第1話『ブレーメンの音楽隊』

◆◆◆1◆◆◆

 五十年に一度、ドーナツ山のふもとペペロの森で神樹の木が歌を詠います。今年は、その五十年に一度のお祭りです。だから村は今、お祭りの話で持ち切りなんです。

◆◆◆2◆◆◆

「う、うーん……」

 そよ風がそっと吹き抜ける爽やかな夜明け。朝露がつゆ草の葉を伝って、落ちてゆきます。一粒の朝露が木々の葉を揺らせば、森には涼やかな音色が響き渡ります。そう、朝の訪れです。演奏会の始まりです。

 静かな森の中の家、寝返りをうつのは、まだ幼い犬の坊や。すやすやと寝息を立てながら、もこもこの布団にすっぽりくるまって丸くなっています。時折聞こえる小鳥さん達のコーラスに愛らしいお耳がピクピクします。

「ううーん……」

 おっと。寝返りをうった瞬間、元気よくベッドから転げ落ちちゃいました。思わずびっくりして「キャン」っと鳴いてしまいます。

 ふかふかの柔らかな毛皮は薄い茶色。ピンと立ったお耳は、さきっぽだけがちょっとだけカラスさんの色です。へにゃっと曲がったお耳に、くるんと巻いたシッポ。突然目の前に降ってきたお星様にびっくりしてしまいました。びっくりついでに、きょとんとしながら、きょろきょろしてみます。

「ああ、びっくりした。お星様が空からいっぱい落ちてくる夢を見ちゃったから、ぼくまで一緒に落っこちちゃった」

 ベッドから転げ落ちちゃった自分が、ちょっとかっこわるくて、誰も見ていないのを確認するとテヘヘと照れ笑いしてみます。そんな様子を眺めるのは、やっと、おはようしたお日様でした。

◆◆◆3◆◆◆

「郵便ーっ!」

 元気の良いかけ声と、共に郵便屋さんのワシおじさんが舞い降りてきます。木洩れ日と緑を掻き分けながら、一気にグライダーの様に飛び込んでくる姿に、子犬は時々羨ましさを感じちゃうのです。

「おはよう、おじさん」

「おや、今日は早いんだね」

「えへへ。いつもお寝坊さんしているワケじゃないよ」

 ワシおじさんがクスクス笑います。慌てて鏡を見れば、見事な寝ぐせに思わずびっくりの子犬のチッポです。

「お手紙なら、ぼくがもらっておくよ」

「チッポちゃんがかい? ああ、そうか。じゃあ、お手紙を渡して置くよ。この手紙はねお祭りの招待状が入っているから大切にね」

 半分寝ぼけまなこのチッポの耳が、シッポがピンとなってしまいます。お祭りだってっ!? お菓子が一杯食べられるお祭り。ああ、水飴はおいしいけど、ベタベタになっちゃうから苦手だけど、ぼく、大好きさ。だって、甘いんだもん。

 何やら急に元気になったチッポを見て、少々戸惑い気味のワシおじさんですが、次の仕事は待ってはくれません。時計をチラリと確認すると、ちょっと慌て顔になってしまいます。

「じゃあ、おじさんは次のお家に行かなくちゃいけないから、またね」

「バイバーイっ!」

 さぁ、大変だっ! こんな素敵なお話聞いちゃった以上は、みんなにも教えてあげなくちゃ。だって、ぼく一人で行くよりも、みんなで行く方が楽しいもんね。えへへ、ぼくってば、良い子だなぁ。嬉しそうにシッポを降りながら子犬は朝霧の中に消えていくのでした。

◆◆◆4◆◆◆

 森の家は、木で出来た素敵なお家。木の香りと、緑の爽やかな風と、たくさんのお友達と。そんなお友達の集まる広場にチッポの姿がありました。

「ねっ、ねっ。お祭りのお話だよっ!」

「へっ。そんな話、とっくに知ってらぁ」

 ぶっきらぼうに返すのは、チッポのお友達のネズミ君です。少々目つきの鋭いイタズラ坊主。言うところの悪ガキって奴です。

「でもさ、お祭りって楽しいよね。オイラ、お祭りって聞くと、それだけでウキウキしちゃうんだぜっ!」

 お調子者のサル君が嬉しそうに宙返りしてみせます。

「ウキウキっちゅうか、お前の場合、ウッキーウッキーって感じじゃねぇか?」

 ネズミ君の突っ込みに、思わずずっこけるサル君でした。

「でもさ、でもさ、どうやってお祭りに行くのさ? ぼく達子供だけじゃ、きっと入れてなんかくれないよ」

 キンキン声のリス君、ちょこんと切り株に乗ると身振り手振りをたっぷり混ぜて、早口でたくし上げる様に喋ります。思わず目を白黒させちゃうチッポ。その時でした。

「お祭りに行きたいのかい?」

「ん? 誰か何か言ったか?」

「ああ、ここだよ」

 見る見る地面がボコッと盛り上がると元気良く顔を出したのは、ゴーグルがお洒落なモグラの男の子。皆の視線が一斉に集中して思わず真っ赤になってしまいます。

「ああ、ぼくは各地を旅行しているから、いろんな話を知っているんだ。たしか、そのお祭りに行くためには、妖精さんの創る楽器が必要だって聞いたことがあるんだ」

 明るい笑顔で語るモグラ君。その話の内容にチッポの表情がパァっと明るくなります。

 妖精さんだって? わぁ、逢ってみたいなぁ。

「およしよ、坊ちゃん達……ろくなこたぁないよ」

 声のする方向を見上げれば、木の上から小馬鹿にしたような態度でこちらを見下ろすオウム君。突然現れては、意味不明な事を口走って去っていく変な奴なんです。でも、演技派の彼の演技は、この島でも有名なんです。

「ああ、妖精さん、ぼくがこんなにも愛しているのに、どうして、キミは、見向きもしてくれないんだいっ!?」

 空を見上げ、自慢の翼をはためかせ美声を轟かすオウム君。思わず予想外のお客の登場にモグラ君も戸惑ってしまいます。

「あ、あの……ぼくの話は……」

「とりあえず、まずは情報収集から始めるものさ。さぁ、行きたまえ。君達の進むべき道は、あっちだっ!」

 ヤケに仰々しい演技をしてみせるオウム君の指さす先は、村へと通ずる『黄金街道』でした。

 そうか、村に行けば、大人達がたくさんいる。物知りの大人達なら、何か知っているかも知れない。オウム君の演技に勇気づけられたのか、皆に向き直るとチッポが元気良く吠えた。

「さぁ、行くよっ! きっと、村に行けば見つかるよ」

「そうだねそうだね、まずは行動することだよね、ねっ」

「なんだか、面白くなってきたじゃん。行こうぜっ!」

 何だか訳も分からず、結局チッポ達は黄金街道を北上する事となったのです。

 後に残されたのは、演技派のオウム君と旅行通のモグラ君だけです。

「ああ、モグラ君。キミは日の当たらない世界を知って居るんだろう? ああ、ぼくにその美しさを教えておくれ?」

「へ? あ、あの……ぼくは、旅行好きであって……えっと……」

 なんだか、大変な事になっちゃったぞ? 思わず妙な話に首を突っ込んだ事を、ちょっと後悔してしまうモグラ君でありました。

◆◆◆5◆◆◆

 黄金街道――その昔、村と森とを行き来する商人達が使ったのが発祥とされています。

 当時の道は舗装もされてなく、とかく物資を運ぶのに不便だったそうです。黄金街道という呼び名は、黄色いレンガで舗装されたことに由来しているのであります。

 さてさて、一行は取りあえずワケも分からず黄金街道を突っ走るのでありましたが、ふと見れば目の前には一件のお店があります。クリーニング屋と書かれた看板が目立ちます。「こんにちわ」

「あらあら。今日はまた、可愛いお客さん達ね」

 ゾロゾロとやってきた子供達に思わず目をまん丸くしてみせる、人の良さそうなアライグマのおばさん。気だての良い優しいおばさんは子供達の人気者です。チッポも良くお菓子を貰っています。

「おばさん、ぼく達ね……」

 妖精さんの村を捜しているんだ。そう言おうとしましたが、言い終わることはありませんでした。

 何故ならば、チッポが言うよりも早くネズミ君が口をふさいだのです。

 何しろ、ママにナイショで飛び出して来たんです。ここでばれてしまっては、下も子もありません。ムスっとしてみせるチッポにリス君が小声で解説してみせます。

 なるほど。ネズミ君ってば頭良い。思わず嬉しくなっちゃいました。

「あらあら、どうしたのかしら?」

「ああ、えっと……そうだ。オイラ達、村にお買い物に行くところなんだ」

 慌ててフォローを入れる、お調子者のサル君。テヘヘと作り笑いを浮かべてみせます。

「まぁ、お買い物? あらあら、それは感心ねぇ。迷子にならないように気を付けるのよ。村に行くには、黄金街道を、もっとまっすぐ行くの。良い? 途中に曲がり角があるけど、そっちに行くと港に出てしまうから、間違わないようにね。あらあら、もう、あなた達もお兄ちゃんなのねぇ。あらあら、どうしましょう?」

 親切に説明してくれたおばさんに、感謝すると一行は再び北を目指して、ひたすら走りました。

◆◆◆6◆◆◆

 黄金街道をさらに北上する途中で、チッポ達は再び一件の小さなお家を目にしました。

「ここでも、なにかお話が聞けるかな?」

「取りあえず寄ってみようよ」

 それは木で出来た小さな小屋でした。ポストには「子猫の家」と書かれていましたが、チッポ達には字が分かりませんでした。

「ごめんくださーい」

 トントンとドアをノックします。

「はーい」

 可愛らしい声と共に、中から出てきたのは良く似た三匹の子猫の兄弟でした。チッポ達を物珍しそうに見つめています。好奇心旺盛なのか、ワクワクしながら不思議なお客さんを歓迎します。

「……ええっと、妖精さんって、知ってる?」

 なんだか、ちょっと違う気がしつつも取りあえず話を切りだして見せるチッポです。

「ようせい? なぁにそれ? ぼく、知らなーい」

「ぼくも知らなーい」

「ぼく、お腹空いたんだなぁ」

 愛らしい声で応える子猫ちゃん達。まだ、本当に子猫らしく、イマイチ反応が鈍い様子です。チッポ達に飽きてしまったのか、毛繕いしてみたり、蝶々を追いかけてみたり、木で爪を研いでみたり、なんだか自由気ままな感じです。

「え、ええっと……ぼく達、村に行かなくちゃいけないんだ。バイバイっ!」

「バイバイ?」

「バイバイ?」

「バイ?……ぼく、みつ豆食べたいなぁ」

 なんだか良く分からない子猫の兄弟を後にすると気を取り直して、再び村を目指しました。

 なんだか妙な人達ばかりと逢っている気がするなぁ……。

 この時になって、初めてチッポは不安になりました。ママにもナイショで出て来ちゃったし、あーあ、朝食はぼくの大好物の、ふわふわドーナツだったのになぁ。そんな事を考えながらも、再びチッポは走り出すのでした。

◆◆◆7◆◆◆

 パパイヤ島の中でも特に多くの人達が集まるマンゴー村。

 立ち並ぶ家々にちらほらと見かけるお店。初めて一人で村に来たチッポ達は、少々戸惑い気味です。

「と、取りあえずどこかで、話を聞いてみよう……」

 なんだか自信の無さそうな口調のチッポです。こんなんで大丈夫なんでしょうか? 取りあえず樽がたくさん並ぶ、洒落たお店に入ってみる事にしました。

「こんにちわ」

「おや、いらっしゃい。今日は可愛いお客さん達だね」

 にこにこ笑うトラのお兄さん。洒落た店によく似合う洒落たお兄さん。内装もなかなか凝っていてかっこいいです。

「お客さん、何になさいましょう? ミルクでもいかがです?」

 チッポは思わず目を白黒させてしまいます。だって、ここって酒場でしょ? パパから聞いたことあるから知ってるもん。

 でも……このカウンターに腰掛けて……ミルクの入ったグラスを片手に……。

 かっ、かっこいい……大人の男のマネ。なんか、そんな他の子供達が体験したことも無いような、素敵な世界に思わず溺れそうになってしまうチッポでしたが、慌てて頭をブルブルっと振ると、早くも話を切り出して見せるのでありました。

