授業開始初日
1996年04月16日(火)


 初の授業日だが雨。別に大したことではない。通学路に、あの黒猫はいなかった。昨日3匹は猫をみたが、1匹も見なかった。屋内や軒下に隠れているのだろう。


 雨に濡れた定期券を入れても、改札はいつもどおり作動する。しかし近代的な電車も駅も、泥水が床に運ばれている。コケたら大変だ。どんなに近代化しても、そういうところは昔と変わらないのだな(注1)。


 朝テスト(注2)。**という先生が監督。英文解釈と英文法。


 そして授業。まず古文。(朝テストをする教室の)隣の教室。堂々と一番前に陣取る。自由席だからな。出席をとっているとき、「****・**」という名前を聞く。まさか高校の3−5の?いや、それほど特殊な名前ではないだろうけど、まあ3−5の****さんでも不思議ではない(注3)。
 授業中、数秒ぐらい意識が消えること数回。目を見開き、意識を保とうとするだけでも頭が破裂しそうだ。


 英語の時間、後ろの席に****さんがいた。顔といい背丈といいこりゃ本人だ。名札見たが、同じ字だ。そのうち話しかけてみるか。それにしても英語Zに古文Wとは、高校時代サボっていたな。俺も同じだが。


 帰り、白山駅のコインロッカーに「ゲーメスト」を追加しようとするが、鍵が回らない。一晩すぎるといかんのか?期間は3日とあるが。よく見たら、一晩につき300円とあいる。300円入れたら鍵は回った。いちいちこんなことやってられん。持って買える。読んでみたいし(勉強!)。


 今日は俺が一番最初の帰寮。みんなやっているんだな。
 洗濯室で三浦氏に話しかけられる。英語おしえて、と。俺Zだけど、と言うと俺はもっと下だから、と返ってくる。「特」か。お互いがんばろう、とお茶を濁したら握手された。


 風呂。この風呂は6人ぐらいが同時に入るのにはちょうどよい。8人でもまあいいが、これが実用上限界だろう。実際、昨日はそれを超過したが。


 夕飯。みんながんばっているな。半分はまだ帰っていない。
 うちのテーブルは三浦氏のみ。話してみる。趣味はと聞かれたが、アニメと鉄砲・・・とは言わなかった。ただマニアックだというようなことを言ったら、三浦氏は「俺には変さはかなわない」と。仏教や心理学が趣味だ、とのこと。「俺も心理学の本持っているよ」と言うと、「うれしいなぁ、今まで心理学書や『知的生き方文庫』持っている人いなかった(注4)」とのこと。湖陵には中公や岩波の新書読んでいる人はけっこういたけど。
 そして彼は続ける。いつからだかから、高校までいじめられていた、と(注5)。はー。そんな気がしていたよ。


 ミーティング。
・寮監曰く、ドアの開閉がうるさい、一階のが特に。特に崎元。と結局名指し。
・手紙・男女交際は慎め。そして寮監が掲げたモノは手紙のコピー。しかもマンガ!どっかで見たことあるような。私の絵に似ていたから、一瞬焦ったよ(注6)。こうしたマンガに返事をやはり描いて出していた人が過去にいたらしい。
・毎年、職員の印鑑をそっくりに偽造して、1回2〜300円で証明書にハンコを押す商売をするのが現れる、とのこと。
・ピアス、茶髪、ネックレスはダメ。内藤君、赤いね、とのこと。内藤は「地毛です」と返す。しかし寮監は、「これがだんだんもっと赤くなってくるんだ」と。
・ヒッポクラテスの誓いなどの試験は、寮監・寮母にもあるらしい。 


この日のカネの動き

コインロッカー 白山駅にて -300

財布残高 8228円


注1・・・
雨に濡れた定期券を入れても、改札はいつもどおり作動する。しかし近代的な電車も駅も、泥水が床に運ばれている。コケたら大変だ。どんなに近代化しても、そういうところは昔と変わらないのだな

