実家宛の手紙
1996年08月31日(土)
・志望校だいたい絞った。
A日程 東京都立 人文−社会
後期日程 東京大学 文科III類
早稲田 教育−英語英文
----寝言のライン このへんは削るかも
中央 文‐英文
法政 文‐英文
法政 社−社
----栄光のライン
玉川 文‐英米文
東洋 社−社 現在地
専修 文‐人文−社会
----屈辱のライン
・反省書+3枚。自宅学習時間不足のため。
・セミの声、スズムシの声……その他山ほどの声。これが日本の夏か。今までしらなかった。
・クーラー入れる必要なし。寒い。上着を着るほどだ。窓を閉めて寝ている。クーラーなんぞを入れたらカゼを引くわい。しかし、あたりからはクーラーの電子音が聞こえる。
・ズボン用ハンガーがほしい。別に送らなくていいよ。
・食料を備蓄し直したら食いたい気が……十分食っているのに。昨日、フリスク1箱、カロリーメイト1箱、コンソメスープ1袋、のどあめ数個食っちまった。今日は食わん。来年一人になったらどんな食生活を?
・代引きで『Doll in the housh WINDY』を注文。書留で『エヴァンゲリオン・コレクターズディスクVol.4』『今井ひづるpresents H』を注文。すべて機種はWindows。メディアはCD-ROM。まあ何事もないと思うが。
・上記の『H』はHeavenとHellの頭文字のHで、やましい代物ではない。
・LDを注文してある『新世紀エヴァンゲリオン』に14巻発売決定!13巻までは予約しているがどうしようか。
・猫によろしく。これから数年、いや、下手すると死ぬまでねこのおらん生活することになるかもしれんからな。
・どうでもいいが、2階の金城氏はタバコは2ダース吸うし、寝過ごして朝礼その他によく遅刻する人物だが、うちらよりかなり安いカネを払って、東京理科大と某私立医大とを蹴ってここに来たらしい。噂によると東大だかの医学部を狙っていると。
・同じ階の麻見氏は医系ではうちの寮で1番できるらしい。ということはどういうカネを払ったんだろうか?
・T高校出身の金田氏は、両国(東京・大阪ともに)の私立文系トップだ。しかし電車ではマンガを読むし、風呂は1時間は居座る。……まあ、完成した学力があるから、もう余裕なのだろう。なんか特別な事情で浪人することになったというし。
・学校で同じ教室のT氏は、早大を蹴って早大を狙っているらしい。「学部が気に入らなかった」とのこと。
・去年の避難訓練で、夜中(7〜8時だが)に工事用みたいなヘルメットかぶった若造が薄暗の中から連れ立ってやってくるのを見た地域住民が、オウムと思って110番したそうだ。寮監曰く、「警察の奴が飛んできやがった」とのこと。でも、避難場所の教育の森公園に来て思ったよ。この、段階的に姿が見えてくる暗さの中、そんな連中がこっちに群れをなして歩いてきたら、誰でも逃げる、と。したがって、今年はヘルメットなし。今日のために数か月前から防塵ゴーグルと防埃マスクとを用意したのに、少し残念。しかしその恰好はますますあやしい。しかも上着は人民服だ(前は閉めている)。「いっしょに工事してこい」(今、寮の近くで工事している)と言われた、タオルでほっかむりをしている人も数人いたし、これでヘルメットかぶったら尋常じゃないわな。
・薬学系の布井氏という人物はよく話しかけてくる。もっとも彼は誰にでも話し、1人でも話している人だが、人民服着て、腕組みをして立っていたら、軍人が大の字に立っている、と。俺は83寮でも軍人だ。彼曰く、「そこに右翼の看板あったんだけれど、君に見せたかったよ」とのこと。彼は思想にもかなり関心ある人のようで、思想雑誌もよく読んでいたそうたが、客観的で、相対的な考えるできる人なので、心配はいらん。すべて趣味だそうだ。「君、やっぱり右翼だったんだね」と言ったのも彼だ。
・三田線の駅には淡く、やわらかい表現の透明水彩画のポスターが貼ってある。毎月、季節にあった絵、その季節の中に小学校に入るかどうかというぐらいの女の子がいる絵が入れ替わる。『詩とメルヘン』の購読者である布井氏がいうには有名な絵本作家の作品だそうだ。しかも彼は駅長室に入ったかと思うとその5分後に、筒をもって出てきた。あのポスターをもらってきたという。しかも、今までのは家に額に入れてあるらしい。
・ついでに『詩とメルヘン』界隈の読者は、『不思議の国のアリス』のような服装、まあ俗にいうLolita fasionというやつか、の女の子がほとんどという。彼の図書館での経験によると。しかし彼はなぜ薬学?文学は俺より遥かに読んでいるし、太宰や中原がたまらんという。しかもセンターで国語満点!文学部に行きたそうなこともよく言うし、「君、法政いいね」(まだ入ってない!)なんて言ったりもする。なぜ薬学?しかし文系にせよ理系にせよ、彼は英語の偏差値が40台という致命的欠点がある。しかし俺が見るに伸びていない。なぜつて、やっていないからだ。
・食堂で前の席(正面で向かい合わせ)の井上氏は、ある日1,800円のつくだ煮をもってきた。伊那地方の名産ハチの幼虫(のさなぎ)。わかっている。どこで何をどう喰おうがねそれがそこの分かであり、自分の感覚など一地域のものでしかないことぐらい。しかし……わかっていても……。試しに食ってみた。まあ、うまい。しかし、今、口の中にあるものが……と思ったら。田山氏「腹の中で孵化しないだろうな」 その後田山氏は、歯を磨いているときに何かひっかかっているので見てみたら、ハチの頭だったという体験をしたそうな。
・来年はCPU Pentium 166MHZ以上、HD2GB以上、RAM32MB以上、CD-ROMドライブ8倍速以上、モデム28,800bps以上、グラフィックアクセラレイター・サウンドブラスター搭載で、フルカラープリンター、フルカラースキャナー(フラットベッド)をつけて、パソコンが欲しい。なんか、寮の人間の半分(2割ぐらい?)は優秀なパソコンを持っているそうで。
解説
これは実家あての手紙である。箇条書きをして近況をいろいろ書いてある。正直実家にいってもしょうがないことを書いている気もするが、しかし手紙では生活を紹介したいという欲求が働いたため、今となっては当時の様子をうかがい知るよいヒントが多くみられる。これを読んだ親としても、私がどんな暮らしをしているか、それなりに生活を愛し、人々を愛していることが伝わってそれは安心したことだとは思う。
PCについては、実家にそんなスペックを並びたててもさっぱりわからなかっただろうけれど、受かったらPCを新規購入して買い与えてくれるという話であり、それを見越してどんなものを買いたいかという理想を語っていたのである。そして実際にその通りのものを買ってもらったのである。当時は学部生におけるPCの普及率は低く、プリンターやスキャナーまで揃えることは少なく(特にスキャナーは稀だったはず)、大変カネがかかっている。
志望校については、直近の日記に書いてある社会学離れや政治学史学への関心は反映されていない。時間をかけてゆっくり書き溜めていったせいでタイムラグがあったのだろうか。