはずだとスモーキーは確信していた。もともと広大な山奥で生まれ育った彼らには独自の方向感覚が備わっている。

 道なき森をどれほど歩いただろうか? やがて木漏れ日にも似た光が見えてきた。

「お? 明るくなってきたぞ?」

 眩しそうに手で光をさえぎるスモーキー。

「うぉっ!? こいつぁ……」

「すごいよ……。ここだよ、ここしかないよっ」

 歓喜に打ち震えるハスキー、ターキーの言葉に慌てて目を凝らしてみせるスモーキー。

「おおっ!?」

 そこは、ちょうど切り立った崖……だが、その眼下に広がっていたのは、崖から流れ落ちる滝、豊かな清流を称えた川の流れ、今までの荒地が嘘の様な、柔らかな草原が広がっていた。風が吹く度に、草がさざなみのようになびいてみせる。

「ここだ……。ここなら完璧すぎるぞ……」

 興奮気味なスモーキー。

「ああ。この荒れ果てた島において、こんな場所はどこを探しても、ここしかないはずだと思うぜ。決まりだな?」

「水もあるし、ここは完全に平らな草原……。申し分ないね」

 嬉しそうに微笑んでみせるターキー。

「おおっ!? し、しかも、遥か彼方にではあるが……あの観覧車は、港町パムの遊園地じゃないかっ!?」

「ひゅう」

 スモーキーの嬉しい悲鳴に、ハスキーが口笛を吹く。

「こいつぁツイてるぜ。港町から一本橋……これから出来る街まで一直線だ。カンペキ過ぎるぜっ」

「苦労した甲斐があるってもんだよね」

 盛り上がるハスキー、ターキーを見つめながらちょっと困った表情を浮かべてみせるスモーキー。

「なぁ、兄弟よ……肝心なこたぁ、忘れちゃいないかい?」

「へ?」

 クマトリオの頬を冷たい風が撫でてみせる。

「……どうやって、あの場所まで到達するか? 中々の大問題じゃないか?」

「あ……」

 そう。ここは崖っぷち。そんでもって、ここに来るまでに通ったのは茂みと、うっそうとした森。さて、どうやって目的地まで辿り着くか? 必死で知恵を絞り始めるクマトリオであった……。

 まだまだゴールまでは遠そうな感じがする。人生そんなにナンチャッテで、上手くいくものではない。クマトリオは、改めて過酷な現実を目の当たりにするのであった。

◆◆◆14◆◆◆

 農業の村を抜けて、ひたすら走り続けるリドルとティガ。次第に気温が低くなってくる。あれよあれよという間に、あたりは何時しか白銀の世界へと姿を変えているのであった。

「ううー、ウワサには聞いていたけれども、まさか、こんなにも寒いとは思わなかったよ……」

 凍り付きそうな手を必死でこすり合わせるリドル。ティガもまた、この寒さで手足が凍り付きそうになっていた。

「くそっ、肉球が凍り付きそうな寒さだ……」

 自慢のヒゲまで凍り付いているティガの姿に、この寒さの恐ろしさを垣間見るリドルであった。

「あ。あれがスノーマンの村だね……」

 体の芯まで冷え切りながらもリドルとティガは必死でスノーマンの村を目指した。村は白銀一色。屋根も、家も、みんな真っ白。住んでいるスノーマン達も真っ白だからただただ真っ白なのである。

「り、リドル。は、早いところ、何処かで暖まろうぜっ」

「そ、そうだねっ。この寒さじゃ、凍ってしまうよっ」

 もはや限界に近づいているコンビは、取りあえず手身近な場所で暖まろうとさっそく村の人に話を聞いてみることにした。

 真っ白な村を訪れた巨体の虎にスノーマンは興味津々。呼んでもいないのに何時の間に集まってくる。

「これは、これは、素敵なお客様」

 スノーマンのひとりが話し掛けてきた。なにしろ、みんな帽子とマフラーを除けば誰が誰だか見分けがつかないから恐ろしい。リドルは精一杯の笑顔を作ってみようとするが何しろこの寒さ……顔が凍り付いて動きやしない。

「あ、そうか。君達は外の街から来たお客さんだものね。雪が降りしきる、こんな場所では凍えてしまうよね。お客人仕様の家に案内します。ぼくに着いてきてくださいな。ささ、こちらですので。滑らないように……」

 スノーマンに案内されるままにリドルとティガは、例によっての白い家に案内された。

「わぁ……。暖炉があるよー、暖かーい」

 ティガの背から飛び降りると、嬉しそうに笑ってみせるリドル。嬉しそうに走り去ってゆく足跡を、雪が静かにかき消していく。ティガとリドルが家に入ると、音もなく、ひとりでに戸が閉まった。

 暖炉の前で丸くなってみせるティガ。のどをゴロゴロと鳴らしてみせれば、思わず失笑のリドル。ティガって時々猫みたいな時があるんだよね。リドルに見つめられていることよりも、ぬくぬくした暖かさに、すっかりご満悦のティガ。リドルは静かに話を切り出してみせる。

「以前この街を、ぼくの仲間のクマのお兄さん達が訪れたことがあると思うんだけど、今日はね、お話があって……」

 リドルが言い掛けたところで、スノーマン達は、キラキラと輝く楽器を取り出してみせる。目映く輝く楽器に言葉を失うリドル。ティガも興味深そうに覗き込んでみせる。

「これは、ぼく達の作った楽器」

「うわぁ……。きれいだね」

「氷で出来ているんだよ。持ってみる?」

 にっこり微笑むスノーマン。冷たく輝くホルンを、そっと差し出してみせる。透明な楽器は、光の加減で虹色を放つ不思議な楽器。

「うわぁ、冷たい……。あ、でも不思議。溶けないんだね」

 不思議な氷の楽器に興味を示すリドル。嬉しそう微笑んでみせるスノーマン。

「ぼくらは、みなさんを誘いに来たんです」

「え? ぼく達を?」

 スノーマン達が楽器を手にしながらきょとんとしてみせる。リドルは臆することなく続けてみせる。

「その素敵な楽器、この雪の降る街では聞かせてあげられる相手もいないでしょう? それじゃもったいないと思うんだよね。ぼく達は新しい街を作っているんだ。そこで、その楽器を披露できれば、素敵じゃないかな?」

