あからさますぎるが・・・
2000年12月1X日(X)


 この日、ある男が卒論を提出した。
 卒論を提出し終えた彼は意気揚々として棒術部の溜まり場にやってきて言う。
「卒論終わったぜ。今日は飲みてーなー」


 その直後、後輩連中全員が一斉に席を立って、帰ったとのことである。
 この話を聞いたとき、ちょっと彼が気の毒に思えたが、これは自業自得である。


 この男を■■としよう。
 ■■はつきあいがよくない。大学帰りに「ちょっと今日飲もうぜ」などということがあると、とっとと帰った。あるいは飲み会に参加しても、必ず1次会で帰った。その理由は、「家事がある」「1週間後に小テストがある」などという意味不明なものであった。
 別に■■は酒が嫌いなわけではなく、それどころか酒好きである。カネに関しても、■■ほど仕送りを余らせている学生はなかなかいない。そしてアパートも大学にわりと近い。それなのにつきあいがよくないというのは、自分のスケジュールを決して変えたくないからであろう。
 家事があるなどと言っても、一人暮らしの学生にそんなにやることがあるわけはない。聞けば洗濯をするとか、皿を洗うとかその程度のことである。洗濯機が1週間に1回しか使えないとか、そういう特殊な事情にあるのならばともかく、いつでもできることである。小テスト云々と言うのも、明日明後日のことならばともかく、1週間の1日たりとてもムダの出来ないような難関試験などというのはそうあるものではない。誰にでもその程度の予定はいつでもあるのだが、誰しもそうした予定の中で人と付き合っている。普段自分の些細な都合を最優先している■■が、自分が飲みたいときだけ声をかけても、わざわざつきあってやる気にはなるまい。


 また、■■とたまに飲むと、彼の態度に辟易する。居酒屋で注文の品が少し遅れると「カネ払ってんですけどね」「遅いっすね」「刺身なんか切るだけじゃねーか」などと一々文句を付け、厨房まで文句を言いに行くことさえもあった。飲み物・食べ物が遅いと、催促ぐらいはしてもいいが、■■がケチをつけるときはそれほど甚だしく遅れているわけではない。自動販売機じゃないんだから、客が多い中、即座にものが出てくるわけはない。
 しかも、料理が運ばれてきたら必ず文句を言う。「オウ、少ねーな!」「今度は多いな!」・・・店員が怒りに顔をゆがませていることもしばしばである。
 こんな傍若無人な人間と酒を気持ちよく飲めるはずもない。


 さらに■■の勝手さは部全体で飲みに行くと顕著になる。
 我が棒術部では、一気や一気に類するものの強要を禁止しているが、それでもアホが飲みまくって潰れることはしばしばある。そうしたときの飲料水の確保、介護などの世話や、自宅までの搬送を行っている者が必ずいる。そうした者は、自分が飲むのも楽しみのもすべて切り上げて行っている。そうした人間も、料金は割り勘で払う。集団で飲むとき、こうした仕事を行う人間は必ず居るのだが、■■がそうした役割を引き受けたのを1度も観たことはない。
 誰ぞが酔いつぶれて暴れ出したのを、後輩が必死で止めて介護しようとしているのを見て、■■は「奴を甘やかせるな」「そんな奴、ほっとけほっとけ!」などと宣ったこともあったものである。甘やかす云々ではなく、暴れて大事になったら暴れた本人ばかりではなく、棒術部の社会的制裁を喰うことになる。また、放っておいて死なせでもしたら、それは本人が勝手に飲んだとしても先輩の責任となる。放っておくことなどできるか。
 また、■■は必ず言う。「お前、やれ。頼んだわ」「俺は今まで働いたから、お前らやれ。俺は飲むわ」・・・自分が動こうとという気にはならないのか。誰しも、貴重の飲みの場で楽しみたいし、飲んでいたい。だが、誰かが酔ったアホの世話をしないとならないだろうに。■■が1度たりとてもそういう世話をしたのを見たことはない。もしかすると、1度2度はそういうことをしたことがあるのかもしれないが、だからといって3年生になっても4年生になっても幹部になっても、何もしないというのは場の責任者としていかがなものか。
 こんな人間と飲みたいという奴などいるわけはなかった。


 努力しただけ結果が出るとは限らないが、人付き合いに於いてなんら努力も苦労もしなかった人間が、自分の都合のいいときだけ飲みを起こそうとしても、誰もつきあう人間はいない。至極当然のことである。  


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