last up date 2006.05.11
パワーエリート論(ぱわーえりーとろん)
パワーエリートとはアメリカの地域コミュニティの政策決定に対し、独占的な影響力を行使できるとされる権力層である。ミルズによれば、そうしたパワーエリートとは政府機関幹部、政治指導者、大企業幹部、軍幹部など政治・経済・軍事の各分野に於けるヒエラルキーのトップであり、パワーエリート論は、これら権力層が権力構造を維持するという利益の一致から協力して、原子化された大衆を操作しているとする理論である。
独占的な権力層が大衆社会を支配している図式はマルクス主義と混同されやすいが、両者は明確に異なる。何故ならばパワーエリートは必ずしも階級とは関係が無く、制度的に権限あるポストに就いている人々であるからだ。マルクス主義は経済関係に於ける搾取者が上部構造たる政治をも支配するとする思想である。しかしパワーエリート論は少数の政治的支配層が政策決定を支配していると見る点ではマルクス主義と共通しているが、経済的一元関係から脱して権力エリート層を摘出した点で評価される。
一方、パワーエリート論に反対する立場として多元主義が挙げられる。多元主義とは、社会の多様な利害を巡って利益集団同士が競争することによって、特定利益の政治へのインプットの固定化を防ぐとする理論である。代表的論者としてはベントレー、ダールが挙げられる。これら多元論者はパワーエリート論に対して、相対的に影響力を持つエリート層自体は存在するとしても、異なる分野のエリート同士が連絡し合い、ひとつの層として協力して権力を独占することはないと主張した。
しかしパワーエリート論も多元主義論もアプローチ方法が異なるので、比較は難しい。そしてパワーエリート論は現在に於いても、アメリカの権力構造の理解に対して、ある程度の影響力を持ち続けている。
参考文献
「政治学事典」 弘文堂 2004年