第4話 血ぞめの日の丸の巻


 太平洋上を飛ぶ、グァム島行きのJAL機。この旅客機のパイロットは、洋上に変色している水域を発見する。しかも、噴煙まで上がっていた。海底火山。これは新島誕生の前兆か。
 このことは急遽外務省に報告された。硫黄島沖70海里、通称御台場と呼ばれる海底火山地帯。1970年代には何度か新島誕生の予測が為されたが、結局姿を現さなかった新島。今度こそはと外務大臣は期待を膨らませ、防衛庁・海上保安庁・科学技術庁に連絡を指示。全力での新島調査を要請するのであった。


「新島出現!?
 事実ならば日本に大きなプレゼント!!
 海上自衛隊偵察機、海上保安庁巡視船、科学技術庁調査船、現地へ向かう!」
 このような大見出しが、朝刊の一面を飾った。
 1977年に200海里の経済水域が実施されてから、日本の遠洋漁業は漁場を大きく失い、魚の値段は上がっていた。ここで新島が出来れば、経済水域は大きく広がる。そうすれば、マグロ・カツオの好漁場を確保できる。これは、光洋台行きの通勤電車に於けるサラリーマンらの会話である。漁場確保に安い寿司と刺身を期待する庶民たち。だが、どこの国も漁場は欲しい。新島予定場所は公海上にある以上、領土認定は早い者勝ち。どこの国もこれを逃すはずはない。サラリーマンらは、電車の中で一喜一憂を繰り返すのであった。


 一方、「影の戦闘隊」本部では、新島予定水域に移動を開始した、各国の動きを察知していた。各国の学術調査船が出動したばかりではなく、アメリカは第七艦隊が、ソ連はウラジオストックから太平洋艦隊が出港した。
 この新島問題は、もはや漁場などの経済水域に於ける海洋資源の占有権にとどまらなかった。もしこの新島が他国に発見されて領土となり、そこに軍事基地を建設されたら・・・硫黄島からわずか70海里という場所に、日本は爆弾を抱えることとなる。早期に出動した自衛隊・海上保安庁・科学技術庁の方が、他国よりも早く当該水域にたどり着くだろうが、各国がそれを座視しているわけはない。焦る和城は藤本を伴い、基地を走る。


 硫黄島沖では、海上自衛隊のPS1対潜哨戒機が、JAL機からの連絡空域に到達していた。そして雲の切れ目から、PS1乗員は噴煙を目撃する。新島発見の報を告げる偵察要員。
「なにい!」
 気勢をあげる機長。今までぬか喜びに終わった新島が、ついに出現しそうだ。沸き立つ機内。そして、PS1は新島発見の報を連絡する。海上保安庁巡視船と科学技術庁調査船に、位置を報告しようとしたまさにそのとき。PS1の機体に衝撃が走り、機器が火花を散らした。PS1は、後方より国籍不明のミサイル攻撃を受けたのである。そして不明機は、さらにもう一発ミサイルを発射する。
「またミサイルです!」
 叫ぶ、偵察要員。
「なに、早く新島の位置を日本に知らせるんだ!!」
 迫り来るミサイル。火を噴く機体。その状況下で機長が命じたのは、新島位置を知らせることであった。
「新島位置方位180度!」 
 通信員がマイクに向かって叫ぶのとほぼ同時に、二発目のミサイルが直撃。一発目の被弾にはどうにか乗員とエンジン、通信機器を守っていたが、二発目のミサイルに、ついにPS1は砕け散った。
 一方、巡視船には、新島の位置を最後に自衛隊機からの通信が途絶した。自衛隊機は撃墜された。だが、彼らのおかげで新島の位置はわかった。そうして、ついには噴煙を視認する乗組員。しかし、次の瞬間、巡視船のブリッジは砕け散った。国籍不明機が、今度は巡視船をミサイル攻撃したのである。真ん中から船体が折れ、轟沈する巡視船。
「や、やられた。今度は巡視船か!!」
 叫ぶ科学技術庁調査船乗組員。沈みゆく巡視船は、調査船からも肉眼で視認できた。そして、巡視船を沈めた戦闘機は、今度は調査船に一直線に向かってくる。
「この船は武装などしていないただの調査船だ!乗員も学者や民間人だ!」
 迫り来る戦闘機に対して、絶叫する学者。無論、そんな声など聞こえようはずもなく、国籍不明機はミサイルを発射。調査船も爆発し、沈むのであった。


