有明、VP70、少量の酒
2004年08月13日(金)


 今年もまた、夏の戦線へと馳せ参じることになった。今回も新宿駅にて大学時代の連中と連んで出発し、有明の空気を堪能してから早々に離脱し、そしてさらに人員と合流した後我が家で一杯、というプランである。が、大学時代の先輩Tem氏(仮名)に急な仕事が入り、「午後の部」つまり我が家での会合からの参加となった。Tem氏はこれを、「三十路になってまで魔界に行くなという啓示に違いない。これぞ天佑神助だ」と称していた。

 


 新宿には同期のF氏と後輩の美津濃氏(仮名)と3人で集まり、0800時に出発した。




 いつも立ち寄るJR新橋駅のコンビニ。
 例によって混み合っていたが、今回は初日なため、その筋の客の9割は女性であった。




 念を入れて、ゆりかもめ新橋駅構内の便所にて用を済ませる。が、便所前の壁にはもう二次元的ポスターが。今更驚きもせんが、改札をくぐった段階ですでに別世界だ。行きのゆりかもめの車内にも、様々なその筋の広告が下がっていた。どうも、その手の広告量が増えているような気がする。




 美津濃氏が、同じく大学時代の後輩П氏(仮名)と連絡をとり、国際展示場近辺で待ち合わせる。「北斗の拳」OPのごとく砂埃が舞う中、砂利の上で行進を止めてП氏を待つ。当初の連絡では彼は「帰省するので来ない」と聞いていたが、結局参加していたとは。




 国際展示場が開くまで待つのだが、今回は橋の上で突っ立つことになった。関東地方は連日の猛暑で、今日も35℃を超えていたはず。人口密度の高さ、コンクリートの熱反射、そして橋という若干高い場所。帽子とタオルを用意したことは正解だったが、すぐに汗だくになった。スタッフが車いすを押して走っている光景も1度ならず目にした。


 国際展示場に入ってからは、П氏は企業スペースへと消え、美津濃氏とははぐれ、私とF氏は二人で行動した。私はそんなに薄い本を買う人間ではないし、F氏はまったくそういう買い物をしない人間だ。ただ物見遊山で探索に来たようなものだ。だが、先日はTem氏の30歳の誕生日であった。これはもう、プレゼントを買うしかない。
 というわけ私は数年ぶりにコミケで買い物をし、F氏は初めて同人誌を購入したのであった。まあその本を買うのには少々苦労したが。店の売り子には、「大丈夫ですか?」と訪ねられたものであった。何がだ。私の頭が大丈夫かと聞いているのか。それとも、この本で本当に大丈夫かと聞いているのか。まあいいけれども。周囲にいるのがほとんどすべて女性で、買い物をしているのはほぼ完全に女性のこの空間では、居たたまれなかった。


 1300時には待ち合わせ広場にて合流。引き続き有明を駆けめぐるП氏を別れ、私とF氏、美津濃氏の3人は有明を後にした。今回は臨海線で新宿へ。行きは惰性で何も考えずにゆりかもめに乗ったが、この方が早いのは言うまでもない。



▲待ち合わせ広場にて。土地に溶け込んでいるダメ人間の図。


 さて、夕方前には私の最寄り駅にたどり着き、そこにて大学時代の先輩Tem氏と魔人氏(仮名)と合流した。Tem氏は仕事帰りということで、背広にネクタイ、書類カバンという出で立ちであった。もしこのままコミケに行っていれば、さぞかし目立っていたことであろう。
 早速駅前のスーパーにて総菜と酒を購入し、ビニール袋に氷をぶち込んで縛ったものを買い物袋に詰めて、我が家へと徒歩で向かう。人数が5人なのでタクシーという手はとらなかったが、0800時から集まってコミケに行って帰り、一度私のアパートに帰ってから駅に再びやってきた私には、ちとこの炎天下の行軍は堪えた。なにせ、祭りの前の興奮で昨夜はまったく眠れず、徹夜明け状態で心肺が衰えていた。
 ちなみに、アパートにたどり着いたときにはすでに、買い物袋の氷は半分溶けていた。もし氷を入れていなければ、生鮮食料はこの行軍で傷んでいたことであろう。




 Tem氏はうちに着くやいなや背広を脱いで作務衣に着替え、H&K VP70を取り出した。スーツはシワになるから着替えてハンガーに掛けるのは当然の行動だが、何故作務衣でVP70か?なんとも言えない取り合わせである。
 ちなみに今日Tem氏は、VP70を携帯して取引先を訪れたとのことである。近年、治安悪化や個人情報持ち出しに対応するため、企業防衛が急速に進んでいる。もしボディチェックや持ち物検査があったらどうしたことか・・・。さすがは我らが先輩Tem氏。やることが尖鋭的であらせられる。




