1999/10/01 - 2000/09/10 作成
2001/03/26 公開
担当:カルネアデス

ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #01


天城小次郎 「‥‥。」

相変わらず暇だ。

‥‥なに、勝手に話をはじめるなって?
別にはじめたつもりはないぜ‥‥。


だが、今からはじめるつもりだがな。

俺の名前は天城小次郎(あまぎこじろう)。
あまぎ探偵事務所の所長だ。
探偵としての腕は、昔居た事務所ではエースだった‥‥。
まあ某事務所のレベルがわからなければ基準にはならないがな。

主な依頼はペットの捜索と浮気調査だな。
昔から言われがちだが本当にくるんだぜ、浮気調査って奴は。
そんな依頼なんてすぐに片づいてしまう上に、依頼量も少ない。
よって暇だ‥‥。

おっと、残念だったな。
暇とは言っても今、懐はあついぞぉ。

‥‥それにしてもあの依頼、刺激が強すぎたかもな。
いや、こうしている間だけは暇だと思っていたいだけだ。

現にさっき―――数日前だが依頼を終えてきたばかりだ。

改めて無力だと思い知らされたよ、この一件で。
意味深だって、まあそれはそれ‥‥だ。

俺はいったい誰を救うことが出来るんだろう‥‥。

‥‥俺はいったい何をやってたんだ。


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #02


ここにいても仕方ない、出かけるか。
セントラルアベニューにでも‥‥。
そうだな、せっかく車があるんだから使うか。

もうすっかり夜だな。

なんだよ、俺が車もってたら悪いのか?
‥‥まあ、これは依頼主がくれたものだからかな。

‥‥今度はなんだよ。 ははん、さては免許だろ?
そんなものライセンス―――探偵許可書と一緒に付いてくるぜ。
まぁ、探偵には護衛という依頼もあるからな、必須(ひっす)ってわけだ。

ついたぜ、セントラルアベニューに。
‥‥行き付けの酒場にでも行くか。


天城小次郎 「‥‥。」

酒場だが‥‥ やはり誰もいない。

あいつはまだ帰ってきていないようだな。
商品そのままで夜逃げなんかしやがって、
あいつにはプロとしてのプライドはないのか?

ついでに言っておくが、商品とは酒のことだぜ。

‥‥そのままで逃げたのが悪いんだからな、
せいぜい俺が全部ボトルを空けきらないうちに帰ってこい‥‥。


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #03


‥‥くそ、いらいらするだけだな。
夜風にでもふかれるか。

天城小次郎 「‥‥。」

車にもたれ掛かりながら、ぼーっとする。
うーむ、この車は処分するべきなのだろうか。

いや、ダメだな。
それはやめよう、俺自身への戒(いまし)めの為にも、だ。

車から視線を逸らすと人混みが目に入ってくる。
この時間だとやはり人が少ない‥‥な。
歩いている連中といえば会社帰りの奴等が、帰路を急いでいるというところか。


ふと夜空を仰(あお)ぐ。
流石(さすが)と言っておこう、俺の城―――探偵事務所の事だぜ―――がある
海岸沿いの倉庫とは雲泥(うんでい)の差だな。
セントラルアベニューの高層建造物群は。

まったく、こんなホテルがあるせいで、星空が拝めないんだな。
って、なに言ってんだ俺は‥‥。


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #04


天城小次郎 「ぶるっ。」

‥‥なんだか風が冷たいな。
酒もさめたうえ、心までさえちまう‥‥。

仕方ない、帰るか‥‥。

天城小次郎 「‥‥。」

まったくどうしちまったんだろう、俺は。
こんな気分ははじめてだぜ。
そりゃ他人と比べてちょっとは自分勝手‥‥ってのはわかるが。
俺なりに最善のことをやったはず‥‥。

少年 「ちょっと、荷物多すぎない?」

女 「我慢してよ‥‥もう追ってこないかしら?」

なんだ? 騒がしいな。

少年 「ちょっと。」

‥‥何か嫌な予感がするぞ。

少年 「ちょっと、前前々ぇーーー!!」

女 「なに‥‥きゃぁ!!」

天城小次郎 「うぉぉ!?」

な、誰かが後ろからぶつかってきやがった。


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #05


女 「買い物袋は‥‥無事ね。」

をひをひぃ、ぶつかっといて第一声がそれかよ‥‥。
ここは一発ガツンといってやらねばな。

天城小次郎 「あのなぁ、ぶつかっといて買い物袋の心配かよ。当たられた俺様はどうなんだ?」

女がふりかえる。

女 「ああ、すいません。ちょっと急いでいたもの‥‥あれ?」

天城小次郎 「‥‥お前、たしかどっかで見た事が。」

そうか、確か法条の後輩の桐野杏子(きりのきょうこ)‥‥だったかな。 それなら‥‥。

天城小次郎 「ああそうだーっ、確か指名手配の‥‥。」

桐野杏子 「ちょっ‥‥天城さん。 こんな時にそんな事言わないで下さい!!!」

すごい剣幕で怒る桐野。
ここらへんは法条譲(ゆず)りの何かを感じるな、うん。
‥‥まてよ、今 『こんな時』 と言ったな? また何かに首を突っ込んだのか?

