last up date 2006.05.11
夜警国家・立法国家(やけいこっか・りっぽうこっか)
夜警国家とは国家の主な役割を国防と基本法の維持と見なすコトバであり、立法国家とは国家の役割を社会秩序形成の為の最低限の立法と見なすコトバである。両者はほぼ同一のものであり、共通する特徴として法の執行、つまり行政を最小限しか行わない小さな政府である点にある。
19世紀の近代国家が国防と立法に特化していた理由は2つある。1つ目は、当時の市民は財産と教養を持つごく一部の層に限定されており、制限選挙の下で市民社会が極めて限定されていた点。そして2つ目は、市場原理が資源の最適配分を行い、物価と賃金は自動的に適正化されるので、国家が介入する必要はないとされていた点にある。つまり国家は、幅広く国民の利益を政治に反映させる必要がなく、また、自由放任主義思想に於いては貧困や失業は個人の問題として見なされていた為、国家は社会問題を解決する行政機構を必要としていなかったのである。
しかし20世紀に入ると夜警国家・立法国家は、福祉国家・行政国家へと移行した。つまり、大きな政府が求められるようになった。その背景としては工業化が都市化を促し、都市の大衆が政治勢力として台頭して普通選挙が実施されたこと。失業や貧困が個人の問題ではなく社会の問題と見なされ、国家に解決が求められたこと。そして市場原理が資源の最適配分に失敗し、恐慌が発生するようになったことが挙げられる。この為、国家は幅広い社会問題への対処と市場への介入が求められるようになり、特に労働力と購買力を保つ為に福祉の充実が必要とされ、急速に行政機構を肥大化させていったのである。
このことから夜警国家・立法国家は、工業化・都市化がさほど進展しておらず、大多数の人々が古くからの村落共同体や宗教共同体の中にいて政治的アクターとなっていない時代の、限定的市民社会の産物と言える。つまり、政治参加できる人間が限定されているという意味に於いて、封建制が残存していたからこそ、19世紀の国家は少数者の利益を守ることのみが求められていたと論ずることが出来る。
参考文献
阿部斉 「概説現代政治の理論」 東京大学出版会 1991年
内田満・内山秀夫・河中二講・武者小路公秀編 「現代政治学の基礎知識」 有斐閣 1975年