 リドルはにっこり微笑んでみせる。スノーマン達はうきうきした表情で話し合いをはじめてみせる。そして、リドルに向き直ると、静かに手を差し出してみせた。

「よろしくお願いしますね。ぼくらはコンサートホールを作りたいと思います。もしくは、オペラ劇場のような大きな音楽施設を。そこでならば、きっと、ぼくらの音楽も楽しんで貰えるかと」

 リドルは嬉しそうに微笑んでみせる。

「ありがとう。街が完成する頃、きっと、必ず、お迎えにくるからね」

 リドルの言葉に、スノーマン達が頷いてみせる。

「そうだ。せっかく、こんな寒い街まで来てくれたんですから、ぼくらの音楽、楽しんでいってくださいな」

 スノーマン達はリドル達を雪の降りしきる外へと案内しようとした。嫌がるティガの首を引っ張りながら、リドルも後に続く。

◆◆◆15◆◆◆

 白銀の世界……雪が降りしきる中。スノーマン達は手に、手に楽器を取ると、静かに空を仰いでみせる。ヴァイオリンを持ったスノーマンが、弾き始めたのをきっかけにホルンが、フルートが、ギターが、パーカッションのスノーマンが動き出す。雪の空に響き渡る、幻想的なオーケストラ。寒空の下、寒ささえも忘れて、リドルは聞き入っていた。ティガもまた静かに瞳を閉じながら、見事な音色に聞き入っていた。何時しか雪も止んでいた。そして、静かになった空には……。

「わぁ……」

 思わずリドルが声をもらす。大空に輝くオーロラ。緑や青に色を変えながら、キラキラと輝いていた。その幻想的な光景にリドルが、ティガが言葉を失う。夢のような美しさ……。時を忘れて見入ってしまうリドルとティガを誘うかのように、スノーマン達が楽器を奏でてみせる。リドルとティガは、この素敵な一時をしばらく楽しむことにしよう。そう、心に願うのであった。

◆◆◆16◆◆◆

 ミケ達は遺跡の街を探索してみることにした。石造りの建造物は赴きがあって、ミケにとっては興味の尽きない場所なのであった。

「ドラゴンさん達って大きい人多いんだね」

 ミケの言葉にクスクス笑ってみせるドラン。

「グレイドはオレ達の中では、小柄な方に入るな」

「えー!? だって、グレイドって背、高いし、ぼくらと比べても、ずーっと体だって大きいし」

「確かにミケくん達、ほかの種族の人々からするとドラゴン達は、とても大きく感じられるのかも知れないね」

 相変わらずにこにこ笑顔なドラン。石造りの、長い階段を登りながらドランは尽きることなく、街の話をしていた。この街の歴史……山の斜面を開拓して、整地して、街を作ったこと。土台を組み上げて、基礎をつくりあげ石造りの街を創り上げたこと。ドラゴン達の桁外れたパワーの話。実にドランは良く喋る青年だと、ミケは今更ながら思った。

 なるほど。どこかクールなグレイドとは相性が合わないわけだと、ミケはグレイドを覗き込んでみせる。

「ん? なんだ、オレの顔に何かついているか?」

 あからさまに、憮然とした口調のグレイド。ケラケラ笑ってみせるカールに、静かに豆鉄砲を放ってみせるグレイド。

「さてっと。そろそろだな」

 そろそろ長すぎる石段に、うんざりしてきたミケ達の目の前に、どこか厳かな感じのする石造りの建物が見えてきた。

「ねぇ、ドラン? ここは?」

「ここか? ちょいと手強いのが相手だから、気をつけるんだぞ?」

 ケラケラ笑ってみせるドランの言葉に何か不穏な空気を感じるミケであった。

「ま、取りあえず入ってみようぜ」

 ドランに導かれるままに、ミケ達は立派な石造りの建物の中へと入っていった。

 庭では、何やら唐辛子を育てているのか? 真っ赤な実が目に付く。この家の人ってよほど辛い物が好きなのかな? そんなことを考えながらミケは庭を歩いていた。

「さてっと……グリン師匠。ドラン、戻りましたー」

 ドランの声に気付いたのか、家の中から、一人のドラゴンが現れた。真っ赤な色のうろこは辛い物を食べ過ぎたせいなのかな? 妙なことを考えてみせるミケ。

「ほぅ。グレイドも一緒か……」

「はい……。お久しぶりでございます」

 珍しく、畏まった態度のグレイド。傍らに控えるミケを見つめながら、何かを感じ取ったのか、グリンは静かに頷いてみせる。

「ほぅ? では……この子が?」

 グレイドは静かに頷いてみせる。

「見たところ、まだまだ幼い少年のように思えるが?」

 グリンの言葉に反論するかのようにグレイドがグリンを見上げてみせる。

「師匠、お言葉ながら……この少年、ミケは確かに幼い少年であります。ですが、大志を抱く心の大きさは私の想像以上。我らが作戦も、ミケの助力により大きく躍進しました」

 作戦? 妙にきな臭い言葉にミケが警戒する。いったい何の話だと言うの? それに、グレイドは……単純に、ぼくのトモダチではないの?

「ねぇ、グレイド、ぼくは……?」

 不穏な空気を感じ取ったのか、不安そうな表情をみせるミケ。

「そうだったな。お前には話してなかったな。この街を見ても判るとおり、オレ達は建造物に関してはその才を存分に発揮しているのだ。だが、オレ達のように、建造物を学ぶ者達には哀しいが、中々実践の場はなかった。それで、オレは考えた。新しい街……それも未開の地にオレ達の修行の成果を活かせるような街を作ってみたい、とな」

 グレイドの話に、ミケは、ほっと一安心。同時にスケールの大きな話に、わくわくしてきた。

「グリン師匠、我々の夢は……ミケのおかげでなんとか実現できそうなところまで来ています。そこで、私からお願いがあるのですが……いかがでしょうか?」

 グレイドの言葉に興味を示すグリン。ドランも興味津々な態度を見せてみる。

「ミケの夢は……世界一周の旅。しかし、陸路や、海路を経て世界一周の旅をするのではあまりにも危険と困難とが多過ぎます。そこで、私の研究物の中のひとつに、かつて古代の時代に存在したとされる『気球』と呼ばれる乗り物があります。この乗り物があれば、世界一周の旅も可能なものとなるでしょう」

