last up date 2003.02.06
警察軍(けいさつぐん)
国内に於ける治安維持を主任務とする準軍事組織。憲兵や文民警察とは任務や組織形態が大きく異なる。
まず、憲兵とは取り締まり対象が異なる。憲兵は軍事組織内部の規律維持と軍事施設警備を主任務とするが、警察軍は極言すれば国民から政府を守るための暴力装置である。つまり、憲兵は自軍内部の兵士を取り締まり対象とし、原則として平時は民間人を取り締まり対象としない。一方で警察軍は民間人の反体制運動や蜂起を鎮圧することを任務とする。
一方、文民警察との差違は、武装の強力さではなく、軍としての組織編成と指揮系統を持つことにある。つまり、文民警察官が究極的には個人の判断で権力を執行するのに対し、警察軍はあくまで部隊単位で投入され、警察軍兵士は機械的に任務を遂行する。そのため、有事には軍に編入されることもある。
では、どんな場合に警察軍が投入されるか。近代以降の国家に於ける国内の治安維持活動は、一般に、国家ないし地方の行政府・司法府に所属する文民警察が行う。しかしこの文民警察が対処できない事態、例えば反政府ゲリラの攻撃や大衆暴動に際しては、アサルトライフルや装甲車で武装した警察軍が投入される。
こうした警察軍の投入が必要になる無秩序状態は、国家が支配の正統性を確立しておらず、社会の統合が不十分な場合に多く発生する。つまり、抑圧的な独裁国家ほど警察軍という強権によって国内を統治する必要があると言える。
また、対外戦争や国内紛争に際しては、戦争遂行のためになお一層国民を監視統制し、さらには予備戦力として軍事作戦に投入するため、警察軍は増強される。しかし実際には、警察軍が前線に投入されるようなことはほとんどない。現役戦力を補うためには予備役が招集され、警察軍はあくまで治安活動を行う。なぜならば警察軍が必要な国家は、警察軍なしには戦争継続もそれどころか政権維持も危うくなるからだ。
前線に投入されることがまずないために警察軍の軍事能力は低く、一方で暴動弾圧や反政府組織掃討などはそう頻発するわけではない。基本的にはヒマな組織である。そのため、警察軍は警察権力を濫用するようになり、秩序維持のための暴力装置が逆に社会秩序を乱し、政権の不安定化を促進することにもなりかねない。
さらには、政権が民主化を志向しはじめた場合や革命が起きた場合には、存在意義の消滅と報復を恐れる警察軍は抵抗を示す。そのため警察軍を鎮圧するために、政府が軍や武装警察部隊を動員するという逆説的な事態も発生している。
極端な独裁国家に限らず、アメリカ・カナダ・日本以外のほとんどの国は、この種の部隊を大なり小なり保有している。西欧各国では2000〜3000人程度の小規模なものに留まるが、強権でもって統治を図る国ほどその規模は大きい。特にロシアは14万(2001年現在)の内務省軍を保有し、ソ連時代にはその数は26万(1988年当時)にも達していた。
参考文献
小林和男 「ロシアのしくみ」 中経出版 2001年
ジェイムズ・F・ダニガン著 岡芳輝訳 「新・戦争のテクノロジー」 河出書房新社 1992年