「峰」というシブイのを買う
1996年08月02日(金)
今朝は趣向を変えてウーロンにしてみた。のみものを買うのはムダ。水飲み場の堅実な女子を見よ!しかし一応理由はある……腹具合が悪い、と。それで水道水による悪化を防いでいるのかもしれないが、バカにならない出費だし、そんなには変わらないと思うぞ。それに理由をつけていたらキリがない。
授業中、久しぶりにWCで途中退出。まず、廊下で2人ほどタバコをふかしていた。帰ってくるとタバコくさいというような話も耳にしていたが、やはり。WCの中にはTS氏とIW氏。別にいいけれど、灰をWCに落とすな。そかも耳に入る話の内容が……。どんな女がいいという話なんだろうけれど、ロリータがどうこうと。IS氏「ブルマーか体操着がいい。彼女に着てほしい」
TS氏「ロリータね……いいね。でも怖くて言えねーよ。どうでもいい女には言えるけれど」 IW氏「俺、ブルマーが一番興奮する」 TS氏「お前、ほんとロリコンだな」
なんという話だ。しかしその手の趣味は、陰気で弱気で成人女性に相手にされないような奴のすることだ、という見解があるが、しかしあんなWCで転がってタバコふかして授業さぼってパチンコ行くあんちゃんがそんな趣味だというと俺でも意外な気がした。あくまで同年代の人間に対する服飾の話なのかもしれないが。
このとき、2分WCにいた。たった2分副流煙を吸っただけでノドは痛く、頭も痛い。しかし何かタバコへの思いが強まってきた。タバコなんて有害無益。頭も悪くなる。俺は特に健康に悪い。今でも禁煙コーナーで吸っているのを見るとガソリンをぶっかけたくなる。しかしなんか魅力を感じた。そう、あくまでタバコの効能ではなく、カッコウのためだ。吸い込まなければいい。火のつけ方を試しみるだけだ。マナーは守るさ。といつのまにか買ってみる方へ。
昼食をとらず、タバコ屋へ。「裏の電話」の店だ。「峰」というシブイのを買う。硬貨を入れ、ボタンを押し、転がってきたものをとり出す。なんてことのない動作だ。しかし未知の世界に足を踏み入れている感じだ。ライターがない。タバコ屋は休みだ。駅のキオスクで買う。サイテーの歩きながら吸いはさすがにできん。細道に入り、立ち止まって火をつける。炙るだけではダメなのは知っている。吸うのか、吹くのか。でも、焦がしただけだった。それは捨てた。しかしこの匂い。すっぱいような……。じいちゃんの部屋で嗅いだことがある。それを口にくわえる。この時点ですでに想像はふっとんでいる。自分が口にこんなものをくわえている。視界にタテの長い棒が。信じられない。別世界だ。
WCで、もう1度試してみる。どうやら火がついたようだ。その瞬間、意識がどっかに吹っ飛んでいったようだった。目の前の景色は見えて、遠近感もあるが、そうと感じられない。二次元の板……ではない。他人の視点、そう、TVのようだ。ビールの飲み方を知らんとき、のどを通るときこう感じた。こいつはいけねえ。ホントに頭がおかしくなる。頭がわるくなる。一口ふくんで煙を吐いた。俺の口から白い煙が?ウソだ!そんなことが!すぐさま
大便器に捨てて流した。ふかしただけで、何ということだ。
精神に手をつっこむ薬はやるな!そう言ったはずだ。タバコもそうだったんだ。タバコそのものに目的があるわけじゃない。大丈夫だ。欲求が起きても圧殺できる。
しばらくノドが痛かった。一口含んだだけで?吸ってねーぞ!?これは人の副流煙のせいか?しかし頭も痛い。やはりわからん。1番寝ればもとに戻る。しかし泣きそうだった。母さん泣かせたときと同じだ。俺はこの先、まっとうに生きていけるのか、というような、自分(や環境)の崩壊の感覚。大勝負だ。タバコそのものに魅力はない!
