クワス作成
2004年11月01日(月)
先日奥野氏から頂いた自家製クワスを早速作ってみたい。
クワス(квас)とはロシアで伝統的な飲み物で、清涼飲料水とも発酵飲料ともつかない不思議な代物だ。私自身は作ったことはもちろん飲んだこともない。さてどんな味なのやら。
これが箱の裏面。「すぐに簡単に美味い」とか書いてあるが、結構面倒な手順のような気がする。本来は黒パンを湯に浸して溶かし、それを濾過してから醗酵させて作るらしいのだが、この自家製クワスは黒パンではなくペースト状のパックを使う。その点は簡単か。
(1)清潔な瓶に温かい湯冷まし(35-40℃)を1リットル注ぎ、クワス用麦芽汁1パックと砂糖150gを加え、攪拌してください。そして瓶に温かい湯冷ましを3リットルになるまで足してください。
※砂糖については適量に調整しましょう。
まず最初に困った点は、3リットルも入る瓶を用意することである。ロシアではピクルスを作るのに大きな瓶が出回っているらしいが、日本ではなかなか売っていない。100円ショップからデパートまで足を運んだが、私が探した範囲では大きくてもせいぜい2リットル瓶までだった。
結局用意したのはヤカン。3リットル入る。最初は鍋でもいいかと思ったが、後で小瓶に注ぐことを考えるとヤカンは最適だ。鍋だと派手にこぼして大惨事になる可能性が高い。漏斗を用意すればいいのかもしれないが、ヤカンがあるのだからヤカンでいいだろう。
1リットル沸かしてから2リットル足す手順だが、我が家ではこのヤカンとは別に2リットルものお湯を用意する方法はない。鍋を使えば話は別だが、やはり漏斗がないので無理だ。そして湯沸かし、つまり一度煮沸したお湯を冷ますような面倒なことはやってられない。ミネラルウォーターを使えば塩素で酵母が死に絶える心配もなかろう。ついでに我が家ではリットルなどという容積を量る計量装置など存在しない。
結局2リットルのペットボトル入りミネラルウォーターを2本用意した。1本目をまるまるヤカンに注ぎ、2本目を目見当で半分ぐらい注ぐ。こうしていきなりヤカンに3リットル水を注いで火に掛け、35-40℃にまで熱することにした。だが今度は「摂氏35〜40度」などという温度を測る器具もない。これはハシでヤカンのお湯を攪拌して温度を一定にしてから、少し湯飲みに注いで舌と指で「風呂よりややぬるいぐらいの温度」になったかどうか確かめた。カンなので当てにはならない。まあ酵母が死なない程度の温度ならばよかろう。
テキトーに35-40℃らしき温度になったと思われたら、今度は砂糖と麦芽汁だ。麦芽汁はもちろんクワスセットに入っているが、砂糖は付属していない。紅茶もコーヒーも無糖で飲む私の家に、砂糖なるものは存在しない。では買ってくるしかない。
で、適当に砂糖を開封してヤカンに注ぐ。ここは健康のためにも控えめに抑えた方がよさそう。
さすがは上質な日本製コーヒーシュガー。いつまでもコーヒーの中に浮いていると噂のソ連製コーヒーシュガーとは違って、すぐ溶ける。
今度はクワス用麦芽汁。
なかなか粘度の高い代物だ。比重も大きい。コールタールを注いでいるみたいだ。
麦芽汁はすぐに湯に溶けるわけもなく、ヤカンの底に沈殿した。
これを根気よくハシでかき混ぜ続けた。
最初に1リットルの湯に麦芽汁と砂糖を入れてかき混ぜ、それからお湯を足すと書かれていたが、それは1リットルの方が均等に溶かしやすいからだろう。だが、気合い入れて3リットルを混ぜるしか私には方法はない。
(2)酵母1パックを瓶に加えてください。
大粒の酵母をヤカンに加える。
酵母(дрожжи)などという単語はじめて見たが、今後使うことはまずないだろう。
(3)瓶を清潔な手ぬぐいかナプキンでフタをして、室温で1昼夜置いてください。
ヤカンだからフタをすれば埃は入らない。もちろん密閉されているわけではないので、酵母が息をすることもできるし、発生したガスで爆発することもない。もう寒い季節になってきたので、夏場部屋を飛び回っていた虫も姿を消している。ヤカンの先から虫が入り込む心配はあるまい。
