「友人200人」を持つ男
2000年11月27日(月)


 バカな奴だとは思っていた。だが、この日、私は彼をすばらしくバカな男だと再認識した。
 件の人物は、私と同じ大学の1年生であり、一応、棒術部に籍を置いている。ここでは、彼を■■と呼称する。
 籍こそは置いているが、■■は棒術部員とは言い難い存在である。
 稽古にも出ず、今月あった学祭にもいかなる形であれ参加せず、仕事もせず、人間関係さえも築いていない。ただ、学食の溜まり場にたまにやってきて愚にも付かない話を一方的にして帰るか、公式の大規模な大衆飲み会があるときだけ飲み会に参加し、一人で酒を浴びてぶっ壊れる。典型的なfree riderである。
 部の人数が多くなると、こういう普段幽霊部員でありながらも、都合のよいときだけ利益だけを享受する存在が出てしまうのはやむなきことなのか。


 いや、別に部の活動にあまり参加できない人間を排除しようというのではない。
 例えば棒術部3年・中央大学2年のA氏は、事情があって大変多忙である。彼はあまり稽古にも参加できないし、仕事もほとんどする機会がない。しかし、彼がたまに稽古や飲み会に参加するときは、他の部員は歓迎する。これは、彼が真摯な棒術部員であり、稽古を愛好し、そして人間関係を築いてきたからだ。
 その代わり、A氏は運営・意志決定には極力関わらないし、一歩引いた立場から部に関わっている。事情があろうがなかろうが、それは棒術部よりも他のことを優先しているということ。そのために、A氏は棒術部から得られる利益も抑制しているのである。A氏は、漢である。


 だが、■■はどうだ。
 部の活動には一切参加せず、部や他の部員にいかなる貢献もせず、それでいて利益だけを求めて棒術部にやってくる。別に稽古が好きなわけでもなさそうだ。ただ、「都合のいいときだけやってくる居場所」としてしか棒術部を見なしていない。我が栄光の棒術部は、私がかつて献身的犠牲と魂を削る闘いでもって維持し、育ててきた棒術部は、精神的弱者の逃避施設でも学内難民キャンプでもない!
 この日も、溜まり場にやってきて愚にもつかない話を一方的にして、満足げに帰って行った。
 このときの■■の話は傑作であった。


 ■■は大変多忙だそうだ。
 大学生活を能動的に過ごすべく、棒術部・法職講座・司法試験受験団体・民間の司法試験専門学校・TOEIC・パソコン検定・バイトの8つを掛け持ちし、大変多忙な日々を過ごしているそうな。かなり無茶な話ではあるが、これだけ聞くとアグレッシブに日々を送ろうとしている血気盛んな若者に聞こえるかもしれない。
 だが、その内容を聞くと失笑を禁じ得なかった。
 ■■が何故忙しいかというと、勉強で図書館に籠もって忙しいのではなく、それぞれの団体の「友人」とのつきあいで忙しいそうな。なんでも、彼は200人も「友人」がいるとのこと。だから、毎日のように飲み会があり、そのカネを稼ぐのに忙しいとか。バイトで月10万は自由になるカネがあるとも自慢していたな。


 なんという空虚な奴だ。
 携帯に入っている電話番号の件数や、携帯の料金が「交友関係の広さの証明」とでも思っているのではなかろうな。友人200人!それは携帯に入っている番号の数だろう。互いに顔と名前と番号を知っていれば、それで直ちに「友人」か。
 しかも、この「友人200人」とは、大学に入ってから知り合った人数らしい。
 目標は「友人1000人」だそうな。
 アホか!友人と言っていいだけの人間関係を構築するには、それ相応の時間と労力が必要である。■■が月10万のバイト代でもって愚にもつかないコンパを繰り返していようと、200人の人間、それも知り合ってわずか数ヶ月の人間と友人関係を構築し、維持していくのは不可能である。
 傑作なのは、「棒術部にも20人『友人』がいる」との言である。私思うに、彼に棒術部員の友人なんぞ1人もいまい。■■が溜まり場に流れ着いて、愚にも付かない話を一方的にはじめるとき、聞き手となっている人間は仕方がなくそれを聞いてやっているのだ。私の知る限り、奴と接したことのある棒術部員は誰しも■■に対してよい印象を持っていない。第一、「友人が200人いる」だの「サークルや勉強を8つ掛け持ちして忙しい」、「月10万稼いでいる」などという感心もしない自慢話などタレ流されても、まったくもって時間のムダとしか感じない。