船橋屋で買ったオペラグラス、レンズではなく素通しか。まあいい。どうせこいつは使わない。もろすぎる。華奢すぎる。プラ製のやつの方がまだいい。しかしいくら携帯用といつても、こんな低倍率のが約に立つのか?
今日のニュース。
マニラで日本人男性44才(だったか)が、カネ払っていかがわしいことをしたという。そして未成年者への云々で法廷へ。フィリピンだけでなく日本の法廷でも。刑事責任よりも、日本人男性がアジアでどんなことをしているのか訴えるのが目的だそうだ。
五十嵐氏「江川、お前、外国に行くな。日本の恥だ」
江川氏「うるせー。お前こそ」
五十嵐氏「俺、外国行かねーから」
とのこと。
タバコ、魅力的なものに感じたが、くわえた瞬間、とんでもないことをしているという思いにぶちのめされた。あれほど憎んでいたタバコを吸ったのだから。
この日のカネの動き
のみもの ウーロン茶500ml -129
タバコ 峰 -240
ナイフケース ヴィクトリノックス用革ケース -2,030
オペラグラス 中国製分解品 -480
銀行 -6,000
來田へ -100
水 -200
のみもの はちみつ入り牛乳 -130
財布残高 9,517円
解説
はじめてタバコを吸った日の恥ずかしい日記である。悪い友達や先輩から勧められたのではなく、仲間内にやつがいたわけでもなく、ただ単に口もほとんどまったく利いたことのない同じ予備校の学生が吸っているのを見て、知らず知らずのうちに興味を惹かれていったのである。彼らの話から「誰かがタバコを吸わせようとしたら、手に持ったタバコを火で炙り始めた」という他者をバカにした笑い話から、口にくわえないと火がつかないということは推測された。だが、そのとき吸うのか吹くのかさえわかっておらず、最初のときは多分息を吹いていた。吸ったとしても弱すぎた。そして二度目は一口ふかしただけなのだが、それでもはじめての一口は強烈だったようだ。ニコチンの効き目も強烈ならば、なんてことのない動作ではあるが自分がそれをしていることも不思議に映った。廊下全体が喫煙スペースであるのにかかわらず、便所でタバコを吸って床に捨てて、床を焦がしている(両国の便所の床には無数の焦げ目があった)のに強力な反感を覚え、「ガソリンをぶっかけたい」とさえ言っているのに、落ち着いて隠れるために便所の個室でふかして水洗便所で流しているあたりは五十歩百歩、覚えていないが「歩きたばこを忌避して立ち止まって」吸おうと試みた最初の一本は、間違いなく路上に捨てている。1996年の喫煙マナーは5年後10年後ましてや20年後とは比べ物にならず、路上で吸ってそのへんに捨てるのがごく当たり前に行われていた時代だったが、それでもそうした行いに反感を持ちつつ自分もそれをしてしまったことへの自省の記述はない。ただ、喫煙という行いをしたことそのもの、そして薬効が精神に影響している様に戦慄しているだけである。
「母さんを泣かせた」ことについてはまったく記憶にないが、10代のときの不安定さから様々なことを口にしたり家の壁を殴り抜いたりして、そういうことで母が嘆いたのだろう。そしてさすがにそれについては自分の罪深さに自責し、そして自分はこの先まっとうでいられないのでは、という恐怖をも抱いたはずである。喫煙についても、「自分はこの先まっとうではいられなくなる」として、喫煙衝動に支配されることを恐怖していたらしい。
喫煙については予備校時代に何度か買っては捨てるを繰り返し、そして学部に入ってからも早速出来た仲間の前で粋がって吹かしたりしていたが、そのうち普通に深く吸い込んで毎日を過ごす喫煙者になっていた。が、体調を崩して強制禁煙することになったり、再びやったり止めたりを繰り返しているうちに、そのうち「タバコを吸っていた時期がある」ということさえ信じてもらえぬほどまったく吸わなくなった。そして社会状況も大きく変化した。果たして現在のように吸う場所もろくになく、過料もあり、世間の目も厳しく、実際問題として吸っている人間も少なくなってきた後の世において予備校生だったら、果たして(悪い仲間もいないのに)喫煙に手を出したかどうかはわからない。