有明出征
2000年12月29〜30日（金〜土）

　日本全国からその筋の方々が集結する、二次元愛好者の祭典がついにやってきた。
　私は一般人から見られれば立派な■■■なんだろうけれども、コミケに行っていない事実を鑑みればまだまだ素人である。いや、秋葉原ラジオ会館で行われた即売会に行ったことはあるのだけれど。まあ、会場で出会ったその筋の方によると、「こんなのはただのマンガ祭りだ。一般化しすぎだ」とのことであるが。


　真摯に、厳しく稽古する武道サークルである棒術部にも、その筋の人間及びその予備軍は存在する。
　まあ、必ずしも多数派ではないのだが、人間叩けば埃が出るものよ・・・。
　今年の入学式の日に勧誘したП氏（仮名）に対しても、「どんなゲームをやるか？」などと探りを入れて、最後にはその日のうちに「東鳩」をやっていることまで突き止めた。彼の名誉のために言っておくと、彼は武道に段を持つ兵（つわもの）である。
　そうして叩いて埃を出された人間は、人知れず持っていた趣味を、この一般人のふりをして過ごす必要のない棒術部に於いて解放し、同好の士同士切磋して先鋭化していくのである。私も棒術部に入っていなければ、コミケに行くことも他の即売会に行くこともなかったであろう。アニメにせよ、ゲームにせよ、その筋の趣味はあったが、もっと狭く密かな趣味に止まっていたであろうことも疑いない！
　まあ、私は1996年の２月段階に於いて、受験で上京した際には薄い本を３７冊買い込み、予備校時代も実家に郵送されるようにLDを注文し、シャバの空気を吸うと称して予備校の数少ない自由時間には、その筋のグッツを買い漁ってはいたのだが・・・。
　念のためもう一度言っておくが、棒術部は厳しく、激しく、真摯に稽古する武道サークルである。
　そして、その部員に対する二次元愛好者の割合は、必ずしも高くはない。
　そこんところ、よろしく。


　そして、第１日目の２９日、有明に向かった棒術部員群は、複数あった。
　中大周辺部の多摩地域から出撃する、下宿生３人（私を含む）。
　待ち合わせる駅のホームに、リンゴをまるかじりしながら現れた某氏には、私も驚かされた。
　都内にて待ち合わせて出撃する、自宅生２人。
　当初の予定では、彼らと下宿生団とは合流する予定だったが、連絡が間に合わずにそれぞれ各個に出撃することとなった。
　高校時代からのコスプレイヤー某氏は、単独出撃。
　そして、二次元の達人・某氏は、始発にて単独出撃。
　彼からのＣメールによると、「（大手サークルの本を買うには）始発では遅すぎる」との、空恐ろしいＣメールが。


　我々は、パスネット・カードを用意して、新橋からゆりかもめで有明に至った。
　午前１１時前のことだと記憶している。
　しかし、なんだ、あの人の列は？
　２０万ともいわれる参加者の数を鑑みれば、そのどこまでも続く列こそが、コミケへの入場を待つ人々そのものであったことは用意に想像できたはずである。しかし我ら３人は、全員がコミケ初参加。あの長大なる列に並ぶということが想像できず、ついつい人と違う進路を歩いてしまった。
　それが運のつき。おとなしく、他の人々と同じ進路を歩んでいれば、もっと早く列に並ぶことが出来たであろう。無意識のうちにショートカット・コースを通っていたのが間違いであった。
「有明では、一般世界での常識は通用しない」
　これが初っぱなに得た、我々の教訓であった。
　でもって、係員の指示に従って列にならび、ようやく人心地ついたのは１１時１５分ごろであったかな。


　並んでいる最中、ヒマなのでメールなど送って時間を潰していた。
　しかし、Ｃメールが送信失敗する？
　ez-webも接続できない？
　この人数で、携帯のメールサーバーも落ちかかっていたのであろう。
　そして、携帯そのものがつながりにくくなっていたことに気づきつつも、我々は再集結の時間を午後３時と決めつつも、場所を明確に決めていなかったことが、後の悪夢のごとき混乱につながった。なにせ、初参加者ばかりだったために、場所の決めようがなかったのだ・・・。
　先に来ていたHMX-12氏（仮名）とも合流する予定であったが、すでに連絡がつかなくなっていた。
　再集結の不安を残したまま、列は動き、我々はなぜか肉圧のままにコスプレブースに雪崩れ込んだ。


