寮監休みで、代理が来る日
1996年07月10日(水)
今日は寮監休みで、代理が来る日。なんとかなると思いながらも、念を入れてコインロッカーに『アニメージュ』やカメラやラジオを入れる。600円か。まあ仕方ない。しかしラジオは不安かな。台風は来ているし。万一の災害時はどうする。寮や学校にそのくらいあるだろうが、自分のことは自分でやるのだ。防災は特に。
帰っても何のチェックもない。6時には寮監さんも帰っている。巡回も寮監さん(と寮母さん)だ。そんな、大したことなかったな。
帰るまで電話しない、と最後の電話を入れた。地元で火事があり、××さんの近くの○○さん宅で、まったく知らない家だが、そこが全焼したという。さらにはそこのおじさんが死んだ、と聞いて、なんか事実には違いないし、世の中においてめずらしいことでもないのだが、信じられないことのように聞こえた。いや違うな。事実として受け入れたけど、驚いた、ということか。夜12時頃、バリバリ音がするので暴走族が暴れているのかと思って外を見たら、外が真っ赤。消防車も14台くらい来た、と。退職後の老夫婦で、おじさんは足が悪いらしい。火が出て、火を消そうとして、おばさんヤケド。さらに、もうだめだ、とおじさんを引きずって逃げようとするが、おばさんの服が燃え上がり、やむなく服を脱ぎ捨てパンツ1枚で××さんの家に助けを求めに行ったという。なんという話だ。災害の話としては聞いたことがある話ではある。でも、神戸の地震のとき、同じような生活をしていた人々が戦争並(場合によってはそれ以上)の目に遭ったと思うとなんとも言えなかったときのように、地元でそんなことがあると思うと、やはりなんと言っていいかわからん。モルタルは燃えにくく、全焼でも外観は建っているように見える、と。隣近所は無事らしい。
俺もそんなふうには出来ないだろうが、初期消火なんてしないで逃げるべきとは聞く。そりゃ、初期消火は重要だけれど、消せない場合はどうしようもなく。逃げたり通報したりするのが遅れてしまう。目の前で火がついた段階ならともかく、気がついたら火事になっているのに気づいたという段階ではもう初期消火は無理だ。
しかし、おそろしいことだ。その近場にいたら大変心苦しい思いをしたことだろう。
メガネ、メタリックフレームにかえた。3年3ヶ月いや4ヶ月かけたあのセミリムレスの黄銅は本日より予備役。ごくろうさまでした。コーティングはがれて傷だらけで目に悪いからもう限界だ。つくって1年10ヶ月ぐらいか。ここまで時間をおいて制式になったのも例がないな。帰ったら金縁を作ろう。これには乱視が入っていないし。ところで店ではフレームだけかけて鏡を見せられるがそれでは見えない。シャツはハワイアンなのがほしい。めざすファッションは「やくざ」だ。これが目的。あと金時計も欲しい。ロレックスの200万なんてとんでもないが(レプリカは欲しい)、2万程度の悪趣味なやつでいい。ついでにネックレスもしたりして。
もう寝よう。今日は30分寝ちまったし。
この日のカネの動き
電話 -200
コインロッカー -300
財布残高 3,424円
解説
前日のミーティングで寮監代理は厳しいと聞かされて、部屋の禁制品やその疑いのあるものはコインロッカーに隠してしまった。ラジオは禁制品なのかどうかどうもはっきりしなくて、疑わしいので隠した。聞くことは殆どまったくなく、柘植久慶のサバイバル本の影響を強く受けていたこともあり、防災用品として用意していた。
地元で知っている人の近くの家が火事になったという話、後にディテールがよりはっきりするが、この日聞いた段階でもおそろしく悲惨な事件だった。火事になった○○家の人たちのことはまったく知らないのだが、凄絶な様相(火事でやむなく逃げてきた○○さんの奥さんから話を聞いた××さんの話を聞いた母の話という多重の伝聞ではあるが)にかなり衝撃を受けていたのが窺える。初期消火は避難するタイミングを遅れさせるというのはたぶんその通りなのだろうけれど、そんなことを出来る人間はほとんどいない気はする。この事件では足の悪い旦那さんを引きずった奥さんが、他にまったく選択肢がなく、やむなく一人で逃げたという凄惨なものであり、生き延びた奥さんは「早く逃げていれば」など罪の意識を長く持って生きていることが予想される。しかし訓練されていない人間に初期消火の放棄なんて出来るわけがないのだ。放棄したところで結果が変わったとも限らないのだ。しかしそれでも自分を責めていることだろう。むごい話だ。
ところで「帰るまで電話しない」というのは夏休みまでという意味なのか、両国を終えるまでという意味なのかはわからないが、全然最後ではなかった。電話代が200円と硬貨なのも時代を感じる。
このときにはなぜかすでにカリカチュアな「やくざ」を意識したファッションを志向している。実際に金縁メガネや当時の自分にとって高額な4万円の金時計を買ったり、雪駄やアロハシャツを手に入れたりバカなことをするのが後の学部時代である。