 なんというか、初めて地下鉄・電車通学なるものをしてみて、自動改札や通勤通学の手段としての鉄道がめずらしかったわけだ。なんせ、地下にレールが走っている光景そのものさえ新鮮に見えたのものだ。田舎者である。

注2・・・
朝テスト

 両国では、通常授業がはじまる前に各自決められた教室の決められた席に着き、そこで朝テストを受ける。これは、与えている教材を自主的にやって一定量覚えるのと同時に、次のクラス替えの資料にもなる。この朝テストの席と教室は一年間変わらず、いわばこれがHRでもあった。

注3・・・
出席をとっているとき、「****・**」という名前を聞く。まさか高校の3−5の?いや、それほど特殊な名前ではないだろうけど、まあ3−5の****さんでも不思議ではない

 この人は、高校時代の同級生でした。しかし高校時代にも(最低限の事務的な用は別として)一度も口を利いたことがなく、そしてこの両国でも一度も口を利かずに終わったような。まあ、今思うと、挨拶ぐらいしてもバチはあたらなかったのだが。

注4・・・
「うれしいなぁ、今まで心理学書や『知的生き方文庫』持っている人いなかった」

 私は高校時代、岩波新書や中公新書、講談社現代新書なんかを結構読んでいた。新書に関しては、大学時代よりも読む冊数だけは多かったかも知れない。心理学も私が好んだ分野の一つ。しかし私はあくまで娯楽・趣味として読んでいただけで、三浦氏のように「真理」を得たというような思い上がりを持つことはしなかった。さらに言えば、私はhowto本や生き方云々という本に関しては、高校時代も浪人時代も大学時代も好きこのんで読んだりしなかった。
 まあ誰が何を読もうと知ったことではないし、ここでは本に貴賤をつけるようなことはしないが、一応(制度上であれ)権威のある人間が、多少なりとも体系的に何かを論じようとする「アカデミックな感じの新書」と、制度的権威を失墜させるようなリスクもなく自分の生き方やなんかの方策とやらを、自分の個人的な経験と感情のみを根拠にして描くような本とを、一緒にして欲しくはなかった。彼にとっては両者とも「真実を啓示してくれる本」で、それらを読んだ自分は「世界を判定する能力がある」というようなことをそのうち口にするようになる。

注5・・・
そして彼は続ける。いつからだかから、高校までいじめられていた、と

 彼はどこの社会でも迫害されただろう。やはり両国でも迫害された。
 家庭環境、習俗、顔つき、声、能力の高低なんかから不当に貶められ、集団での共通言語として日常的に迫害される「いじめ」は、環境や人が変われば無くなるかもしれない。また、集団の成員すべてが積極的に迫害するとは限らない。しかし、三浦氏は人格に多大なる欠陥があり、いかなる人間をも恒常的に不快にする。そのため、どこでも迫害されるのが当然の帰結であり、味方や仲間となる第三者が出現する余地もない(「いい」とか「わるい」とか言っているのではない)。
 この三浦氏が「100%世間が間違っていて、自分は100%問題がない」あるいは「中学高校とか、前にいたところが『たまたま』おかしなところだった」、とでも言いたげに「いじめられていた」などと語る不遜さが、私は気になって仕方がなかった。

注6・・・
寮監が掲げたモノは手紙のコピー。しかもマンガ!どっかで見たことあるような。私の絵に似ていたから、一瞬焦ったよ

 私は高校時代、家が近所なのに悪友とよからぬ封書を送りあったりしていたものであった。私も下手な絵など描いたものである。寮の住所はもちろん友人達には漏らしてはいなかったが、何らかの方法で友人がここに封書を送りつけたのでは、と一瞬疑った。そして私が過去に描いたマンガのコピーでも送ってきたのでは、とも。
 今回は上記の通り、ただの「過去の事例」として出されたサンプルだったが、後に本当に友人からイラストが届けられる。そのときは偽装をしていたので、安全かつ確実に私の手元に届き、最後まで隠匿したのだが。


解説

 ついに授業がはじまった。私は授業を受けるスタイルと復習について、模索をはじめることとなった。ちなみに私は、復習重視であった。


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