last up date 2006.05.11


ホッブズとロックの社会契約説の差違(ほっぶずとろっくのしゃかいけいやくせつのさい)
 社会契約説は、いっさいの政治的・社会的秩序を人為的なものと見なし、このような秩序のない自然状態から人々が契約によって社会を作るとする理論である。ホッブズとロックは両者とも自然状態からの社会形成過程を論じたが、出発点となる自然状態の認識が異なり、従って必要とされる契約も形成される社会も異なるものとして見た。ホッブズは自然状態を不安定状態と見たのに対して、ロックは安定状態と見たのである。


 ホッブズは、人間を欲求のみを唯一の価値として、生存と利益の為に際限なく争うものとして、利己的な人間同士が争い合う「万人の万人に対する闘争」こそが自然状態であるとした。その中で自然法は、人間が互いの生存と利益を侵害し合う問題を解決する為に生まれた。しかし自然法だけでは平和を守るには不十分であり、自然法を侵した人間を罰する為に公権力が必要である。その為に人々は集団化して、自然権を相互放棄する契約を結んで主権を設立し、それに服従する社会を生みだした。これがホッブズの社会像であり、自然の克服の為に社会が生まれるとした。


 一方ロックは、神が与えた条件に基づく自然状態こそが自由で平等な状態とした。そして自然法は他人の自然状態を侵さない為の理性的なものであり、空想と情念が欲望をもたらし、自然状態を損なうのである。それに対して自然法執行権放棄の相互契約により共同社会が生まれ、その共同社会から権力信託によって政府が設立される。この政府は、他者に対する尊重と理性に基づく社会を形成する為に設立されたものである。これがロックの社会像であり、安定した自然状態の権利を守る為に社会が生まれるとした。


 つまりホッブズは罰によって人間の欲を抑える安全保障装置として国家を見ており、強大な絶対主義を正当化した。そしてロックは人間の自然権を守る為の契約と信託の二段階によって国家が成り立つとして、立憲君主制・議会民主主義を正当化したのである。 


参考文献
「新訂版現代政治学事典」 ブレーン出版 1998年
「政治学事典」 弘文堂 2004年


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