last up date 2005.06.25


批判的国際関係論(ひはんてきこくさいかんけいろん)
 批判的国際関係論とは、経済的局面を主軸に据えつつ、米国製国際関係学が捨象していた理念や市民社会の役割に焦点を当てて国際関係を分析する理論である。この理論の立場をネオグラムシアンと呼ぶ。


 批判的国際関係論の骨格は次の7つからなる。

(1)生産関係の矛盾が社会発展を作ると捉える。リアリズムは生産関係に基づく紛争を単なる権力交代の動きと見なしていたが、批判的国際関係論では紛争を、社会関係を規定する構造そのものを変革させ得る現象と見なす。

(2)国際社会に階層性を見出す。ネオネオ総合の視点では大国間の抗争と協調という水平的な関係を軸に世界を捉えていたが、批判的国際関係論では大国が小国を支配し従属させるタテの関係に注視している。

(3)国家と市民社会の相克関係に焦点を当てる。構造的マルクス主義や構造的リアリズムでは国家を特定階層の利益機関と見なすが、批判的国際関係論では国家を、国家と市民社会とが相克する複合体として捉えて、その相克に新秩序形成の潜在性を求める。

(4)生産過程が国家を規定すると捉える。ネオネオ総合では生産関係を捨象して経済力を政治過程論へと収斂させてしまうが、批判的国際関係論では生産力と生産関係が国家の形態と、国家が作る世界秩序をも規定すると見なす。

(5)理念の力を重視する。構造的マルクス主義もリアリズムも、理念と国内・世界秩序との相互作用について理論化する発想を持たなかったが、批判的国際関係論は理念が物理的諸力と結びついて制度を作り、制度が秩序を安定化するが、それ故に制度は秩序を変動させる変革機能をも孕む矛盾を明らかにした。

(6)生産と国家の国際化がもたらす構造への注視。生産の国際化の進展は資本移動の在り方を証券投資から直接投資へと変化させ、多国籍企業は生産過程そのものの管理を志向するようになった。その結果、国家は国内経済ではなくグローバル経済に追従せざるを得なくなってきたことを批判的国際関係論は指摘する。

(7)超国家的階級社会という発想。グローバル経済の頂点には超国家的な管理階級があり、彼等は大量の非熟練労働者を安価に雇用する。そして非熟練労働者の供給地たる途上国は投資環境整備の為に上からのコーポラティズムでもって労働者の待遇を低く押さえ込んでしまい、貧困を拡大させてしまう。批判的国際関係論は、こうした世界的な階級問題に着目する。


 このように批判的国際関係論は主権国家のみに着目することなく、むしろ国境を超えた動きがどう主権国家間秩序を形成するかに着目し、そして国家の内側たる市民社会の動きにも焦点を合わせるところにその特徴がある。そして批判的国際関係論は、ネオネオ総合が見落としてきた貧困と格差の原因を分析し、リアリズムがアナキーな国際社会に秩序を確立するとしたレジームと制度こそが貧困と格差を固定化していると指摘する点で評価される。 


参考文献
進藤栄一 「現代国際関係学―歴史・思想・理論」 有斐閣 2001年


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