天城小次郎 「!?」

この桐野が護衛している小僧‥‥多分護衛だろうが、似ているな。
先の事件で俺が護衛していた娘に‥‥。

天城小次郎 「そうか誰に追われているのかは知らないが、まあこっちだ。」

仕方ない、俺も首を突っ込むしかないか‥‥。


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天城小次郎 #06


桐野杏子 「え、あ、助かります。 こっちよ。」

桐野が俺の横まで追いついてきた。

天城小次郎 「おい、桐野。 俺を護衛しているのか?」

桐野杏子 「え?」

天城小次郎 「護衛する奴を一番後ろに歩かせるというのはいい事なのか?」

桐野杏子 「‥‥そうですよね。 ねぇ君、天城さんと私の間、歩いて。」

‥‥ホントに内調が採用したのか?
桐野が採用されたのは、何かの間違いだったんじゃないのか?



天城小次郎 「まあ好きな所に座れ。」

来た場所はさっきの酒場だ。
俺の正面の椅子に座る二人。

天城小次郎 「で、今度はいったいどんなことになったんだ?」

小僧が桐野を見つめて、何かひそひそ話をしている。
まぁ、俺を警戒しているんだろうな。

桐野杏子 「えっと何から話せば‥‥。」


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #07


天城小次郎 「何からって桐野お前‥‥。」

しっかりしてくれよおい、調子が狂っちまうぜ。
ホントにこの小僧、桐野を頼ってて大丈夫なのか?
なぜか不安になる‥‥いや、絶対に不安だぞ。

桐野杏子 「はははは‥‥あれ?」

あれ、いつのまにか小僧がいなくなってる。

『がしゃん』

‥‥いやな予感がする。

桐野杏子 「ちょっと君、そんな飲み方しちゃ駄目だよ!」

やっぱり飲んでやがる‥‥。
それも俺が明日楽しもうとしていた酒だ。

天城小次郎 「まあ、何があったのか知らないけど結構参ってるんだろ、あの小僧?
                   やりたいようにやらしてやれ。」

桐野杏子 「え、ええ、でもこの店って‥‥。」

天城小次郎 「気にするな知り合いの店だからな。」

別に嘘は言ってないぜ。

桐野杏子 「そうなんですか。 で、彼ですけど、知らない男に追い回されたらしいわ。」

天城小次郎 「なんだそりゃ、物騒だな。」

桐野杏子 「事の始めは、自宅の車が炎上して、それから男がつけまわすようになったんですって。」

天城小次郎 「‥‥ただ進行方向が同じなだけじゃないのか?」

桐野杏子 「それがその男、ずーっと刃物持ってつけてるんです。」

天城小次郎 「刃物だと!」


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天城小次郎 #08


机を押しつぶしそうな勢いで叩く。

桐野杏子 「え..ええ、ちょっと天城さん‥‥?」

天城小次郎 「‥‥どんな刃物だ?」

頼むから、予感は的中しないでくれよ。

桐野杏子 「え、確か 『なた』 じゃないですけど、なにか切れ味がわるそうな。
                だから騒ぎにならなかたんですけど‥‥。」

天城小次郎 「‥‥くそ!」

そんな馬鹿な、あいつが生きているというのか?

桐野杏子 「どうしたんですか、天城さん?」

天城小次郎 「‥‥。」

あいつのせいでみんな‥‥。

桐野杏子 「‥‥。」

なんであいつだけ生きている?

天城小次郎 「‥‥。」

桐野杏子 「あ、そうだそうだ。」

俺がやったはずだ、手応えもばっちりだった。

天城小次郎 「‥‥。」

桐野杏子 「もしもし、まりな先輩ですか? ‥‥留守電?」

‥‥まりな?