 グレイドの言葉に、グリンが静かに頷く。

「良いだろう。グレイドよ、これまでの研究成果を……この、ドランに示してやってくれまいか?」

「そうそう、オレに……って、えぇー!?」

 腕組みしながら頷いてみせたドラン。慌てて飛び上がってみせる。

「なに。お前の腕ならば可能なはずだ。一人では不可能ならば、人は手配しようではないか」

 にやりと笑ってみせるグリン。ミケが嬉しそうに喜んでみせる。

「よろしくねっ、ドラン」

「頼まれちゃ仕方ない。必ずや、作ってみせるからな」

 ミケに誓いの握手をすると、ドランは嬉しそうに笑ってみせた。

「さて……こちらの方の話は我々で承った。街作りに関しては、人は手配済みだ。集会所に集めさせよう。グレイドよ。お前達は一足先に集会所で待つのだ」

 グリンの言葉に、静かに頷くとグレイドはミケ達と共に、街の集会所を目指すのであった。永きに渡る夢が実現しようとしている。ミケの心はただただ弾むばかりであった。

◆◆◆17◆◆◆

 どれほど迷い続けたのだろうか? クマトリオは、やっとの思いで崖下へと到達できた。

「ああ、しんどすぎだ……」

 大きなため息のスモーキー。

「スモーキーが変な道を選ぶから、坂道を転げ落ちるわ、落石に遭遇するわ、挙句の果てには危険な斜面から滝つぼへ転落だなんて……」

 しかめっ面をしながら、抗議してみせるターキー。まったくだぜ、とハスキーが腕組みをする。

「何時もながら、お前の無謀さには呆れさせられるぜ……」

「そんなに褒めるなよー」

 けらけら笑ってみせるスモーキー。

「褒めてないっ!」

 噛み付きそうな表情のハスキーとターキー。

「さてっと。気を取り直して……まずはどこから手を付けるか考えることにしよう。そうだな……ハスキー、まずは整地の準備を頼む。ターキー、この辺りを探索して食料になりそうなもの探してきてくれないか? オレはもう少しこの辺りを探索してみることにしよう」

 スモーキーが手早く指示を出せば、それに呼応するかのように、ハスキーが、ターキーが動き出す。

「整地のほうは任せておきなっ」

「ぼくはこの辺りで手に入りそうな食材を探してみる」

 ハスキーは周囲を見渡してみた。

「背後には滝か……水に困ることは無さそうだな。それに、この辺りは土壌もしっかりしている。街の規模から考えると、少々森を崩す必要もあるかもな」

 ハスキーは向かって右側の少し小高くなった森を見つめていた。

「開拓した森の木々は……街づくりにも役立つな。よしっ、カンペキだな。海も近いから、風も通るな。風光明媚な街になりそうだな。後は……そうだなぁ、滝の周辺が崩れないようにしないとな」

 ハスキーは滝を見上げながら思案していた。水量はかなり多い。となれば、この水を引けば水車なんかも作れるはず。海から吹き付ける風も強い。風車を作るという案も可能になるな。

 厄介なのは、ここは島……。風水害のダメージは大きいな。整地をする際には、ある程度、地盤の補強は必要そうだな。ハスキーは思案しながら、辺りを探索してみることにした。しかし、これだけ広大な場所を果たして、三人で開拓することが出来るのか? 一抹の不安を抱えつつ、ハスキーは整地の準備を黙々と続けていくのであった。ま、なんとかなるでしょ。そんな安直かつ、微妙に他力本願なことを考えつつ。

 ターキーは周辺の土の様子を、手で確かめながら満足そうな表情をみせる。

「土壌はしっかりしているみたいだね。これならば、きっとおいしい野菜が育つはず」

 土に関しての問題は無さそうだなっと。安心した表情のターキー。

 目標地点の近くはぐるりと山に囲まれた感じ。確かに、この辺りは荒れ放題で、凄いことになっているけど、おいしそうな香りはしているんだよね。ターキーは周囲の木々や草に注意を払いつつ森の中へと入っていくのであった。

「やっぱり、うっそうとしているからちょっと湿気が強い感じがするね。あ、良いもの発見しちゃった。きのこだね」

 見たことがないきのこに興味を示すターキー。

「うーん。このきのこは本で見たことあるな。名前は忘れちゃったけど、食べられるきのこのはず」

 ふーん。なるほどね。この湿気の多い、薄暗い森では、きのこが育ちやすいんだね。これは食料としては、意外と有効かも知れないかも。ターキーは、ほくほく笑顔で日当たりの良さそうな森の中の、別の場所を探し求めて見ることにした。

「ふーん。木が密集していない場所は、それなりに日当たりは良さそうな感じだね」

 日当たりが良い場所は、纏わり付く様な湿気は感じられない。海からの風と柔らかな日差しが心地良い。ターキーは大きく背伸びをしながら空を見上げてみた。

「うーん。良い風だね。日差しも暖かい。なんだか眠くなっちゃうくらい、気持ち良い場所だね」

 こんな素敵な場所なんだもの。きっと、色んな木の実も採れるでしょう。ターキーはきょろきょろと辺りを見回しながら、何か食べられそうな木の実を探してみた。

「お。良いもの発見しちゃった」

 嬉しそうに笑いながら手を伸ばしてみれば、大ぶりなアケビの実。もっと探索してみようっと。ターキーはパタパタと歩きながら、森を散策するのであった。

◆◆◆18◆◆◆

 スモーキーは小高い丘に立ってみた。島全体を見渡すのは少々無理がある。とは言え、出来るだけ島の様子を掌握しておきたい。

「ううむ。ここは島という規模の大きさではないな」

 見渡してみた感じから判断しても、小さな島には到底思えない程に、敷地面積があるように思えた。丘を降りて、海辺へと歩を進めるスモーキー。

「なるほど……。浜辺もあるのか。切り立った崖が多いが、こんな場所もあるとはな」

 意外な発見にスモーキーは心をときめかせる。ここに降りられる場所は、かなり限られそうだが、きれいな海だな。こいつぁ漁船とかも出せるかも知れないな。船乗りだったら、港町パムの連中をかき集めれば良い。潮風を楽しみながら、砂浜を歩んでみるスモーキー。

