「だって、ケースにヒビ入っていると売れないんですよ」


 ■■は慢性的に金欠である。公共料金の滞納は日常茶飯事。バイクの税金を払わなかったために、「財産差し押さえ強制執行通知書」までもが来たほどである。■■はそのとき、家中にある音楽CDを叩き売って凌いだという。


 私は■■にあるCD-Rを貸していた。このCD-Rは私のオリジナルで、ケースにはプリンターで作った自作のラベルを入れた自信作だった。ある日、■■はそれを返してくれたのだが、私は気が付いた。CDケースの中のラベルの端端が折れ曲がっていた。専用のソフトなしで、0.1o単位で計算して作ったラベル。一度取り出して別のケースにねじ込んだのは明らかだった。そしてCDケースそのものも摩擦で擦り傷だらけで、しかも横にヒビが入っていた。


 私は■■を問いつめた。
「おうお前、これケース入れ替えただろう」
 私はだらしない■■のことだから、CD-Rをそのへんに放ったらかして、ケースの中身もテキトーにその辺に出しておいて、返すときにテキトーなケースに入れ直したのだろう。その程度にしか考えていなかった。しかし、■■の返事は、
「ああ、この間カネに困ってCD売ったんですよ」
 何を言っているのかよくわからない。
「あ゛、何!?」
 言っていることが意味不明だから聞き返しただけなのだが、■■は墓穴を掘る。
「いや、売ろうとしたCDのケースにヒビが入っていたので、入れ替えたんですよ」


 何がおかしいのかわからないが、笑いながら■■は言う。
 なんとこの野郎、人様の借り物のケースを売ったというのか。別にCDケースなんてCD-Rメディアを買えば付いてくる程度の代物だが、人から借りたモノを売ったというのか。それもカネに困ったなどという自分勝手な理由で。しかも私が神経研ぎ澄ませて作ったラベルをぞんざいに扱い、粗末にしやがって。
「このクズ!人のモノを売ったというのか!このラベル作るのにどれだけ時間かけたかと・・・このクズ!このCD-Rだってお前が貸してくれと言ったから、しゃーないから貸してやったというのに・・・このクズ!」
 私は怒った。
 これに対する■■の返答は次のようなものであった。


「だって、ケースにヒビ入っていると売れないんですよ」
 だからどうした!カネに困るのも、CDを売るのも、自分の持っているCDケースにヒビが入っているから売れないのも、そんなの私の知ったことか!全部手前ぇの都合だろうが。
 言えば、CDケースぐらい空いたのくれてやったし、本当に困窮しているのならばカネぐらい、少しはくれてやるつもりで貸してやったのに。くだらない言い訳しなければ、CDケースやラベルぐらいでこんなに怒り狂いもしなかった。いやはや。


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