last up date 2006.05.11


政治過程論(せいじかていろん)
 政治過程とは、社会に於ける諸アクターの利害対立とその調整、政党によって調整された利害の政策へのインプット、行政機構による政策のアウトプット、政策執行に伴うフィードバックの過程を指す。政治過程を研究する政治過程論は、個人、圧力団体、政党、世論といった諸アクターの動態を分析する理論である。


 政治過程論は20世紀初めにベントレーによって始められた。この時代の背景としては都市化による大衆社会の到来が挙げられる。つまり、工業化の進展が都市への人口の移動を引き起こして、農村の伝統的なゲマインシャフトが破壊され、都市に孤立した個々人が暮らすようになった。大衆社会に於いては孤立した個々人が利害を政治に反映させることは難しく、デモクラシーの制度が整備されているのにもかかわらず、政策と市民の求める価値との間にギャップが生じていた。この問題に対しては、哲学的法的な側面の強い静態的な伝統政治学では分析できないとベントレーは批判し、ギャップの分析には労働組合、業界団体といった経済的利害による集団のせめぎ合いという動態を見る必要があると主張した。つまり圧力団体の対立とその調整を見る視座を、政治学にもたらしたのである。


 ベントレーの政治過程論はトルーマンに継承され、彼は圧力団体をより広い概念である利益集団に拡張した。トルーマンの言う利益とは共有される態度のことであり、利益集団とは共有される態度に基づいてある程度相互作用を行う人々のことである。そして利益集団は、共有する態度が示す行動パターンの維持・強化の為に政治化する。この利益集団概念によって経済的利益だけではなく、文化的精神的価値を追求する宗教団体や民族集団の政治化も説明可能となった。
 トルーマンによって政治過程論は政治分析の手法として定着し、マスデモクラシーの中で政治に利害を反映させられるアクターの動態に注視することによって、市民と政策とのギャップを検証できるようになった。しかし圧力団体・利益集団という強力なアクターのみを見る政治過程論は現状追認的であり、市民と政策とのギャップへの解決策を提示するものではないとの批判がある。


参考文献
「新訂版現代政治学事典」 ブレーン出版 1998年
「政治学事典」 弘文堂 2004年
阿部斉 「概説現代政治の理論」 東京大学出版会 1991年


戻る