第7次自主WR、始発にて
2001年06月24日(日)


 私は物心つく前の赤子から、寝付きのわるいガキであった。
 母が揺すっても抱いても、何やっても寝ない。そんなことがよくあり、よく母を困らせたらしい。
 物心ついてからも、布団の中で寝られずにいることがよくあり、その度に、親に「いつまで起きている。とっとと寝ろ」と不当な叱りを受けたものであった。
 予備校では規則正しい寮生活だったため、時間が来ればすぐに眠られるようになったが、実家に戻ったときや、大学に入ってからの一人暮らし生活では、なかなか寝られないことがしばしばある。そしてこの日も布団の中で、覚醒し続けていた。


 時計を見たら、午前4時。
 このまま布団の中で寝たふりしていても、意識が落ちることはありそうもない。
 そこで私は思い立った。
 枕元の携帯電話で電車時刻表にアクセスし、最寄り駅他、数駅の始発の時間をチェックする。
 行けるな。
 布団から気合い入れて起きあがり、私は準備をして自主WRに出ることとした。
 中大の学生部公式WRが終わってから、自主WRに出ていなかった。
 こうした運動は続けたい故、今日このヒマな時間を使って相模湖まで出ることとしたのである。


 ちなみにこの日のCDウォークマンの中身は、数日前に出たばかりの「NOIR」のサントラ。 

うまく写らんかったが、いい光景だった

 相模湖に到着したのは、午前6時21分。
 この時間はもう大した早朝でもないが、東京から電車で相模湖に至る最も早い時間である。早朝始発に乗って、しかも一人で山を歩く。こんなことする学生はなかなかいないであろう。自己のアホさに1人ほくそ笑む。
 霧と低い雲が掛かった山に朝日が差しかかった光景には、さらに早朝WRの意気を高めたものであった。

 相模湖には深夜早朝に花火をするな、という主旨の看板が。
 ここに来るときはいつも昼近くか午後であった私には、今まで見たことのない看板であった。
 市部と言えども東京に住み、電車しか交通手段のない私には、夜中に相模湖公園にて何かをすることはないであろう。近くの旅館にでも泊まれば話は別だが。
 こんな看板1つさえも、私には珍しかった。

この看板は、実は夏になれば出しっぱなしらしい・・

構図がいまいち

 ダムの上から相模湖にかかる橋を撮る。
 三脚を持ってこなかったため、自分とともに写すことはできなかったが、この写真は失敗か。
 この橋の街頭に、未だ灯がともっていること、車道を車が1台も走っていないことを撮りたかったのだが。 

 弁天橋から、眼下の川を撮る。
 ボートに乗った釣り人が幾人か。
 私よりも早くここにいるとは、近くに住んでいるのか、ただ単に車で来たのか。1人ただ歩く私が言えたことではないが、朝っぱらからボートで釣りとは物好きなものである。
 ここはダムのすぐ下なのだが、放流したらまずいのでは。
 まあそうした時間はわかっているとは思うが。

ダムの下でボート

山中、1人棒を振り回すキ@ガイ

 山に入った私は、クモの巣に難儀した。
 この登山道は、土日平日を問わず、いつでも歩いている人間がいるものである。そのため、今までは誰かが通った後だったためにクモの巣に掛かることはなかったが、一番乗りの今日は、30pごとにあるのではないかというクモの巣を一々破るハメになり、拾った棒キレで常に前方の空気をかき回していた。
 1人山中で棒を振り回し続ける男。
 端から見たら、近づきたくない光景であったに違いない。

 山は霧が深く、開けた崖から麓を見下ろそうにも、水蒸気の粒子に光が阻まれ、ほとんど何も見えなかった。草や葉には露が滴り、20メートル先さえも霞んで見える。
 こうした周囲がよく見えず、何もかも湿っている風景に、「NOIR」のサントラから流れる音楽は、よく合った。「NOIR」の音楽から私が感じるものは、大きい漠然とした何かの意志と、それと対比されるような不安定でムラがあるが先鋭的な小さな意志である。
 そうした私の持つ音楽への印象が、私の周囲の山と、そこを必要もないのアホみたいに歩く私に重なって思えた。登山や飛行機の単独飛行を恒常的にやっている人間は、どこかおかしい言われるが、私もおかしくなってきたということか。
 音楽に全く造詣がない私が、ちっぽけな郊外の山歩いたぐらいで言うのもおこがましいが。

なんてことのない風景だけどね

 8時12分、はじめて人間を見る。
 城山の休憩所で、50過ぎのとっつぁんを見た。
 こんな早朝に、ヘッドホンをかけ、朝露と泥でズボンを汚しながら普段着でここまで至った私を見て、このとっつぁんは早々と荷物を畳んでどこかへ行ってしまったが。
 城山から高尾山方面に降りると、何人かの人間とすれ違うようになった。早朝に高尾山側からこの登山道を歩く人と、相模湖側から歩く私とが出会った形になる。さすがに相模湖側から早朝来た人間はいないということか。
 何はともあれ、ここからはクモの巣を気にする必要はなくなった。


 高尾山口駅に着いたのは9時30分。
 相模湖公園から2時間50分かかった計算になる。今まではだいたい2時間半で済んだのだが、久しぶりで足腰心肺が弱まっていたのか、前半クモの巣を破り続けていたので、それでタイムロスをしたのか。まあ、こんなものであろう。
 

 それから私は自分の最寄り駅まで戻り、都議選の選挙会場に立ち寄って投票してから帰宅した。
 午前4時に始発で出発するとき、選挙のハガキを持って出発したのだが、ずいぶん時間をかけて投票所まで行ったものである。
 家に帰って寝たのが午前11時。事実上徹夜明けで、しかも3時間近く歩いた疲労もあって、すぐに眠ることができた。
 そして目覚めたのが午後6時。
 また随分と生活リズムが狂ったものだ。
 戻すのに難儀しそうだが、大学の講義があるので強制的になんとかなるだろう。


戻る