「ねぇ、トラのお兄ちゃん、妖精さんって知ってる?」

 恐る恐る訪ねるチッポに、優しく笑いかけると「ああ、知っているとも」と、いとも簡単に返してみせるのでした。

「ええーっ!?」

 皆が一様に驚き、思わず悲鳴をあげてしまいます。思わずトラのお兄さんも、びっくりしちゃいます。

「詳しいお話は、村長のひつじさんが知っているよ?」

「ねぇねぇ、妖精さんって、どんな人なの? 怖い人なの?」

 好奇心旺盛なリス君は、ヒョイとカウンターに飛び乗ると例によってのハイトーンなボイスでたくし上げる様に聞き出してみせます。

「さぁ? ぼくも逢ったことはないから分からないけど……」

 そんなやり取りを聞いていた、謎のおじさんがゆっくりとお店に入って来ました。

 全身黒い毛皮で覆われたなんだかちょっと怖そうな、クロヒョウのおじさんです。

「わぁ、びっくりしたっ!」

 慌ててすっ転びそうになって見せると、サル君、テヘヘと笑って愛嬌を振りまいてみせます。

「妖精さんを捜しているのか?」

「う、うん。そうだけど……」

 表情一つ変えず淡々と語りかけるクロヒョウおじさん。なんだか、ちょっとコワイや……チッポは思わずブルっとしてしまいます。

「妖精さんに逢うのは大変だぞ。道中、危ない道を歩かなくちゃならないぞ……それでも、逢ってみたいのか?」

 おじさんの話に、再び皆の表情が青ざめます。

「へ、へんっ! こ、怖くなんか、ないさ」

 ネズミ君は精一杯強がってみせるのですが、ガタガタ震える足がなんだか間抜けな感じです。

「そんな話も聞いた事、ありますね……ところで、見かけない方ですが、あなたは?」

「オレか? オレは、ギャングのクロヒョウだ」

 ギャング? 悪い人じゃないの? でも、おじさんいい人だし? チッポの中ではなんだか事実関係がかみ合わなくなってしまいました。

「ねぇ、ギャングって悪い人なんでしょ? ママから、聞いたことあるんだ。でも、おじさん良い人だよ。ギャングなのに良い人なの?」

 チッポの無邪気な質問に、クロヒョウおじさんは思わず赤くなってしまいます。

「お、おじさんは、コワイんだぞ……」

「ううん、怖くないよ。だって、ぼくね、コワイ人とお話すると、シッポが下がっちゃうし、お耳だって、ペタってなっちゃうんだもん。でも、おじさんとお話してても、ほら、ね?」

 さも自慢気にシッポとお耳を見せつけるチッポに、クロヒョウおじさんはますます赤くなって困ってしまいます。

「ギャングのクロヒョウおじさんは、忙しいのさ。じゃあ、暗くならないうちに帰るんだぞ……」

 なんだか妙に親切な、自称ギャングのクロヒョウおじさんと、クールに決まっている酒場のトラのお兄さんを後に、チッポ達は店を後にするのでありました。

◆◆◆8◆◆◆

「ふぅっ。どこにあるのかさっぱりだね」

 がっかりしたような表情のチッポ達は、不意に誰かにぶつかってしまいました。

「あ、ごめんなさい」

「坊主、前はしっかり見てあるかないと危ないぜ」

 ひょいと見上げれば、目つきも鋭い狼のおまわりさんでした。思わず、チッポは飛び上がってしまいました。

「わははっ。そんなにコワイ顔していたか?」

 狼のおまわりさんはおかしそうに笑ってみせました。

 そうだ。おまわりさんなら、きっと知っているよね。だって、迷子になったときはお巡りさんに道を聞くと良いってママが言っていたもの。

「ねぇ、おまわりさん。ぼく達、ある所に行きたいんだけどね、道が分からないんだ。おまわりさんなら、知っている?」

 とがった耳に、鋭い牙のお巡りさんがニヤリと笑って見せます。

「おおっ? 迷子と来たね? ああ。良いぜ。んで、どこに行きたいんだ、坊主?」

 にこにこと嬉しそうに笑うお巡りさん。きっと誰かの役に立てるのが嬉しいんだろうなぁ。狼のお巡りさん、顔は怖いけど良い人だな。そんな事を考えるチッポのシッポが知らず知らずのうちにパタパタと振り出してしまいます。狼のお巡りさんが、思わず吹き出します。

「あっ……えっとね、妖精さんの村に行きたいんだ」

「へっ? 妖精さんの村っ?……ああ、そいつぁ初めて聞いたな。ああ、そういやぁ今年はそのお祭りだったよなぁ。ううん……お祭りと来れば、迷子になる坊ちゃん、嬢ちゃんも出てくるわけだ。ううむ……オレが案内してやらにゃあかんのに場所が判らん。こいつ;あ困ったもんだな……うおおっ! どこにいやがるっ!?」

 なんだか妙に熱いお巡りさんに、冷や汗タラタラのチッポ達です。皆でヒソヒソと小声で相談し始めました。

「ねぇねぇ、なんか、お巡りさん役に立たなそうじゃない?」

「大人はあてになんないぜ。オレ達で探そう」

 そうこう話し合っている所へ、元気良くやまあらし君が走ってきました。村一番の早起きと名高い新聞配達のやまあらし君は、村の人気者です。

「おはようっスっ! 新聞っスっ!」

「……おう、やまあらしの坊主、丁度良い所にきやがったな。なぁ、妖精の村って知らねぇか?」

 新聞配達で各地を飛び回っている彼なら、何か分かるかも知れない。そう踏んだ狼のお巡りさんは、すかさず質問を投げ掛けます。捜査の基本は聞き込みです。セオリー通りに行動するのは花丸ですね。

「ええ、知ってるっスけど……それが何か?」

「ええっ!? どこにあるのっ!?」

 驚き、慌てた拍子に、やまあらし君の背中にうっかり触ってしまって、イテテとやってみせるお茶目なチッポでした。

「ペペロの森の奥深くに、キノコがたくさん生えてる変な沼地があるっス。その近くから妖精の村行きのバスが出てるっス。でも、危ないから近寄っちゃダメっスよ。おっと、オレっち、次のお宅に行かなくちゃ行けないんで、ここらで失礼するっス!」

 今来たのと同じ様な、風を巻き起こすような凄まじい速さで、やまあらし君は、風の様に走り去っていきました。意外にもあっけなく妖精の村の話を知ることができ、少々驚き気味のチッポ達でしたが。さっそく村の北を目指して出発するのでした。

◆◆◆9◆◆◆

 まだ朝も早いせいか村は静かです。でも、そろそろみんな起きてくる時間です。少しずつ活気が出てくる頃ですね。花壇に咲く花も、涼しい風もチッポ達の旅を応援してくれているみたいです。

「おやおや、チビちゃん達総出でどこへお出かけだい? ほっほっほ」

 いきなり声をかけられ、チッポ達は驚かされました。

 道の脇に腰掛けるのは、学者のヤギじいさんです。もしゃもしゃのヒゲが素敵なおじいさんなんです。

「ぼく達、ペペロの森に行くの」

「めぇー、ペペロの森は危ないぞ?」

「大丈夫だよ。だって、妖精さんに逢いに行くんだもん」

 ヤギじいさんは少々驚いた様な顔で微笑みました。

「ほほぉ、妖精さんの村か。ふむふむ、ワシも若い頃は良く遊びに行ったもんだ。懐かしいのぉ、今年は50年に一度のお祭りじゃからな、めぇー。気を付けて行くのじゃぞ」

 と、その時でした。ヤギじいさんの木造のお家の隣り、研究所から元気良く爆発音が聞こえてきました。

「な、なんだろっ!?」

「なぁーに、いつもの事じゃよ、めぇー」

 おかしそうにクスクス笑うヤギじいさん。煙の中から出てきたのは大柄なライオンの博士でした。まだ若いながらも難しい研究に勤しんでいるんです。その後ろからは、最近もらったばかりの若い奥さんが着いてきます。

「どうやら、ドカンとやったようじゃの?」

「あはは、申し訳ありませんね……また、洗濯物が真っ黒になってしまいましたね」

 困った様な笑顔をうかべながら、頭をかくライオンさん。チッポ達に気付いたのか、奥さんがにっこり笑う。

「あらあら、こんな朝早くからお出掛け? 今日は良いお天気になるそうだから、ピクニック日和ね」

「やぁ、おはよう。今日はどこにお出掛けなのかな?」

 ススだらけの顔をふきふきしながら眼鏡をツイと上げてみせるライオンの博士。

「うん、妖精の村だよ」

 嬉しそうに笑うチッポでしたが、ライオン夫妻は一瞬驚いた表情で、顔を見合わせます。

「あら、でも危ないわよ?」

「大丈夫だもん。みんなで行くから。ねぇー?」

 心配そうなライオンの奥さんに向き直るとリス君が元気良く語り出す。

「だって、妖精の村に行って、お祭りに行くんだもの」

「ふむふむ、探求とは人生の真理。お若いのに、なかなか良いセンスしてますね」

 感慨深そうに頷くライオンさんに大きなため息の奥さん。

「それは良いけど、洗濯物、どうして下さるの?」

「あっ……ええっと、それは……後できれいにしておきます」

 苦笑しながら鼻のあたまを掻いてみせるライオンさん。一瞬拗ねたような表情をして見せながらも、苦笑する旦那さんを見ながら吹き出す奥さん。

「うふふ、一緒にやりましょう?」

「あはっ、ありがとう。ところで、お弁当なんか、持ちましたか? 長旅でしょうから、お腹も空くでしょう?」

 親切なライオンさん、なかなか良いところに気が付きます。大慌てで家を出てきた彼らがお弁当を持ってきているワケがありません。

 さっそくお隣の「お馬のレストラン」に奥さん、駆け込んでいきます。

「あの……ぼく達、お金持ってないし……」

「あはは、遠慮することは無いですよ。ねっ、先生?」

「ごほごほっ! めぇー、ワシの奢りか?」

 思わず咳き込んでしまうヤギじいさんでしたが、にっこり笑うと、さり気なくOKサインを出して見せました。

 一方その頃、お隣のレストランでは……

◆◆◆10◆◆◆

「料理は愛情ー、料理は手間かけ、作るのさー」

 なんだか調子外れな歌が聞こえてきます。ライオンの奥さんはクスクス笑いながらノックします。

「ごめんくださいな」

「あいよー。おう、奥さんかい? まだ準備中だよ」

 軽やかなステップを踏みながら小ぎれいなお店から顔を出す馬のシェフ。お店は小さいながらもきちんと片づいていて、ほこり一つ無いほどの綺麗さです。月日を感じさせる茶色く変色した木目が歴史を感じさせます。

 踊る料理人としても、その料理の腕でも有名な馬のシェフ。タバコの変わりにニンジンをパリパリかじるのがお好きだとか?

「あのね、村の子供達がピクニックに行くそうなのよ。それで、良かったら子供達にお弁当を作って頂けないかと思って」

「今日は良い天気だからねー。あいよ、任しとき。目玉が落ちちゃいそうなおいしいお弁当を作っちゃうからよ。あっ、料理は愛情ー」

 再び調子外れな歌を歌いながら調理場で踊り出す馬のシェフでした。

 そんなこんなで奥さんが戻ってきた時には、チッポ達はライオンさんのティーにすっかり酔いしれていた頃でした。

「お待ちどう様」

「あ、お帰りなさい」

「はい、お弁当よ。ゆっくり楽しんでいらっしゃい」

「わーい、ありがとうっ!」

 チッポ達嬉しそうに笑ってみせます。まだ出来立てのお弁当は、ホカホカしていてちょっぴり熱かったです。

 奥さんの心遣いと、旦那さんのおいしいティーに感謝するとチッポ達は、いよいよペペロの森に入る準備が出来ました。村の外れからさらに北へ。静かな森の中にチッポ達が入っていく姿を見つめるのは、キツネさんとタヌキさんでした……。

◆◆◆11◆◆◆

 森の中は妙な静けさと、ヒンヤリとした空気で満たされていました。時折聞こえてくるカラスの鳴き声が不気味さを強調します。

「なっ、なんか、おっかない所だね……」

 きょろきょろしながら脅えるサル君。

「こ、こんなのが、こ、コワイのかよ……」

「そういうネズミ君だって、震えてるよ」

「こ、これは、武者震いだよっ……」

 皆が皆、一様に妙な静けさに恐怖感を抱いていました。しかし、恐る恐る歩く一行はいつしか森に迷い始めていました……。

◆◆◆12◆◆◆

 一方その頃、村は大騒ぎになっていました。

「ええ?リスさんの所も?」

「あら、じゃあ、サルさんの所も?」

「うちのチッポもいないし……何処行っちゃったのかしら?」

 住宅街のお母さん達、集まってワイワイガヤガヤ井戸端会議中です。丁度そこへワシおじさんが飛んできました。

「え? 子供達が居なくなった?……もしや……」

 焦りの表情が見え隠れするワシおじさんに、ママ達が詰め寄ります。

「何か知ってるの?」

「ええ、なんでも妖精の村に行くとか言って……」

「困ったわね……ペペロの森は、危ないから子供達だけで行っちゃダメだって言ったのに……」

 大きなため息のチッポのママ。しかし、のんびり構えている場合ではありません。何かあってからでは遅いのです。協議の結果、手分けしてチッポ達の行方を探すこととなりました。

 取りあえずチッポのママとリス君のママは黄金街道沿いに、サル君のママとネズミ君のママは岬方面からまわることにしました。

◆◆◆13◆◆◆

 海の市場――黄金街道の途中からの曲がる道の先にある活気あふれる市場です。

 海に住む人達と、陸の人達とが買い物をする場所であり、古くから多くの人々に親しまれてきた広い市場です。

「一体どこに行ったのかしら?」

「取りあえず手当たり次第探しましょう」

 きょろきょろするチッポのママ達を呼び止める声が響き渡ります。

「奥さん、何をお探しかい? 今日は良い魚が入ってるよ」

 声の主はにこやかに笑う魚屋のアザラシさんでした。

「ああ、アザラシさん、うちのチッポを見ませんでした? どこへ出かけたのか……」

「はて? 今日は見てないですけど……おいっ!イルカっ!」

 弟子のイルカ君に声を掛けて見ますが反応がありません。どういうこったと、アザラシさんは海の方へと歩み寄ります。すると、漁港の外れから声が聞こえてきました。もしやと思い、そーっと、のぞき込んでみます。