 和城と藤本が、F14で駆けつけたのは、すでに自衛隊機や調査船が攻撃された後のことであった。遅かったかと、ほぞを噛む和城。そして不明機が、自衛隊機だけでなく、科学調査船まで沈めたことに、怒りを露わにする。いったい、どこの国が!?
 F14は、国籍不明機を発見。サーブ37ビゲン。スウェーデン製の戦闘機だ。スウェーデンが動いている情報はないが、これはどういうことだ。だが、どこの国の機であろうと、自衛隊機や調査船への攻撃を許すわけにはいかない。和城は即座にビゲンの後ろにつけ、サイドワインダーを発射。ビゲンのエンジン部に命中。撃墜した。だが、ビゲンのパイロットは、撃墜直前に救援を要請していた。
 ビゲンを撃墜した直後、変色水域は大爆発を起こす。轟音を響かせて、水柱を上げながら。そして、水蒸気をあげながら新島が出現する。この瞬間を目撃した和城と藤本は、すでにこの島近くまで、各国の調査船がやってきていることに気づく。アメリカ、ソ連、イギリス、カナダ、ノルウェー、フランス・・・どこの国でも新領土は欲しいのだ。
「クッ・・・・・・このままでは新島は他国の領土となってしまう。和城、撃沈しよう」
 藤本は言う。だが、和城は出来ないと叫ぶ。
「なぜだ!?影の戦闘隊は国籍不明機だ!撃沈してもどこの国がやったかわかりは−」
「できない!」
 藤本の言葉を遮り、怒鳴る和城。
「この船は学術調査船。学者や民間人が乗っているんだ!」
 和城の言葉に声を失う藤本。それでも、藤本は続ける。
「だ、だが、奴らは日本の調査船を撃沈した!」
 藤本の苦しい論に対し、和城は毅然として言う。
「藤本さん!あなたは奴らみたいに成り下がりたいのですか!?自分の利益のためならば何でもする人間になりたいのですか!?俺たち影の戦闘隊は、奴らとは違うんだー!っ!」
 和城の気圧され、また自分の正当性のなさに、撃沈案を引っ込めざるを得ない藤本。だが、このままでは新島は他国のものとなる。このままでいいのか。
 そんなやりとりをしているF14の後方を、別のビゲンが捕捉していた。先ほど撃墜したビゲンが呼んだ僚機である。ビゲンはミサイルを発射。この距離、方向からは、かわせない。和城はヘッドレスト上部のレバーを引き下げる。キャノピーが吹き飛び、座席ごと和城と藤本は投げ出される。
「離脱、成功ーっ!!」
 空中で叫ぶ、和城。その背後でF14にはミサイルが命中。爆散。


 そのころ海上では、各国の調査船が、新島上陸を争っていた。どの船も全速力で島を目指す。その中である船が、新島に肉薄し、上陸準備を開始する。だが、島を見た乗組員は言う。
「げっ、キャ、キャプテン!!」
 何事か聞き返すキャプテン。
「新島に人がいる!!」
「なにーっ!!」
 予想外の出来事に、絶叫するキャプテン。彼らが見たものは、新島の真ん中で、傷だらけになりながらも、日の丸を広げる和城と藤本であった。
「見ろ!!パラシュートに血で描いた日の丸を!!」
「立派な国旗だぜ」
 湯気の立つ新島に仁王立ちする和城と藤本。手には引き裂いたパラシュートに、滴る血で描かれた日の丸が。これを見た各国船団は、日本に先を越されたとほぞを噛むのであった。


「しかし和城。うまい具合に撃墜してもらったな・・・」
「なあに、撃墜されなくても、こっちから飛び降りるつもりだったがな」
「アチチーッ。それにしても、出来達の島は熱いな〜っ」
 熱湯の中、飛び跳ねる藤本。和城は言う。
「がまんしろ!今頃俺たちを撃墜した野郎は、くやしがってもっと熱くなっているぜ!!」     


<コメント>

1970年代には何度か新島誕生の予測が為されたが姿を現さなかった新島

 1977年1月9日、羽田発グアム行日航941便が、硫黄島沖南方の海上に変色水域を発見した。これが新島誕生かとの話題を呼び、アメリカとの水面下で牽制や、ソ連のものらしき不審機・不審船の目撃など、随分ときな臭い様相を呈したらしい。だが、結局新島は姿を現さず、硫黄島沖の海底火山帯は1980年代になると沈静化の動きを見せ、それ以来新島誕生らしき兆候は見せていない。