天城小次郎 「法条か?」

桐野杏子 「ええ、留守電なんです。」

天城小次郎 「‥‥そりゃそうだろうなぁ。」

桐野杏子 「え?」

天城小次郎 「驚くなよ、桐野。」

桐野杏子 「な、いきなり真面目な顔しないでください。」

天城小次郎 「法条は今‥‥重体だ。」

桐野杏子 「!?」

そりゃショックだろうな、なんせこの俺様でさえショックだったからな。

天城小次郎 「もう一度言うぞ、法条は重体だ。 ‥‥会いに行くか?」


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天城小次郎 #09


桐野杏子 「う‥‥そ‥‥。」

嘘だったらどれだけよかったか‥‥。

天城小次郎 「桐野、たのむからもう言わせないでくれ ‥‥。」

桐野杏子 「‥‥。」

天城小次郎 「今日はここに泊まるか?」

桐野杏子 「‥‥え、なんですか?」

天城小次郎 「しっかりしろ桐野。 お前が小僧を守るんだろ、いつまでもボーっとしてるんじゃない!」

桐野杏子 「‥‥。」

天城小次郎 「もう面会時間は過ぎているはずだ、だから今日はここに泊まる。
                    下手に動かない方がいいんだろ?」

桐野杏子 「そうですね、動かない方が安全そうです。」

小僧 「ZZZZZ。」

天城小次郎 「ちぇ、気が早いなあいつは‥‥。」

桐野杏子 「あらあら‥‥。」

くそ、俺の酒‥‥。


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #10


天城小次郎 「そうだ桐野、お前先に寝てろ。」

桐野杏子 「え?」

ここに来るまでは尾行されてなかったはずだ‥‥が、
あいつが相手なら、一人は起きていた方が良いだろうからな。

天城小次郎 「一応見張りをつける、まあ一種の保険だ。 誰かが来たらわかるだろ。」

桐野杏子 「‥‥そうですね。それじゃあ、1時間交代で?」

天城小次郎 「うむ、時間になったら起こす。」

桐野杏子 「はい、それではお休み‥‥。」

天城小次郎 「ああ‥‥。」

桐野は小僧の横に座った、ちょっとは考えているようだな。

天城小次郎 「‥‥。」

さっきの尾行のときは度肝を抜かれたが‥‥。

天城小次郎 「‥‥桐野?」

桐野杏子 「‥‥ぐぅ。」

はっ早いな、もう寝付いたのか?

天城小次郎 「はぁ、楽しみにしていた酒が‥‥。」



はぁ‥‥また首を突っ込んでしまったな。

あの出来事から少しは落ち着いた証拠‥‥なのか?
‥‥違うな、この事はあの事の続きだ。 俺の直感が、ここへ導いたんだ。

それにしても、あれほどのやつが桐野ごときに捲(ま)かれた‥‥と言うのは信じ難(がた)いのだが。

まあ俺様達にとってはラッキーな事、しかし、何かフに落ちないな。


フに落ちないといえばこの小僧、絶対にあの写真の小僧だ。

それにしてなぜ‥‥あんな酷(むご)い事を? 利用するために狙っていたんじゃないのか!?
こいつも殺されるクチなのだろうか‥‥。

だが、もうあんな事の再現はまっぴらごめんだ!


しかし次回、俺は奴に勝てるのだろうか‥‥。



『こちこちこち‥‥。』

‥‥もう一時間か。

天城小次郎 「おい、桐野。 時間だ。」

桐野杏子 「ふゃい‥‥。」

あん、桐野の手元が光ってないか?

桐野杏子 「なんれすかぁ‥‥。」

指輪‥‥か。

天城小次郎 「‥‥おまえこういう事やったことないのか?」

桐野杏子 「‥‥。」

‥‥意味が通ってないか?

天城小次郎 「見張りとかそういう事をやったことはないのかと聞いたんだ!」

桐野杏子 「‥‥。」

首を縦に振る桐野。
そんなやつに任せたら俺様達の生命(いのち)が危(あや)うい。

天城小次郎 「ああ、わかったよ。 おまえは寝てろ!」

桐野杏子 「‥‥おやすみ。」

‥‥‥‥‥‥指輪‥‥か。


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天城小次郎 #11


『とんとんとんとん‥‥。』

‥‥何だろう、懐かし音と香りがする。

天城小次郎 「ふわぁぁ‥‥。」

桐野杏子 「あ、天城さん。 おはようございます。」

桐野が炊事場に立っている?

