last up date 2006.05.11
ミヘルスの寡頭制の鉄則(みへるすのかとうせいのてっそく)
寡頭制の鉄則(Iron law of oligarchy)とは、組織が巨大化すればするほど、組織運営の為に行政機構が必要となり、その支配権を少数者が掌握するようになるとする理論である。例え民主主義を掲げる政党であっても組織内の少数者が全体を支配することを免れず、いかなる組織も肥大化の結果必ず寡頭制に陥るとの意味で「鉄則」と名付けられている。
ミヘルスは組織が寡頭制に陥る理由を3つの視点から説明している。
第1に、組織それ自体の心理である。これは組織が大きくなればなるほど、分業を促進し、意思決定する権力を一極に集中させようとする、効率性と機動性を求める組織の心理である。分業と意思決定の集中は国家の行政機構だけではなく、あらゆる組織に存在する性質である。
第2に、権力志向者の心理。組織運営の効率化のために構成員の役割は徹底的に分業され、分業は代替可能な部分的人間としてしか働く者を必要としない。人間を機械部品同然に扱う分業に於いて、人間は疎外を覚える。これに対して専門知識、演説の能力、知名度などを備えた人間は、権力を掌握して自己実現を図ろうとする。その為、組織にはリーダーシップを発揮して分業する他者を支配することを求める人間が現れる。
そして第3に大衆の心理がある。組織に於ける細分化された分業による疎外に対して、権力に向かう能力や意思のない大多数の構成員は、権力者に指導されることを希望する。つまりリーダーシップある偉大な指導者や組織の為に我が身を捧げる殉教者に、自己を一体化させてその支配を受けることを望む傾向がある。これは後にフロムが「自由からの逃走」と呼ぶ心理である。
このように、組織の効率的運営と指導者・大衆それぞれの心理によって、いかなる組織も少数者に権力が集中する寡頭制に陥る。寡頭制的な組織は意思決定が迅速で、統率の取れた組織行動を行える利点がある。しかし一方で、支配する少数者が恣意的に自己の利害を組織に反映させる問題がある。特に民主主義政党に於いて、政党内部で非民主的な恣意的独裁が展開されているという逆説は、デモクラシーによる多様な社会利害の政治への反映を阻害する可能性もあり、如何に組織の効率を低下させずに民主的な意思決定を実現するかが、民主的価値を掲げる組織にとっての課題となる。
参考文献
「政治学事典」 弘文堂 2004年