新島予定場所は公海上にある以上、領土認定は早い者勝ち。

 1977年の新島騒ぎの時点では、日本の領海は領土から3海里(約16.8q)。日本の領土・南硫黄島から当該海域は90qの距離にあり、そこは公海であった。国際法上、領海内ならば新島は自動的にその国の領土となるのだが、それは早い者勝ちである。
 国際法では、無主地を自国の領土とすることを先占という。この先占が成立するためには、その土地を発見して国旗を揚げたるだけでは不十分で、その国が領有の意志をもってその土地を実効的に支配する必要がある。つまり、他者に奪われないだけの軍事力・警察力を置き、さらに出来るだけ早くその島に於ける行政機関を設立する必要がある。少なくとも、議会などでその島を領有する意志があることを決議しないとならないとも言われる。それを考えると、この話のラストで、日本が領有したことになるのかは甚だ疑問である。
 ちなみに、国籍不明機から脱出した和城と藤本が、日の丸を掲げても日本国の新島領有の主張となるのであろうか。ビゲンを撃墜した国籍不明機と、藤本・和城とを結びつけることができなかったとしても、(表向き)単なる高校生にすぎない和城と藤本が領有権を主張することにはあまり意味がないような。やはり、少なくとも政府の命を受けた国家機関の成員でなければ・・・。


迫り来るミサイル。火を噴く機体。その状況下で機長が命じたのは、新島位置を知らせることであった。

 もちろん、一発目のミサイルの破壊力でPS1は墜落を免れなかったろうし、今回避運動をしてもムダである。パラシュートを積んでいるのかどうかはわからないが、そんなもの引っ張り出して背負って飛び降りるヒマなどない。そんな絶体絶命の状況下で、機長は迷うことなく自分の任務遂行−新島位置の連絡を指示した。それがベストな選択であるのはわかっているが、ミサイルが迫っているという死が確実な状況に於いて、自分の為すべき優先順位から最高度のものを選び、そして実行。凄まじいプロ根性である。


 この冷徹なまでの優先順位に基づいた行動はフィクションでもなかなか目にしない。ネタバレになるから作品名は書かないが、ある作品に次のようなシーンがあった。それは次のようなもの。
 狂信的なテロリスト集団が、国家の重要人物を暗殺しようと企てた。ターゲットが住む屋敷に火をかけ、警備を突破して、暗殺者はターゲットの隠れる部屋までたどり着いた。そして狂信者は銃口をターゲットに向ける。警備の将校がその重要人物の居室の窓にハシゴをかけ、ようやく窓まで上ったときに、将校は重要人物に銃を向ける暗殺者を見た。すかさずガラスをたたき割る将校。暗殺者は、ガラスの破砕音で、窓の外まで来ている将校に気づく。そして、暗殺者はターゲットに向けていた銃を、将校に向ける。その銃口の移動中に、暗殺者は将校の銃に射殺された。
 こんな話だ。この暗殺者、あきらかに三流である。それはターゲットに銃口を向けていながらも、その銃口を外して将校に向け直そうとしたことだ。ここでターゲットに向けた銃の引き金に力を加えれば、国家の重要人物・自分たちの組織の敵を仕留めることができた。例え自分が将校に射殺されようとも、目標は、悲願は達成できたはずである。
 盗みに押し入ったチンピラじゃないんだから、自分の命惜しさに優先順位を取り違えるとは、命も惜しまない狂信的テロリストの行動ではない。例え命が惜しくとも、この状況で銃を向け直してもムダだ。まあ、心理的に、反射的にこうしてしまうのはわかるけれども、暗殺者としては三流である。
 それに比べれば、PS1の機長など、凄まじいまでの任務遂行を見せてくれたものであった。


F14は、国籍不明機を発見。サーブ37ビゲン。スウェーデン製の戦闘機だ。スウェーデンが動いている情報はないが、これはどういうことだ。だが、どこの国の機であろうと、自衛隊機や調査船への攻撃を許すわけにはいかない。

 サーブ37ビゲンは武装中立国スウェーデンが独自開発した他用途戦闘機である。対空ミサイルはもちろん、攻撃任務にも用いるため対艦ミサイルも装備できる。この戦闘機はスウェーデンにしか配備されておらず、輸出はしていない。
 はたしてこの機体が何だったのか。スウェーデンだとしてら、どこから硫黄島沖までこの機は飛んできたのか。スウェーデン以外の国が運用していたのだとすると、どうやって機体を入手していたのか。かなり疑問である。


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