入試・学習院大学法学部
1997年02月15日(土)


 夕食のとき、報道特集か何かで、知的障害者を雇っている企業での、暴力・性的暴行などの犯罪が取り上げられていた。知的障害者を雇う企業はほとんどなく、逃げたくても逃げられない。知的障害者ゆえ、被害を訴えてもすぐには信じてもらえない。こんな、予備校などというところにいる自分を、本当に幸せだと思いたくなった。
 TVを観る人々は、皆、言葉は少なく、ただ画面を見つめていた。こういうのを沈痛な空気というのだろうか。もう、喰っている人はほとんどいない。TVのために、そこにいるのだ。ときどき、鼻をすする音も聞こえる。堀部氏など口を開けていた。そこに帰ってきた高山氏、異様な雰囲気に周囲を見回す。
 犯罪人社長は17件中3件の罪を認めたが、婦女暴行を含む残りは否認。そして証拠不十分で不起訴。大宮地裁だった。五十嵐氏「検事になりたい」 田山氏「悪人でも弁護しなければならないなんて悪じゃねえかむ 俺はアメリカにおける弁護士のステレオタイプを述べる。山田氏と五十嵐氏とはここで陪審制度の話をする。
 寮監はいつも通り、PM06:30にTVを消す。皆、一斉に盆を下げて自分の部屋にもどった。西内氏は涙声になっていた。ここにいたのは、佐々木氏、江川氏、堀部氏、西内氏、根岸氏、井上氏、山田氏、俺、田山氏、五十嵐氏(だったと思う)。
 ひどい事件である。しかし別に俺は悲観的に人心をとらえているわけではないが、寮生たちのこの反応については、なかなか世の中捨てたもんじゃないぜ。全員強制的に報道特集を観るなんて寮ならではだ。ここで人となりの一片が窺えた。

 学習院、マニアックな出題だ。特に世史。やり込んでいたらわかるのだろうけど、やはり、学習院専用の勉強が要るな。まあ落ちようと受かろうとどうでもいいが。
 校舎に入る時間はAM09:00。それまで待つのだが、事務職員のおじさんが、ここは寒いからこっちに来い、と。カゼひいたら困る、とも。おお、いい対応だ。やっぱ、いい学校、なのか?彼がここの代表ではないが。

 試験の昼休み、並んで電話BOXへ。法政の合否を。けっこう緊張するな。落ちて落ち込むな。あの国語のヘボ解答、「残念ながら」に違いない。そう言い聞かせた。電話番号の最後のプッシュボタンを押すと、「補欠者です」と予想せぬ言葉。なんか、すっきりしない。補欠などアテにするな!でも、法Bは重なるところもないし、ヒマつぶしに受けて蹴る奴も多いだろう。法学部は特にそうだ、とのことだ。

 寮に帰ると、國學院の「入学手続書類」が!ち、番号を探すスリルがない。はじめて大学受かった。まあ、当然よ。簡単だったもの。書類を読んでいるとまた新しい生活がはじまる気がしてきた(当然はじまるだが)。

 岩淵氏、話しかけてはくれる。しかし、重い。笑いが少ない。2浪を決め込んでいるとも聞く。学習院難しいと言うと、一校ぐらい、と。実にその通りだし、嫌味の響きはまったくない。ただ、リアリスティックな言葉に聞こえる。でも、彼らしくないよ〜。
 法B補欠、B方式がどうあれ、明日のA方式で受かるから問題ない、と井上氏に。「晴天やん、強気だな」と笑いながら。当然さ!彼も受かっているから話しやすい。


この日のカネの動き

なし

財布残高 9,833円


解説
 学習院の入試の日である。また、はじめて大学に受かった日でもある。「補欠者」という予想外の言葉を聞いた日でもあり。しかし夕食時の報道番組とそれに対する寮生らの反応の印象がつよく、そこから書き始めている。取り上げられている事件は、発覚しにくく解決しにくく被害者は誰にも頼れず理解してももらえないという悲惨極まりないものなのだが、しかしこうした陰鬱な事件の特集を18〜19の若者たちが言葉少なく皆で凝視し、泣きかけ、義憤の言葉まで発することについては心強いものを覚えた。そしてもちろん寮監は、多くの人数が食事を終えても尚TVを観ている光景に一瞬とまどったが、時間通りにTVは消すのであった。

 雑談については、どうしても1年間辛抱して苦労して、それでもなお結果が出ないという人は、そのつもりがなくても陰鬱になってしまい、力をつけた自負があり手ごたえがあり結果も出始めている方としては言葉や態度を選ぶのに苦労したことだろう。受かっている人間同士なら気が楽というのはその通りである。

 学習院については、試験問題がマニアックだという評判通りだったようだ。


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