「ひどいわっ! イルカさん、あたしと言う人がありながら……」

「誤解だよ。ぼくの目には、ペンギンちゃんキミしか映っていないんだよ……信じてくれよ……」

 なんだか、良く分からない展開に、どうしたものかとアザラシさんは困ってしまいます。

「じゃあ、どうして、ラッコさんと?」

「あれは、おいしい貝の料理を教えて上げていたんだよ」

 目にたっぷり涙をためて、切な気に泣き出すペンギン。

「本当に、そうなの?……本当に?」

 堪えきれずに、ペンギンちゃんをガシッと抱きしめると、イルカ君、嬉しそうに笑って見せます。

「ぼくにはキミしかいないよ」

「ああ、疑ってごめんなさいね。イルカさん……」

「ペンギンちゃん……」

 二人のやり取りに、思わず耳まで真っ赤になってしまうアザラシさんでしたが、ふと、チッポのママ達の困った表情を思い出しました。

「おうっ、イルカっ!」

「げげっ! 大将、見てたんですかっ!?」

「いやーん!」

 三者三様、おのおの驚きの表情を隠し切れませんでしたが、取りあえずはチッポのママ達の話を優先するべきだとアザラシさんは判断したのです。

「村の子供達がいなくなっちまったらしいんだ。お前ら、見かけなかったか?」

「いえ、見ていませんけど」

「あたしも、見ていませんわ……でも、どこに行っちゃったのかしら? お祭りかしら?」どうやら、ここには来ていないらしいな。情報を確認するとアザラシさんは、大急ぎでママさん達のもとへと戻るのでした。

「そうですか……」

「また何かあったら、すぐに連絡しますよ」

「どうも、お手数をお掛けいたします」

 次の目的地、村を目指して再びママさん達は大急ぎで移動を開始するのでありました。子供達の無事を祈りながら……。

◆◆◆14◆◆◆

 同じ頃、ネズミ君のママ達は、この島でも最も風光明媚な景色が楽しめる、森と山とを結ぶ坂を昇っていました。何しろこの辺一体はみな知り合い同士。尋ね人を捜すにはもってこいです。

「というワケなのよ」

「あら、ごめんなさいね。あたしも知らないわ……」

 困った表情をするのは、チッポ達と時々遊んでくれる優しいウサギのお姉さんでした。隣りには、ちょっと怖い山猫のお姉さんもいます。

「でもよ、妖精のお祭り見に行ったんだろ? だったら、一気に目的地に向かった方が早いんじゃないのか?」

 手にしたタバコをフーっと吹かして見せます。

「そうかも知れないけど、そうじゃないかも知れないわ。良い? 捜査の基本は、まずは関係者の行動を把握するところから始まるのよ? いきなり、目的地に行ってしまっても、答えは見つからないってのがセオリーなんだから」

 推理小説好きのウサギお姉さんが淡々と説明してみせますが、今はそんなのんきな事を言っている場合では無いはずです。

「あのなー、現にチビ共がいなくなったんだぜ? んな、のんびり構えていてどうするんだよっ! げっ!……もしかして、誘拐っ!? いやいや、はたまた、ガケから転落……」

 思わず頭を過ぎったトンでも無い想像を口にしてしまう山猫姉さんに、すかさずウサギ姉さんの表情が険しくなります。

「な、なんて縁起でも無いこと言うのよっ!」

 思わず目の前にあった樹木を一本、元気良く引っこ抜くと山猫姉さん目がけてぶん投げるのでした。なんと言う怪力なのでしょう……。

「うおっ! ば、ばっきゃろーっ!」

 すかさず山猫姉さん、手にした爆弾で対抗します。

「……ね、ネズミさん……次、行きましょうか?」

「そ、そうね……」

 最近の若い子ってすごいわね……思わず年月を肌で感じてしまうお母さんコンビでした。

 しかし、いかに現代の女の子が強いからと言って、ひどいわーとか言いながら丸太をぶんなげる怪力少女も、常に痴漢対策に爆弾を持ち歩いている女の子も珍し過ぎと言うモノです。

 背後で繰り広げられている、特撮映画さながらのバトルを後にしつつ、迷子のチビ達を求めてママ達は再び走るのでありました。

◆◆◆15◆◆◆

 静かな森の中には風が木の葉を掻き分ける音以外は、音らしい音も聞こえませんでした。立ち込めるのは静寂ばかりです。

「ふぅっ……ぼく達、迷子になっちゃったみたいだね」

「そういう事は、思っても言うなよなー」

 ため息混じりのチッポに、ネズミ君がするどく切り返しを入れます。

 暗くなっても仕方ないかと、切り替えの早いチッポはさっそくお弁当のことを思い出しました。

「ねぇ、取りあえずお弁当にしよう?」

「そだね。そだね。まずはお腹が空いてちゃ、ダメだもんね」

 ちょぴり明るくなった場に、近寄る者達が居ました。

「だ、誰っ!?」

「どもー、キツネでやんすっ!」

「どもー、タヌキでございっ!」

「また変なのが出てきたぜ……」

 またもや現れた妖しげな人物に、再びネズミ君冷や汗たらたらです。

 見るからに芸人っぽい間抜け面のコンビ。明らかに売れなそうな、新人お笑い芸人をほうふつとさせる、見るからに残念なコンビです。

「いやいや、今日はまた、良いお天気で」

「良いお天気か、どうか分かるのかよ? ここは、森さね?」

「おっと、こいつはしくじった」

 なんだか、モミ手が妙に似非っぽい二人です。ボケのタヌキに、突っ込みのキツネと言った所でしょうか? 妙なやり取りに冷や汗たらたらのチッポ達でした。立ち込める空気は寒々しかったですが、温かなお弁当はとても美味しく頂けました。

「いやー、しかし、坊ちゃん達、迷子になっちまったって?」

「いやいや、オイラ達も迷子だよ、おい、兄弟?」

「そいつはホントかい、相棒よ?」

「あ、こいつぁ参ったねっ!」

「いやっはっはっは!」

 妙な二人組。妙な漫才かまして勝手に受けている。

 こういう大人には成りたくないなぁ……幼心にチッポはそんな事を考えながら、丁寧に後かたづけをし始めるのでした。

「さぁって、行こうか」

「あっ……坊ちゃん達、わいらの事は?」

「お兄ちゃん達……残念な結果に終わっちゃったね」

 手厳しいチッポの反応にガーンとなる二人。

「ああ、お前さん……あたしを置いてどこへ……」

「ああ、それが任侠の道、男の道さね」

 なおも漫才に花が咲く妙なコンビを後に、チッポ達は何事もなかったかの様にスタスタと去っていくのでありました。

「……受け無かったな」

「もっかい、修行だな、相棒よ」

「ところで兄弟、深刻な話なんだがな……」

「おう、なんでい、相棒よ?」

「マジで迷子になったみてぇなんだよ……」

 さぁ、大変です。一気に現実に連れ戻され、真っ青になる二人組なのでした。しかし、そこは芸人の心意気。どんなに辛くても笑って流せる勇気がなくてはいけません。

「あっ、迷子がなんでぇっ!」

「いやっはっはっは!」

 森の中にこだまするのは間抜けな漫才コンビの、渇いた笑い声だけなのでした。

 その頃、チッポ達は不思議な家を発見して、喜びに浸っているところでした。

 やった。ぼく達救われる! 嬉しそうにはしゃぐチッポ達でありましたが、よくよく見ると、なんだか妙な雰囲気が漂う家です。慌てて引き返そうとした、その時でした。

「……お待ちなされ。坊や達……」

「きゃーっ!出たーっ!」

◆◆◆16◆◆◆

 やっとこさ昼過ぎ。すっかり太陽は空高く浮かんでいます。しかし村は大騒ぎになっていました。

 ピクニックに送り出した子供達が、何と迷子になって、ママさん達が探し求めている子供達だったとは思いも寄りませんでした。さぁ、これは大変だと村の大人達が総出で集まって作戦会議中です。

「すみませんね……まさか、こんな事になるとは……」

 申し訳なさそうに頭を下げるのはライオン博士でした。

「いえ、あなたが悪いわけじゃないわ」

「そうですよ。今は子供達を探す方が先決ですよ」

 フォローを入れる奥さんに、トラさん。

「取りあえず、まだ回っていない所が気になるのぉ、めぇー」

 ヤギじいさんの良いアイデアにママさん達が反応してみせます。

「……まだ見てないのは、フリーマーケットに、教会……」

「それから学校もあるわ」

「坊主共は、村長のひつじさんの所に行ったかも分からねぇぞ。妖精さんを探すとか言っていたしなぁ……」

 皆がうんうん唸ってしまいます。はてさて、一体どこに行ったのでしょうか? この小さな島でも、行方不明になった人を探すとなれば大変な事であるのです。

「……ん?」

「おおーいっ!」

 ドタドタと勢い良く駆け込んできたのはクマさんでした。

 フリーマーケットで働く陽気なクマさんは、みんなの人気者です。この騒ぎを聞きつけ、こりゃあ黙って見ちゃいられんと、駆けつけたのでした。

「ああ、クマ君か、子供達を見なかったかい?」

 困った様な表情で問い掛けるはトラさん。

「いや、見てないぜ。どこ行っちまったんだろうな?」

「ふむ。フリーマーケットの方に行ったワケではないみたいですね。うーん、では、残っているのは教会に学校だけですかね?」

「あら、まだペペロの湖の方は見ていないわよ」

「いえいえ、そちらには、別部隊が見に行っています」

 どうしたら良いかが明らかになってきました。

 村の皆は取りあえずクマさんのお兄さん、神父さんがいる教会へと取りあえず進んでいくのでありました。

◆◆◆17◆◆◆

 一方こちらは先程の話に出てきた別部隊のママさん達です。

「それにしても、どこへ行ってしまったのかしら?」

「困った子達ね。帰ってきたらただじゃおかないわよ……」

 口々に不平をこぼすネズミさんのママ達。

 ちょうど坂も登り切り、この島で最も高台に位置するカモメ岬に辿り着いた所でした。

 先程のウサギ姉さんと山猫姉さんの勝負の行方が気になるところですが、今は異種格闘技戦の話題で盛り上がっている場合ではありません。取りあえず、目の前にそびえ立つのは大きな灯台です。

 この灯台は、島で唯一の気象研究所も兼ねているのです。それだけに気象研究士のシカ先生は連日大変な仕事に負われる毎日なのです。

「こんにちわー」

 トントンとドアをノックするママさんですが、返事はありません。

 ふと見れば、鍵が開いていることに気が付きました。そっと手を掛けて、扉を開けてみれば、何やら資料の探索に苦戦中のシカ先生がいました。

「こんにちわー」

「ああ、明日のお天気は、朝のうち晴れ、午後からやや曇り空だけど、お洗濯指数はなかなか良い数値が出ている。溜まっているお洗濯物は明日処分すると良いですぞ」

 ママさん達など目に入る様子すらないシカ先生。聞いてもいないのにご丁寧に明日のお天気についてお話してくれました。ついでに、気の利いたワンポイントアドバイス付きです。

「ん? やや、これは失礼しましたな。来ていらっしゃるなら、来ていると一言言って下されば、お茶くらい出しましたのにな。はっはっはっ!」

 おかしそうに笑ってみせるシカ先生。自慢の角が笑った拍子に棚をひっくり返し、ついでに沸き立てのやかんをひっくり返し、びっくりです。

「おわっ! 危ない、危ない……おお。ちなみに、今日の午後は夕立の恐れがありますから、お出かけになられるならカサを持った方が賢いですな」

「あの、午後のお天気より、うちの子達を見かけませんでした? 朝から行方不明になってしまって、村のみなさんにも協力をお願いしているのですが、全く持って手がかりが……」

 シカ先生、飲みかけていたお茶を勢い良く吹き出しました。

「どうしてそんな大事な事、早くに言わないのですかっ!? 良いですか? 今日の午後の降水確率は極めて高いのですぞ。びしょ濡れにでもなったら、明日の洗濯が大変になってしまう。それこそエネルギーの無駄遣い、いや、最近の人は本当に資源のありがたみを分かっておりませんな……困ったものですな。ふぅっ……って、そうじゃないですな。ああ、ここは高台にありますから、何かあったらすぐに狼煙をあげてお知らせしましょう」

