精神と思考能力とを狂わせる
1996年10月13日(日)
巣鴨へ行った。ライター買った。池袋へ行った。駅から出るとき、タバコをくわえていた。そして出た。もう火をつけるしかない。それも失敗はできない。偶然、人がタバコに火をつけているのが目に入った。なるほど、タバコを下向きにするのか。吸いながらつけることはだいたいわかっていた。失敗はできないので思い切ってやる。すると、煙がいきなりノドにぶち当たった。うえ、灰だ。煤だ。ノドにそんなものがつけられたようだ。焦げたようだ。苦い。ガンになるわけだな。あとは火のつけたタバコを何気なく指に挟んで適当な位置にして歩く。誰も見ちゃいないさ。でも違うという意識があった。そうだ、灰を落とすんだったか。指で叩いて落とそうとしたら、タバコそのものを落としてしまった。踏んで消すが簡単には消えない。危ないことだ。タバコは歩きながら吸うものではない。煙を何度か口に含んで、吐いたが、吸い込んだのは1度だけ。どうだ。変化あるか。そういうばなんか気分が軽いような。心地よいよいな……。気のせいだ。いけないなあ。精神に手をいれて。これはアルカノイドだ。
計4〜5本はふかしたか。HOPEは短いので深入りする前に捨てられる。しかし、たったこれだけでずいぶんタバコくさくなった。風呂で喫煙者の隣になったときのようだ。寮監にバレるだろうな。大丈夫だ。匂いに気づかれる状況にはならん。そのうち匂いも消える。
それよか、こんなことしていていいわけない。健康に悪い。現にノドがしばらく痛かったし、頭が重くなった。カネもかかるし、公衆道徳も乱す。自分がどう思おう、こんなことは普通の光景だ。誰も何とも思わない。しかしここに来る前の感覚はどうした?とにかく、ここでいい加減な態度をやめ、確実に邪悪なものとして完全に手を出さないことにしよう。完全にだ。自分の一番大切なもの、精神と思考能力とを狂わせる。
この日のカネの動き
交通 地下鉄 白山⇔巣鴨 -170×2=-340
ライター -130
同人 シリーズ22 -1,000
願書 拓大 -1,000
残額181
財布残高 181円
解説
それまでも何度かタバコをふかしていたが、肺まできちんと吸引したのはこれがはじめてである。わるい先輩や仲間に勧められたのではなく、自分ひとりで関心を持ち、聞き挟んだ話や通行人の挙動からどのように火をつけて、どのようにふるまうのかを倣い、そして自分の姿が滑稽でないかと恐れつつも、なんてことない風に振舞おうとしている。当時は、喫煙人口が多く、歩きタバコはごくふつうに見られ、それは路上に捨てられて吸い殻が堆積している時代だった。私もそれに倣ったのだが、もちろん時代がどうあれ歩きタバコは受動喫煙や火を押し付ける危険があり、ポイ捨てはもちろん自然分解されず火も消したつもりでも必ずしも消えたとは限らず、悪行であることは言うまでもない。こんなことはしてはいけないと思いつつも、これからもまだまだタバコに手を出し、学部に入って後は完全な喫煙者となっていたのである。
それにしても、財布の残金がまたしても小銭になるまでカネを使っている。高校生の延長とはいえ、大して現金を持ち歩いていなかった当時の金銭感覚が見て取れる。