last up date 2006.05.11


アメリカ型大統領制とイギリス型議院内閣制の比較(あめりかがただいとうりょうせいといぎりすがたぎいんないかくせいのひかく)
 米国の大統領制と英国の議院内閣制は、独立革命という歴史的な経緯から対称的な性質を持っている。特に行政と立法との区別、政治責任の在り方について大きな差違が見られる。


 まず、選挙民に対して政権が責任を取る方法の差違。英国型議院内閣制では、下院の解散と選挙によって内閣の指導者を選ぶ方法に限定されるが、米国型大統領制では議会と大統領とが明確に分かれてそれぞれが責任を負う。議会の解散はない。次に、英国では行政責任は内閣によって連帯的にとられるが、米国では大統領個人に集中する。大統領は閣僚の任免をも完全に掌握している。そして英国では解散が行われるため下院の選挙周期は不規則であり、政治的争点と民意を近づけやすい。しかし米国では議会の解散はなく、大統領・上下院選挙の周期は固定化されており、選挙直前以外は民意と政治的争点との距離が開きやすい。


 これらのことから言えるのは、英国の議院内閣制では政治的な責任追及が容易であるが、米国型大統領制では責任追及が難しいことである。つまり議院内閣制では内閣が下院を解散させられるが、憲法上立法と行政が分離している大統領制では相互に責任転嫁する状況が生まれやすい。大統領は事実上政策執行権を掌握しているが、議会は予算を掌握している。この為、大統領は議会が予算を承認しないことに、議会は大統領の執行部に責任を転嫁する事態に陥り、政治的責任の混乱が避けられないのである。


 そして政治的責任が不明確な中で、執行権を一手に掌握している大統領が強力な権力を行使するところにも、米国型大統領制の特徴がある。米国に於いては強力な圧力団体の支持を受けた二大政党からなる議会が、大統領権力に対するある程度の抑制機能を果たしている。しかし、政党制が形骸化しており、国家主導の開発の下で圧力団体が未発達なラテンアメリカの開発独裁国家では、米国型大統領制が軍事独裁制度と化してしまったことも事実である。この為、米国型大統領制はデモクラシーが発達・定着した先進国でなければ、独裁に陥る危険性があると言える。


参考文献
内田満・内山秀夫・河中二講・武者小路公秀編 「現代政治学の基礎知識」 有斐閣 1975年


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