イタ電1


 電話を持っていれば、たまにイタ電もある。そうしたイタ電を紹介しよう。
 後輩と集まって飲んでいるとき、後輩の携帯電話が鳴った。こんな夜中に誰かと思いつつも後輩は電話に出た。当時、番号通知は試験的にしか行われていない。電話に出た後輩だが、様子がおかしい。「え?誰ですか?」「もしもし?」を繰り返し、切ってしまった。
 何事か聞けば、相手はずっと歌っているとのこと。棒術部には、酔って知り合い中に電話をかけるキチ@イがいるのだが、そうしたアホは、今あらかたこの飲み会にそろっている。どこのアホか?後輩の高校時代の友人の悪ふざけか?
 皆で、そういぶかしがっていると、また彼の電話が鳴る。「はいもしもし」と、電話に出る後輩だが、「はあ?」と言って電話を切ってしまった。「『ハトバジルさんでしょうか』とか言ってますよ。こえー」とのこと。自分の電話にかかってくる意味不明な電話に、おののく後輩。そして、次に掛かってきたらどうしてやろうか、相談する。それにしても、「ハトバジル」とは?特撮番組の怪人の名か?


 また掛かってきた。後輩はとりあえず、まっとうに電話にでる。そしてすぐに、「誰だよ。おう、手前ぇ誰だ」と凄む。これはイタ電の続きに違いない。まず私が後輩の電話を奪い取る。
「オンドレ!どっからかけてんだか知らねえが、極道ナメてんじゃねーよ、オラ!」
 必死で「俺の電話ですよ」と焦る後輩。しかし彼の動揺にも関わらず、今度は義盛氏(仮名)が私から後輩の電話を奪う。
「だぁぁれぇぇじゃぁぁぁ、貴様ぁぁぁ、だぁぁぁぁれぇぇじゃぁぁぁ!!!!殺すぞぉ、ぅおぉぉぉぉぉッ!!!!」
 重低音な声を誇る義盛氏は、さらに腹の底から地獄の声を振り絞る。「俺の電話ですよ!」と義盛氏から電話を奪い取った後輩が携帯を耳に当てると、すでに電話は切れていたそうな。
 この夜は、それから二度と電話がかかってくることはなかった。この電話がいったい何だったのか、依然不明である。  


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