排水パイプ
2004年04月24日(土)


 私のアパートは築25年以上経っている、安普請のボロ屋だ。よく「最近の若い者は贅沢だ」「俺たちの時代にはワンルームマンションとか考えられなかった」とか30代40代の人に嫌みを言われることがあるが、多分彼らは、私がもう少しマシなアパート、あるいはすばらしく現代的なマンションに住んでいると思っていることであろう。彼らが20代の頃の住宅よりはマシかもしれないが、それでも「今の若い者は贅沢だ」と吐き捨てられるほどの部屋だろうか。
 ちなみにこの地域には、いくら安い部屋に住もうと思ったところで、風呂・便所なしは存在せず、非水洗も存在しない。もしそうした設備が問題だとしたら、それは個人の懐の差ではなく、都市インフラの差だ。


 私の部屋はこんな感じだ。
 窓は完全に閉まらないので、荷造りテープで目張りしている。
 ドアの換気口はネジ山が無くなっており、風が吹いただけで換気パネルがはずれて、ドアの20x30cmぐらいの切れ込みが剥き出しになる。これは両面テープで貼り付けて対処した。今のところ新聞屋に蹴られても外れてはいない。
 床はヤニで真っ黄色で、靴下で歩くと数歩でダメになる。執拗に洗剤でふき掃除を繰り返したが解決せず。結局絨毯で対応。
 畳は粉を吹いており、座ると真っ白に。執拗に畳洗剤を使って拭いたが、解決せず。結局ゴザで対応。
 ブレーカーはなぜか変形しており、ビニールテープで留めないとカバーが降ってくる。
 風呂・便所は後からユニットバスをはめ込んだ代物だが、入居した段階で真っ赤にカビていた。
 ユニットバス(独立した防水設備を持つ風呂設備)なのに、窓を作ったために防水性が破壊され、窓の当たりの木材が腐敗している。
 風呂・便所のドアは、一度締めると中から開かない。これは勝手に金具をノコギリで切断して対応。
 便所を流すと、排水口がうまく閉まらず3回に1回は水が止まらなくなる。
 が、それでもまあ大した問題ではない。




 しかし今日、ちょっとした問題が発生した。うちの流しは狭い。マナ板を置くスペースさえなく、水切りトレイを置くこともできないので、流しにあまり洗い物を溜め込んでおけない。そのため、炊飯器の米を食いきったら、すぐに洗う。メシを食っても、朝以外は食ってすぐに食器を洗う。今日もまた、炊飯釜か食器を洗っていた。そして食器類を洗い終えて蛇口を閉じて、布巾で水を拭き取っていたら。流しの下から、今までしたことのない音が響いてきた。流れ落ちる水が、板を叩く音だ。まさか・・・と思って、私は流しの下を開けた。




 これは事後の写真であるが、ここには生活の基本たる米を貯蔵し、食器置き場にも使っている。機能性に乏しいこの台所で、他に食器や米の類をしまう場所はない。だが、私が洗い物を終えてここの戸を開けると、中は汚水で水浸しになっていた。プラスティックの米びつには水滴がかかり、皿や茶碗、コップにはことごとく汚水が溜まっていた。なんてこった。排水パイプが外れて流しの水が下水に行かず、すべてこの食器や米びつに降り注いでいるではないか。
 外れたパイプははめればいい。だが、ただ外れただけではなかった。パイプは切れていた。しかも引っ張っても、上の切れ口と下の切れ口とが繋がらない。どうなっているんだ!大家に言ってもいいが、今日明日にどうかしてくれるとは思えない。自分で修理するしかない。管理会社さえ間に入っていないこのボロ屋では、水が通りさえすれば、法外な原状回復費をふっかけられることもないだろう(ふっかけられたとしても、これは借家人の原状回復義務には該当しないのだが、管理会社は「とりあえず」ふっかけるものだ)。
 結局私は、出来る限り排水パイプを引っ張って、荷造り用の布テープを何重にも巻き付けた。一部、パイプではなくテープの上を流れる部分があるが、水気のせいで粘着力が弱まって徐々に剥がれてこないか、水がまた漏れ出さないか・・・それは心配ではある。


 上の写真はもちろん、事の後に撮影したものだ。ここにあった皿は、一人暮らしと言えどもここまで少なくない。私は数度に分けて、食器洗いとそのふき取りを繰り返した。食器はすべて一気に流しに放り込んでしまったら、収拾がつかなくなる。で、米だが・・・プラスティックの容器はもちろん水を通さない。が、それでも汚水をひっかぶった米びつというのは、いい気持ちはしない。が、これは今日買ってきたばかりの生協ブレンド米(無洗米、約2200円)だ。昨日は、米が2合に満たなくて、麦を足して炊いたものだ。この貴重な米を捨てるわけにはいかない。というわけで、米びつはきれいに拭いただけでよしとした。まあ問題なかろう。いくら排水ネットを1ヶ月は交換しておらず、その中で野菜カスや米つぶが腐敗していたと言えども!

 


 さすがに今日は驚いたが、大した問題ではない。この家は通気性がよく周辺環境も良好で、それなりに落ち着ける快適な家だ。こういう出来事を聞く度に親は「引っ越せ」と言うが、現実問題としてそれは金銭的・時間的に不可能であるばかりか、必要性をも感じない。関東には多分あと2年いるが、もしこのまま関東に居続けることになっても、通勤等の条件が特別不利にならない限りは引っ越したいとも思わない。
 それどころか私は外国、特にロシア/旧ソ連諸国に行く可能性が少なからず存在するのだ。今はなんだかんた言っても、電気・ガス・上水道は安定供給され、パイプが切れない限りは下水道にも問題はない。快適に調理し、糞尿を衛生的に処理し、好きなときに好きなように風呂に入られる。冬凍えることも、夏脱水症状になることもない。ゴキブリやイモリやクモは出るが、サソリや毒グモ、フナムシ、南京虫の類も出てこない。蚤や虱に悩まされることもない。インターネットは10Mbpsの巡航速度を誇り、電話回線も安定している。なんて快適で安全な生活なんだ!
 私はほんの少しばかりロシア語ができなくもないので、行けなくもない場所は意外に広い。モスクワやサンクトペテルブルグも住宅事情や都市インフラは日本の比ではないが、シベリアや中央アジアの地方都市まで行くと、どんな恐るべきレベルとなるか・・・少なくとも、アメリカやドイツのような先進国の暮らしは望めまい。それを思うと、今の住宅環境は天国だ。
 さてはて、私はこれからま何十年という人生で、どんな部屋に住むのだろうか。それは非常に恐ろしくはあり、そして贅沢な、いい暮らしをしたいとは思う。だが、とりあえずは今のアパートにはもちろん不満はあるが、とりあえずの満足はしている。けど、排水パイプの切断はもうカンベンしてほしいッス。 


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