last up date 2006.05.11
稟議制度(りんぎせいど)
稟議とは、日本の行政機関に於ける伝統的な意思決定制度である。末端職員が稟議書を作成して、順次組織内の下位者から上位者へと送られ、最終的には決裁権者が決裁をして組織の意思決定とするコンセンサスを重視した制度である。
この制度の利点としては、意思決定に際して組織の関係部署の多くが参加できること、その際に調整が可能なこと、問題の周知が図れることが挙げられる。しかしその一方で、稟議制度は欠点を多く指摘される。具体的には、多くの部署を経由し調整するため意思決定に時間が掛かること。上層部へ稟議書が集中して、上位者はその内容をほとんど吟味しなくなり、一方で下位者は上位者に決定を委ねることによって、責任の所在が不明確となること。ボトムアップによる意思決定の為、上位者のリーダーシップが発揮しにくくなることが挙げられる。
1960年代からこうした問題点に対しては、トップダウンへの切替が主張されてきた。しかし今日に於いても、行政機関に於いて稟議制度は存続している。これに対する説明として、行政管理研究センターは次の3つの点を挙げている。1つは、行政の事案決定方法は実際には多様であり、稟議制度は定型的・事務的事案に対してのみ行われている点。2つ目は、政策的判断を要する事項に関しては稟議書の作成に先立って会議を重ねる意思決定過程が存在すること。3つ目は、稟議書の回覧に際しては事務の遅滞を防ぐ為の、実務上の便宜が図られている点。これらの点を鑑みれば、稟議制度は必ずしも意思決定過程の全てを占めて決定を遅滞させている訳ではないと指摘できる。
しかし日本の行政機関に於いて、稟議制度が意思決定の原則的位置を占めていることも事実である。そしてこの中で、稟議書を処理する能力に特化した事務のベテランが生まれ、内容を検討する必要に乏しい保守的な提案以外を意思決定過程に取り上げることを避ける風潮が出来たことも、否定できない。社会・経済関係が高速化・全世界化している現代に於いては意思決定の高速化と徹底化が必要であり、その為には責任が明確化され、上位者がリーダーシップを発揮しやすい意思決定過程の整備が求められる。
参考文献
「新訂版現代政治学事典」 ブレーン出版 1998年
内田満・内山秀夫・河中二講・武者小路公秀編 「現代政治学の基礎知識」 有斐閣 1975年