 なんだか本題を理解しているのか、いないのかイマイチ良く分からないシカ先生を後に、ママさん達は次なる場所を求めて移動しようと動き出しました……その時です。

「ああっ、午後の降水確率は高いですから、夕立対策にカサをどうぞ。いえいえ、持っていって結構ですぞ。それでは、私はここでお待ちしています」

 やっぱりイマイチ本題を理解していないシカ先生を後にするとママさん達は住宅街へと向かうのでありました。

◆◆◆18◆◆◆

「ほっほっほ……道に迷われたか?」

 にこにこ笑う人の良さそうなフクロウ婆さんが声を掛けます。

「お茶でも飲みなされ。甘くておいしいよ……ひっひっひ……」

 こちらも、人の良さそうなミミズク婆さんが微笑み掛けます。

 二人は魔女。魔女の薬屋を営む村でも、ちょっと変わったお店の主達。笑い方に独特のひねりが入っていて、如何にも魔女っぽさを演出しています。

 魔女達は森に迷ったチッポ達に親切にもペペロの森への安全な道を教えてくれるのでありました。しかも元気の出る、素敵な香りの香草茶まで煎れてくれました。

「ねぇ、おばあちゃん」

「なんじゃな?」

 二人に同時に反応されて、チッポは思わず目を白黒させてしまいます。

「えっと……妖精の森って、危ない所って聞いたけど、やっぱり怖い所なの?」

 チッポはおどおどしながら聞いてみます。

「妖精の森かのぉ……ふぇっふぇっふぇっ……」

「妖精の森じゃとなぁ……ひぃっひぃっひぃっ……」

 わざわざ部屋の明かりを落とし、向こうを向き肩で笑ってみせる魔女の婆さんコンビ。

「出るんじゃよっ!」

 クワッと振り向くと、ローソクの炎で顔を照らし出して見せました。

「きゃーっ!」

 思わず飛び上がるチッポ達。驚いた拍子に子供達は、いちもくさんに机の下に隠れてしまった。

「……ほっほ、そんなに怖がらんでも大丈夫じゃよ」

「妖精の森は、怖いところなどではない」

「ただ、坊や達の知恵と勇気が試されるのじゃよ……」

「さよう。試練を越えなければ妖精には逢えん」

 二人の魔女がバトンタッチするが如く話を進めるなか、再びチッポ達の表情に迷いが見え隠れします。

「へ、平気だもんっ! 妖精さんに逢うまでぼく、帰らないもんっ! 怖くなんかないもんねっ!」

 さっきまで一番脅えていたチッポが先陣切って、高らかに吠えたのを見た他の仲間達も勇気づけられたのか、後に続きます。

「お……オレだってっ!」

「ぼくだって、平気だもんね。怖くなんかないもんね」

「オイラだって! ちょ、ちょっと怖いけど……平気だモンっ!」

 大きな瞳をさらに大きく見開き驚く魔女の婆さんコンビ。

「おほほ、これは驚いた」

「婆さん、これは久しぶりに楽しい祭りになりそうじゃの」

「これは、うでに寄りをかけて薬を作らんとな」

「そうじゃな。こうしちゃおれんわ。ほっほっほ!」

 親切なミミズク婆さん、フクロウ婆さんのコンビにお礼を言うと、チッポ達はいよいよ迷いの森へと足を踏み入れるのでした。

◆◆◆19◆◆◆

 所変わって、こちらは村人達一行の捜索隊。

 未だチッポ達が見つからないと、焦りを隠し切れません。

 取りあえず教会を目指してゾロゾロとねり歩きます。さすがに、この大行列を見た時はクマの神父様も大慌てです。これは一体、何事かと驚いてしまいます。

「……みなさん、いかがなさったのです? 今日はお説教の日ではありませんけど……」

 自分で言いながらも、何かに気付いたのか、ポンと手を叩いて見せます。

「ああ、みなさん。何と信心深いことでしょう。こんなにも大勢でお祈りに来て下さるとは、ああ、神よ……」

 思わずお祈りを始めてしまう神父のクマさんに、フリーマーケットのクマさんが突っ込みを入れます。

「アニキっ! そんなのんきな事やってる場合じゃないんだよっ! 子供達が行方不明なんだよっ!」

「へっ? 行方不明? またまたみなさんそろってご冗談を。いくら私が正直者だからって、からかおうとしてもダメですよ?」

 クスクス笑ってみせるクマの神父様に、思わずしかめ面のクマさんです。そんなのんびりしている場合ではないと言うものです。

「アニキ、冗談じゃないんだよ」

「へっ? ああ、私は何て罪深いのでしょう……罪もない人々に、あらぬ疑いをかけてしまうとは、神よ、どうか、私に天罰をばっ!」

「それよりさ、子供達見なかったかよ?」

 少々呆れ顔のクマ弟。相変わらずマイペースなクマ兄。なかなか平和な人であると言えます。

「ここでもねぇとすると、やっぱり村長さん所か……」

 感慨深そうに考え込む狼のお巡りさん。

「教会には、今日は誰も来ていませんね……」

「みなさんは村長さんの所へ向かってください。オレ、ひとっ走り行って学校の方、見てきますわ」

「ええっと、私達は何処へ行けば……」

「アニキ。人の話、聞けよっ!」

 さすがに堪忍袋の緒が切れたクマ弟が声を荒げます。この兄弟、島でもなかなか有名な兄弟なんです。やけに抜けている兄と、妙にしっかりしている弟と、なかなかイケてる兄弟と言うことで人気も高いのです。

「まぁまぁ、取りあえず村長さんの所へ行きましょう」

 苦笑しながらも、ライオンさんが助け船を差し出します。

◆◆◆20◆◆◆

 再び戻ってネズミさんのママさん御一行。

 相変わらず有力な情報を得ることが出来ないまま、北の住宅街に辿り着こうとしていました。ここいらは坂の上の眺めの良い場所にあるおかげで、なかなかに地価も高く、この一体に住んでいるのはお金持ちの方々が多いようです。

「あら? あらあら、ネズミさん、お久しぶりねぇ」

 にこにこと笑顔を浮かべながら寄ってくるのは、うわさ大好き。とってもミーハーな牛おばさんです。この島でもっとも情報通なこのおばさん。おばさんの優れた情報網を駆使すれば、チッポ達の行方を探すのも難しくはないかも知れません。

「えぇ? チッポちゃん達が行方不明っ!? あらまぁ、大変ねぇ、それは、それは……」

「何か知りません?」

 情報について聞かれりゃ、応えずにはいられません。自他共に認める情報通の名にかけてもこうしてはいられません。必死で今まで得た情報を検索してみます。しかし、どうにも情報は検索される様子がありません。

「おばちゃまも、分からないわねん。まぁ。取りあえずテーでもいかが? あら。それが良いわね。モアベターって感じね。をほほ」

 情報通のクセに、なぜか「ティー」の事を「テー」と言う辺り、ますますこだわりを感じてしまいます。

 取りあえず新たな情報を求め、お金持ちのアリゲータ婦人と大工のイノシシおじさんにも応援を要請してみました。

「んまぁ、それは困った話ざーます」

 表情が豊かなアリゲータ婦人は、女優の如くオーバーリアクションで驚いてみせます。

「てやんでぇっ! こんな所でウジウジしてるヒマがあったら、どんどん探しに行った方が、早いじゃねぇかっ!」

 江戸っ子のイノシシおじさんは、とにかく気が短いです。

「ダメよん。情報収集はね、大事なのよ。ね? ちゃんと計画を立てた方が、モアベターよ」

「そうざます。現に子供達が行方不明になっているざます。これは実に、大問題ざます」

「けっ! 好きにしやがれっ! おう、チビ共、待ってなっ! おっちゃんが助けに行ってやっからよっ! あぁらよっとぉっ!」

 うんうんと感慨深そうにうなずく奥様軍団に業を煮やしたのか? 啖呵を切ると、イノシシおじさん、まさに猪突猛進の勢いで砂煙を巻き上げつつ走り去って行きました。

 呆気に取られながらも、ママさん達も取りあえず大急ぎで追い掛けます。

 なんだか問題意識が薄い牛おばさんは、せっせとアリゲータ婦人と流行の話に花が咲きます。

「それでね、おばちゃまはね、今年の流行はこの、花柄のバッグが、モアベターだと思うのね」

「あーら、ずいぶんセンスが無いざますね、おほほほほ」

「奥様は目利きですのね。それもモアベターよ」

 すっかりマイペースに、奥様方は世間話に花を咲かせるのでした。今日も、島はとっても平和なのでした。

◆◆◆21◆◆◆

 一方その頃、イノシシおじさんは何処へ行ったのやら、もはや皆目見当つかないネズミのママさん達なのでした。

「イノシシさん、何処へ行ったのかしらね?」

「取りあえずペペロ湖まで来ちゃったわね……」

「そうだわ、ビーバーさんなら、何か御存知かも知れないわね」

「ええ、取りあえず行きましょう」

 目の前に広がるは豊かな水を称えたペペロ湖です。ペペロの森に囲まれた風光明媚な湖は、観光名所として大変有名な場所だそうです。

 ここでペンションを経営するのが、今、丁度話題に出てきたビーバーさん達なんです。

 さて、ところで、チッポのママさん率いる捜索隊はどうなったのでしょうか?

◆◆◆22◆◆◆

 静かな草原に囲まれた小さな学校。ここはチッポ達が通う、くぬぎの森小学校です。

 のんびりと校庭を掃除しているのは、この学校の校長先生、コアラ校長先生です。なにぶん夜行性な為、昼間の仕事はちと堪えるようです。ほら、大きなあくびです。

「ふぁーあ……ふむ、今日も良いお天気ですねぇ……こう、ポカポカと暖かい陽気と言うのはですねぇ……実に、眠気を誘ってくれるものなんですよねぇ……ああ、これでは、お掃除が捗りませんねぇ、困りましたねぇ……ふぅ……ふぁーあ……」

 クスクスと笑いながら、校庭の落ち葉を丁寧にお掃除していますが、いかんせん、昼間に弱いので、動きが妙にゆっくりしています。

「コアラ先生ーっ!」

「?……おやおや、クマ君ですかぁ……今日はまた、良いお天気ですねぇ、こう良いお天気だと、ついつい眠くなってしまいますねぇ、これがまた……」

 相変わらずにこにこ笑いながら、のんきにお掃除をし続けるコアラ先生。この人もなかなかにマイペースな人です。

「大変なんですよっ! 子供達が行方不明になっちゃったんですよっ!」

「子供達? はて? いなくなったのは一体、どこの誰ですかねぇ、気になりますねぇ」

「そんな、のんきに構えてる場合じゃ無いですよっ! チッポ達がいなくなっちまったんですよっ!」

「ほほぉ……あの年頃の子供達は、元気がありますからねぇ。ピクニックにでも出かけたんじゃないんですかねぇ? 行方不明だなんて大げさですよぉ、ほっほっほっほ。いやいや、これは愉快ですねぇ」

「……取りあえず、学校の方には来ていない様ですね」

 諦めて帰ろうとするクマ弟。しかし、背後の強烈な気配に気付き、思わず飛び上がります。

「ふむ。私も一緒に行きましょうかねぇ、村長さんの所へ向かう所ですよねぇ?」

 コアラ先生の目がキラリと光ります。

 この先生、普段は恐ろしく鈍くさいのですが、いざ、気合いを入れて行動し出すと、実に侮れない人であったりするのです。そのあまりに強烈な気迫は、思わずクマ弟の背筋に戦慄を走らせてしまうほどなのです。

 こ、このおっさん……出来るぜ! 思わず我を忘れるクマ弟ですが、あわてて本題を思い出すのです。さっそくコアラ校長を連れて村長宅を目指すのでした。

◆◆◆23◆◆◆

 そして訪れた村長宅。

 なんだか緊迫しているのかしていないのか、いまいち分かりにくい空気の中、捜索本部が設置されようとしていました。

「ええー、それではー、子供達がーどこに、行ってしまったかとー、言うのがー、今回の話題の焦点で、ええー、ありまして……ぐぅぐぅ……」

「村長っ!」

「……っああー? ええっとー、何でしたかな?」

 こんなのんきな人が村長さんな訳ですから、この島もなかなかマイペースな島であると言えるのでしょう。

 何にしても取りあえず、ひつじの村長はねぼすけさんであることは、誰の目にも明らかであるのでした。

「おうっ、村長さんよ。こっちにチビ共は来なかったですかい?」

「ああー、見ていないですねー」

 丁度そこへクマ弟がコアラ校長先生と共にやってきました。

 にこにこ笑いながらも、必殺の気配を放つコアラ先生に、場の空気がピーンと張りつめます。

「おやおや。みなさんもう来ていたんですねぇ、ちょっと遅れてしまいましたねぇ。これは、ちょっと失礼しちゃったわけなんですねぇ、ほっほっほ……」

「コアラ先生、そちらにも子供達は居なかったですか?」

 ライオン博士が、妙におどおどしながら訪ねます。

「いやいや、困ったことに来ていないんですよねぇ、はぁ、見かけてすらも居ないんですよねぇ、ふむ、困りましたねぇ……」

「……zzzzZZ」

「ヒツジ村長、寝ないで下さいね」

 ライオン奥さん、クスクス笑いながら、鋭く切り返します。

「ああ。本当にどこに行ってしまったのかしらね……」

 困った様な表情のママさん達です。

「ふむ、ここまで捜して見つからないってのはですねぇ、見落としている場所があるのかも知れませんねぇ。或いはすれ違ってしまった可能性もありますねぇ。こう言うときはですねぇ、最後はですねぇ、占ってもらっちゃってのも、一つの手ですねぇ」

 コアラ先生は、にこにこ笑いながらお茶をすすって見せます。ヒツジ村長は相変わらず、隙を突いてグゥグゥ寝ています。

「いやいや、コアラ先生、なかなか良いところに目が行きますなぁ、めぇーそれもまた、一つの手と言うモノですね、めぇー」

「そうですね。最後は神頼みですね」

 寝ながらも、返事を返すヒツジ村長に、皆が思わず頷いてしまいます。

「あのー、私も一応、神に仕える者なんですけど」

 クマ兄がテヘヘと笑ってみせます。

「アニキは黙っていろよ」

「……そんな、言い方しなくたって、良いじゃないですか……」

 クマ弟のきつい反応に、思わず、クマ兄はシュンとしてしまいます。ここで、すかさずトラさんが救いの船を差し出します。

「とにかく、行動あるのみです。クジャクの占いハウスを目指して行きましょう」

 一行は、トラさんの提案を受け、身支度を整え出発しようとしていました。しかし、ヒツジの村長はいまだに寝ぼけ眼です。レストランのシェフのウマさんが、ニンジンでひっぱたいて、叩き起こします。

「料理は愛情、料理は手間かけ作るのさー。おうっ、村長さん、もたもたしてっと、置いてっちゃうよー」

 なんだか、妙な顔ぶれでゾロゾロと移動を開始する一行。さてさて、チッポ達はどうなったのでしょうか?