天城小次郎 「‥‥‥‥‥‥‥‥これは夢か?」

桐野杏子 「へ?」

天城小次郎 「確か法条が、『杏子はお料理の一つも出来ないのよぉ―(けらけら)』
                   ‥‥といっていた気がしたのだが。」

桐野杏子 「ひっど―い、そんなのぜんぜん嘘ですよ。」

うそ‥‥か。

天城小次郎 「そういえば小僧は?」

桐野杏子 「まだ寝てます。」

小僧 「ZZZZZZZZ。」

天城小次郎 「‥‥まあ、あれだけ飲んだんだ。 ‥‥ん? ちょっと待て、こいつ何歳だ?」

桐野杏子 「え? ‥‥‥‥‥‥知らない。」

天城小次郎 「まさか急性アルコ―ル中毒じゃ!!」

桐野杏子 「それは大変!!」

天城小次郎 「しっかりしろ小僧ぉぉ――!!」

桐野杏子 「ねぇ君、目を覚ましてよぉぉ――!!」

小僧 「‥‥。」

天城小次郎 「小僧ぉぉ――!!」

桐野杏子 「返事して坊やぁぁ――!」

小僧 「‥‥うるさい(ぼそ)。」

天城小次郎 「‥‥。」

桐野杏子 「‥‥。」


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #12


テ―ブルの上には桐野の作った食事が並べられている。
それを3人で食事を採る事にする。
ほぉ‥‥ほんとに料理ができなかったのか、疑問なぐらいイケル味だ。

はぁ、氷室もこれぐらいできたら‥‥。
そう言えば弥生はこれぐらいでき‥‥じゃなくって。



天城小次郎 「なにぃ、名前がわからないだとぉ!!」

小僧 「いったいここどこなの? ついでに頭痛いし‥‥。」

桐野杏子 「‥‥お酒で記憶喪失になるのかしら?」

小僧 「‥‥お酒は昨日飲んだよな。」

都合の良い記憶喪失だな。
しかし、それだけの思いをしたということだな。
まあ、相手がアイツなら仕方ないか‥‥。

天城小次郎 「何とかという記憶喪失だなそれは。」

桐野杏子 「要するに自分の名前だけ忘れちゃったの?」

天城小次郎 「どうやったらそうなるのかは詳しく知らんが、昨日の出来事が原因だろうな。」

小僧 「ごちそうさま。 ‥‥困ったな、名前が分からないと‥‥。」

仕方ない、適当に付ける‥‥か?

天城小次郎 「それは俺様達の科白(せりふ)だ‥‥。」

桐野杏子 「ここは仕方ないので、見城(仮)と呼びましょう!」

天城小次郎 「う―ん、グレン(仮名)の方が‥‥。」

小僧 「‥‥それって、誰の名前?」

桐野杏子 「(いい)先輩(だと思ってたのあんな事に‥‥)。」

天城小次郎 「(裏切りやがった)情報屋(でも悪い奴じゃない)。」

小僧 「‥‥。」

桐野杏子 「‥‥。」

天城小次郎 「‥‥。」

‥‥小僧が何か嫌な顔をしている、感付かれたか?

小僧 「い・や!」


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天城小次郎 #13


天城小次郎 「よし、腹も膨(ふく)れたから、行くか。」

桐野杏子 「‥‥どこへ?」

どこへって‥‥勘弁してくれ。

天城小次郎 「き・り・のぉ〜〜〜‥‥。」

こ‥‥こいつぅ‥‥ 昨日の夜より厳しい目で見てやるぞぉ!!

桐野杏子 「え‥‥。」

天城小次郎 「病院に‥‥だ。」

桐野は少し考え込んで一言。

桐野杏子 「あ‥‥そうでしたね。」

天城小次郎 「ふむ、そうでした‥‥だ。」

‥‥はぁ、法条、こいつどうにかしてくれないか?



俺は車のところまで着た、一人でだ。
‥‥あん、あいつらか?

別に待たしとけばいいさ。
何、こんな時に奴が来たらどうするかって‥‥。



‥‥‥‥それは考えてなかった(汗)
俺はアルファロメオ・デュエット―――俺の車だ、文句あるか! いかにも良さそうだろ?

おっと、脱線してしまったな、この俺様のアルファロメロにのり‥‥ぐはぁ!
しっ‥‥しまった‥‥ 鍵がかかっている扉をかかっているにもかかわらず、
思いっきり引っ張ってしまった‥‥ てっ、手がぁ‥‥。

くそ、桐野と居ると調子が狂うんじゃないのか?



はぁはぁはぁ、何で息が上がってるかって?
それは解ってるだろ? 上を見てくれ、俺様はそれ以上言いたくないからな。

まったく‥‥車に乗っていながら息が上がっているなんて‥‥なんだかなぁ、だ。
よし、あいつらの所に乗り付けたぞ。

桐野杏子 「ごめん、ちょっと火の元見てくるわ。」

‥‥なにぃ、俺様がどれだけ苦労したと思ってるんだ!