 月10万のバイトのシノギ。それは自慢になることなのだろうか。
 私の知っている人間の中には、同程度のカネを稼ぐ奴は何人もいる。それも、十分な仕送りがない、学費を自分で納めている、定期代さえも親からもらっていないというような、必要に迫られた理由がある奴ばかりだ。
 別に、自分で学費を稼ぐことを偉いとも、遊ぶカネを稼ぐのがわるいと言う気もない。
 ただ、そうした自立した、自立せざるを得なかった人間と付き合っていると、くだらないコンパ代のために10万稼いでいるなどと自慢する人間が、なんとも卑小な存在に思えてくる。


 また、司法試験や各団体に入っている云々。これも稽古もせず、ただ棒術部にやってくるのと同じように、ただ司法試験の教室や団体に出入りしているだけであろう。■■の所属する司法試験受験団体は、勉強を面目として何もしていないクズの吹き溜まりだと耳にしている。■■の「司法試験のための勉強」の在り方が、目に見えるようである。
 まあ、自慢するからには多少なりとも勉強はしているのだろう。しかし、「200人の友人」とのコンパの日々で、「人間関係がある」という感覚を追い求め続け、そのためのカネを稼ぎ続けているアホが、どれほどの時間をとれているのだろうか。8つのサークル・勉強・バイトの共存なんて、まず不可能。出来ても、せいぜい3つぐらいだ。それもかなり過酷な闘いとなろう。「友人」とやらも、数を絞って、時間と労力を合理的に配分しないと、とてもつきあいきれない。


 結局のところ■■は、ちょっとやそっとの行為や苦労で、何かを為した、あるいは自分がsomethingであるという妄想に浸っているガキである。こんガキゃあ・・・こういうクズを見ていると、殴る気にさえならぬ。ただただ、自分が何も為せない、何も為していない、人間関係でさえもろくに築いていないことを、思い知らせてやりたくなるね。
 少なくとも■■は、我が栄光の棒術部から消滅するのは必至でしょう。
 うちは、空虚な自慢話をしに来て、酒だけ飲んで帰る存在を許すような、甘い組織ではないのだ。来年度、新入生が入るときに、こういう人間がいかなる勧誘を出来るというのだ。先輩面して、なにを出来るというのだ。クズがクズを呼び集め、まともなる新入生が引くという最悪の事態を招く前に、こいつは今年度中にケリをつけねばなるまい。 

後日記

 2001年4月。新年度を迎えたとき、すでに■■は棒術部員ではなかった。名簿の名前は削除し、また■■自身棒術部に来訪することはなくなった。どういう経緯があったのかは、私は知らない。ただ、我が棒術部は、このようなクズの跳梁を許すような甘い組織でも、甘い人間の集団でもないということである。
 ■■は2001年の新勧に於いて、某サークルの出店に座っていた。棒術部のことは忘れ、他サークルに入って仕事をしているのか。その方がお互いの幸福のためというものであろう。だが、その某サークルにメンバーから聞いた話によると、■■はそのサークルでもクズであるそうな。■■は仕事はしない、手伝わない、サークルの主活動もいいかげん、調子のいいことばかり言ってまともな話をしない・・・というわけで、某サークルでも嫌われ、軽蔑され、疎まれているらしい。新勧の出店に座っていたのも、仕事しているかのようなふりして、新入生の声かけや他の仕事をサボっていただけなのかも知れぬ。クズはどこに行ってもクズなのである。


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