◆◆◆24◆◆◆

 その頃、チッポ達はペペロの森を抜けたところでした。

 その先に広がる、妖精の森へと続く、迷いの森にちょうど差し掛かった所でした。

 ペペロの森と比べるとより一層鬱そうと茂った木々に、不思議な冷気が漂うちょっぴり恐怖心を誘ってくれそうな森です。

 旅行通のモグラ君の話ではバスが出ているらしいのですが、どうやらお祭りの準備に忙しいのか運転手さんもお休みってワケなのでしょうか?

「バス……来ていないみたいだね」

「歩いて行けってのかよっ? ひぇーっ!」

 思わず驚きの声をあげてしまうネズミ君。皆の視線が集中して思わず赤くなってしまいます。どうしたものかと困っているチッポ達の前にひらひらと蝶々の様な光が飛んできました。

「んん? なんだろ?」

 よくよく目を凝らすと、それは小さな女の子でした。背中に透き通った羽根をはやした、フェアリーの女の子。

「ようこそ、妖精の森へ。とは言ってもここは、その入り口の迷いの森と呼ばれている場所なんだけどね。あなた達もお祭りに?」

 突然現れて、元気良くペラペラと喋りまくるフェアリーの登場に、チッポ達は少々戸惑い気味です。

「えっと……妖精の森って、ここなの?」

 恐る恐る話し出すチッポ。

「いいえ。ここを抜けた所にあるの。ここは迷いの森。たちの悪いイタズラっ子達がたくさんいるの。良かったら、あたしが案内して上げるわ。目的地は、ドラゴンの楽器屋さんでしょ?」

 ドラゴンの楽器屋さん……そこに、ぼく達の探し求める、素敵な楽器があるんだね? 何となくチッポは旅の目的が見えてきたような気がしました。

「それじゃあ、あたしが案内するから着いてきてね」

 キラキラと輝く光の軌跡を残しながら、フェアリーはヒラヒラと森の奥を目指します。

 迷いの森……どこからともなく聞こえてくるカラスの鳴き声。目の前に広がるのは狭い道と、池のように広がるくすんだ色の沼地。時折、ポコポコと泡が出てくるのが不気味さを増しています。

「ほ、本当に、こんな所にあるの……」

 声が震えるサル君。おっかなびっくり沼地をのぞき込んで、再び飛び上がります。

「ええ、ここを抜ければ妖精の森よ」

 突然、どこからともなく軽快な音楽が聞こえてきました。まるでバレエでも始まるかの様な曲調です。

「ふぅっ。さっそく来たわね……」

「えっ!?」

 曲に併せて、森の奥からポンポンと真っ赤なキノコが飛んできます。ついでにヒモみたいな手足をはやすと、曲に逢わせて優雅に踊り出しました。

 これにはさしものチッポ達も唖然としてしまいました。何しろ、目の前では曲に逢わせて真っ赤なキノコ達が、円陣を組んで優雅に踊っているのです。普通は驚きます。

「な、何なんだよ? こいつら……」

 突然曲調が優雅な白鳥の湖から、剣の舞に変わりました。

「きゃーっ!」

 突然、キノコ達が元気良くチッポ達に飛び掛かってきたのです。じゃれ付く様な動きでチッポ達に絡むと、威勢良く胞子をばら撒いたのです。

「くしゅんっ! くしゅんっ!」

「うひゃーっ! キノコ、いやーっ!」

 さぁ、大変です。チッポ達はパニック状態です。その光景を目の当たりにした、フェアリーの表情が険しくなります。森の奥、茂みの方を睨み付けると叫びました。

「ちょっとっ! いい加減にしなさいっ!」

 森の奥からばつが悪そうな表情で出てきたのは小さな角とシッポを持った性悪妖精、レプラコーン達です。彼らは森を訪れる人々をからかう困ったさん達なのです。さしものチッポ達も、この妙な歓迎には驚きです。

◆◆◆25◆◆◆

「……ひゃー、びっくりした」

「変なキノコに襲われちゃったし、びっくりだよね」

 思わずリス君、チッポと顔をあわせてクスクス笑ってしまいます。

 相変わらずむっつりした表情のレプラコーン達は、チッポ達を物珍しそうに見つめています。

「……君達、だれ? フェアリーさんのお友達?」

 そこは好奇心旺盛なチッポ。早くも嬉しそうに笑いながら、目の前にあらわれた新しいお友達とお話がしてみたくて仕方ありません。シッポを降って、精一杯敵意の無いことをアピールしてみせます。

「……お友達? 違うわよ。こいつは、森を訪れる旅人達に、ちょっかいだすイタズラ者よ」

 むすっとした表情のままチッポの説明してくれるフェアリーでしたが、チッポにはどうしても彼らが悪者には見えません。

「悪い人?……ううん、違うと思う。だってね、ぼくね、怖い人や、悪い人とお話するときね、シッポもヘニャってなっちゃうし、お耳だって、ペシャってなっちゃうんだもん。でも、シッポだって、お耳だってピンとしているでしょう? だから、きっと、レプラコーン君はいい人だよ。ねっ?」

 にこにこ無邪気な笑顔のチッポ。そんなチッポの表情に一瞬吸い込まれそうになるレプラコーン達。そんな自分に気が付き、真っ赤になりました。

「あっ!……行っちゃった。きっと、照れ屋さんなんだね。あーあ、今度逢ったら、お友達になりたいなぁ」

 チッポは相変わらずにこにこ無邪気な笑顔を見せるばかりでした。

◆◆◆26◆◆◆

 チッポ達一行は尚も森を奥へと進んでいくのでした。途中、不思議なカラスさんに出会いました。一つの体に二つの頭。なんだか妙に不思議なカラスさん。お話好きのカラスさんに、すっかり気を取られてしまうチッポ達でした。

「へぇ、それでお祭りってどんな感じなの?」

 ワクワクしながら聞いてみせるチッポに流し目をくれながら、カラスさんが笑います。

「お祭り? なによ、あんた、そんな事も知らないの?」

「これだから都会のお坊っちゃまってイヤよねぇ……」

「そういうあんただって、モノ知らずなクセに」

「あーら、あんた程じゃないわよ」

「言ったわねっ!?」

 二つの首のカラスさん、なんだか一人でケンカを始めちゃいました。さしものチッポもこれには驚きです。何しろ、何て言って説得したら良いのか皆目見当も尽きません。

「……えっと、二人とも……じゃないけど、ケンカは止めようよ?」

 にっこり笑うチッポに、ハッとなるカラスさん。慌てて平静を装ってみせる辺り、なかなかしたたかですね。

「をほほ、あたくしとしたことが……」

「ごめんなさいね、坊や達」

「迷いの森は、もうじきお終いよ」

「小娘、ちゃんと案内してあげるのよ?」

「小娘? あら、それは良いわね。をほほ」

 一人で大受けするカラスさん。フェアリーにしてみればなんだか面白くない展開です。ムスっとした表情のまま、カラスさんに向き直ります。

「小娘とはずいぶんね。これでも、この仕事に就いてからのキャリアは長いんだからね? まったく、年増のカラスおじさん……じゃなかった。おばさん達こそ、少しは、その口を尚したらいかが?」

 精一杯の皮肉をこめてフェアリーが返す。

「お、おじさんって言うんじゃないわよっ!」

「そ、そうよっ! 失礼ぶっこいちゃうわね、この、すっとこどっこいがっ! さっさと、お行きっ!」

 先程までの平静さは何処へやら、怒りの表情のカラスさん。その変化を目の当たりにして、チッポ達がクスクス笑います。

 フェアリーの案内により一行はいよいよ迷いの森を抜け、妖精の森へと到着したのでした。

◆◆◆27◆◆◆

 一方その頃……。

「あら……イノシシさん、どこ行ったのかしらね?」

「確かにペペロ湖の方に行くって行っていたのにね?」

 イノシシおじさんが突っ込んで行ったであろうペペロ湖に到着したのは、ネズミ君のママさん達。しかし、ここまで捜して見つからないなら、もっと他に手はあるような気がしなくもないのですが、そこはそこ。なかなか気づかない辺りに十分過ぎるほどのサービス精神を感じてしまいます。

 さてさて、目の前に広がるのは豊かな湖水を讃えたペペロ湖。なんでもビーバーさん一家の営む森のペンションがあるとか。

 さっそく向かうママさん達でありました。

「ビーバーさん一家のペンションね。取りあえず、行くだけ行ってみましょう」

 ビーバーさんのペンションは、近くで見るとますます立派な造りです。木の香りがする素敵なペンションです。ちょっとシーズン前と言うこともあって、なんだか忙しそうな雰囲気が漂っています。

「こんにちわ」

「はーい、今行きますーっ!」

 中から元気良く聞こえてきたのは、元気いっぱいなビーバーの女将さん。キビキビとした動きはその道のプロを思わせるものがありますね。

「あら、ネズミさんやないの? ようこそ来てくれはりましたな。丁度、お掃除も終わった所ですし、お茶でも出しましょうね」

「あ……お茶より、うちの子供達見ませんでした?」

「はて? 父ちゃん、居るかいな?」

「なんや、騒々しい……ああ、ネズミさん達、遠路はるばる、よう来てくれはりましたな。んで、どないしはりました?……へっ? 子供達が行方不明?」

「どこへ行ったのやら、皆目見当尽きません……」

 これは困ったぞとビーバーさん必死で頭を働かせる。

「そや、チビ共……いやいや、子供同士、何か知ってるやも知れませんな。おーいっ!」

「なんや、父ちゃん、メシかいな?」

「あっ、ネズミ君達のおばちゃんや。どないしたん?」

 トタトタと元気良く走り込んできたのはビーバーの兄弟。兄弟揃ってそっくりな双子の兄弟。久しぶりにやってきたお客さんにウキウキしてしまいます。

「お前達、チッポちゃん達何処行ったか知らないかい?」

「え? 知らないよ。ね?」

「うん、ぼくも知らんわ。堪忍な」

 何かを作っているのか、熱心に丸太をかじる兄弟。行儀がわるいと、おかみに小突かれて苦笑してみせます。

「皆々様、お困りの様でありますな。ゲコゲコ」

 ゲコゲコと言う鳴き声につられて後ろを振り向けば小さな、小さなカエルさん。そう、ここペペロの湖にはカエルさん達の王国があるんです。頭にちょこんとのっけた小さな冠からして、どうやら王子様の様ですね。

「ボンジュール、皆様。何かお困りの様であられますね。ノンノン。悩むことは、ナッシングですね。私が一緒に考えて差し上げますから、もう、ノープロブレムなんですね」

 ……今更申し上げるまでもないが、この島の住人がまともであるわけがないのは、既に周知の事実であると言えましょう。

 例によってこのカエルの王子様もなかなかに濃い人物(?)であることは、火を見るよりも明らかでありましょう。

「あ、あの、あなたは?」

 困った様な表情をしながらも、おずおずと訪ねるママさん。

「よくぞ聞いてくれましたね。私こそがここペペロの湖の、カエル王国第一王子、カエルさんなんですね。みなさん、王子さまの御前だからと言って、驚くことはありません。私はこう見えて、大変お心が広いお方です。いつもと同じように振る舞って下さって、全然OKなんですね。あ、よろしかったら、麗しのマダム、私にお水を一杯頂けますか? どうも、陸地はお肌が渇いて美容に良くないですね。皆様も、水分の補給は、ベリーベリー重要ですね。ネバーフェイルですね」

 その後も、カエル王子の妙な独壇場は続き、なかなか本題に入ることが出来ずに、ママさん達は困り果てていました。

「……ところで、何かお困りでしたね?」

「ええ、実は子供達が行方不明になってしまいまして……」

「ふむふむ、WAOっ! それは、それは、一大事ですね。ノンビリしている場合じゃないですね。必死で捜しました?」

 相変わらず表情が豊かなカエルの王子さま。全く王子の品位が感じられないのが、また面白いですね。

「ふむふむ……なるほど。こういう手はいかがでしょう? 私の国では、捜し物が見つからないときは、占いによって捜しますね。きっと、占いを使えば行方不明の子供達も見つかりますね。それが良いですね、シルブプレ」

