多摩動物公園
2000年05月03日(水)
多摩動物公園。
市街化調整区域に存在する我が中央大学にとって、大学周辺に存在する数少ない娯楽施設である。と言っても、大抵の中大生は多摩動物公園に行ったこともないまま4年間の学生生活を終えるはずだ。
いい年こいて、動物園。
一人では、よほどの動物愛好家でもない限り、行く気にならない。
かと言って、「動物園行こうぜ」と誘って、人数が集まるとも考えにくい。大抵の学生は、その呼びかけを冗談と思うに違いない。本気で誘っても、「マジかよ」「面倒」「ウザい」「くさい」のいずれかで終わる。
そこへ行くのが、棒術部である。
新入生と共に、GWに動物園。
天気予報では雨ということもあり、10人も集まらないだろうと思っていた。
しかし、いざ多摩動物公園の正門に行くと、すでに20人を軽く超える人数が集まっていた。
よもや、棒術部のイベントで団体割引が使えるとは思いも寄らなかった。団体割引に対して、「これは天変地異だ」などと意味不明なことをつぶやく上級生さえも見受けられた。
多分、一人で動物園行ってもつまらんかったと思うよ。少なくとも私は。
しかし、昆虫館にて、各種ゴキブリが詰まったケースを凝視し、
「こいつは××のラーメン屋にいたな」
「見てくれ、オレの兄弟broだ」
「バルサン炊きてぇぇぇ!」
「こいつら、(仲間の)死体を喰ってやがるッ!!この世で最低の生命体だ!」
などと騒ぎ、なかなか愉快であった。
遊ぶ際に問題なのは、場所ではなく、人と人間が造り出す雰囲気である。
それにしても、休日に、ガキとその親が溢れる動物園に於いて、大学生どもが徒党を組んで闊歩する様は、一般客には、どう写ったであろうか。
棒術部で随一胡散臭い外見を誇る、課長(仮名)。
彼は床屋へ年に1度しか行かず、ヒゲも1ヶ月に一回しか剃らない。
実際問題として、彼は私の後輩なのだが棒術部で最年長である。
それでも20代前半なのだが、40代には見えるという曰く付きの人物である。
彼が灰皿やベンチを探して周囲を見回していると、ガキを誘拐しようと物色しているようにしか見えない。これでガキの手なんか引いていたら、本当に親子や親戚であっても、110番通報は免れないであろう。
その他、グアテマラでガキを誘拐して云々、東京ディズニーランドでも、ガキが何人か行方不明になって発見されず、それは臓・・・云々という話を主将がしていたら、混雑しているはずなのに、周囲から人がいなくなったという・・・。
棒術部あるところに、黒い話あり・・・。
ガキの教育に相当よくない話はかなりしていたような気もするが、ガキには影響ないはずだ。漢語的表現や専門用語、英語が多く、ガキには理解できまい。それ以前に、行楽地でガキが周囲の通行人の話なんか聞いてないって。
ただ、親には影響大だったということか。
イヤな話をしているから避けたのか、それとも我々がガキをどうにかすると思って避けたのか・・・。
そんな中、前述の課長がめずらしいことを言った。
中央大学に名高い義盛氏(仮名)。彼は多摩動の隣に住んでいるのだが、毎朝象の怒号に叩き起こされるそうな。自らの眠りを妨げる咆哮の主を確かめると、義盛氏とともにアフリカ象を見ていたときであった。
「いい目をしている」
黙してアフリカ象を眺めつつ、課長はそんなことを言った。
私はなに言ってんだ、このアホはと思った。
義盛氏は課長にもそんな感性があるのか、と感心した。
「あの、絶望を絵に描いたような目。実にいい」
そう、課長は別に感心できるような理由で、感動していたわけではなかったのだ。
絶望。
郷里を離れ来て、エサに不自由はしないが何もできず、どこにも行けず、交尾さえもできない状況下で、ただ人間共の見せ物となっている巨象。
そのアフリカ象の絶望を浮かべた目。
課長は、その目に対して感動し、笑った。
やはり、棒術部は黒い。
各所で黒い言葉をまき散らしながら、棒術部の多摩動物園ツアーは終えた。
なかなか刺激的な動物園であった。