天城小次郎 「桐野ぉ‥‥ まってる間に止めとけよな。」

桐野杏子 「‥‥はぁーい。」

‥‥こいつ、今の今まで何やってたんだ?



取り合えず小僧を車に乗せて桐野を待つ事にする。

天城小次郎 「そういえば小僧、結局のところ名前は何が良い?」

小僧 「え‥‥ 食事の時の名前は嫌だ!」

‥‥だそうだ、嫌われたものだな、グレンよ。

小僧 「さっきので良いですよ。」

さっき‥‥の?

桐野杏子 「はぁはぁ‥‥お待たせしました。」


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天城小次郎 #14


ブロロロロロロ‥‥。

とりあえず適当に車を流す、まあ内調へ行く予定だが‥‥
桐野の奴が言い出さない限り‥‥このままだな。

桐野杏子 「へぇ、天城さんって車の運転出来たんだ。」

天城小次郎 「探偵たるもの車ぐらい運転できなければ、話にならないぜ。
                   まあ探偵免許を取るときに一緒に運転訓練をやらされるのだが。」

桐野杏子 「そうなんですか。」

そうなんですか‥‥ときたか、と言う事は内調はそんなの無いんだな。

天城小次郎 「そういう内調の捜査官は運転できないのか?」

桐野杏子 「必修ではなかったですから‥‥。」



‥‥さっきの、ちょっと引っかかるな。 一応確認しとくか。

天城小次郎 「ところで小憎。」

小僧 「はい?」

天城小次郎 「本当に『小憎』と呼んでいていいのか?」

小僧 「別に構いませんよ。」

桐野杏子 「そうだ天城さん、内調に寄ってください。」

何事か考え事をしていた桐野がそんな事を言い出した。
内調? ‥‥古巣の誰かを頼るわけか?

天城小次郎 「‥‥そうだな、ところで内調はどこにあるんだ?」

昔、法条に連れてこられた事があるが‥‥ まあ念のために聞いておこう。

桐野杏子 「セントラルアベニュ―の西です。」

天城小次郎 「わかった。」



天城小次郎 「ついたぜ、内調に。」

桐野杏子 「さあ、入りましょ。」

天城小次郎 「は、俺様もか?」

桐野杏子 「もちろん、天城さんもです。」

天城小次郎 「‥‥。」

桐野杏子 「どうしたんですか? せっかくだから行きましょうよ、こんなところ滅多に入れませんよ。」

今行くとあのヒゲの勧誘がありそうなのだが‥‥。

桐野杏子 「ほら、行きますよ。」



天城小次郎 「‥‥。」

小僧 「天城さん、行かないんですか?」

天城小次郎 「‥‥なんでお前がここにいるんだ?」

小僧 「まだ頭が痛くって‥‥ 杏子さんが天城さんの側にいていいよって。 なんで入らないんですか?」

天城さん? ああそうか桐野の真似だな。

天城小次郎 「‥‥なあ小僧、俺様のことは小次郎でいい。」

小僧 「小次郎さん、何かイヤな理由があるんですか?」

すると桐野一人か?

天城小次郎 「‥‥しまったぁ!!!! 行くぞ小僧! ‥‥小僧?」

小僧が頭を抑えている。

小僧 「小次郎さん‥‥。」

そういえば、小僧は二日酔いだった‥‥な。

天城小次郎 「ああ、わりぃ‥‥。」



天城小次郎 「はぁはぁ、桐野はどこに行ったんだ?」

くそ、この内調ってところはなんて広いんだ‥‥。

小僧 「さあ‥‥。」

天城小次郎 「‥‥そりゃそうだな。」

俺様とした事がミスったぜ、間に合うか?

小僧 「小次郎さん、あそこ‥‥。」



桐野杏子 「そういえばまりな先輩、入院されたそうですが‥‥。」

ヒゲのおっさん 「‥‥どこでそれを。」

桐野杏子 「そんなことはどうでもいいでしょ、一体どうして‥‥。」

ヒゲのおっさん 「‥‥。」

やばい、ばらされると後が厄介だ。

天城小次郎 「よう、ヒゲのおっさん。」

間一髪‥‥ということにしといてくれ、俺様は疲れた。

ヒゲのおっさん 「君は‥‥天城君? そうか、いらない事を吹き込んだのは君か。」

いらない事‥‥ときたか。

天城小次郎 「べっつに〜、どうせ桐野は内調に来るしか選択肢はなかったんだ。
                   それにここに来ればいずればれることだ。 だから構わないだろ?」