 カエルさんの意外にも、かつ的を得た提言にママさん達の表情が明るくなる。そうよ、これだけ捜して見つからないなら最後は、神頼み。目指すはクジャクさんの占いハウスしかありません。

 一行は、ビーバーさん一家と、なぜかカエルの王子を連れクジャクさんの占いハウスを目指すのでした。

◆◆◆28◆◆◆

 なんだかんだと苦労しながらも、ちゃっかり妖精の森に到着しちゃったチッポ達でした。どこからか聞こえてくるのは軽快な笛の音。木製の笛なのでしょうか? どこか暖かな音色がチッポ達を歓迎してくれます。

「ひゃっほうっ! ようこそ、妖精の森へっ!」

 木の上から聞こえてくる元気の良い声。慌ててチッポが上を向けば、木の枝に腰掛ける笛吹き少年、ピクシーがいました。

「おーおー……お客さんが……来たのかい……」

 のんびりと低い声で、ごわごわと語りかけて来るのは大きな木の枝をざわめかせるトレントのおじさん。妖精の森を訪れたお客を歓迎しているんです。

 もう、チッポ達は嬉しくて、嬉しくて仕方がありません。

「フェアリー。今日のお客さんは、ずいぶんと可愛いお客さん達だね。道中大変だったでしょう?」

「まぁね、慣れているとはいえ、困った人達よね」

 苦笑してみせるフェアリー。

「ドラゴンの……楽器屋は……そこを……まっすぐ行ったー……所にある……焦ることは無い……ゆっくり行くが良い……」

 親切に道を教えてくれたトレントおじさんに、気のいいフェアリーに、元気な笛吹きピクシーにバイバイすると、チッポ達は、いよいよ待望のドラゴンおじさんの楽器屋を目指して駆けて行くのでした。

 サラサラと揺れる木の葉の音が、素敵な木の香りが、チッポ達を応援します。

◆◆◆29◆◆◆

「おやおや、ようこそ」

「えっ?……誰っ!?」

 木陰の坂道を登っていた時でした。

 どこからともなく聞こえてきた謎の声。チッポ達は思わず飛び上がってしまいました。

「わはは、ここじゃよ。おまえさん達の後ろさ」

 振り向けば、そこには大きな、大きな岩が佇んでいました。大きな目と大きな口を持った、妖精の森一番の物知り岩おじさんです。久しぶりのお客さんににこにこ笑顔です。

「これはまた、ずいぶんと可愛いお客さん達だね。ようこそ。ここまで来るのは大変だっただろう? キミ達も、妖精の村祭りに参加しにきたんだね? ふむふむ。この先には、ドラゴンのおじさんのお店がある。そこで楽器を作ってもらうと良い。妖精の村祭りは、それは素敵な音楽の祭りさ」

 中々に表情豊かな岩おじさんは、話好きなのか? にこやかな笑顔で語り続けます。

「この時期はドラゴンのおじさんも大忙しでね。なにしろ、参加者みんなに楽器をこしらえてあげなくちゃいけないからね。大忙しさ。そうだ、坊や達、おじさんの所に行くのなら、木の実を拾って行ってあげると良いよ。ドラゴンのおじさんは木の実が大好きなのさ。ご機嫌なおじさんの作る楽器は、それは、それは素敵な楽器だからね。さぁさぁ、そこの坂を登ればドラゴンのおじさんの楽器屋さんだ。転ばないように気を付けて行くんだよ?」

 親切な岩おじさんにお礼を言うと、チッポ達はいよいよ待望のドラゴンのおじさんの楽器屋さんは、もう目と鼻の先です。

◆◆◆30◆◆◆

 そして、こちらはクジャクの占いハウス。

 二手に別れた捜索部隊は、まさかこんな所で合流しようなどとは思いもよらなかったことでしょう。しかし、もっと驚いたのはクジャクさんの方でした。何しろ、突然がやがやと村の……いや、島の住民達が一斉に訪れれば、何事かと驚くのは無理もないと言うモノであります。

「……こ、これは……なんとしたことなのじゃ?」

「すみませんね、クジャクさん。なんだか大勢で押し掛けてしまって……子供達が行方不明なんです。捜しても見つからないし、手がかりらしいモノも見あたらないし……それで、最後の期待を託しここに来ました」

 なるほどと事情を理解するクジャクさん。皆の期待を一手に引き受ければこそ、これは大仕事と言うモノであります。ここは見せ所です。がんばらなくてはなりません。水晶球を見つめる瞳にも力が篭ります。

「分かりました。わらわの全力を込めて、子供達の行方を捜してみせようぞ。ほほほ。案ずることはない。このクジャクに不可能なぞないわ」

 皆が固唾を飲む中、クジャクの占い師の妖しげな占いの儀が始まった。

 ゆらゆらと揺らめくような陽炎の動きの中、仄かな光を放つ水晶球に皆の視線が注がれます。

「……パパイヤー・マンゴー・ストロベリー・マスクメロン……ぬぬぬぬぬぬぬっ!? 見えてきた、見えてきた……きえええぇぇーいっ!」

 刹那、眩いばかりの閃光がクジャクの占いハウスを包み込みました。真珠の様な淡い輝きを残すと、再び静寂が戻ってきました。「……ふぅ、分かりました。探し求める、あなた方のお子達は、迷いの森の奥深く、ドラゴンの楽器屋に居ると出た。おそらく、妖精の村祭りに参加しようという考えなのであろうな。ふむ、わらわの占いは以上じゃ」一息着くクジャクの占い師。相変わらず妙な気配を放つ。淡い香気が不思議さを演出します。

◆◆◆31◆◆◆

「……ああ、やっぱり最初から迷いの森に行くのが近道だったってワケですね。私も、そう思っていました」

 クマ兄がクスクス笑ってみせます。あたかも神の勝利だと言いたげな所が、なかなかにお茶目なお兄さんですね。

「……アニキ。そう思っているんだったら、もっと早くに言えよなっ!」

「聞かれなかったですし、なんだか、みなさん、とても忙しそうに焦っていましたから……」

「なおさら先に言えよっ!」

「……グスン。そんな言い方しなくても……」

 妙なやりとりをするクマの兄弟を後にするとママさん達を筆頭に、大慌てで回れ右をします。ついでに疾風の如き速さで、妖精の森を目指してかっ飛ばしていきます。あまりの速さにハリネズミ君もびっくりです。

◆◆◆32◆◆◆

 広い、広いお家……この家がドラゴンおじさんの楽器屋さんなのです。重厚な造り。それでいて質実剛健な外観からは、ドラゴンおじさんのセンスの良さが伺われます。

「……それじゃあ、ノックするよ」

 ドキドキしながらも、チッポがそっとドアに手を掛けます。

「……ねぇ。なんで、みんな逃げる準備しているの?」

 背後での仲間達の気配に気付き、すかさず鋭い突っ込みをいれます。ばつが悪そうにネズミ君、テヘヘと笑って見せます。

「今度こそ……。こんにちわーっ!」

 返事がありません。あれ? おかしいな? お留守なのかな? 気を取り直し、もう一度ノックしようとしたときでした。

「ようこそ、可愛いお客さん」

「きゃーっ!」

 ドアが開くと、中から出てきたのは大きな、大きなドラゴンのおじさんでした。思わずチッポ、悲鳴をあげちゃいました。

「そんなに驚かなくても大丈夫ですよ。君達を食べちゃおうなんて、思っていませんからね。遠路はるばる、よくここまで来ましたね。ええ。お望みの楽器は、もう出来上がっていますよ」

「えっ!?」

 思わず驚いてしまうチッポ達でした。

 だって、ぼく達ここに来るの始めてだし、おじさんに逢うのも始めてなのに、どうしてなんだろう? 不思議そうな表情のチッポをひょいと抱えると、ドラゴンのおじさんはおかしそうに笑って見せます。

「風が教えてくれたんですよ。素敵なお客さん達が今日ここに来るってね? だから、あらかじめ創っておいたんですよ。ほら。見て下さい。なかなかの出来ですよ」

 ドラゴンのおじさんが指さす先にはお日様色をした、ひまわりのお花の様な、それは、それは、きれいな黄色のフルートが置かれていました。

「わぁ。すごーい……」

「気に入って貰えましたか? ちゃんとサイズも併せたつもりなんですけど……チッポ君、吹いてみて下さい」

「えっ!? ぼくっ!? だって、楽器なんて使った事無いし、爪切りだって上手に使えないくらい不器用なんだよ。そんな……ぼくになんか、使えないよ……」

 チッポは困った表情を浮かべます。でも、振り向けばネズミ君が、リス君が、サル君が微笑んでいます。

「大丈夫だ。チッポ、お前なら出来るぜ」

「そそ、挑戦。挑戦。ダメなら、オイラが吹いちゃうよ」

「ぼく達がついているんだもん。ドーンと行こうよ」

 皆に応援され、勇気づけられたチッポ。先程までのぺしゃんこのお耳も、へにゃっとなったシッポも、ピンとやる気満々です。

 よーし、やってやるぞ。元気良く胸を張ると、大きく息を吸い込みました。そして、おじさんからフルートを受け取ると、力一杯息を吹き込んでみました。

「あ……あれ? ぼくの……手が、指が、勝手に動いちゃう!?」

 不思議と見たことも、触ったこともない楽器なのに指がひとりでに動いてしまいます。もう、チッポは嬉しくて、嬉しくて仕方ありません。調子にのって踊りだした瞬間、不思議な事が起こりました。森の中を吹き抜けていた、そよ風が止まってしまったのです。

「あれ?……風が止んだぞ???」

「ふふ、さて、何が起こるんでしょうかね?」

 おかしそうにクスクス笑って見せるドラゴンおじさん。きょとんとするチッポ達をよそに、相変わらずフルートは素敵な音色を奏でています。

◆◆◆33◆◆◆

「はぁはぁ……やっと着いたわ……」

「チッポ、今行くからねっ!」

 息も絶え絶えのママさん達は、やっとの思いで妖精の森に到着しました。すこし遅れて、ライオン博士にクマ兄弟ヤギじいさんに、コアラ先生、村長のヒツジさんやら、もう、村の人達総出で到着しました。

「おうっ!チビ共、今行くぜっ!」

「さぁさぁ、急ぎましょう。陽が落ちてしまっては厄介です」

 息巻くみなさん。その時でした。

「あら? 何かしら……ゴーって音がするけど……」

「めぇー、竜巻の様な轟音じゃが、大丈夫かの?」

「ひっ! た、大変だっ! 竜巻だっ!」

「ひぇーっ!」

「神よ、私たちをお守り下さいっ!」

「アニキっ! んな、のんきなっ!」

「あー、これはまた、すごい風ですねー」

 なんだか良く分からないまま、竜巻に呑み込まれたママさん達一行。そのまま妖精の森の中心部に吸い込まれて行きます。そして、気が付くとそこには……。

◆◆◆34◆◆◆

 所変わって、こちらはドラゴンのおじさんの楽器屋さん。

「い、今、すごい音しなかったっ!?」

 もの凄い物音に、びっくり仰天のチッポ達。何もかもお見通しとばかりにドラゴンのおじさんがクスクス笑ってみせます。そのまま、勢い良くチッポ達を次々と背に乗せると元気良く舞い上がります。

「うわっ!」

「きゃーっ! こわーいっ!」

「良いですか? しっかりつかまっていて下さいね。お祭りの開催地、森のコンサート会場へ向かいますからね」

 大空を力強く羽ばたくドラゴンおじさん。その姿は島の至る所から見えました。

◆◆◆35◆◆◆

「おや?……ははぁ。いよいよお祭りが始まるな。こりゃ、急いでいかないと乗り遅れちまうな」

 慌てて郵便受けに手紙をしまい込むとワシおじさんが羽ばたきます。


「ん? ありゃりゃ。フクロウ婆さんや、いよいよじゃぞっ!」

「ちょいと待ちんしゃい。あと、この薬と……その薬と……」

「商売よりも、お祭りじゃよっ!」

 大慌てでふろしきに大切な薬をたっぷり抱え込むと、魔女の婆さんコンビもヨタヨタと羽ばたき出します。


「あら? あれは……」

「こいつぁ、いよいよだぜ。一時休戦だ。良いなっ!?」

「ええ。望むところですわ」

 異種格闘義戦に花が咲く、若いお嬢さん方もこりゃ大変だと大急ぎで妖精の森を目指し走り出します。


「相棒、急がないとっ!」

「分かってるさ、兄弟っ!」

「取りあえず迷子から脱出だっ!」

「おうよ、兄弟っ!あ、迷子がなんでぇっ!」

 キツネ、タヌキのおマヌケ漫才コンビが走り出します。


「あらあら、もう始まっちゃうの? あらあら、これは急がなくちゃ、あらあら大変だわ」クリーニング屋のアライグマおばさんが、


「お祭りー」

「お祭りー」

「おにぎりー」

 三つ子のネコ兄弟達が、


「ああっ、お祭りが始まるよっ!行かなくちゃ」

「ああ、モグラ君、土中に逃げるなんてあんまりじゃないか? ああ、麗しの妖精の森、今行くからね」

 旅行通のモグラ君に、演技派のオウム君が、


「……いよいよ始まる様だな……ふっ……参加させてもらうか……」

 自称ギャングのクロヒョウおじさんが、


「あら?お祭りが始まるわ。まぁ、大変。急がなくちゃ遅れちゃうわ。それが、モアベターね」

「あら、奥様、お待ちになるざーます」

 ミーハーな牛おばさんに、アリゲーター婦人が、


「おうっ! イルカ、今日は店じまいだっ!」

「分かってますよ、大将っ! さぁ、ペンギンちゃん、ぼく達もお祭りに参加しようっ!」「ええ、イルカさん……あなたの行くところならあたしは、どこへだって着いていきますわ」