 切り立った崖が多いせいか岩肌が見える場所も多い。まさに断崖絶壁といった感じである。

「ひゃー。こいつぁ見事だ。ここから落ちたら、間違いなくぺちゃんこだなっ」

 笑いながら岩山の下の方を見た時に、スモーキーの視界に、興味深いものが飛び込んできた。

「おお? これは……洞窟か?」

 波と風にさらされて、岩山が削られたのか? ぽっかりと開いた洞窟はかなり深そうだった。

「ふむ……。これは興味深いな。中は……かなり深そうだな。何か妙なモノがあってもたまったものでは無さそうだが……むう。興味はそそられるな」

 スモーキーは好奇心に身を任せながら、洞窟の中へと進んでいってみるのであった。ひんやりとした風が吹き抜けていく。

「ふーん。こんな感じなのか。そういや、ここ……洞窟にしちゃ明るいな……」

 不思議に思いつつ、洞窟の天井を見てみれば淡い色で、光り輝く苔が目に付く。

「こいつぁ、本で見たことしかないが……光苔って奴か。こりゃあ、珍しいものがあるもんだ。さすがは人跡未踏の無人島。面白い発見だな」

 興味深そうに頷くスモーキーの耳に不思議な音が聞こえてきた。

「ん? 何の音だ? 海辺の方からだな」

 スモーキーは洞窟の散策を一端中断すると、不思議な音の聞こえてきた浜辺を目指した。

 イルカ達が、浅瀬で遊んでいるのが目に付いた。

「ほほぅ。ここはイルカ達の遊び場かぁ」

「あ、みんなー、見て、見てー」

「わぁー。人がいるよー」

 スモーキーに気付いたのか、好奇心旺盛なイルカ達は遊びを止めて、スモーキーに近寄ってくる。一瞬たじろぐものの、そこはスモーキー。新しいお友達との出会いにわくわくしてしまう。

「こんにちは、イルカくん。オレはスモーキー」

「ぼく、カルー」

 ちょこんと手を出すイルカのカルー。陸の人に興味があるのか、カルーは嬉しそうにしている。

「ねぇ、スモーキーは陸の人でしょ? 子猫のミケ君って知らない? この間、お友達になったんだ」

 にこにこ微笑むカルー。

「ミケなら、オレ達の仲間さ」

「ほんとー? ミケくんのお友達なんだ。じゃあ、ぼく達ともお友達ってことになるよね」

 嬉しそうに笑うカルーの後ろで、イルカ達が唄ってみせる。

「ほほぅ? 見事な歌声だ。オレ達も楽器を使えるんだ」

「オレ達? 他にもお友達いるの?」

「ああ。オレの兄弟みたいな奴らだ。そうだ。ちょっと待ってな。オレの仲間を呼んでくるからさ。一緒に遊ぼうぜ?」

 スモーキーの言葉に、ますます嬉しそうなイルカ達。イルカの唄は実に素晴らしいと聞いたな。こいつぁ、楽しいセッションが出来そうだ。だが、それ以上に……こいつらは、海の住人だ。港町と、この島との間の橋……もしかしたら、力になってくれるかも知れないな。よーっし、取りあえずは、お友達になっちゃうぞ。スモーキーは、大急ぎで二人を探しに行くのであった。

◆◆◆19◆◆◆

 ティガの背にまたがったリドル。スノーマンの村を抜けて山道を駆け抜ける。

「ちょっとティガ、もうちょっと穏やかに走れないのっ」

 何しろ、凄まじい山道。道なき道を駆け抜けている上に、かなり霧が濃くなってきている。派手な岩肌に苦戦するティガが、睨みを利かせる。

「だったら自分で走ったらどうだっ!?」

 ティガに吠えられて、ますますご機嫌ナナメのリドル。

「なんだってー!? だいたいね、こんな山道を抜けようとするから、こーんな大変な目に遭うんじゃないのさ。そもそも近道だからなんて、何処にもそんな……っ!?」

 言い掛けてリドルは言葉を呑んだ。不意に目の前を白い影が横切ったような……?

「それで、その続きは何だ、リドル!?」

「い……今、何か、変なの通らなかった?」

 怯えた表情のリドルに対し、威嚇の表情を緩めないティガ。だが、不意に誰かに肩を突付かれて振り返る。

「なんだ!? 今、お取り込み中だっ!」

 吠えるティガの目の前には、白い布をすっぽりと被った……。

「はぁーい」

 陽気な口調のお化けだった。

「きゃー! 出たーっ!」

 思わず二人揃って悲鳴を挙げる、リドルとティガ。慌てて逃げ出そうと、大急ぎで走り出そうとするも……。

「な、なぁ、リドル? 次の目的地は……」

「えっと……あ!」

 言い掛けて言葉を呑むリドルであった。

「次の目的地は、確かゴーストタウンだったな……」

「お化けが出るのは……アタリマエってこと?」

 二人揃って、妙なため息がこぼれてしまう。まったく、ぼくらって、何やっているんだろうって感じ。ゴーストタウンに向かっているんだから、お化けがいない訳がないのにね。

 恐る恐る先ほどの場所に戻ってみれば、白い布のような、お化け達がダンスダンスしている。微妙に拍子抜けなリドルとティガ。

「な、なんか……調子狂っちゃうよね……」

 失笑するリドル。

「今風のお化けは、唄って踊れるものなのか?」

 吐き捨てるかのような口調のティガ。まぁ、ひとまず、この妙なお化け達にゴーストタウンへの案内をお願いしようと考えるリドルであった。

◆◆◆20◆◆◆

 踊り回っているお化けの、布の切れっ端に手を掛けるリドル。一瞬、動きが止まる。そして、静かに振り返ると、ケケケと笑ってみせる。

「な、何なんだよ、こいつら……」

 毒づくティガの目の前で、指をチチチとやってみせる。おちょくられたことに腹を立てるティガ。鼻にシワを寄せて怒りを露にする。しかし、お化け達は動じた様子さえ見られない。

「ぼく達ゴーストタウンに行きたいんだ。だけどね、道に迷っちゃったんだよね。親切なお化けさん達、ぼくらを案内してくれない?」

 リドルの言葉に反応するかの様に、お化け達は円陣を組みながらくるくるとリドルの頭の上を回ってみせる。ふわふわと揺れながらリドルを手招きしてみせる。

「あはっ。案内してくれるの?」

 嬉しそうなリドルの言葉に、親指をグっと立ててみせるお化け達。こいつら、妙な奴らだけど、結構面白いかも。リドルは興味津々にお化け達の後を追うことにした。

 なんとも言いがたい不思議なお化け達に、いつしかリドルも、すっかり陽気な気分。さっきまで、あんなにも怯えていたのがうそのようにお化け達のリズミカルな手拍子に、ノリノリ気分で踊ってみたりなんかしている。