 ベレッタM93Rや他のマシンピストルと違って、このVP70はストックがなければ3バースト出来ない珍品だ。珍品だからこそ駆け出しのガンマニアでも知っているし、「バイオハザード2」といったゲーム、「ガンスミスキャッツ」などの漫画にも登場する。が、実銃はM93Rとは比較対象にもならない欠陥銃で、「拳銃とSMGの双方を必要とする憲兵・治安機関」にはろくに相手をされず、すぐに生産中止になった。
 そもそも拳銃サイズで9mmx19をディレード・ブローバックで動作させるのには無理がありすぎ、H&Kはバレルを一回り大きく作って発射ガスを逃す邪道な設計を行った。実際のパワーは.380ACP程度しかないとも言われる。そんなパワーでは軍用としては使い物にならない。
 が、エアガンとしては「バイオハザード2」なんかで使われたことと、物珍しさとが相まって、そこそこ売れているようだ。「『バイオハザード』の銃はすべて揃える」と称しているからこそ、Tem氏も購入したのだ。


 そして、Tem氏が持参した怪しげなCD-RをTV出力機「Каеде-бис」で上映などした。これはTem氏のご友人がネットでかき集めた奇特な動画の詰め合わせであった。お返しというわけではないが、私も「国防挺身隊」と人づてに手に入れた「自主制作映画Дж」なんぞを上映。
 「Дж」はどこの誰とも知れぬ人々が撮った、手作りの自主制作映画。はっきり言って、我々が大学時代に撮った「魔人ハンター吾一」と大差ないレベルの代物だ。私はもらって以来、ほぼ毎日「Джакал」を鑑賞しているが、この映像を人前で上映して受けるかどうか・・・。
 最初は「Манифест Дж」「Коокинг Дж II」などといった支離滅裂な代物を上映したが、展開の速さと、意味不明さに観衆はついていけない様子。やはりこのメンバーならば、最初から問題作を上映するべきだった。「Друг Дж」と「癲狂院三部作」を上映したところ、やっと盛大な受けを獲得し、「Дж」が話の種に使われるに至った。やはり人を選ぶ作品だ。


 映像講習を終えて、いよいよ午後の部のメインたる会食に。
 それに際して、先月30歳を突破されたTem氏にプレゼントをお渡しする。




 美津濃氏からは、近所の青果屋で密かに購入してきたスイカが。本当はスイカにロウソクをたてて、バースデーケーキに見立てるつもりだったらしいが、火事を恐れた私が却下却下した。このボロアパートはマッチ一本で、瞬く間に全焼しかねない。




 そして私からは、有明で配布していた日射病予防の笠を。
 未使用。かさばるので折り畳んで持ち帰った。




 さらには私とF氏から一冊ずつ、ヤマもオチもイミもない類の薄い本を進呈。
 これを買うのは大変な作業であった。




 笠を装着して、作務衣にVP70を構えるTem氏。
 誰かが「ベトコンだ」と言ったが、VP70はどうかと。まあVP70は拳銃とSMGを別々に買うのにも躊躇するような貧乏国家の憲兵・警察軍向けというコンセプトだったので、「南ベトナムが購入してベトコンがそれを奪った」という妄想をすることも可能だが・・・やはり三文SFチックなVP70よりもAK-47の方が似合う。押入の奥底から引っ張り出すのが面倒なので、敢えて取り出しはしなかったが。




 ちなみに背後のテレビに乗っているのはカガリね。
 前の夏にTem氏が「宿代がわり」と称して置いていった代物である。




 早速スイカをぶった切って、分配分配。




 そしていよいよ酒である。まずは私がこの日のための用意していた外国ビールから、トリニダード・トバゴ産のカリブを取り出す。カリブの島国にビール産業があるとは思わなかったが、大して臭みもなく、なかなか素直な味だった。




 そして。国産の梅酒&ワインと称するものを。文字通り梅酒とワインを足したモノらしいが、どう味わっても、どう嗅いでも、かき氷に使うイチゴシロップのような気がする。もしうちに氷とかき氷機があれば、氷にかけて食っていたかも。アルコール度数も4%とかなりマイルド。まあ談笑しながら軽く飲む出だしとしては、こんなものか。




 そして次はラオスビール「ビア・ラオ」。ついでにつまみには安居酒屋御用達の魚肉ソーセージを。
 「ビア・ラオ」は日本語ラベルに旧漢字表記があり、いかにも安物っぽい漢字がして期待したのだか、これも特に臭みもなく、穏やかな味わいであった。暑い日に冷やして流し込むのに向いている。




