last up date 2005.06.25
ファシズム
ファシズムとは、権力者が非民主的独裁によって民衆の自由を抑圧し、大衆は自ら進んで独裁を支持する運動力学のことである。このファシズムはいかなる条件に於いて発生し、何を指向するのか。そして支配者と被支配者とはどのような関係を持つのか。
ファシズムの発生条件を述べるに当たっては、まずファシズムが現代国家特有の問題であることを指摘する必要がある。現代国家は非常に大規模・複雑な組織を持ち、指導者には強力な権限が集中する。そして巨大な組織は合理化を進めなければ運営できず、合理化の結果、人間疎外が起きてしまう。この為大衆は人間性喪失に不安を覚え、人間性回復の為の体制改革を成し遂げる強力なリーダーを求めるようになるのである。こうした傾向にある条件が加わると、ファシズムへと発展する。
その条件とは、社会的経済的な問題にある。戦争や恐慌によって社会不安が高まると、大衆は体制に不満を持ち革命の機運が高まる。そして、こうした革命的闘争に対して起きる既存特権階級の反動こそがファシズムの原動力である。この反動と社会変革を望む大衆心理という相反する力学が結びついてファシズムが発生する。例えば戦間期のドイツは恐慌による打撃が大きく、失業労働者は有効な対策を打てない体制に不満を持っていた。こうした革命的労働者に対して資本家は反革命的政党と手を組んだ。これがナチスである。ナチスは反革命的政党であった。しかし扇動と表層的な見せかけの政策によって、労働者や中間層から支持を受けるようになったのである。
こうして大衆の支持を得たファシズム政党は、どのような行動をとるのか。
まず、ファシズムは前述の通り反動に根ざした運動なので、革命を予防しなければならない。その為に、思想表現の自由・結社の自由が制限される。
そしてファシズム政党は一党独裁体制をとる。これには支持層以外の国民にも忠誠を余儀なくさせる効果がある。つまり、ファシズム政党に対する挑戦は祖国への挑戦であるとして問題をすり替える宣伝活動を繰り広げられ、密告が奨励され、非国民として非難される恐怖や自分だけ祖国の運命共同体から取り残されることへの恐怖から、非支持者もファシズム政党を支持せざるを得なくなるのである。
また、ファシズム政党は大衆の不安を操作し、排外主義や対外戦争へと向かう。つまり、国内に異端を作りだして迫害させることや外国を悪として憎ませることを推進力にして、ファシズム政党は求心力を生み出すと言える。この結果、ナチスドイツはユダヤ人の迫害や侵略戦争を繰り広げることとなった。
このファシズム国家に於いて注目すべきことは、ファシズム政権の非民主的独裁が大衆の認証を得ている点である。両者の心理には、サディズムとマゾヒズムが見出せる。つまり権力者は大衆を強権的に支配することを好む傾向を持ち、大衆は圧倒的な強者によって支配され自己と権力者を同一視することに悦びを感じる傾向を持っていた。だからこそ、支配と服従の相互関係が成り立っていたのである。E.フロムはこれを「自由からの逃走」と呼んだ。
以上が、ファシズムの発生理由とその目的、そして構造である。