 微妙にテンションの上がらないティガは、冷めた表情でリドルを見上げてみせる。まったく、なんでこんなへんてこりんな奴らと……ぶつぶつ文句を言っていれば、お化けにヒゲをひっぱられて、思わず身構える。

「な、なにしやがるっ!?」

 体中の毛を逆立てるティガを見つめながらケラケラ笑って見せるリドル。

「んもう、ティガったら。そんなに怒っちゃ駄目だよー」

「オレはお前達、お子様とは違うんだっ!」

 やれやれと言った表情のリドル。

「ホントはお子様なのに、格好つけちゃってー」

 茶化すリドルに、ますますお怒りモードなティガ。だが、ここでムキになれば、ますます小バカにされる。わざと平常心を装おうとすればするほどに、ふわふわと飛び回るお化け達に苛立ちがつのる。

「ガァーっ! うっとうしいっ!」

 怒り狂うティガと追いかけっこしながら、リドル達はゴーストタウンへと到着するのであった。

◆◆◆21◆◆◆

 妙に静かなゴーストタウンは、お化けの住む怖い街と言うよりも、隠れた夜の酒場と言った感じの、どこかクールな雰囲気があった。

「わぁー。なんか落ち着いた感じが、どこか格好良い街だよね。お化け達も、なかなかにシャレているんだね」

 趣味に合うのか? やたらと目を輝かせるリドルに、お疲れモードなティガが付き従う。妙なお化けにからかわれるわ、なんだわで、すっかりくたびれたと言った顔をしてみせる。まったく、子守も楽ではないってな。

 不意に周囲に黒い霧が立ち込め始めた。

「な、なに!?」

 霧に続いて、口笛が響き渡れば、刹那……ハイテンションなビートが響き渡る。暗い雰囲気は一転して、スーパーユーロビートが響き渡る。

「Are you Ready !?」

 どこからか甲高い声が聞こえてくると同時に派手なライトが街を照らし始める。

 くるくるっと、黒いつむじ風に誘われて現れたのは黒いローブに身を包み込んだ、妖艶な女性であった。

「こんにちは、お客様?」

 いきなりのことに呆然とするリドルの目の前で指をパチンと鳴らせば、紙切れのコウモリ達が踊りだす。

「私はヴァンパイアよ。小さなお客様、あなたは?」

「ぼ……ぼくはリドル。えっと、こっちがティガ」

 うやうやしく挨拶をしてみせるヴァンパイア。まるでミュージカルの一節でも見ているような感じだ。放っておくと、このノリノリな、ダンスビートに呑まれてしまって、話になりゃしなそうな気がした。リドルはダンスビートの誘惑を振り払うと力強くヴァンパイアに向き直ってみせる。

「ぼく達は新しい街を作ろうとしているんだ。かつて、この地をクマのお兄さん達が来たでしょ?」

 リドルの言葉に、パチンと指を鳴らしてみせるヴァンパイア。

「やはり神の思し召しだったのね」

 ロザリオを見せびらかしながら、微笑んでみせる。

「あたしはシスターに憧れるヴァンパイアなの。この街は十分に楽しんだわ。だから、新しい街でも、あたしはシスターとして神の教えを広めていくのが、与えられた使命なのよ」

 にっこり微笑むヴァンパイア。ティガが思い切り引きつった笑いをみせる。

(おいおい……このダンスビートが神の教えってか? 冗談キツすぎだっての。でも、こんな面白い神様なんて奴がいても悪くないかもな。辛気臭いだけの宗教なんてツマラナイからな)

「教会……。きっと、新しい街にも作るって約束するよ」

「まぁ、素敵っ。是非とも、活躍させて貰うわ。それはそうと……せっかくこの街に来たんですもの。みんなで、一緒に楽しくダンスパーティーでもいかが?」

 ヴァンパイアの誘いに、嬉しそうに頷くリドル。やれやれと言った表情のティガ。だが、まんざらでも無さそうな感じも伺える。同じアホなら、踊らなにゃ損々ってかぁ? もう後は野となれ、山となれー。気が付けば、ティガもすっかりダンスビートに酔い痴れていた。少々季節外れな感はあったが、陽気なハロウィンにリドル達は、すっかりハマってしまうのであった。

◆◆◆22◆◆◆

 石造りの街並みの中で、ちょっと浮いた感じのログハウスみたいな集会所。ミケ達はドラン達の到着を待っていた。

「にゃー。木の香りが素敵だねぇ」

「このログハウスは、ドランが建てたものだ」

 グレイドが皮肉った笑顔で静かに笑ってみせる。

「雨漏りはするわ、すき間風は吹き込むは、まぁ、なんとも粗雑な作りではあるがな」

「……わ、悪かったなっ」

 不意に戸口から聞こえてくる声に、思わず振り返ってしまうグレイドであった。

「おや? 聞こえていたのか?」

 わざとらしく笑ってみせるグレイドにふんぞり返ってみせるドラン。この兄弟、これで結構仲良さそうだなぁ。ミケはちょっとうらやましく思いながら二人を見つめるのであった。

「さてっと。助っ人達は用意してきた。と言っても、さすがに全員を連れてきたのでは、この集会所がパンクしちまうからな。取りあえず主要な面子だけを集めてきた。問題ないよな?」

 ドランの問い掛けにグレイドは静かに頷いてみせる。

「それでは、はじめようか」

 グレイドの言葉に呼応するかのようにドラゴン達は椅子に腰掛けてみせる。小柄なミケからしてみればドラン達は、見上げてしまうような大きな奴らばかり。ドラゴン達もまた、小さなミケになにやら興味津々な様子。

