いきなり勢いよくドアを開ける
1996年11月07日(木)
山田氏、またやりおった。
『YJ』読んでいたら、いきなり勢いよくドアを開ける。ツメが甘く、忍ばせていない足音がした段階でもうわかっていたが、心臓にわるい。何度も何度も、人を驚かせて何がおもしろい。つい、ハラが立って、「今度やったら、火ィつけるからな、お前の部屋に」と言う。「火をつける」としたのは、■■空手で自信のある彼には、正面からやり合う類のコトバは一笑に付されるだろうから。しかし迂闊なことを言ってしまったよ。言いたいことを言うな。彼は極めて不器用な男だ。こうやるのも、ひとつのコミュニケーションの手段、突破口なんだろう。高校の■■君の悪ふざけやそれに対する俺の「脅し」もそうだった。そしてまた山田氏はやってきて、洗剤借りにきた、と。またか。頼むから買ってくれ。
彼はまた来た。サイダー、ユンケル、板チョコ、栗を持って。なんと献上してくれたるのか。そんな高価なものを……。俺が怒った(本当はそうでもないのに)ので、ワビの印か?いや、すまん。俺が迂闊な言葉を口走った。サイダーは返すが、あとはありがたくいただくことにした。ここで返すのも「拒絶」を表すことになるだろうから。
彼は間違いなく善人だ。しかし下手だ。「今日、やる?」で、何の文脈も前後関係もなく「今日、明日の英文解釈の各テの勉強をやるか?」の意を表そうとするなど、伝わるわけがない。自己完結している。付き合い方、という技術がつかめていないのでは。それとも俺のような「スポーツに興味のない妙な男」に戸惑っているのか?まあいいんだけれど、高校の友人■■君の方がはるかに付き合いやすい。■■君はハラが立つことが多かったが、そこはやつも心得ていた。
風呂にて。西内氏と山田氏と。女のどこを見る、と。そんなこだわってないからな。少し考え、それほどいかがわしい話にならない無難なところで「髪」と答えておく。そしたら西内氏は「変わっているね」と。今は亡き(殺すな)金田閣下は、なんかのフェチズム雑誌を持っていて、山田氏はびびったとのこと。
今日買った本は?と。『幻の自動小銃』を買いにアキバへ行ったのだが、山田氏と電車で会って、アキバで本を買うと言ったからな。マンガじゃない。エロ本じゃない!マニアックなものだ、と答えると、さらに特殊なエロ本かと。いや、これ(ライフルを構える姿勢)の他。エアガン?と西内氏。いや、本物の。
山田氏、エアガン改造すると殺傷力は?と。改造は今日ではほとんど不可能。そうしたら友人が改造して窓を貫いた、と。窓って?ベニヤか?ベニヤぐらい、スタンダードな、いや安物のエアガンでもぶち抜ける。ついでに人間は結構弾性があるから強いもんだ。
アキバ行って思った。絞らねば、と。前々から思ってはいたが、今度は軍事部門もだ。銃および個人火器にな。スペシャルフォースや技術的なものもいいだろ。飛行機や軍艦のものも読めば面白いし、知識になる。量をこない、詰めていけば、それなりに詳しくなれるだろう。しかしハイテクの塊のあんな大掛かりなもの、とても手に負えん。一方、銃は1人ですべての操作が出来るし、機械仕掛けなので、なんとか理解できる。銃の方が突き詰められる。それに俺はいつか究極目的として小説を書いてみたい。軍艦や飛行機を出すことは難しい。そんな代物、政治・経済もからむし、複雑な戦術、高度な戦略性、人間の手に負えない情報処理など、とてもさばけない。それに俺は銃の方が好みだ。銃は簡単、とは言わないが、大掛かりな兵器より相対的にシンプルだ。人間と人間との話が書ける。巨大兵器を描くとどうしても人間が見えにくくなる。ハードの話書くんじゃなくて人間の話を書くんだ。主役は人間だ。道具じゃない。
胃がいてー。ストレス?この俺が?確かに昔のことを思い出して、手に持っているペンをぶち折りたくなるぐらいハラを立ててることもたびたびだ。バカらしい。そんなものが胃にきたってか?それとも今日喰ったパンがいけなかったのか?やはり、入試が近づいて、自覚していないだけでプレッシャー?
