新クラス発表の日
1996年06月19日(水)


 ゆゆしき事態だ。あの小さな虫が再び湧きさらしおった。今日は多い。100匹ぐらい殺したか、と思っていたが、部屋の真ん中の電灯の下を見ると、虫の死骸で黒くなっていた。100匹どころではない。寝ておるときにこんなに降ってきたら……恐ろしい。こいつらきっと、やたら短命なんだな。だからこんなに一瞬にして死骸が。短命ってことは生殖も早い。……こいつら交尾してやがったのか?どこに卵を産みさらしたか!まさか、今日初使用のネルフタオルか?とにかく、こいつらが湧いてくると気が散るわ。本を閉じると虫を挟んで黄色い膿みたいな液体をまき散らすわ、部屋の掃除もせにゃならんわで、大変。今日の勉強時間は1/2ぐらいか。薬を買ってこよう。虫殺しの。でも、短命なこいつらに対して殺虫剤の散布は意味があるだろうか?巣から孵化して湧いたやつが死ぬだけで……それでも長期的には生殖の機会を与えないことになるのか?そうしていれば絶滅するはず。しかし薬の届かない天井裏にて繁殖していたら?とにかく虫殺しの薬だ。

 新クラス発表の日。英語W、世界史J、古文R、現代文H。現代文以外すべて上がった。それに現代文は、上にあるのは12人しかいないDクラスだけだ。これで上等。落ちるかと思っていたぐらいだ。でもHだものOKだ。世界史のMM先生と別れるのはつらいなあ。でもまあ仕方が無い。こうるさいT氏やW氏がいないのだから環境はよくなる。
 高山氏に「晴天くん晴天くん」と寮の廊下で呼ばれる。「晴天くんの武勇伝聞いたよ」というから何事かと思ったが、クラスのことらしい。彼が俺のクラスについて田山氏、迫水氏に言ったところ、田山氏は「さすが、ダテに釧路湖陵だな」とのこと。それって「ダテに〜じゃない」と言うのでは。

 西内氏は特Aクラスから特Hクラスにダウン。マークシートの偶然だったのが相応になったらしい。彼はたいへんだね。特Hと聞いて高山氏は問題を出す。「He is a student.」 西内氏は「彼は生徒」と応える。述語は?さらに「There is a picture on the wall.」と。これはわかるでしょう。
 俺のクラスを聞いて高山氏は「旭川を受けたら?」と。医大じゃねえか。とんでもない。「(医学部志望の)本田氏に追いついてよ」とも。彼はそんなものなの?英単語7級に過ぎないと俺がいうと、「これは勝った」と高山氏。5級らしい。でも俺は360語を2時間で出来る。

 三浦氏がJとの情報が。「キレッパヤの晴天くんもこれは怒るでしょう」と。怒りませんが、マークのミスか?「まあマークだもんな」と述べておく。特クラスからJ?基礎クラスから完成クラスか。本人曰く慶応を狙っているだけはあるな……。しかしマジか?「特Jのミスプリじゃないのか?」と内藤氏談。しかし五十嵐氏もJ(彼は俺よりも出来るもの)。
 電話がかかってくることが同じみの江川氏はTから特C。やってくれる。電話で親御さんに言えるのだろうか?
 五十嵐氏曰く「胃がいてー」。三浦ストレス、らしい。

 英単語の話で、声を出したらどうこうと誰だかがいうと、高山氏は「俺んところで声を出したらぶっ殺されるよ」と。高村君は神経質だからなあ。いびきでけーけど。

 こんなことでいいのか?勉強7時間やったけれども、うすい!虫がふってくると嫌なので、全部消すかな電灯。
 しかし万年筆もどきがうまく出ない。俺にはボールペンか。

 そういやあるアパートのところにガキが湧いていて、子猫をいじくりまわしていた。チャリで円を描いて乗り回すな。轢き殺したらぶん殴るぞ。子猫を取り合うな。子猫を無理矢理持ってくるな!猫はおもちゃじゃない。持って遊ぶな。帽子に入れてなんかやっているとき、同じアパート(の向かい)の犬が走ってくる。ガキども、逃げ惑う。猫を持って逃げ回るな!放っぽるよりはいいが。住人とおぼしきおやっさんがきて、なんかいって猫を受け取り、階段の奥に戻した。ガキってやつは気遣いがたりん!


この日のカネの動き

なし

財布残高 5415円


解説

 アルファベットでAからZ、そしてそれ以下の特クラスとレベルごとのクラス分けが為されており、ときどきクラスのアップダウンがあったのだが、もちろん気にならないわけがない。受けたらそれっきりで単に目安でしかない模試にはまったく一喜一憂しなかったが、クラスは先生や授業やテキストが異なり、当然のことながらレベルが低いクラスほど不真面目でやる気のないやつの比率が増えるので、やはりレベル分けは一大イベントだった。
 三浦氏は、なかなか大変な人物で、動詞、名詞という品詞の概念を理解できない(知らないなら覚えればいいだけだが、それより深刻で理解できない)と称していたのだが、このときなんでレベルが向上したのかはよくわからない。ただ、彼は慶応どころか、最後まで大学という名のつくところに入れるかどうかもあやしいレベルに停滞していた。
 両国で徹底反復した単語帳と授業でやった長文の再読の反復は、受験はもちろん、大学入学以後にも用いられる英語力に礎となったのは確かだ。だが、寮生活の欠点としては音読が出来ないことが挙げられる。高村君は神経質で、他人の鉛筆の音にさえキレて壁を殴るなどしていたが、しかし音読なんかしたら高村君でなくても激高したのは間違いない。音読が出来ないのは今思うと、不便なことであった。ただそれでも声帯を使わずに囁く、脳内で強く意識して発音をしてみるなどして、どうにか工夫していた記憶はある。
 アパートの猫たちは、鉄格子の入った洗面所や洗濯室から眺める数少ない娯楽だったが、乱暴な(本人たちはそんなつもりは毛頭無いだろうけど)子供たちが猫を雑に扱うことには一喜一憂していた。とりあえずこのときは無事に子猫たちは巣箱に戻された。


戻る