 それもそのはず。外からの来訪者が、こんな可愛いお客さんとは誰もが予想しなかったであろう。一体どんな物語が聞けるのかと、一同、聞き耳立てる。

 ミケは、自分の何倍もあろうかという巨体のドラゴン達を前にしても臆することなくゆっくりと皆の顔を見上げて見せた。

「ぼくはご覧の通り、小さくて非力な子供です。でも、だからこそ、誰にも真似できないような夢を持っています」

 ドラゴン達は、ますます興味深そうに小さな仔猫の少年の言葉に耳を貸すのであった。

「何時の頃からか、ぼくは港町で暮らしていました。パパもママの顔も知らないぼくに、街の人達は優しくしてくれました。ぼくは自分が産まれたことさえ詳しくは知らないんです。寂しくなんてなかった……なんて言ったら、うそになっちゃう。気が付けばそこには、変な奴だけど、兄弟みたいなカールがいました」

 ミケの言葉に思わず涙があふれてくるカール。何時もの調子で明るく笑い返してみせれば、ミケも微笑む。

「ぼくを弟の様に可愛がってくれたグレイドもいました」

 ミケに見つめられて、静かに頷いてみせるグレイド。

「ぼくは世界を見たい。この世界は、きっととても、とても大きいのだと思う。だから……ぼくみたいに、小さな子供でも、何処までのことが出来るのか、確かめてみたいんです。人は一人では生きられないって知りました。だから、どうか、ぼくに力を貸してください。最初は冗談半分で始めた旅が、今は多くの仲間達を動かしています。これはもう、ぼくだけの物語じゃないのです。みんなの……みんなの物語になっているのです。だから、どうか、どうか……! ぼくに手を貸してください。みんなのためにも!」

 予想外に立派に話をしてみせるミケに、ドラゴン達は誇らしげに立ち上がってみせる。

「グレイド。オレはこの少年に賭けてみたい。心からそう思えたからな。確かに、ミケは体は小さいが、その夢は実に大きなものだ。よしっ、ミケ。今日からオレ達も、お前の仲間だっ!」

「うんっ、よろしくね」

 嬉しそうに手を差し出すミケの小さな手を、優しく握ってみせるドラン。振り返れば、ドラゴン達も力強く頷いてみせる。

「話は決まったようだな。それでは、必須となる木材の調達を進める。ミケ、オレ達はジャック達の協力を得にいくぞ。ドラン、皆を連れて目的地へと向かってくれ。これが地図だ」

 グレイドから地図を受け取ると、ドランが力強く号令を掛ける。一斉に大空へと羽ばたいていくドラゴン達を長老が静かに見つめてみせるのであった。

「グレイドよ……後はまかせたぞ」

「任せておいてください。ミケ、草原へと向かうぞ。ミックを呼んでおいた」

 嬉しそうに駆け出すミケ達を見つめながら長老は静かに微笑んで見せるのであった。彼らの進むべき道に、光あれ、と。

◆◆◆23◆◆◆

 大体こんなところだろう。ま、ひとりで出来ることなんていったら、せいぜい下見と地形の把握、簡単な下準備が限界ってもんだ。ハスキーは満足そうに空を見上げてみせる。

「ふぅ。ここは海からの風も気持ち良いな」

 涼んでいるハスキーの背後に人影。そっと振り返ってみせれば大収穫のターキー。

「こいつぁ、大漁じゃないか?」

「この辺りは、適度な湿度を保つ森と、日当たり良好な海沿いとで、申し分ない地形構成だよ」

 食べる? とばかりに、差し出してみせるあけびを受け取ると、嬉しそうに笑ってみせるハスキー。

「天気も良いし。なんだか良いことがありそうな気分だ」

 ハスキーが大きく背伸びしてみせる。不意にターキーが耳を済ませてみせる。

「んー? どうした?」

「ねぇ。今、スモーキーの声が聞こえなかった?」

「そういや、あのバカ、何処行っちまったんだ?」

 訝しげな表情をみせるハスキーの耳にしっかりと聞こえてくる、スモーキーのギターの音色。こりゃあ、何か面白い発見があったに違いない。ハスキーとターキーは音を頼りに、坂道を駆け下りていく。

 浅瀬に乗り上げながらも、相変わらず陽気なイルカ達。

「お。来たようだな」

「わぁ。あの人達がスモーキーのお友達?」

「ああ、そうさ。よぉ、早かったな」

 にこやかに微笑んでみせるスモーキー。それ以上に、イルカ達を目にしてキョトンとするハスキーとターキー。

「……新しいお友達ってか?」

「そうそう。オレの交友関係は海にまで達したぞ?」

 自慢げに胸を張ってみせるスモーキーに、微妙に呆れた苦笑いのハスキー。

「こんにちは、イルカさん」

 あんまり動じないターキー。さっそくイルカ達に話し掛けてみせている。

「さっきな、あそこに見える洞窟を探索していてこのイルカ達と出逢ったのさ。いやぁ、運命的だろう?」

「ぼくはイルカのカルーだよ」

「オレはハスキーだ。よろしくな」

「ぼくはターキー。仲良くしようね」

 軽く握手をしながら、打ち解け始めるイルカ達とクマトリオ。

「ありがたいことに、港町とこの島をつなぐ橋の建設にご協力してくれるってことなんだよ」

「マジで?」

 驚くハスキーを尻目に、陽気に踊ってみせるイルカ達。

「ぼく達イルカは、陸の人とお友達になりたいんだ」

「この島に人が一杯来るなんて、楽しみじゃない?」

 妙におしゃべりなイルカ達に、思わず目を白黒させるハスキー。

「ぼく達も、山の出身だから海のお友達、大歓迎だよ」

 にこやかに返すターキー。

「そういや、スモーキー達は音楽好きなんでしょう?」

「イルカの唄、聴いたことないでしょ?」

「一緒に唄おうよ。お友達になった記念にさっ」

「そうだな。よし、演奏は任せておけって」

 スモーキーが陽気にギターをかき鳴らせばハスキーが、ターキーが後に続く。陽気な音色に、イルカ達の歌声が乗って見事な旋律を織り上げていくのであった。寄せては返す、さざ波の音。砂浜の爽やかさに青空と歌声が溶け合っていくのであった。