ヒゲのおっさん 「‥‥そうか。 で杏子君、何でわざわざ昔の職場へ来たのかね?
                       その手の事件だとは思うんだけどね。」

桐野杏子 「実は‥‥。」


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天城小次郎 #15


俺達は今自販機の前に居る、ほかの奴がきたので取り合えず席を外してやった。
まあ俺様が顔をだしたんだ、余計なことは言わないだろうが‥‥。
言うような奴――髭だったらこの組織もそれまでということだな。

天城小次郎 「おい小僧、ジュースを買うが何がいい?」

小僧 「‥‥。」

天城小次郎 「なぁに、気にするな。 俺様のおごりだ。」

といってもさっき桐野の財布からいただいたのだが‥‥。
あいつの分も買っていけば問題無いだろう。

小僧 「小次郎‥‥それ杏子さんのじゃ?」

なにぃぃ!!!

天城小次郎 「な、何を根拠にそんな‥‥。」

小僧 「さっき、さりげなく杏子さんの背後についたから。」

天城小次郎 「おいおい、それだけで疑うのか? 俺はこんなナリでも筋は通すんだぜ。」

小僧 「その後、小次郎の懐が膨らんでたんだけど‥‥。」

天城小次郎 「‥‥。」

小僧 「‥‥。」

天城小次郎 「‥‥。」

小僧 「‥‥。」

天城小次郎 「ああ、わかったよ。俺様の負けだ。 桐野には内緒な。」

とりあえず、さっさと何か買おう。



天城小次郎 「いい洞察力だな。」

小僧 「え、普通は気づくんじゃない?」

天城小次郎 「よほどの奴でなければ気づかん、俺様の腕はそんなに低くないぞ。」

小僧 「‥‥低くないって?」

天城小次郎 「そりゃ、マジメに窃盗でもしていれば、こんな生活なんかはおさらば出来るぐら‥‥。」

小僧 「‥‥。」

天城小次郎 「‥‥そうだよな、その道に走ればどうにかなるかも。」

氷室恭子 「よくもまあこんなところでそんなことが言えるわね。」

天城小次郎 「あん‥‥ひっ、氷室?」

氷室恭子 「なんであなたがこんなところに居るのよ?」

天城小次郎 「‥‥それは俺様の科白でもあるぞ、氷室。」

氷室恭子 「なにって、ここが私の職場だからよ。」

天城小次郎 「職場って‥‥ここが?」

氷室恭子 「そうよ、ここよ。」

天城小次郎 「ほうほう、あれほど公僕は嫌だぁ!‥‥とかなんとか言って、
                  俺の事務所に転がり込んだあげく、俺様のハイグレードスペシャルちゅ〜ん端末を
                  自分勝手に専用機として取り上げ!
                  『やっぱりただで手に入れたパソコンは格別よねね〜♪』 などと鼻歌交じりに
                  省庁サーバーににハッキングを掛けていたではないか!!」

氷室恭子 「な‥‥。」

天城小次郎 「‥‥そうか、ハッカーは最終的にハッカーの天敵になるのが定石だったな。」

氷室恭子 「な、何馬鹿な事をいっているのよ!!!」

天城小次郎 「ふっ、何だかんだ言っておきながら、結局元の鞘に収まったか?」

氷室恭子 「別に! しがない探偵家業よりましだわ。」

天城小次郎 「むぅ‥‥。」

氷室恭子 「‥‥なによ。」

思ったより元気そうだな、茶化しはこのぐらいにしておこう。
さて、本題だな‥‥。

天城小次郎 「ああ、そうだひむ‥‥。」

佐久間裕一 「ちょっといいかな。」

天城小次郎 「ろぉ‥‥。」

氷室恭子 「なによぉ‥‥あら?」

またこいつか‥‥一体何もんなんだ?

