last up date 2005.06.25


ネオリアリズム
 対立し合う人間が身を守るために国家を作り、その国家同士も人間同様に闘争を繰り返して、勢力均衡のみが平和をもたらすとした古典的リアリズムには多くの批判が寄せられた。こうした批判への反論として生まれたネオリアリズム理論は、やはり力の均衡を重視する国際関係観を提供した。


 このネオリアリズムを発生させたのは、いかなる批判だったか。それは、次の3つからなる。(1)リアリズムの国家中心仮定への批判。つまり、現代に於いては多国籍企業や国際機構などの非国家主体が躍進しており、国家を中心として国際関係を捉えるのはすでに時代遅れであるとする批判である。(2)リアリズムの安全保障中心仮定への批判。つまり、政策決定者は国家の相互依存的な経済利益を追求する傾向にあり、国家同士が対立する中で生存をかけて国家安全保障に邁進するという発想は、現実にそぐわないとする批判である。(3)そしてリアリズムの科学性欠如に対する批判。つまりリアリズムはホッブズが述べる「互いに闘争するもの」のごとき曖昧な人間観に依拠しており、科学的な分析手法に欠けるとする批判である。こうした批判に対してリアリストは、やはり国家と安全保障を中心に据えつつ科学的手法を導入し、ネオリアリズム理論を展開した。


 ネオリアリズム発生の時代背景としては、デタント崩壊という1980年代の時代性があった。米ソ関係が険悪化し、ソ連の核兵器大量保有の脅威にさらされた米国に於いて、リアリスト達は国家の目的は未だに自己の生存に尽き、安全保障が大きな意味を持ち続けていると再確認し、国際機構や多国籍企業も所詮は国家によって支えられているとして、批判(1)と(2)への反論を果たした。


 そしてリアリスト達は科学的手法を採り入れた理論を展開する。その科学的手法は2つある。国際システム論とミクロ経済原理だ。
 前者は、ホッブズ的な人間観から始まった古典的リアリズムとは異なり、人間から国際関係を導き出すのではなく、国際システムそのものがアナキーなものであり、その中では国家は利益と安全を極大化させる傾向を持つとするものである。
 そして後者はアナキーな国際システムの中で、いかに秩序が確立されるかを説明する。それは企業活動になぞらえられる。企業は無秩序に利益を追求していくが、競争の中で寡占的秩序を確立していく。これと同じように国家も安全保障を極大化させていくが、力の均衡化原理が働いて秩序が形成され、この均衡が崩れても再び戦争や同盟によって均衡に向かうのである。


 このようにネオリアリズム理論は、批判への反批判として出発し、国際システム論やミクロ経済原理といった科学的手法を採り入れて現代的な国際関係論として脱皮し、新たな体系を形作ったのである。 


参考文献
進藤栄一 「現代国際関係学―歴史・思想・理論」 有斐閣 2001年


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