ラーメン屋食い逃げ事件
■■は、ある日良心の呵責に堪えかねてか、ためらいがちに自分の罪を告白した。
町田のラーメン屋で食い逃げをしたとのことである。
メシを食おうと入ったラーメン屋で「A定食」を食って、そのままカネを払わずに店から出てきたとのことである。中大の学食は食券を買う先払いだが、その感覚で一般の飲食店から出てきそうになったことがしばしばあったと■■はいう。吉野家でそれをやりかけたときは声をかけられたので気づいたが、今度はそのまま出てきてしまったそうな。
奴ならばやりかねんと、私や他の連中は笑った。■■はバレて捕まるんじゃないかと心配していたので、「そんなことで捜査するわけない」と我々は口々に言う。すると■■は「そうか、大丈夫だよね」とか言いながらも、次第に得意気に事件の詳細を話し始めた。
件のラーメン屋はババアが一人でやっている小さな店。しかもその日は、開店何周年記念だかで定食・セットが安くなっていたそうだ。その看板を見て入ったとのこと。そしてババアが奥の厨房に引っ込んだ隙に出てきたとのこと。
確信犯じゃねーか。もちろん人間はただひとつの行動原理だけを見据えて、明確な行動をするわけではない。先払いの感覚に慣れてしまっていて、料金を払うことを忘れていても、「何か忘れている」という違和感を覚えて、なんとなく人目を避けて店を出てしまう、ということもないことではなかろう。だけれども■■の態度の変遷を見ていると、少しは罪悪感を持てという気がしてきた。ラーメン一杯と半チャーハンの食い逃げで店がつぶれるとは思えんが、さすがに何周年記念というシチュエーションはあまりに気の毒である。
そして■■は現在も、「あのとき食ったのは、AセットでなくてA定食だ」「いやあ、ババアが奥に入ったからさあ」と自慢げに話している。