カゼで寝込んでいるときに限って・・・


 安普請のアパートでは、普通に歩いただけで足音が雷(いかずち)のように落っこち、屁の音は床板・天井の板を震え上がらせる。床板を介して天井板を響かせ、階下の住人にあらゆる音が伝わる。私が住んでいたアパートは和室と大きな押入れがあったから、もちろん寝るのは畳に布団を敷いてのこととなる。そして、1階と2階とでは、部屋の位置関係は同じなので、私が寝いてる真上に上の住人も寝る。
 普段は何も聞こえなかった。だけれども、私がカゼで寝込んでいるときに限って聞こえてくるのだ。熱を出して昼も夜もなく寝て、雨戸も締め切って光が入らず、目覚めて時計を見ても、午前か午後か判断つきかねる。カゼのときは食べて、水飲んで、あとは薬を飲んでひたすら寝るしかない。朦朧とする意識の中で、上からの音に気づく。
 それは、小刻みに振動する天井板である。しばらくは、音がしている方向にも気づかないのだが、やがて上からとわかる。ははあ、なるほど。上で然るべきことをしているのである。上の階には若い夫婦が住んでいる。そういうこともあるだろう。だけれども、いつもはこんな音には気づかない。私がカゼで寝込んでいるときに限って、この音というか振動に気づくのである。はて。神経が変に鋭敏になっているということか。


 下世話な話だが、私のアパートよりもよほど安普請のアパートに住んでいる■■の部屋では、隣の部屋の人間が何をしているのかも大体わかるほど、音が明確に伝わってくるとのこと。おそるべし、安普請。


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