「お前を殺さないように」
1996年11月26日(火)
山田氏とまたしても。昼食を抜いてお茶の水の丸善へ。
山田氏は負けず嫌いだそうで、同じ特Cクラスだった奴が構内模試で60超えた、悔しい、ハラタツと、
俺は山田氏に古文負けた。山田氏「くやしい?」 俺「別に、当然の結果だ」 野球部では、ずうずうしくないとレギュラーになれん、と。よくわからんが、勉強は1人だけのもの。負けたのならば、それは自分がわるい。
山田氏、俺に「やさしくしている」と。まあ、本人がそう思うのならばそうなんだろう(しかし、なんか気に喰わん。「やさしく」という言葉が)。それは自己防衛のためという。本性はヤバく、俺をぶっ殺しちまいそうだから、そうしないようにやさしくしている、と。
■■空手をやっているから世界が違う、どうしても傲慢になる、と。ほう、そうかい。確かに正面からやりあって勝てそうにない。それなりの武器がないと。今までは、たいていの奴にはなんとか勝つ自信はあった。何を犠牲にしても何も顧みずに執念で最後には勝てたという思いがある。しかし彼は違う。彼と相対したら殺されるのがオチだ。その点、彼がその気になったらおそろしい(もっとも正面から勝負する必要などないので、俺がその気になっても彼を殺すことは、彼が俺を簡単に殺せるのと同じぐらいに容易にできることではある)。
野球部でピッチャー、副キャプテン。仕切り屋ばかりやってきた。均一の団結した集団で11年間。外は知らない。だが、俺は外の人間だし、彼の野球は終わった。俺は部員でもない!
彼といるとすさまじく疲れるよ。彼も俺を殺すという以上、ハラが立っているんだろう。少しか、とてもか、知らんが。なんなら俺なんていないと思ってもいいぞ。俺も正直言って、あんまり一緒にいたくない。人との交流はないよりあった方が精神のクリーニングになるし、目の前に本人がいるときは「さほど」問題はないが、一人になるとすさまじくハラが立つ。多分俺の潰瘍の原因の半分は彼だ。残りは高校の■■先生と■■君。どうやって無難に過ごし、無難に永久の別れをするかが問題だ。
ということで、今日は今までになく重苦しかった。
別に帰りたい、もう嫌だ、なーんて思わない。ただ重苦しい。勉強も強行したいが、いまいち。集中できん。ストレスを飛ばさないと。自分の感情など、外では意味がない。外にストレスをたたき出すのは罪だが、出さんと健康にわるい。自分でなにクソこんなこと、と意識改革して昇華して見せた。天は自ら助くる者を助く。まあ俺がストレスを自己処理しただけだ。
ついでに腰痛体操やった。思いの外、腰痛が軽くなる。俺は若いんだから、何でも効果がある(養毛剤も)。ハラの重さまで軽くなった。やっぱ、運動が1番ストレスを昇華できる。
来年は、水泳に朝の散歩に筋トレだ!住むところはすごく駅から遠いところ!
スポーツはしないが運動はする。
朝、用意したアヤナミ学生証とアスカ定期券とを貼ろうと水道橋駅のラクガキコーナーへ。オヤジが見つめているのでできず。電車に乗って、お茶の水で降りて、また反対の電車に乗って、水道橋で降りて、なんとか貼る。
帰りは、山田氏と一緒にいたで反応を確認できなかったが、高校生があのコーナーに!そうか、この時間に書いているのか。問題はあの紙が明日まだあるかどうかだぜ。昨日のはすでに朝違うものになっていた。
この日のカネの動き
くいもの あげパン -70
くいもの よくわからんパン -200
財布残高 3,663円
解説
水道橋駅のラクガキコーナーに『エヴァ』ネタの学生証と定期券を貼ろうとしているが、人目があるので恥ずかしくて貼れず、なんとなく電車に乗ってまたもどって貼りなどしている。かなり早い時間に出ているから余裕があるとは言え、寸暇を惜しんでいる中ではなかなか思い切った行動である。そしてもちろん山田氏と一緒にいるときには、ラクガキコーナーに関心を示すことさえできなかった。また自分には理解できないものに関心を向けている、とわかっただけでも面倒なので。
さて、山田氏はまたしても異常な言動をした。いきなり人に「俺はお前にやさしくしてる」と言ってくること自体が困惑することだし、彼の好意はすべて迷惑だった。また、本来その必要がない人間相手に殊更に好意を示しやっているという恩着せがましさをも感じる。率直にいって、生理的嫌悪感を覚える。しかしそれだけならともかく、彼は言うに事欠いて、「俺がお前を殺さないように、俺はお前にやさしくしている」とまで述べるのは恐怖である。単に「お前を殺したい」と言われるよりも恐怖である。なぜならば自分が相手に対して殺意があると表明することが、決定的な対立や決別につながると思っていないところが恐ろしい。そこまでの不快感を私に抱いているのに、それでもなお肩を並べて私と一緒に歩き続けていることも、おそらく明日もそうするつもりでいることも恐ろしい。
もっとも、彼が思いついたことを思いついたままに口にするだけの人間なのはわかっている。このときのやり取りも解釈すれば次のようになる。自分の気の短さや攻撃性の強さという欠陥を自覚していること、私に対してハラが立つこともあるということ、ハラが立つことがあっても穏便に社交を出来るように努めて善良に振舞っていること。そういう誰でもしている心の動きについて、思いつくままに断片的に口に出した。そうしたら獰猛な響きの言葉になった。しかし彼は赤裸々に自分の欠点を晒し自分の心の動きを率直に口にしたので、そういう素朴な言葉は相手の心に届くはずだ、としか思わなかったのだろう。彼の言動についてそうは思ったところで、「俺は敢えてお前を殺さないようにいてやっている」とも聞こえる言葉を吐かれたのだから、もう彼と付き合う気は失せたのであった。それまでの日記には、それなりによい人間であると書いているが、ここにきて初めて付き合いたくないという忌避の心情が明記された。