 二人のやりとりに耳まで真っ赤になりながらも大急ぎで妖精の森を目指す三人。その後を大慌てで追いかけるのはラッコちゃんでした。

「ってゆーか、あたしを無視すんなって感じー?」


 そして、こちらは気象研究所。

「ああ、夕立の恐れがあると言うのにお祭りとは、なんて事だ。こまった事に人数分のカサが無いっ!?……はぁ、もう世も末だな。しかし、お祭りはお祭り。私も参加しなくては。気象研究所も参加しますぞー」

 なんだか慌ただしい動きのシカ先生に、


「ひゃーっ。一大事っスよ。もう始まっちゃうんスかっ!? ええーい、仕事なんて後っス! オレっちも参加するっスっ!」

 超高速で走るハリネズミ君に、そして、


「やっぱりそこかっ!? どうやら見つかったみてぇだな。へへっ、泣かせてくれるじゃねぇかよ……おうっ、おっちゃんも参加するぜっ! てやんでぇ、気が短けぇっ!」


「いよいよね。あたし達も参加しましょう」

「……」

 息巻くフェアリー。ばつが悪そうなレプラコーンがひょっこり現れる。例によってのキノコ達と一緒に。

「……何ぼさっと突っ立っているのよ。会場は、あっちよ。急ぎなさい」

 突っぱねた対応を取りながらも、微笑むフェアリーの優しさに、思わず真っ赤になるレプラコーン。キノコ達と一緒にスタスタと走り去っていきます。

「素直じゃないわね」

「どっちもどっちだと思うけどね」

 ニヤニヤ笑うピクシーにパンチをかますとフェアリーも、ピクシーも急ぎ会場に向かう。のんびり歩くトレントおじさんをおちょくるのは二つ首のカラスさん。

「鈍いわねー、始まっちゃうわよ」

「どうでも良いけど、あんた、化粧に何時間かけるのよっ!?」

「そういうあんただって、同じ様なモンでしょっ!?」

「なんですってっ!?」

 一人でケンカを始める二つ首のカラスにトレントおじさんが、のんびりと突っ込みを入れる。

「……遅れるぞ……」

「なっ!? あんたに言われたくないわよっ!」

「そうよ、そうよっ!」

 そして、物知りの岩おじさんも、重い腰を引き上げながらゴロゴロと目的地を目指して転がります。

「ひぃっ、急がなくては……」

◆◆◆36◆◆◆

 いよいよ、待ちに待ったお祭りが始まります。

 チッポは高鳴る胸を抑えるのに必死です。だって、ちょっとでも気を抜くと、シッポはプロペラ、お耳はタケノコみたいになっちゃいますからね。ネズミ君達も驚きを隠せないようです。そして、長い、長い森の道を抜けると、そこには……。

「さ、ここを抜ければコンサート会場です」

「う、うん。なんか、ドキドキしちゃうね」

「……おおっ、さすがに、ちょっとな」

 そして、最後の一歩を踏み出した瞬間。そこには、緑に囲まれた素敵なコンサート会場が……あるはずだったのですが……そこには……。

「えっ!? ま、ママっ!?」

「げげっ! かぁちゃんっ!」

 そう。そこには先程の竜巻に巻き込まれた捜索部隊が待ち構えていました。そして、祭りに参加すべく集まった島の住民達が一同に介していたのでありました。当然の事ながらチッポ達に、ママ達の強烈な雷が落ちたのは言うまでもありませんが……。

◆◆◆37◆◆◆

「おっほん。みなさま、ようこそっ!妖精の森へっ! そして、五十年に一度のお祭りに、よく参加してくれました。それでは、みなさん揃った所でそろそろお祭りを開催したいと思います。若輩の身ではありますが、指揮者をつとめさせて頂きますドラゴンでございます。最後までどうか、みなさま私につき合って下さることを祈りつつ栄誉あるコンサートマスターを指名させていただきます」

 ドラゴンおじさんが恭しく挨拶をしてみせます。そのまま、チッポの肩に手を掛けます。

「ええ、度重なる苦難、試練を乗り越えここまで来た勇気ある少年に、その役目をお願いしたいと思います。チッポ君。前へ出て下さい」

 にっこり笑って片目をつむって見せるドラゴンおじさん。これにはさすがのチッポもビックリです。思わずシッポがカミナリみたいになってしまいます。

「ぼ……ぼくがっ!?」

「ほらほら、チッポ、お呼びだぜ」

「大役、がんばってね」

「ちゃはーっ、やっぱりチッポか。残念っ!」

 友達の声援に応えるべく、震える足取りでゆっくりと大きな切り株の上に登ります。ゆっくりと、しかし、確実な足取りで。

「……ええっと、ぼく、何をしたら良いの?」

「そのフルートを吹いて下さい。大丈夫、自分を信じて?」

 にこにこ笑うドラゴンのおじさん。ふと周りを見渡せば、皆が円陣を組んでいるではありませんか。何が行われるかなんとなく分かったチッポは、嬉しそうにフルートを手にすると、そっと唇をあてがいました。

 チッポの小さな手と、小さな口から、力強い音色が響きます。

「ララララララ、風が木々を揺らせばー」

「ララララララ、雨が葉にしずくを置き忘れるー」

 不思議と懐かしいコーラスが響き渡ります。

 クマ兄弟が自慢のバリトンを響かせれば、子供達が明るい声で元気良く詠い返します。

 ライオン夫妻が愛を語れば、イルカ、ペンギンコンビが未来を詩に託してみせます。

 オオカミのお巡りさんがハスキーな声を響かせれば、ウサギ姉さんに山猫姉さんが甲高い声でソプラノを歌い上げます。

 皆が思い思いの歌い方で詩を歌い上げます。その素敵な歌声に併せて、フェアリーがタンポポの綿毛を舞い上げれば、キノコ達が軽やかなステップを披露してみせます。

 ドリアードおじさんに岩おじさんの渋いバスには、三毛猫兄弟の愛らしい声で応えます。

「すごい……なんて素敵なお祭りなんだろう……」

「いいえ、チッポ君、これからなんですよ?」

「え?……わぁっ……」

 驚くチッポの目の前で、森が歌い上げます。

 木々が、花が、草が、湖が、森が、山が、全てが一丸となって自然のコーラスを歌い上げるのです。空に浮かぶ雲達も一緒になって踊ってみせます。

 ふと見上げれば様々な色に輝くオーロラのカーテンにニジのすべり台、青空には月が輝き、美しくも幻想的な世界を織りなします。

 素敵な、素敵な音楽祭。突然、空がワインの様に赤くなったかと思うと、次の瞬間、色鮮やかなキャンディが雪の様にふわりふわりと舞い降りてきます。

 再び空が青くなったかと思うと、今度は雪の結晶が舞い降りてきます。

 山々だって負けてはいません。素敵な香りのする色鮮やかな新芽をまき散らし、草は素敵な花を咲かせ一斉にわたげを吹き上げます。

 いつしか島が、空が、大地が一つとなりコンサートを盛り上げていました。

「うわぁ……なんて素敵なコンサートだったんだろう」

 コンサートが終わり、そして、皆がチッポを讃えます。拍手の嵐に包まれながら、チッポは喜びのあまりシッポが止まりません。

「ご苦労様でしたね。チッポ君?」

「あ、あれ? どうしたんだろう……急に眠くなってきちゃたぞ……あれあれ……もっとみんなと遊びたいのに……どうしてだろう……う……うーん……」

 遠のく意識の中でチッポは妖精達の、ドラゴンおじさんの微笑む笑顔を見たような気がしました。

「ありがとう……チッポ君」

 え? おじさん、ありがとうってどう言うこと? ぼく、もっとみんなと遊びたいよ……もっと、もっと……。

◆◆◆38◆◆◆

「うわっ!」

 突然の衝撃に驚き飛び上がるチッポ。ふと見渡せば、そこは懐かしのチッポのお家でした。どうやら寝返りをうった拍子にベッドから落ちてしまったみたいですね。

「……夢だったのかな?」

 自分が見ていたのは、夢だったのか? 幻だったのか? 寝ぼけ眼で必死に考えてみます。ふと部屋のすみに目が行ったとき、それが夢でないことに気づきました。

 だって、そこには、あのお日様の様な、ヒマワリの様な素敵な黄色のフルートが置いてあったのです。

 それで良いんだよ。そう言いたそうにキラリと光るフルートにチッポは何かを見たような気がしました。

「あはっ、分かったよ。そっか、そういう事だったんだね。あはは、なるほどねっ、うふふ、ぼくってば頭良いなぁ」

 なんだか嬉しくなっちゃって、元気良く走り出したくなっちゃいました。でも、ちょっとだけ待つことにしました。だって、どこからか暖かくて、優しい香りがしたからです。

「ああ、この香りは……ふわふわドーナツだっ! わーいっ!ママっ! 朝食は、ふわふわドーナツだねっ!?」

 元気良く走り去って行くチッポを見つめるのはお日様色の、ひまわり色のフルートだけでした……。


                         おしまいっ!?

◆◆◆39◆◆◆

 はーい。みなさん、こんにちわ。子犬のチッポでーす。今日は楽屋裏って事なんで、折角ですから登場したみなさんを紹介しようと思いまーす。リポーターは、チッポがお送り致します。

 さてさて、まずはぼくのお友達のネズミ君にサル君、リス君を紹介しますね。

「おいおい、チッポ、何してるんだ?」

「やぁ、ネズミ君。今日はね、故郷探検って事でね、島のみんなの紹介をしているの。ネズミ君もよろしくね」

「オイラも紹介してしてー」

「はいはい、こちらは明るく元気なサル君です」

「ぼくも、チッポのお友達のリスでーす。ハイトーンボイスでがんばっちゃいます。物マネも出来るんだよ?」

「えっと……版権に触れるから、やんなくて良いです……」

 まぁ、ぼくのお友達だから少なくてもみんな面白いお友達です。

 さてさて黄金街道をちょっと西へ向かってみます。

 ここは、アライグマおばさんのクリーニング屋さん。島でも評判のクリーニング屋さんがあります。なんと言ってもおばさんの人柄にひかれてみんな来るそうです。

「こんにちわ」

「あらあら、チッポちゃんじゃないの? あらあら、どうしましょ。今日はどうしたのかしら?」

「今日はね、故郷探検って事で島のみんなを紹介してまわっているの。おばさんも出てるよ」

「あらあら、まだお化粧もしていないのにあらあら、イヤだわ。ちょっと恥ずかしいわね、あらあら、チッポちゃんたら困ったわね、あらあら」

 なんだかお困りみたいなんで、お隣の三毛猫のお家へ行ってみまーす。

◆◆◆40◆◆◆

「こんにちわ」

 三毛猫の兄弟。三匹揃ってそっくり。まだホントに子猫だから、なんだか大変な事になるのは請け合いなのです。

「こんにちわ?」

「こんにちわ?」

「ぼく、ちくわ食べたいなぁ」

 ここで、重要なのが三匹目の子猫。一匹だけシンクロしていないのが、なかなか面白いの。でも、可愛いから許しちゃう。だって、ぼくにしてみれば弟みたいなんだもん。でも、シッポにじゃれつかないでー。