佐久間裕一 「‥‥相変わらずだな、氷室君。こんなところにいたんだ、探したよ。」

氷室恭子 「あら、佐久間さん。 何か用?」

佐久間裕一 「それはないだろ、今日会う約束してたじゃないか。」

氷室恭子 「ちょっと待ってね‥‥そういえばそうだったかしらね。」

佐久間裕一 「監視機構に戻ってくる気はないのかい?」

氷室恭子 「ないわ、別に今だって‥‥。」

佐久間裕一 「そうだったね、変な事言って悪かった。」

天城小次郎 「‥‥邪魔みたいだから行くか。」

小僧 「そうだね。」


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天城小次郎 #16


天城小次郎「さて、これからどうするかな‥‥。」

小僧「どうしよっか。」

天城小次郎「どうすっかなぁ‥‥。」

‥‥にしてもこの小僧、ただ者じゃないだろうな。
何といっても、両親が目の前で死んでこの様子だ。
俺様の時は腸(はらわた)煮えくり返るっつうか、なんというか‥‥。

冷静すぎるな‥‥ここは一発泣かしておいた方が良いか? ‥‥って何考えてるんだ、俺は。

小僧「またあの人だね。」

天城小次郎「あん? ああ、そうだな。」

あの男がこちらに居るということは桐野の方は二人になったということだろうな。
桐野のお手並み拝見と行こうか、ま、ここに小僧を保護させる以外、道はなさそうだが‥‥。

小僧「さっきの女の人と知り合い?」

天城小次郎「‥‥‥‥。」

小僧「‥‥‥‥。」

お、まださっきのジュースが空になってないぞ。一気に飲み干す!

小僧「‥‥恋人?」

天城小次郎「!?」

ぶばぁ‥‥!!

小僧「ああ、図星?」

天城小次郎「ごほごほ‥‥。」

くそ、なんていう日だ‥‥ジャケットが汚れてしまったぞ。

天城小次郎「いや‥‥断じて違う!」

小僧「またまた、嘘いっちゃって。」

天城小次郎「くそ、今日はなんていう日だ‥‥桐野に関わると、
                  ろくな事が無いんじゃないのか?」

小僧「話をすりかえないでよ。」

『ぎゃあああああああああ』

天城小次郎「!? なんだ?」

小僧「すごい悲鳴‥‥。」

天城小次郎「男の声だな‥‥?」

小僧「みたいだね。」

天城小次郎「‥‥‥‥。」

小僧「‥‥‥‥。」

天城小次郎「まあ、どうせ氷室にいらん事でも言ったんだろう。」

んん、この部屋は‥‥。

小僧「どうかした‥‥? あ、射撃訓練所?」

と言った瞬間、小僧が部屋に入る。

天城小次郎「‥‥まあ良いか。」



小僧は拳銃を物色している、勝手にさせておこう。
俺様にはやることがあるんでな‥‥やるのを忘れていたんだがな。

かちゃり‥‥。

ジャケットの左懐‥‥丁度心臓がある方から、グロック22を抜く。
こいつとも長い付き合いだな‥‥じゃあ行くか。

ばああああん。

よし、的には当たる、思ったほど照準は狂ってないようだ。


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #17


‥‥まてよ。

これはちょっと考えようによっては‥‥俺は愛銃の調整を開始した。





どかかぁぁぁぁん!!

天城小次郎「な、なんだぁ!?」

小僧「うわ!?」

どかかぁぁぁぁん!!

おい、ちょっと派手すぎるぞ!?

どかかかかあかあかぁん!!!!!

‥‥どんどん近づいてくる。爆発音だぞ‥‥こんな所でか?

人影「ごほごほ、凄い威力だな。」

!?

人影「こんなものを提供していただけるとは‥‥恐れ入るね。」

今俺の目の前にいる奴‥‥忘れもしない。

天城小次郎「き‥‥貴様‥‥。」

俺の呼びかけに気付き、こちらを向き直る人影。

奴「ほう‥‥この間は鉛弾をありがとう。」

ばん!

天城小次郎「ならば再び喰らえ!!」

俺は先制攻撃を仕掛けた。
殺人のプロ相手だ、悠長(ゆうちょう)な事は言ってられない。

きぃん。

奴「ふっ‥‥いきなりとはご挨拶だな。長髪の青年。」

天城小次郎「くっ‥‥。」

奴は銃弾を刃物で受け止めた‥‥くそ、やっぱり駄目か。





法条の愛銃――ベレッタM1919には弾が残ってなかった、
路上には放たれた「はず」の銃弾が転がっていた。

転がっていたのさ、めり込んでいる‥‥のではなくてだ。

これは‥‥叩き落とされた‥‥と考えろという事か?

しかし今、その事実を語れるものは誰一人としていない。

いても‥‥今、語る事は叶わない。

そう考えでもしないと、
法条がここまで一方的に負けたという計算が出来ない‥‥。





くそ‥‥こういう冗談みたいな推理が当たるのは、
なんか納得いかないぞ‥‥自分で導き出した答えだというのに‥‥だ。

奴「私が用があるのはそちらの少年でね‥‥退(ど)いてもらえるかな?」

天城小次郎「断る‥‥と言ったら?」

奴「さぁ‥‥どうしたものかな。」

奴は刃物を弄(もてあそ)んでいる‥‥くそ、余裕かよ。


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ADAM の続き (仮名)

天城小次郎 #18


小僧は俺より奴の近くに位置している。
三角形を描いてその左下に居ると考えてくれ、面積はそんなに無いけどな。
右下には俺、頂点には奴がいる。大まかに言うとそういう状況だ。

つまり小僧は‥‥そばに居ないという事だ。

俺様が必ず手を出して来るのを見こしてるくせに、
退(ど)いてくれと言った奴‥‥目標に集中したいが為だけに
言った科白(せりふ)だったのかもしれんが‥‥くそっ!