で、1711時に準備完了。あとはいつまで放置すればいいのか。
それにしても、「室温」ってどれぐらいの温度を想定しているのだ。
翌0456時現在、室温は20.1℃だそうだ。ヤカンを置いていた台所は、もっと気温が低かったことであろうて。
こんなもんで、出来たのだろうか。
フタを開けると、コールタール色から茶色に変化し、酵母の活動によって泡立っていた。
(4)瓶にきつくフタをするか、小瓶にクワスを注いできつくキャップを締めて下さい。
そしてクワスを室温で2〜3時間置いてから、冷蔵庫に入れてください。
冷えたらクワスの出来あがりです。
前日の夕方に仕込んで朝まで置いたクワスを、1.5リットルほどペットボトルに注ぐ。
このペットボトルはミネラルウォーター用の流用。
ヤカンだと狭いペットボトルに注ぐのも楽でよい。
自然発酵なのに移し替えの際、結構泡が立った。
炭酸が意外に強いかも。炭酸飲料のペットでないと破裂するかも。
そして2時間ほど置いてから冷蔵庫に。
残る1.5リットルは、さらに夕方まで置いてみた。
室温が低いので、12時間では足りないのではないかと思って、こっちは24時間置いたが、違いはいかに。
左が冷蔵庫で12時間置いたペットボトル。右がたった今注いだペットボトル。
左の方は、案の定炭酸ガスで破裂しそうだ。
非炭酸飲料の瓶やペットボトルは、一度開封してから長時間放置していると唾液と空気中の雑菌が炭酸ガスを発生させて、強度のない非炭酸用の容器を破裂させることもある。クワスも、定期的に炭酸を抜かないと大惨事になりそうだ。やはりコーラ用のペットボトルでも用意するべきであったか。しかし私は水以外のペットボトル飲料を滅多に買わず、ましてコーラやサイダーを買うことなど絶無だ。まあガス抜きに気を付けていれば非炭酸用のものだも大丈夫だろう。多分。
出来上がったクワス。
当然だが黒パンの香り。味はラガービールには似てもにつかないが、上面醗酵のエールビールにはどことなく似ているかもしれない。黒パンそのものとて醗酵した匂いが人を選ぶが、このクワスはさらに人を選ぶかもしれん。しかこれは案外癖になるかも。私にとってはわりと美味い。
ただ、やはり微量のアルコールが発生しているので、あまりがぶ飲みすると酔っぱらい−はしないまでも酒気帯び状態になるかも。運転前や勉強前には飲めないな。ロシア人にとってはガキでも飲む炭酸飲料らしいが、私はアルコールには滅法弱くなってしまっている。
左が12時間熟成もののクワス。右が24時間もの。
見た目も味もほとんど区別が付かないが、24時間置いた方は若干炭酸が弱かった。やはり早めにペットボトルに詰めないと炭酸が逃げてしまうのか。もう3リットル作れるだけの麦芽汁と酵母が残っているのが、今度作るときは12時間でよかろうて。
(5)出来上がったクワスは、冷蔵庫の中でその美味さと品質を少なくとも5日は保持します。
3リットルを1人で飲むのは多い。微量とはいえアルコールが入っていなければ朝飯代わりに朝ひっかけ、帰ってからもひっかけていられたかもしれないが、微量でもアルコールの入っているものは一日の勉強が終わってからでないと飲めない。まあ、ゆっくりと寝る前に飲むこととしますか。
それにしても、もし来客があったとしても、ラベルのないペットボトルに入ったあやしげな液体を口にする客はいないことかと。手作りは工場出荷よりも不衛生で胡散臭い気がするのだろう。日本人の衛生イメージ(観念ではない)はこんなもの。確かに、どこの誰とも知れぬ個人が作ったものなど口に出来ないが、工場の衛生管理・品質管理とて無条件に信用できたものではないのだが。
と言ったところで人にこのままこれを飲ませることは不可能だ。「うまい」「まずい」「くさい」という以前の問題として。人が読めないロシア語が書かれたバルチカか何かの瓶に詰め直して、工場出荷品のように繕ったら飲ませることは出来そうだが。
人に注入することも視野に入れて、残り3リットルをどういうタンミングで作ったものか。それが現在思案していることである。