父、小銭の袋
1996年11月19日(火)
今聞いた話を。迫水氏、自習室でWCのドアを開けたら、人がクソしていた。しかも待ちかまえていたかのように、後を向いていた、と(自習室のWCは使用している人の後ろにドア)。まだ出ていなかったのが幸い、と。「あ、ごめん」と声にならない声で謝り、ドアを閉めてもどった。よく考えると、その人は朝テで同じ教室の人だった、と。開けたら、「うわぁあ!」とのこと。こういうことは2回目だそうだ。小学生の頃、キャンプでWC開けたらおっさんが入っていて、そのときは相手は前を向いていた。小学生の俺にとってはキツイ映像だったとのこと。
坂本氏、乗り換えの駅でWC入ったら、ヤンキーが入っていたと。タバコではない。ホンマにクソしていた。と。相手は「なんじゃあ!」とのことだそうだ。
クソしているところを見られるのは一番恥ずかしい。アレ(彼は3文字で言った)を握っているところよりも、とのことだ。
父来た。みかん買ってきた。寮監にも何か買ってきたらしい。
例によって、ペットボトルのカネ。銀貨ばかり。17,630円。金額よりも父が持ってきたこと自体がうれしい。台所の生ゴミ用の水切り袋に入れて、念のため二重にしている。そんな、ひとつひとつのことに父を感じる。俺も年を取ったものだ。そんな感情を感じるなんて。俺にそんな感性があったなんて。
わざわざ、部屋から母に携帯で電話をかけ、父の持参した写真(空港での別れ際の)を見て、模試の成績表を見せ、大学の話をし、薬が父のと同じことを確認した。母と電話中、足がつった。どうにもならん。堪えて、引くのを待つしか。父が足をつかんだ。余計痛くなったように気がして、瞬間的に「さわるんじゃねー」と反対の足(両手は足を押さえている)で払った。これはまずかった。俺は筋を伸ばして対処するという方法を知らなかった。それをやってやろうというのだから親心というやつだろうに。それを足で払うなんてな。
50分ぐらいか。短いとも長いとも言えない。父が帰ったあとは、またいつも通りだ。父がこの部屋に存在し、話をして、いつもと特別に違ったことをしていたのだが、持ってきてくれた品があるだけで、いつもと何も変わらない。変化がないということはありえないのだが、感じられなかった。少なくとも、モノが増え、俺の記憶に残り、そして俺そのものの連続した変化に影響を与えた。それでいいじゃないか。だが、あまりに実を感じられない。俺の記憶など本当にあったのかどうかもわからん。モノはモノだ。もういい。あまり突き詰めても終わらん。
まあそういうことだ。帰りたいとも、何とも思わない。俺の部屋の黄ばんだ布団で寝たい、レオに顔をうずめたい、今のソファーでころがりたい、とも思わない。それは当然のことであり、今、違うだけなのか?いつか戻れるつもりなのか?それは、家に帰ることもあろうが、おそらく永久にあそこでは住まないし、住んだとしても違うぞ。もういい。時間のムダ、てことはないがムダだ。
父も言っていた。パソコンがないと話にならん、と。つまり買ってくれるんだ。インクジェットプリンタ、MOドライブ、CD-R、フラットベッドスキャナ、フィルムスキャナ、デジタルスチルカメラ、どさくさにまぎれてソフト数本、いくらだ?本体30万、プリンタ8万、MOドライブ8万、CD-R12万、フラットベッドスキャナ7万、フィルムスキャナ7万、デジタルスチルカメラ2万、ソフト3万=77万!いいかげんにしろ。プリンタ〜フィルムスキャナを2万ずつ安くしても67万。ダメだ。あと17万は絞れ。しかし絞りがたし。いや、なんとかしろ!削るんならデジカメ、フィルムスキャナ、CD-Rで21万も絞れた。うーむ、受かってから考えよう。
この日のカネの動き
エルフを狩るモノたち2巻 -560
財布残高 8,673円
解説
トイレのドアの施錠忘れか鍵の不具合で、大便中にドアを開け放ってしまうのは、入っている方も開けてしまった方も悲劇だ。しかししょうがない話ではある。
父が来てくれた。出張のついでなのか、出張をつくって来てくれたのか、どちらにせよ多忙な中、それなりの荷物まで持ってきてくれてありがたい話である。そして小銭をペットボトルに投入して溜まった小銭貯金、高校時代は現金が足りなくなるとバレない程度に失敬することもあったやつだが、それも大分たまったようで、わざわざ持ってきてくれた。袋に小銭を詰めて念入りに重ねる方法まで父らしいと思ったりもしたのである。このときの小銭は、しばらくそのまま温存していたのか、しばらくの間は収入としてはカウントしていない。役に立つのはもっと後になってからである。
なぜか足が攣って、父が親切にもそれを伸ばして楽にしてやろうというのを払ってしまったのは気まずかったことだろう。後に運動部に入り、足が頻繁に攣ってそのたびに伸ばして収まるのを待つことは多く体験したが、伸ばすとより痛み、伸ばせばいいという知識や経験則がないといきなりそんなことを人にされるとやはり反射的に払ってしまうのである。
パソコンについての皮算用をしている。周辺機器は、だいたい入学時に買ってもらうのだが(CD-Rドライブ、フィルムスキャナ、デジタルスチルカメラは上にあるように省いたが)、当時はそれぞれの品がなかなか高額だったようである。それをカネかかる予備校とカネのかかる東京の私立大学と一人暮らしをさせてもらう上に、一括でせびるとは、なかなかのぼんくらである。しかしありがたいことである。これらのおかげで学部生活の充実度は増したし、記録も残せたし、後につながる試行錯誤の礎にもなった。