 スモーキー達の心はひとつになろうとしていた。そう。偶然とは言えない曲を演奏しながら。

 懐かしい音色を奏でながら、三人はあの日を思い出していた。夜明け前の村を、そっと後にしたあの日を。不安と期待の入り混じった、複雑な心境で迎えたあの日、あの時、あの一瞬。やっとここまで来たんだな。退屈な暮らしに飽き飽きし、何かを求めて旅立ったあの日。漠然とした希望ではあったが、目的地なんて何処でも良かった。ただ、歴史に名を残すようなでっかいことをしてみたかった。スモーキーはギターを奏でながら、力強く感じるのであった。しっかりと踏みしめている大地の感触を。そして、それは夢でも幻でもなく、今、現実のものになろうとしているのだと。もう少しだ。もう少しで、オレ達の夢は実現する。希望の新天地。きっと何か新しいもの、見つけてみせるさ。何時も以上に熱いスモーキーに気付いたのかハスキーが、ターキーが力強く微笑む、頷いてみせる。

◆◆◆24◆◆◆

 賑やかなダンスビートの興奮冷めやらぬリドル達であったが、次の目的地を目指して駆けるのであった。心なしか、妙にリズミカルなティガの走りっぷりは、不安定そのもので、背にまたがるリドルは怖くて仕方が無かった。

「ちょっとティガ、ちゃんと走ってよ。危なっかしくて仕方が無いじゃないのさ?」

 リドルの抗議も聞こえやしない、ノリノリなティガであった。寒々とした雪原を抜けると、やがて緑の絨毯。ますますアップテンポなティガなのであった。

「最後の目的地は砂漠の果て、自由市場の街だな」

 駆け抜けるティガ達を見送るように景色は目まぐるしく移り変わっていく。美しい草原は、次第に砂漠の様相へと変わってゆく。

「ふぅ。暑くなってきたね……」

 額ににじむ汗を拭ってみせるリドル。暑さに弱いティガも、ややスピードを落としながら走り続ける。

「砂漠は暑いからキツいな。だが、ここを抜けなければ自由市場へは辿り着けない」

 不平そうに吐き捨てるティガの言葉に静かに頷いてみせるリドル。ちょうど、リドルの視界に砂漠を横切る白い民族衣装の集団が入ってきた。

「あ。あれはキャラバン隊じゃない?」

「んん? おお、あの時のキャラバン隊か。これは良い。一緒に砂漠を抜けさせて貰うとしよう」

「そうだね。ぼくらだけじゃ、また迷子になるかも知れないからね」

 ティガは茹だるような暑さを振り払いながら、緩やかな斜面を駆け下りていくのであった。斜面を駆け下りながら、キャラバン隊に声を掛けるなんてなんだか、山賊にでも間違われそうな気もするけど……。ちょっと不安に思いつつも、リドルとティガは駆けていくのであった。

 砂煙を巻き上げながら、走りこみ……というより、転げ落ちているようにしか見えないリドルとティガのコンビに、思わず飛び上がるキャラバン隊。

「な、何奴!?」

 戸惑いながらも、身構えてみせるキャラバン隊。砂嵐に包まれながら、疾風の勢いで飛び込んでくるリドル達。

「ううーん。目が回る……」

「あ、あら? アナタは?」

「酷い目に遭ったな、おい……」

 派手に跳躍しながら、跳ね起きてみせるティガ。目を真ん丸くするキャラバン隊の面々を尻目に相変わらずマイペースなリドル。キャラバン隊の面々は、懐かしい顔に喜んでみせる。

「やっぱり、あの時の。でも、今日はこんなところで何をしているの?」

 ごもっともな問い掛けに、どう答えればいいのか困った表情で、顔を見合わせるリドルとティガ。

「ぼくら、砂漠の自由市場に行きたいんだ」

「なるほど。ちょうど良いわ。一緒に行きましょう?」

 期待していた答えが、そのまま帰ってきて要らない話をしなくて済んだと、ほくほく笑顔のリドル。

 最後の目的地は自由市場。アンナに出逢えば、それがラストとなる。病気も治ったところで、新しい街でトモダチを一杯つくる。そんな彼女の気持ちを察しての、リドル最後の目的地はちょっとコースアウトしての場所。

◆◆◆25◆◆◆

 陽気にキャラバン隊が奏でる民族楽器の音色。砂漠を吹き抜ける風も、何時に無く穏やかに感じられる。砂にまみれながらもリドル達は南下し続けた。やがて街が見えてくれば、あと少しで飲み物も調達できる。ついつい力が入るキャラバン隊とリドル達であった。砂嵐も止み、やがて緑が目に付き始める。静かに吹き抜ける涼しい風が心地良い。

「今回は殊の外、楽に到着できたみたいね。普段だったら、これの何倍も時間掛かるというのに」

「嬉しいことだね。市場も見えてきたし」

 声も弾むリドル。そんな姿を見つめながら、キャラバン隊も微笑む。

「長旅、お疲れ様。また、何処かで逢いましょう」

 颯爽と歩き出すキャラバン隊に、短く別れを告げるとリドルとティガは、再び緑の草原の上を駆けるのであった。やっぱり緑の香りが一番だね。そんなことを考えながら、ティガと共に走り出すのであった。

 活気に満ち溢れた自由市場の中では行き交う人々も忙しそうに見えた。軒を連ねるテントの中を歩きながらついつい目が行ってしまう、色々な品の数々。何しろここは、世界各地から商人の集う、賑やかな場所なのだから。珍しいものも色々と目に入る。好奇心旺盛な二人には、中々魅力的な場所なのである。とは言え今回は目的が逢ってきたのだから。そう考えながら、誘惑に負けないように、ゆっくりと歩いていくリドルとティガなのであった。

 何度目かの角を曲がり、町外れを目指す。市場からは少し離れた場所。あの時よりも一段と大きくなった木に目を張るリドル。

「見てみて、ティガ。あの時の木、こんなに大きくなっている」

「一気に元気を取り戻したというのか? 見事なまでの生命力だ。並みの木ではないということか」

「あら、あなたは?」

 聞き覚えのある声に、思わず振り返るリドル。そこには、あの時とは打って変って元気そうな姿のアンナ。

「リドル君じゃない。あはっ。やっぱりそうなのね」

 二階の窓から身を乗り出すアンナ。元気一杯に階段を駆け下りてくるアンナに思わず目を真ん丸くするリドルとティガ。ずいぶんと雰囲気が変わったなぁと驚く。

「お待たせー。今日はどうしたの?」

 すっかり元気になったのか、だいぶ雰囲気の変わったアンナに戸惑いを隠し切れないコンビであったがティガに推されるままに、リドルが前に突き出される。

「ぼく達は、もうすぐゴールに到着するんだ」

「ゴール? 何の話?」

「ぼくは、仲間達と一緒に街を作っているんだ。そして、それももう少しで完成するんだ。せっかく元気になれたんだもの。お友達、一緒につくろう?」

 リドルの誘いかけに、嬉しそうな笑顔を見せるアンナ。トモダチ……やっと、元気になれたんだもの。何か新しいことをしてみたい。そう考えるに至ったアンナであった。新しい街。そして、そこで見つける新しい出会い。夢見る少女、アンナの願いを叶えようと思うリドルであった。

