シャバへの憧憬

 「写るんです」ごと腕を突き出して、窓から撮る。寮の周囲の、なんてことない景色だ。距離は近いが、このシャバの空気は限りなく遠く思えた。
 寮に入ると、厳しく制限されている登校下校のごくわずかな時間と週に2時間の自由時間以外は、寮から一歩外に出ることさえも出来なかった。、

 寮の近所で飼われていた猫。毎朝、登校するときにこの猫を確認するのが日課だった。見つからない日があると、欲求不満と同時に心配になったりもしたものであった。
 決まり切った通学路で、こうした猫達と一瞬挨拶することが、大きな愉悦であった。

 都営三田線に貼られていたポスター。毎月違うものに変わった。一般人は目にもとめないポスターだが、寮生にとってはこうした些細な駅構内の景色の変化も楽しみであった。
 ちなみに、私と仲のよかった寮生は、駅員に頼み込んでこのポスターを貰い、自室に持ち帰っていたものであった。

 低い階の窓には鉄格子が。眼下の塀にも、有刺鉄線と上を向いた杭が設置されており、囚人ライフを演出してくれた。
 もともと83寮はどこかの会社の女子寮だったので、外部からの侵入を阻止する防犯用のものなのはわかっているが。

 廊下の窓から見た景色。寮の裏庭と、集合住宅が見える。通学路とは正反対の方向にあるので、この景色は遠くて遠かった。この窓から見える些細な建物や物体が気になったりもしたのであった。



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