なぜ剥がす?
私のアパートは、どうも住人の出入りが激しい。学生はおそらく私だけで、他は社会人、それも若い夫婦や同棲している人間が多数派だ。だが、どうもまっとうな人々には見えない。朝も白み始めた頃に、スモークを貼った1BOXで毎日送られて帰ってくるケバいねーちゃん。妙な時間に出勤する、黒スーツに見事なまでにパツキンのにーちゃん。いつも出入りしている男が違う女性名義の部屋・・・。たまに、アパートの前でうさんくさいオッサンが2〜3人張っていることもあり、後をつけられたことも2回ある。それは刑事だったのかもしれないけど。
職業や生活習慣に貴賎をつけるつもりもないが、たまに引っ越してくる子供までいるまっとうな若夫婦が、いつも半年足らずで出て行くことからも、ここのアパートがまともでないことはうかがい知れよう。まともなアパートでないからこそ、たかだか一人暮らしの学生に格安で2DKもの部屋を貸すのだが。
さて、私の隣室の「いつも違う男が出入りする女性名義の部屋」が、ついに引っ越した。これで、私がここのアパートで一番の古株になってしまったのだが、次に隣に越してきたのは、これまたうさんくさい奴だった。同棲を開始した若者らしいのだが、顔を見る限り高校を出ているかどうかもあやしい(学歴の話ではなくて、年齢のこと)。そして二人とも見事なまでに金色の頭髪を生やし、複雑怪奇な装飾品など身体にぶら下げておった。
まあ、どんな外見の人間であろうとも、都市生活ではいちいち気にしていられない。私の生活さえ妨げなければそれでよい。
彼らは別に、私に迷惑はかけなかった。しかし、彼らの奇怪な高度は、どうしても目に付いた。
まず、郵便受けの転送シール。これは、前に住んでいた人間が、ここの住所宛に届けられた郵便物を新住所に転送する届けを出したら、郵便職員が旧住所のポストに貼る代物。私の新しい隣人は、まずこれを真っ先に剥がした。これは必要なものなのだ。なぜ剥がす。
そして、うちの管理会社は、アパートに入居がちったら、入居者の名前を書いたシールを郵便受けに貼る。サービス過剰な気もするが、私が入居したときも、そのようなシールを貼っていた。そして今回の隣人に対しても、入居者の名前が書かれたシールがポストに貼られた。彼らは、これも即座にひっ剥がした。また、自分のフルネームを玄関先に出すのに抵抗を覚える人もいる。しかし彼らは、管理会社のシールを剥がして、自分でビデオテープのラベルシールに同じくフルネームを書き込み、それをポストに貼ったのであった。自分の字で書きたかったのか・・・?内容はまったく同じなのだが。
やがて彼らのポストにも、各種郵便物やチラシが入れられるようになった。しかし、彼らはそれを1ヶ月以上放置している。毎日出入りしているというのに、ポストを開けることさえしやしない。面倒なのか?忘れているのか?それにしても、引っ越してすぐのときは、公共料金のチェックをしなければならない。すぐには口座引き落としにはならない。まったく、ずぼらなことだ。
しかし彼らも、1ヶ月半してついにポストを開けたようだ。投入口まではみだしていた各種郵便物やチラシがキレイに片付いている。しかし、ポストの奥の地べたに、それらのものは捨てられていた。モラルがあまり高くないアパートだから、チラシはしばしば地べたにすてられてはいたが・・・ここまで大胆豪快な奴は今までお目にかかったことはない。さらには、試読版の新聞や自分たちの検針票まで彼らは、ポストの裏に捨てている。せめて、えり分けろよ・・・。
まったくもっていい加減な人々である。