まあ実戦の入試問題に自分が対抗できるのか、当日に寝ぼけないか、あんな模試の点でそれなりの偏差値とっているが役に立つのか、とも思う。でも、一瞬だった。仕方がないし、そう思ってみても、やる以外に道はなし。
それと俺は元来胃腸の弱い人間だ。いや胃も入ってたか?胃!?とにかく気を付けろ。気になるなら医者にでも。入試中下痢したら……いや思ってもねーぞそんな心配事なんか。
医者行くとかなりの自由時間をつくれる。しかしどうでもいい。アキバで書泉行くのでもう十分すぎる。カネもさほどないし、買っても読むヒマないし、ゲームなどの遊びも自戒中。やっぱこんなもんでいいな。書泉散歩でさえ「遊びすぎ」だ。
大学行ったら早朝散歩や筋トレするか。それと週1ぐらいでプールも行くかな。プールは力がつく。しかし一般開放ってそうそうしているのか?夏だけでは?ガキだらけでは?浸かって遊ぶだけでは?泳げないと意味半減。それと水中眼鏡。度入りでやるけれど、俺の度の強さで作れるのか?メガネでさえ一番高いレンズで無理矢理薄くしているのに。コンタクトでプールなど狂気の沙汰だ。メガネの上からでかい水中ゴーグル?やはりアホだ。
この日のカネの動き
銀行 +4,800
書籍 幻の自動小銃 -1,854
パン ヤキソバパン
パン バーガー
小計税込み-320
雑誌 YJ -230
財布残高 3,558円
解説
山田氏に苛立っている。本を買うと言って途中駅で降りた私は十中八九禁制品を持ち込んでおり、そして読んでいるはず、としていきなりドアを開け放って驚かせている。それを何度も何度もやってくる。まあ冗談、悪ふざけの類なのはわかる。彼なりのコミュニケーションの取り方だということも。だが、解せないのはドアを開け放って「何びびってんだよ」「マンガ読んでるのか、悪い奴だ」と大笑いして話を続ければいいものを、ただドアを開け放って私が驚いてマンガ雑誌(すぐにはドアから目に入らず、瞬間的に隠せる用意もして読んでいた)を隠そうと反応するのを見て、無声音でほくそ笑って立ち去っていくあたり、実に生理的嫌悪感を催す。それを毎回やるのだ。何かのとっかかりにしたいのなら、きちんと笑い、きちんと話せばいいものを。もちろん、そうした反応のし方も含めてそれが彼のコミュニケーションの取り方なのはわかってはいるが、そもそも脅かされること自体が不愉快で、執拗に同じことを繰り返すのはさらに不愉快で、ちょっかいを出しておいて陰気な反応を残して去っていくのは極めつけに不愉快であった。
「お前の部屋に火をつける」という最大級の脅し文句を浴びせかけられて、さすがに山田氏は私を怒らせてしまったと気づいたのか、食い物を持参したり、おそらく本当に借りたいのでなく様子見に洗濯洗剤を借りに来ている。悪気があってやったわけではなく、怒らせたと分かれば繕おうと焦ったりもしている。当時の日記本文でも書いているが、彼は単に不器用な人間だということがうかがえる。だが、山田氏の距離をつめてくるやり方とそもそもの対人関係の在り方の違いからもたらす大小の不快感が積み重なり、先日、異常な被害妄想に基づいて攻撃性を発露された段階で危険な異常者だと確信したこともあり、私は彼を「関わりたない人間」にカテゴライズした。他方で彼は、友好関係を築くため、関係を改善するためにはそれしかないとばかりに、私に対してさらに距離を詰めてきたので、摩擦は増すばかりであった。
胃腸の調子がわるいのは、過去の人間関係に対する怒りと、山田氏へのストレスから原因である。それ以外に考えられない。しかし浪人生というだけで、受験のストレス、プレッシャーとほとんど全員の人間が反応したので、そこは不本意でもあり、便利でもあった。なお、私がいよいよ胃腸を病んで医者にかかったとき、それに対して山田氏は怒った。「俺がこんなにやさしくしてやっているのに、なぜお前は病気になる」と。なかなか奇怪な人物である。
小説を書きたいと言っているが、書かずに現在に至る。よくある話である。ハイテク兵器の方がハードウェアやその運用について知識がいるというのはその通りかもしれないが、人物を描くのに小火器よりハイテク兵器の方が適していないとも限らず、そのへんはまあ漠然とした空想ではある。
歩行や運動については学部時代以降はそこそこやっているが、プールは行ってない。小学時代に水泳を習っていたので泳げるはずだが、長じてからは本当に泳げるのかどうかももはやわからないままである。
なお、猥談は苦手かつどうでもいいので、「女のどこを見る」というくだらない質問をされて、無難なところでまず目に入る「髪」と答えて煙に巻いているが、しかしその答えもまたよほど度し難い変態のような気がしないでもない。