　コスプレブースでは、早くも撮影が行われていた。
　昼前は、まだまだ写真を撮るスペースも十分あったようだが、昼過ぎからか・・・急に人口密度が凝縮され、１人の対象を撮る撮影者とそれに便乗して撮る撮影者が作り出す異空間と、そのした異空間同士の隙間を圧縮されながらも歩む人々。そんな朝方の京王線上りよりも過酷な状況下で、我々は全員がはぐれてしまった。　
　後で聞いたところによると、参謀長は日本兵の一団に感動し、「あの男のツラは日本兵そのものだ。奴こそは日本兵になるために生まれてきた男だ！」などとわけのわからんことを言いつつ、日本兵を捜し求めていたのであった。さらに社交性豊かな彼のこと、ヒマそうにしていた日本兵と話し込んでいたらしい。
　私の方は、恐るべき偶然によって別に出撃した棒術部自宅生２人組とも出くわしたが、別に知り合いと話し込んでも仕方がない。と言うよりも、ここに於いて立ち止まることは犯罪だ。すぐに分かれた。私は写真を撮るでもなく、かと言ってなにかをするわけでもなくコスプレブースをさまよい続け、そしてようやくそのカオスから抜け出したのが午後１時ごろである。
　そろそろ、再集結が不安になってきた時分であった。
　それにしても、ハゲたおっさんがあからさまに嫌がっている美紗さんを捕まえて、「あと１枚、もう１枚！」「今度はデジカメで！」などと長時間拘束しようとしていた光景。あのオヤジ（実は若いかも知れないけれども）は粛清しておけばよかったかな。


　携帯は中継局の極端なキャパシティ・オーバー、近似周波数電波の過密による混線などによって、ほとんどつながらず、ドコモに至っては全滅との話も耳に入った。私とあとの二人はcdmaOneであり、奇跡的な確率でつながることもあった。Ｃメールも届かない方が多かったが、なんとか送り合うことが出来た。
　まずはП氏（仮名）と連絡がとれて、午後２時半には、更衣室近くにて落ち合うことが出来た。
　次に、薄い本の買い出しから帰投したHMX-12氏と約束の午後３時を少し過ぎたあたりで、合流に成功。
　最後、参謀長（仮名）への連絡が途絶していた。
　彼はこの４人の中では、唯一のＨ゛ユーザーである。PHSは、人体が多すぎるところでは２GHzを超える高周波数のために電波が吸収されてしまい、さらには中継局のキャパシティーも極端に小さい。中央大学でも1996年までは学内でPHSは使えず（山の上の大学にも関わらず、中継局がないため）、1997年にわずかに設置された中継局は高い確率で「通話中」の音しか出さず、1998年に至ってようやくまともに使えるようになってきたのだ。
　私はそんなことを考えていた。　


　ez-webからEメールを送り、メールセンターに届けることは出来たものの、DDIメールセンターから参謀長のＨ゛にメールが着信する可能性は、絶望的であった。
　その間、棒術部のコスプレイヤー・PGO氏（仮名）と出会い、挨拶などして別れたりもしていたが、焦燥感は募ってくる。ガキじゃないんだから、最悪、各々が単独で帰宅することはできる。しかし、それは信義に反する上に、今宵はHMX-12氏の自宅に泊めてもらうことになっていた。どうしたものか・・・と考えていたとき、待ち合わせ場所から企業ブースに行っていたП氏が、偶然参謀長と出くわし、事なきを得た。すさまじい確率の出来事であった。


　そして、臨海鉄道とやらを使って新木場まで至り、HMX-12氏の自宅がある埼玉某市まで電車で向かうこととなった。
　臨海高速鉄道の「国際展示場駅」には、先端には何もない意味のない列や、実はタクシー待ちの列などが乱立し、場慣れしたHMX-12がいなかったら、改札をくぐるのにも時間がかかっていたことであろう。待つのは流通が破綻しているロシアの人間のやることだと信ずる私など、１人でいたら、歩いてＪＲの駅まで行っていたかもしれない。
　また、新木場では券売機に並ばずに、私は仲間にイオカードを買うことを勧めた。駅員が特設販売していたテーブルには、誰も並んでいなかった。そのため、我々は少したりとも待たずにJR新木場の改札をくぐることが出来た。予備校時代にイオカードは使い慣れているからね。