 このまま村に行く前に、ちょっと海の市場の方に寄り道しちゃいましょう。

◆◆◆41◆◆◆

 ここは海に住む仲間達が、おいしいお魚や貝を売っている市場なの。なかなか新鮮だし、みんな気さくで良いところだよ。

「こんにちわ」

「おうっ、チッポちゃんかい。今日はお買いものかい?」

「ううん。故郷探検って事で、島の人達を紹介しているんだ。おじさん達も紹介しちゃうね」

 あらら。なんか照れちゃった。これでアザラシおじさんは照れ屋さんなんだ。ちょっと怖そうな顔して、ついでに、体も大きいけど、以外にお茶目なおじさんなんだ。

「おうっ、イルカっ!……あのヤロー、また仕事さぼりやがって……」

「ぼくも一緒に行くね」

◆◆◆42◆◆◆

「ペンギンちゃん……今日の海もきれいだね」

「ええ、そうね。イルカさんと見る海はいつだって、きれいよ」

「そういうペンギンちゃんの方がきれいだけどね」

「イヤだわ……イルカさんったら……」

「おうっ! イルカっ!」

「げげっ!? 大将、またもや見ていたんですかっ!?」

「いやーん!」

 この二人は市場でも有名なカップル。なんかマヌケな所が笑いを誘ってくれて良い感じ。「ちょっとー、あたしも出せって、感じー?」

「あ、本編ではちょっとしか出なかったラッコちゃんです」

 コギャルなラッコちゃん。取りあえず存在感は薄いのだ。

 さてさて、お次は村に行ってみちゃおう。

「っていうかー、あたしも紹介しろって、感じー?」

「ごめんねー。次回はちゃんと紹介させて貰うからねー」

◆◆◆43◆◆◆

 ここは、村でも一番賑やかな村。いろいろなお店があるんだ。まずは、トラ兄ちゃんの酒場から。

「こんにちわ」

「やぁ、こんにちわ。ミルクでもいかが?」

「うん。今日は営業じゃないから貰うね」

 うんうん、こうして大人の男の人のマネするってのもぼくの夢の一つだったんだ。

 え? ちっぽけな夢だって? 子供の夢だから可愛いもんでしょ? えへへ。

「今日は何を捜してるの?」

「今日はね、故郷探検。みんなを紹介してるの」

「へぇ。じゃあ、ぼくも紹介されちゃうの?」

「うん。トラ兄ちゃんは、クールな酒場のおしゃれなお兄さん。大人だけじゃなくて子供も入れるなかなか素敵なお店だよ」

 トラ兄ちゃん、バイバイ。今度はちょっと村を離れてフリーマーケットへ行ってみよう。

◆◆◆44◆◆◆

「こんにちわ」

「おうっ、チッポじゃん。どうした?」

「えへへ。今日はお買い物じゃないよ」

「なんだよ、つれないな」

「今日はね故郷探検って事でね、みんなを紹介しているの」

「へぇ、じゃあオレもか? かっこよく紹介してくれよなっ!」

 クマ兄弟の弟。フリーマーケットのクマ兄ちゃんはしっかりした性格の親分肌のお兄ちゃん。でも、お兄ちゃんの神父のクマ兄ちゃんは、なんだかのんびり屋さん。でも、すごく仲良しの兄弟なんだ。ふだんはケンカばかりしているけど、ぼくには兄弟がいないから、すごく羨ましいんだ。

「おうっ、チッポ。安くしておくから、また来いよ」

「じゃーねー」

◆◆◆45◆◆◆

 次は、オオカミのお巡りさんのいる交番でーす。

「おうっ、チッポじゃねーか? どうした、また迷子になったか? わははははっ!」

 鋭い牙に鋭い目。とっても怖そうだけど、すっごくいい人なんだ。でも、熱血漢すぎてどっか抜けてる所がまた、面白いんだ。

「今日はね、故郷探検でみんなを紹介してるの」

「ほぉ、それはまた面白そうな事を。迷子になったら何時でも来な。案内してやるぜ」

「うん。そのときはよろしくね。じゃーね」

◆◆◆46◆◆◆

 さてさて、今度は研究所です。

「めぇー、今日も良いお天気じゃの」

「こんにちわ、ヤギじいさん。今日は故郷紹介でね、みんなを紹介してるんだ」

「ほぉ、それは大儀じゃな、めえー」

 っと、その時でした。

『ドカーン!』

 例によって、またもやライオン博士爆発しちゃいました。

 でも、爆薬や火薬の研究してるわけじゃないのに、どうして爆発するんだろうね。ぼくは子供だから良く分からないけど……。

「ひゃー、またしても酷い目に遭いました……」

「これで、今年に入って通算二百五十回目じゃのぉ、めぇー」

「申し訳ありません……またもや、お洗濯物を……」

「あら、チッポちゃん、こんにちわ。今日も良いお天気ね。クッキーでも食べる?」

「わーい!」

「おや、チッポ君、今日はどうしました?」

「今日はね、故郷紹介でみんなを紹介してるの」

「ほほぉ、探求ですか?相変わらずお若いのにしっかりしてますね。ふむふむ感心です」

「感心するのは結構ですけど、研究にも活かして欲しいものですわね? あなた? うふふ」

「あはっ……それを言われてしまうと、痛いですね……ふぅっ、例によってまたもややってしまいましたね。お洗濯物……後できれいにしておきますね」

「うふふ、そう言いながらも、結局の所一人で洗濯なんか、出来ないクセにね、クスクス。私は気にしていないわよ。一緒にお洗濯しましょう? ねっ? だって、私はあなたの妻ですもの。夫が夢を追いかけると言うのなら、妻は精一杯後押しするってのが、生き甲斐ですもの」

「ほっほ、完全に尻に敷かれとるの、めぇー」

「いやいや、たははは……」

 ライオンの夫婦。何時見ても熱々なんだ。心優しい旦那さんに、暖かい奥さんのコンビ。島でも有名な夫婦なんだ。っと言うわけでお次は馬おじさんのレストランでーす。

◆◆◆47◆◆◆

「あ、料理は愛情、料理は手間かけ、作るのさー」

「こんにちわ」

「おう、こんにちわ。あいにく、まだ準備中だよ。昨日の残りのお菓子で良かったら食べるかい?」

「お菓子っ!? やったねっ! なんのお菓子?」

「んん? ニンジンクッキーに、ニンジンケーキに……」

「うっ……やっぱ……いらない……」

 ぼく、ニンジンは嫌い。だって、おいしくないんだもん。馬おじさんは、どうしてニンジンをあんなにおいしそうに食べるんだろう?ちょっと疑問。

「夜にでもくれば、ゴチソウしちゃうよ、ニンジン料理フルコースでね。わははははっ!」「に、ニンジン料理フルコース……あはは、遠慮しておくね」

◆◆◆48◆◆◆

 お次は学校でございっ!

「こんにちわ」

「おやおや、チッポ君ですか。いやぁ、今日も暖かいですねぇ……こう、暖かいとついつい眠くなってしまっていけませんねぇ、故郷探検ですね? うふふ。言わないでも判りますよ」

 コアラの先生は、ぼく達の学校の校長先生。夜行性だから昼間はご覧の通りだけど、すごく頭の良い先生なんだ。それに、優しそうな顔してるけど、なんか凄い迫力があるんだ。なんでも夜になると、スパルタ教師になっちゃうとか? ぶるる……そんな怖いコアラ先生は見たくないなぁ……。

◆◆◆49◆◆◆

 お隣は、クマの神父さんの教会です。

「こんにちわ」

「おや、チッポ君ですか。今日は一人ですか? ああ、一人でお祈りに来るなんて、なかなか感心ですね。ささ、こっちへどうぞ。え? 違うんですか?」

「今日は故郷探検でみんなを紹介してるの」

「ほぉ、それはそれは、大変ですね。道中気を付けて行って下さいね。それでは」

◆◆◆50◆◆◆

 村長のヒツジさんの家に行ってみたけど、ヒツジさん、グーグー寝てたからパス。村長のくせに、いつも寝てばかり。ヘンなおじさんなんだよね。

◆◆◆51◆◆◆

 一旦、ぼくのお家の方に戻って、岬へ続く坂道を登ってみまーす。ここには、時々遊んで貰うウサギ姉さんに、山猫姉さんがいるの。

「こんにちわ」

「あら、チッポちゃんこんにちわ」

「よぉ、チビ。どこ遊びに行くんだい?」

「今日はね、故郷探検って事でみんなを紹介してるの」

「あら、じゃああたし達も?」

「そうだよ」

 ウサギ姉さんは、推理小説が大好きなお姉さん。おとなしそうな顔してすごい力持ちなんだ。なにしろ丸太でお手玉出来ちゃうんだモン。さすがのぼくもびっくりだよ。

 山猫姉さんはいつも爆弾を持ってるの。何に使うんだろうね?

「じゃあ、またね」

「バイバイ」

◆◆◆52◆◆◆

 今度は気象研究所でーす。

「こんにちわ」

「う、うーむ……これはっ!?」

「あの……こんにちわ……」

「!?……やぁ、チッポ君か良く来たね。これからおでかけかい? だったら、今日はカサを持っていく事だ。午後の降水確率は極めて高い。そもそもこんな日にお出かけする事自体、間違っているが、それでも外出したいと言うのなら、カサは持ち歩くべきですぞ。ささ、遠慮はいらん。これを持って行きなさい」

 なんだか良く分かんないけど、カサ、貰っちゃった。

 まぁ、良いけどね。さてさて、お隣はワシおじさんの郵便局。

 ワシおじさんは、毎朝郵便物を片手に島を飛び回る大変なお仕事をしているんだ。でも、おじさんは空飛べて、良いな。ぼくも、一度で良いから空飛んでみたいなぁ……たぶんおじさんは忙しいからお留守だと思うんだ。だから次へ行ってみちゃおう。

◆◆◆53◆◆◆

 こちらはちょっと高級な住宅が並ぶちょっとリッチな場所。

「あらあら、チッポちゃんじゃないの。テーでもいかが?あら、それがモアベターねん」

「まぁ、素敵なガラのカサざーます。なかなか良いシュミしてるざーます」

 話し掛けてもいないうちから勝手に乱入してくるあたりやっぱりオバサンのパワーって侮れないね……。ぼくもびっくり。

「おうっ、チッポじゃねぇか。ん? 今日はどうしたんでい? へっ? 故郷紹介?」

「あら、おばちゃま、おめかししてこないと……」

「あたくしも行くざーます」

 ミーハーな牛おばさんに、アリゲータ婦人。やっぱり変なおばさんコンビ。イノシシの大工さんはバリバリの江戸っ子。曲がったことが大嫌い。とにかく気が短いんだけど、おじさんの造る家は頑丈で立派だって、大人気なんだ。そのおじさんが作った家の一つが、ここ、ペペロ湖のビーバーさんのペンションなんだ。

 うーん、今のつなぎかた、なかなか上手かったね。ぼく、もしかしたらアナウンサーの才能あったりして。えへへ。

「こんにちわ」

「あら、よう来はったわね」

「あ、チッポちゃんや」

「今日は、どないしたん?」

「今日はね故郷紹介でみんなを紹介してるんだ」

「あらあら、それは、ビーバーのペンションです。どうぞ、よろしく。遊びに来たときには、お気軽にー」

「かぁちゃん、商人魂爆発やなぁ……」

「ぼくらのかあちゃんやもんな」

 ビーバーさんのファミリー。関西弁が印象的な素敵な一家。女将さんがとにかくしっかりしているんだ。ぼくも時々遊びに来るけど、いかにもキャリアウーマンって感じで、なんかかっこいいんだ。

「ボンジュール。私、カエルも紹介していただけると……」

 カエルの王子様。紹介させると、延々と話し続けるから逃げちゃえー。

 お次は、魔女の薬屋さんです。

◆◆◆54◆◆◆

「こんにちわ」

「ふぇふぇふぇ、よう来たの」

「ひゃひゃひゃ、今日も、良い薬があるよ」

 このおばあちゃん達は、ミミズク婆さんに、フクロウ婆さん。魔女なんだって。いろいろな薬を作っているんだ。ぼくも、お腹痛くなったり風邪引いちゃった時に、よくお世話になったなぁ。ついでに、クジャクさんの占いハウス。

「こんにちわ」

「おお、わらわの美貌を拝みに来たのかえ? ほほほ」

 ちょっと妖しい雰囲気の漂うクジャクさんの占いハウス。当たることで有名なんだ。迷いの森のお話でも、活躍していたよね。

 さてさて、最後に決まった場所にいない人達の紹介をしますね。

 まずは、モグラ君。旅行通で、いろんな場所を旅行しているんだ。だから、ぼくの知らないこともいっぱい知っているんだ。

「こんにちわ」

「やぁ。この時期は、山へ行くと良いよ。木の実もおいしいし、キノコも採れるよ」

「ありがとう。お次は、オウム君」

「ああ、素敵な空……キミは、どうしてそんなに青いんだい?」

 演技派の彼……どっからともなく現れては妙な演技をして去っていく。彼の目的って一体……?

 それから、自称漫才コンビのキツネ、タヌキコンビです。

「どもー、キツネでやんすっ!」

「どもー、タヌキでございっ!」

「ネタがつまんないから、頑張って修行してから挑んでねー」

「ああっ! そんなっ!」

 それから、島一番の早起き、ハリネズミ君。毎朝新聞配達にがんばる、努力家なんだって。「こんにちわ」

「ちーっス。今日も、オレっち、朝から頑張っているっス。みなさんに、いち早く新聞をお届けするのが、オレっちの役目っスからね」

「がんばってね。それから、クロヒョウおじさん」

「……坊や、おじさんは怖いんだぞ?」

「怖くないよ。いい人だもん」

「……暗くならないうちに帰るんだぞ……ううむ。なんか、同じセリフを何処かで言った気がするが……」

「気のせいだよ」

◆◆◆55◆◆◆

 そして、妖精の森でぼく達を応援してくれたフェアリー、レプラコーン、キノコ達に二つ首のカラスさん、トレントおじさんに、岩おじさん。ドラゴンの楽器屋さん。

 みんなみんな素敵な仲間達。誰でも主人公になれるんだ。今度は、キミが主人公になってみる? それでは、今日は、長い間ご愛読ありがとうございました。作者に変わってお礼します。それでは、まったねーっ!


                           バイバイっ!