 さて、次は「青島ビール」の黒である。「青島ビール」自体は日本でも街の酒屋に置いてあり、話の種に飲んだ人も少なくなかろう。しかしあまりいい評判は聞かない。鼻に突き抜ける臭みが気になる人が多いらしい。ただ、輸出専用のプレミアム版はその臭みを解消しており、普通に飲めた。さて、この黒ビールはどうか・・・。
 得も言えぬ臭み。口に含んでも、ノドを通して体内に流し込んだら死ぬのでは、という気にさせる。ここにいた5人全員が決して美味いとは言わなかった。「麦を炒って炭化させてから醸造したのだろう」「中共の連中が日本人を殺すために、殺鼠剤入りビールを輸出したのか」「黒ビールの製法がわからなくて、ただの青島ビールに墨を混ぜたに違いない」などと皆で言い合った。結局たかが330mlの一本を、5人いて空けることが出来なかった。




 口直しというわけではないが、冷や奴は今回一番カネをかけたつまみである。3パック100円のごとき安豆腐ではなく、1パックで300円近い。それに、わざわざ買った薬味を乗せて、高価な出汁醤油をかける。これは豆腐そのものも口当たりがよく、薬味と醤油が相まって、なかなか美味かった。




 Tem氏が突然思い立ってBGMに自分のMDプレーヤーの音楽をかける。格安で購入したKENWOOD OPM-A3にMDプレーヤーをつなぐ。そして流れたのは・・・「スペクトルマン、怪獣を殺せ!」「今だ、目をやれ!」「とんぼも鳥も皆殺し♪」。さらにはヤクを打たなければ出せないような奇声を挙げる「力石のテーマ」。Tem氏は毎日このMDを聞きながら通勤されているそうだ。大丈夫か、この人。まあ、毎日「MADLAX」の挿入歌をエンドレスで流している私の言うことではないが。


 そしてビールを飲み干した後は、桂花陳酒。中共産の香付き果実酒であり、私は大学時代にしばしば買って飲んだ。私は珍品のつもりで買ったわけではなかったのだが、皆、これにも拒絶反応を示した。Tem氏曰く、「ドクターペッパーが平気な人でないと、このフレーバーには堪えられない」とのこと。しかしドクターペッパーを常飲し、大学の学祭では売れれば売れるほど損をするドクターペッパー格安の店を開いたF氏でさえ、「これはダメだ。さっきの青島の方がまだ飲める」とのこと。やはりこのケミカルな匂いは人を選ぶようだ。私はなんてことなく飲めるのだが。
 そして桂華陳酒は私専用となり、他の人々は最後のタマとして用意したオーソドックスな焼酎と冷酒をやりはじめたものであった。


 さて、夜も更け、そろそろ我が家を出なければ終電に間に合わない時間になりつつあった。お互い数少ない夏休み。この資源を有効に使うために、皆、今日のうちに帰ることとした。



 帰る前にVP70のホルスターを披露しようと、Tem氏がストック兼用ホルスターにVP70本体を収納。作務衣の腰につるした。が、違和感がありすぎる。ポリマーを採用した前衛的な外見を買われて、SF映画「エイリアン2」にも出演したVP70。時代劇にもそのまま出演できそうな作務衣では・・・。もっとも、腕章を付けた陸自警務隊がSIG/SUAER P220を吊しているのにも、交通誘導員や駅員が銃を持っているかのような違和感を覚えた。日本人にとって銃が似合う服装はそうそうないのかもしれない。




 今度はスーツでVP70を吊してみる。まあ、さすがにそれほどの違和感はなくなったが・・・目立つ。背広の上着で決して隠せないし、無理にボタンを閉めたところで明らかに不自然だ。やはりVP70は憲兵や警官のような、制服を着て銃を公然と見せびらかす人間の銃なのだろう。


 かくしてTem氏、魔人氏、F氏、美津濃氏の4人は我が家を去り、美津濃氏は途中で終電を逃したとのこと。またどこに転がり込んだのかまでは聞いていないが。コミケの度に集まり、そしてうちで飲む。去年の夏から3回目だ。別にとりたててコミケに行きたいわけでもなく、実際問題として買い物さえほとんどしていない。物見遊山の探索であり、それを口実にした会合である。大学を出てからは、こうした無理矢理行事をでっち上げなければ、なかなか人と会う機会はつくれないものだ。冬にもまた、このコースをたどるのであろうか。有明に行くかどうかは別として、年に2回ぐらいは大学時代の連中と会って、四方山話でもしたいものである。




 今回の酒消費量。5人という人数に対してはかなり少ない気がする。
 が、皆酒に弱くなっていき、そしてその日のうちに電車で長い道程を帰ることを鑑みれば、こんなものかもしれない。


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