　それからそれなりの時間をかけて、埼玉県某市に至り、HMX-12氏宅へと向かった。
　実家であるHMX-12氏の部屋は、思いの外まともな部屋であった。
　趣味のギターにCCSのケロ公が貼られていたり、よく見ると本棚にLDーBOXが満載であったり、叩けばいくらでも埃は出るに違いない部屋ではあったが・・・。
　「ナデシコ」を観て、ホウメイに対して「このコックのババァ！」などと暴言を吐き掛け、「ＣＣＳ」の曾祖父の対しては、「このジジィ、魂胆見え見えだ！おお、触りやがっているぞ、この犯罪者め！」などと騒ぎ立て、「クレクレタコラ」に対しては「このピーナッツ野郎！」などと意味不明な罵声を浴びせかけた。
　なかなかエキサイティングなLD上映会であった。
　いいのかなぁ・・・ご実家にて、このような犯罪的な言葉を口にして・・・。
　あとは「エクセルサーガ」幻の２６話を観て笑い、「魔法騎士レイアース」の際しては何故か参謀長が第１章の最終話をカメラで撮影。私は「血の匂いに引かれるバケモノが出た回がお気に入りだ。あの話で『奴は血の匂いに引かれてやってくる』と、光が自らの腕を切り、血が地面にながれ出すシーンを観て（以下、公序良俗に反するので自主規制）」などとアホな話を。
　私は椎名へきるが泥臭かった「魔法騎士レイアース」や「ハミングバード」の頃のファンだ、などとHMX-12氏と意気投合。
　さらには、「大運動会」（TV版）を観て、これは思いの外いいと再評価しつつ、眠りについた。
　HMX-12氏の母親には、布団まで用意していただき、世話になりました。


　始発で出撃して大手サークルに並ぶという案を却下して、一般サークルを回るという方針に決定したため、起きるのは遅めでよかった。しかし、東京行きの電車が少ないために、我々は急いで出発した。そのため、布団の後かたづけもせず、さらにはご家族へのろくな挨拶もなくHMX-12氏の家を出てしまったことは、今でも悔やまれる。
　なんたる非常識なことをしてしまったのだ。
　この場に於いて、謝意と謝罪を表明したい。

　２日目は、本を買うことがメインである。
　確実に集合時間と場所を徹底した後、各自散開。思う存分買うべし。
　私はあくまで社会勉強として来たので、本やCD-ROMを少し買っただけで、さほど散財はしなかった。
　しかし、HMX-12氏は大手サークルに並んで、かろうじて本を入手。参謀長やП氏も、なかなかの出費をした模様。
　参謀長曰く、「こんなにカネを遣っては年を越せん。これは親に言ってカネをもらわねば。いや、新年に備えて靴と服を新調したからくれとか適当なこうを言えばいい」とのことである。まず彼の親御さんが、このサイトのこのページを観ることはないと思うが、親御さんが同人誌やグッツで彼が諭吉を大散財したと知ったら、なんと言うであろうか・・・。
　また、彼は政治家志望である。
　「陵辱する本が欲しい」とコミケに来て、その筋の本を買い漁っていたことが知れ渡れば、政治家となっても後援会は解散、ごくごく一部の層の支持は得られるだろうが、それよりも大きな支持基盤を失うことになるであろう・・・。
　彼の今後が楽しみである。


　さらに我々は適当なところで有明から引き上げ、秋葉原へと聖地巡礼へ向かった。
　「タイガーホール」では、何の冗談か入場制限が。
　店内には、レジに並ぶ長蛇の列が、店内の客の８割を占めるという異常事態に。「最後尾はこちら」とダンボールにでも書いて、掲げたかった気分である。
　転売目的で来ている者もおろうが、それよりも圧倒的多数は、地方から東京に出てきて、聖地巡礼をしようとの人であろう。手荷物から、客の多くは明らかに有明帰りと観られる者であり、重そうな大荷物を抱えている者も少なくなかった。帰りの鉄道や飛行機へと向かうまでの短時間、あるいはホテルに戻るまでの時間でもって、アキバのその筋の店を堪能していたのであろう。
　まあ、私も釧路にいたときは、東京さ出て、有明に行って薄い本を買い、アキバの然るべき店を回るのがひとつのステータスだと思ってたからね。その気持ちはわかるが・・・うぐぅ。圧死するかと思ったッス。


　我々はアキバのその筋の店を回り、「あきばお〜」４号店で「魔物ハンター舞」なんぞを買ってから帰途についた。アキバの店が閉まる午後８時までうろついていたのは、かなり久しぶりのことであった。
　それにしても参謀長が、有明から秋葉原に至り、そして帰りの電車に乗るまでの間、「あかりちゃんバッチ」を胸につけていたのはすばらしい光景であった。
　最後に思ったのは、有明にその筋の方々多しと言えども、実際に素で日常会話に於いて「にょ」「ぴょ」などと語尾につけて話す者は、HMX-12氏の他にまずおるまい、ということ。有明では、一度たりとも「にょ」「ぴょ」という音声を耳にしなかった。
　やはり、我々の仲間は凄絶なのであった。

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