last up date 2005.06.25


ネオリベラル制度主義(ねおりべらるせいどしゅぎ)
 ネオリベラル制度主義とは、アナキーな国際社会に国際的諸制度を確立することによって秩序を維持しようとする発想である。そして目指す秩序は、機能主義的な相互依存と民主主義が平和を作るとするリベラリズムによって形作られている。だがネオリベラル制度主義が平和をもたらすとする相互依存と民主主義平和論こそが、格差と戦争を招いている面がある。それは何故か。


 まずは相互依存が諸国家間の経済格差を拡大していることについて述べる。ここに於いて注目すべきは、超国家的な専門家ネットワークである知識共同体である。知識共同体は各争点にレジームを形成し、政策決定者の行動と政策に枠組みを与えている。こうした活動によって相互依存を規定する諸制度が形作られているが、知識共同体や諸制度は先進国によって形成・管理されている点に問題がある。つまり相互依存は先進国の利益を維持する機能を果たし、途上国にとっては非工業化状態や国際収支の赤字が固定化される仕組みとなってしまうのだ。途上国はそれに対抗するレジームを確立する物理的手段も人的経済的資源もない為、格差は拡大する一方である。この経済格差が社会秩序を不安定化させる。


 そして、ネオリベラル制度主義が戦争を引き起こす、より直接的な原因として、民主主義平和論が挙げられる。民主主義平和論とは、民主主義国同士は戦争しないとするリベラリズム的な平和思想である。これに従って途上国や旧社会主義国の民主化を図ることが国家の解体と混乱と内戦を生んでいる。何故ならば民主主義体制は平和を志向するかもしれないが、スペンサーとマンスフィールドが指摘するように、民主化過程の途上にある半民主主義体制は戦争指向性を持つからだ。これは体制転換に伴う不安定性と言い換えることも出来る。体制転換期の国家に外部から民主化の促進を行うと、それまで強権によって抑え込まれていた諸勢力の暴発を招き、社会の分裂と不安定性を強める結果になる。
 そして民主化が市場経済化と同時進行した場合は、ナショナリズムが噴出して戦争を作り出してしまうこともある。つまり、伝統的国内的な市場が世界市場に取り込まれると、権益を手にする新興実業家層と富の不平等化に不満を持つ民衆の双方が、それぞれナショナリズムを噴出させる。新興実業家層は体制転換を押し進めて利益を確保する為にナショナリズムを利用し、体制転換を望まない保守的指導層は民衆の不満を利用するためにナショナリズムで扇動を行うのである。こうして高揚したナショナリズムは外部ヘ膨張や国内マイノリティの迫害を生みだし、戦争を起こす。


 そして国際的諸制度にも目を向ける必要がある。アナキーな国際関係に諸制度で秩序を作り出す動きは、軍事面に於いても当てはまる。これも戦争の要因である。経済社会的制度は国家間の相互依存を進めるが、軍事戦略的諸制度はむしろ国家間の緊張を高めるのである。何故ならば、その制度の根幹を為す軍官僚や軍産複合体は、自らの存在意義を武力によって問題解決を図ることに見出すからだ。その為、内乱の停止や専制国家の民主化を推し進める為に、軍事的解決を試みる傾向が強まるのである。


 こうした理由によってネオリベラル制度主義は格差拡大と戦争を引き起こす。この理論が覇権国米国の政策に与えた影響は大きく、世界情勢に比較的わかりやすい影響を及ぼした理論とも言える。その点では、非常に批判されることが多い理論である。 


参考文献
進藤栄一 「現代国際関係学―歴史・思想・理論」 有斐閣 2001年


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