入寮
1996年04月07日(日)
別に大層な思いはないと思っていたが、身体や精神は高ぶっていたようだ。眠れない。意識がはっきりしている。ついでに胃が針を喰ったように痛む。関係のない話を想像してみても、その想像がどこまでも進むだけである。眠れない。
午前2時には眠れたようだが、朝の7時に起きたときには眠くてたまらなかった。目に松ヤニでも入れたかのようだ。だが、そのままホテルのテレビでCNNなど観ているうちに目は覚めた。テレビでは、アメリカで火事の中から4匹の子猫を1匹ずす助けて、大ヤケドを負った母猫で出ていた。母猫はひどい外見になっていたが、命は助かったとのこと。こんなに焦げながらも。すごいね。
東京にいるであろう、Y氏の家に電話をかける。彼は中学の同級生で、違う高校に行ったがすぐに東京に引っ越した男だ。電話には、「この番号は移転して現在は0123〜です」という機械の声が。0123?札幌近郊か。そこにかけてみたら、本人が出た。俺が本人と話し、そして母親同士に換わって話す(親同士も友人だ)。なんでもY氏は浪人して、現在札幌の代ゼミにいるらしい。しかも代ゼミ札幌校で中学時代の同級生U氏に出会い、「なんでここにいるのよ?」と言われたとか。
俺は両国。「何でそっちに行くのか」と聞かれた。そういや彼宛の年賀状には札予備(札幌予備校)と書いた。札幌では友人がいるし、一度修行してみたいからな、と話したところ、Y氏は「大人になったな」とのことである。両国の規則をいくつか教えたら、行かなくてよかったとのこと。Y氏は受けた大学に受かったと思って、友人にそう言って回ってたら落ちたという。どこだろうか?私が落ちた**大だったりして。
両国は軍隊みたいなところならば、軍服で言ったら?とY氏。湖陵(私の高校)には軍服で行ったことがあるぞ。学校祭のときだけども。両国に行くぐらいならば、すげえとこ狙ってるんじゃないか?T大か?とも聞かれた。T大・・・東洋ならば落ちたぞ。来年は受かって会おうと言って、切る。
この長距離通話で1000円かかった。ホテルをチェックアウト。行くのか。なんか恐ろしいな。大したことない。両国なんぼのもんじゃ!と言ってきたのに、今日になって恐れるとは。行けばなるようになる。ただ、行くのみ。品川より山手線で秋葉原、総武線で水道橋、そして三田線で白山へ(注1)。
白山駅で降り立ち、ここからは地図を頼りに進む。坂はあるし、道は狭い。それでも地図のおかげで道に迷うことなく行き着いた。運動になるな。着いてみたら、寮の前に静岡ナンバーの車が止まっており、両親と息子が寮監に挨拶していた(注2)。その後ろで待ち、静岡人が去ってから「釧路から来た**です。お世話になります」と母と共に挨拶を。
スリッパを履いて上がる。玄関には名札があり、外出時は白、在寮時は赤にひっくり返すという。
部屋は3階の309号室。6畳ある。俺の釧路の部屋と同じぐらいだ。広いじゃないか。机に足突っ込んで寝るぐらい狭いかと思ったいた。先代が残した文庫BOXの隣に、宅急便で送っておいたカラーBOXを配置する。身の回りの品は多いと思っていたが、2つの備え付けタンスに全て入って余裕がある。このタンスが部屋と部屋とのしきりとなっているのだ。上の方からかすかに向こうの部屋を伺える。1センチもないが、天井とタンスとの間には隙間が。つまりとなりの部屋との間に壁はなく、4つのタンスを2つずつ反対向きにして仕切りとしているのだ。巨大な上に作りつけなので動きはしないが。これでは音は筒抜け。屁も聞こえるであろう。となりの田山氏(注3)も豪快に音を出している。荷物の開封か。遠慮はいらんな。
昼メシを近くの軽食屋のカレーですませ、チリ紙と食料(注4)を買っておく。そうした物品はタンスに詰める。
その後、些細なことから母と険悪になってしまい、すっきりしない別れとなってしまった。
1人になった。ホテルと違って落ち着きはする。自分の居るところだ。廊下で「田山です、よろしくお願いします」などと近所の部屋の2人が紹介し合う声が聞こえ、2人で買い物に行ったらしい会話も聞こえる。俺が廊下で人と出会ったら、なんと言えばいいか(注5)。物音がしない。私の部屋近辺には誰もいないようだ。
外出帳に記入して、外出してみる。公衆電話で母に電話するが、ちゃんとプリンスホテルに着いたようだ。このときにはもう、遠隔地にいる親子の会話だった。そして、俺は怖いと思われうる外見だから、ちゃんと挨拶しろ、仲良くなった人の勝ちだなどと言われるまでもないことを言われる。明日の夕食に自己紹介でもするかも知れないが、外で接触しないと。
何はともあれ、もう勉強(注6)。
ポットの湯をネルフのコップに注ぎ、茶で色をつける。それを机の傍らに置いておく。
便所(共同)に行く。電灯を消すとスリッパもノブも見えない。人の気配がしない。
外には鉄条網が。侵入者よけ?脱走者対策?
ちなみにこの寮はL字型で、近所の子供達の声が、窓と廊下の両側から聞こえる。
この日のカネの動き
収入 母から 寮にて +10000
弁当 スタミナカツ弁当
ツナサラダマヨネーズパン
フランク&マスタードパン 白山下コンビニにて -651
財布残高 39959円
注1・・・
品川より山手線で秋葉原、総武線で水道橋、そして三田線で白山へ
あまり効率のよい行き方ではない。地下鉄を使えばもっと早かったのだが、田舎者はJRが優先的に見えるらしい。
注2・・・
寮の前に静岡ナンバーの車が止まっており、両親と息子が寮監に挨拶していた
これは三浦氏である。この彼は頭のおかしい人間なのだが、このときも何かおかしいと感じた。
注3・・・
田山
日記にはもちろん本名が書いてあるのだが、人名は電話帳から無作為抽出した仮名で呼ぶこととする。
注4・・・
食料
両国は3食完備。自炊や外食で余計な時間を使わないで住む。ついでに学費・寮費・食費は一括全納なので、メシのことを考える必要はないのだが、一応食料は用意しておいた。夜食とか喰う習性はないけど。
注5・・・
俺が廊下で人と出会ったら、なんと言えばいいか
今の私から考えると信じられないことだが、このときは弱気なことを考えていたものだ。
注6・・・
勉強
この日は勉強なんぞしなかった。勉強を本気でやるようになるのは、もう少し後である。
解説
別にこの日入寮する必要はなかったのだが、「入寮期間」の早いうちに入ることとしたのである。まだまだ入っていない人の方が多かった。