「街が完成したら、きっと遊びに来てね」

 リドルは小さな手紙を渡してみせた。

「なぁに、この手紙?」

 開けようとするアンナを、慌てて止めるリドル。

「まだ開けちゃ駄目だよ。この手紙はね、街が完成した時に開けてね」

 リドルの粋な計らいに、嬉しそうに微笑むアンナ。

「判ったわ。その時が来るの、楽しみに待っているね」

 アンナに短く別れを告げると、リドルは港町パムを目指して、颯爽と駆け出すのであった。その後を追い掛ける様にティガが走る。

「へぇー。格好良く決めちゃったじゃないか?」

 にやにや笑ってみせるティガ。リドルはそっぽを向きながら走り続ける。

「ぼくらの旅も大詰めだね」

「そうだな。あいつらと出逢わなければ、こんなスケールのでっかい旅をすることもなかった」

「そうだね。ぼくも、小さな街の、小さな郵便屋で終わるだけだっただろうなぁ」

「もうひと踏んばりだな」

「うん。最後まで走り続けようっ」

 リドルとティガが走っていく。小さな胸に、大きな希望を一杯に抱いて。新しい何かを見つけたい。それがリドルの夢だった。小さな世界しか知らない自分がイヤだった。何かを見つけたくて、大きな何かを成し遂げたくて走り出した旅のはじまり。

 あの時、ミケ達に出逢わなかったら旅に出ることは無かっただろう。今まで走ってきた道のり、街並みを思い出しながらリドルは必死で走り続けるのであった。きっと、叶えてみせる。大きな夢を。

◆◆◆26◆◆◆

 ミックに運んで貰ったミケ達が、長いフライトを終えて大空から飛び降りる。グレイドの作ったハングライダーを背にミケ達が舞い降りる。

「ひゃっほーう」

 ゆっくりと滑空しながら、目的地を目指すミケ達。みるみる森が近づいてくる。ログハウスと賑やかな街並みが見えてくる。

「おやおや。最近はああいうスポーツが流行っているのかい?」

 珍しそうに空を見上げてみせるミケネコママ。傍らで洗濯をしているフリージアが顔をあげる。

「あら? あれはあの時の……」

「えぇ? そうかい? ああ、そうだねぇ。あの間抜け面! あっはっは!」

 ゲラゲラ笑ってみせるミケネコママを尻目に、フリージアが嬉しそうに走り出す。

「ああ、洗濯物はどうするんだい!?」

「続きはよろしく」

「なんだい、そりゃあ!?」

 再びゲラゲラ笑ってみせるミケネコママ。眩しそうに空を見上げながら、腕まくりしてみせる。

「さぁってと、さっさとこいつを片付けてしまうかね」

 珍しいグライダーの姿に興味を示したミケネコ兄弟が、着陸予定地点目指して走り出す。何事かと、ジャックも一緒になって走り出してみせる。

「あーあー。何だか騒々しいなぁ。おおっと、ありゃあ何だ? 面白そうじゃないか。オレも行くぞー」

 グライダーを目にした、ミケネコパパも走り出す。

◆◆◆27◆◆◆

 空の旅も、なかなかのものだなっと。ほくほく笑顔で、地上に降り立つミケ。ふと気が付けば、懐かしい顔ぶれに囲まれている。

「うにゃー? なんで、みんなでお出迎え?」

「ああ。君達はあの時の」

 ジャックが嬉しそうに手を差し出してみせる。

「お久しぶりだね。今日はお願いがあって来たんだ」

「お願い? ぼくらに?」

 きょとんとした表情をみせるジャック。傍らではミケネコ兄弟がワクワクした表情をみせる。

「ぼくら、新しく街を作ろうとしているんだ。それでね、木材を求めてこの街へ戻ってきたんだ」

 ミケの言葉に満足そうに頷くミケネコパパ。遅れて走り込んでくるフリージアとミケネコママ。

「ふぅ。ちょいと話は聞かせて貰ったよ」

 相変わらず凄みの利いたミケネコママ。

「良い仕事じゃないか? なぁ?」

 良い仕事? そのフレーズに思わず皆が凍り付く。

「なんだい? まさか……タダで、なんてケチなこたぁ言わないよねぇ?」

 不敵に微笑むミケネコママに、向き直るグレイド。

「それに、街を作るんだってねぇ。そこであたしらも商売させて貰おうじゃないか?」

「おお、母ちゃん。冴えているなぁ」

 ますます不敵な笑みを見せるミケネコママに笑い返してみせるグレイド。一枚の金貨を指で弾いて、ミケネコママに飛ばしてみせるグレイド。

「商談は成立って訳だねぇ」

「そういうことだな」

 木材が揃えば、街造りにも活かせるはず。それを計算に入れてのグレイドの計算であった。木材も手に入れた。街を造る場所も確保した。全てが揃おうとしていた。夢が、夢でなくなろうとしていた。ミケはひしひしと感じるのであった。夢が、もうすぐ現実のものになろうとしている。長い道のりだった。色々な人達に出逢い、支えられながらここまで来たんだ。ミケは歩んできた道のりを振り返っていた。やっと、やっと! ぼくの夢が実現しようとしているんだ。ミケは満足そうに空を見上げるのであった。やっと、夢が叶おうとしているんだよ。ミケは誰かに語り掛ける訳でもなく、それでも誰かに聞いて欲しくて仕方が無い喜びに満ちあふれていた。

 空を流れる雲は穏やかで、今度こそ、何かが始まろうとしているんだと。本の中だけだと思っていた壮大な冒険の物語を、今度は自分自身が歩もうとしている。それも、ヒィアン・デュラルをなぞるのとはまるで異なる道。だからこそ、見えてくる新しい世界。きっと、この先には新しい展開が待っている。歩んできた道、出会ってきた人々、その全てを振り返るミケの頭上を静かに雲だけが流れていくのであった。

                          最終回へつづく