奴「‥‥‥‥。」

天城小次郎「‥‥‥‥。」

奴「‥‥‥‥。」

天城小次郎「‥‥‥‥。」

奴「‥‥‥‥。」

天城小次郎「‥‥‥‥。」

奴「‥‥‥‥。」

天城小次郎「‥‥‥‥。」

奴「‥‥‥‥。」

天城小次郎「‥‥‥‥。」

奴「ふふ‥‥どうした、動かないのかね?」

悔しいが正直な所動けない‥‥おやっさんが居た頃は
修羅場ばっかりだったからな、いろんな意味で‥‥だ。
あの頃が懐かしいぜ‥‥おっと、集中しないとやられてしまうぞ。

‥‥やるか。

天城小次郎「そうだな‥‥。」

かちゃり。

俺は重力に引かれるまま右手に収まっていた愛銃の銃口奴に向け、
そのまま平行に‥‥足が地に付いているのを確かめるように歩き出す。
その歩みを途中で止め、今度は反対側へ歩き出す、それの繰り返し。

ただ回っているだけだったら、小僧に接触できてしまうからな。それは少しだけまずい。

奴は顔の位置を固定したまま俺を見てやがるぜ、ホントに俺の方を見ているのか判らないが‥‥。

天城小次郎「そういえばアンタ、殺し屋だったよな?」

奴は答えない。

天城小次郎「じゃあ獲物への執着心ってのはどれぐらい持ってるのかな?」

グロック22のレーザーサイトを発動させる。
銃口より下から放たれる光点、銃弾を導き行く先には‥‥。

奴「くぅ、まさかそう来るとは!!」

不審に思った奴は小僧の方を瞬時に見た。その行動の際、置きナイフというべき
飛び道具を俺に投げつけてきやがった、前回も投げつけられたんだが‥‥。

ドスッ!

今度は右肩に食らっちまった、下手に躱(かわ)している暇はない。
機会はこれだけだ‥‥といっても過言じゃないはずだ!

奴の瞳に見る映ったものはそれはとんでもないものだっただろう、
小僧の眉間にレーザーサイトのそれが輝いていたんだからな。

先ほど少しばかりレーザーサイトの固定軸を曲げて銃自体の照準は違う所を
狙っ(み)ているんだが‥‥。一体化みたいな物だからそんなに派手にはずれていないはずだ。

派手に隙を作った奴に向かって、距離を心持ち右寄りに縮めながら走った。

奴がこちらに向き返り始めようとする刹那(せつな)、更に力の限り右前方へ跳び距離を稼ぎ、
俺の愛銃が咆哮(ほうこう)をあげた。

バン、バァァァン!!

相棒の放った一撃――実際は二撃だが――奴の顔面に喰い付き、その衝撃に奴は吹き飛んだ。

ドサッ‥‥。

天城小次郎「小僧!!」

俺はありったけの怒鳴り声で小僧を呼ぶ‥‥駄目だ、放心してやがる。

跳び込みながら撃った為、膝や肘はジンジンと悲鳴を上げている、ついでに右肩も‥‥だ。
そんな文句はお構い無しだ、アイツがまだ生きていたとしたら次はない。
奴等――俺自身の身体の文句なんて子供だましだ、アイツに捕まった後の拷問に比べたら。

俺は小僧の力の抜けきった腕を取り、力任せに引っ張った。その反動で歩き出す小僧。
その背中を両手で押して逃げるしかない、距離稼いでなかったら不味(まず)かったぞ。

天城小次郎「‥‥‥‥!?」

嫌な感じがした俺は小僧を思いっきり突き飛ばした。小僧は‥‥こけた。
こけていた方が棒立ちより安全かもしれないが、俺は振り返った。

振り返り様に何か光るものが目に映った‥‥が、何かは識別できなかった。
その刹那、左手首を衝撃が襲い上向きに吹き飛ばされ、俺の目の前を何かが落下していった。

真上から俺の視界に落ちてきたものは俺の黒々しい相棒だった、真上から落ちて来るなんてそんなこと‥‥。

ドン‥‥。

と何かが下に落ちた音がした。俺の目線は地面へ向く。

先ほど気の所為だと思った相棒が床に転がっていた‥‥その相棒をしっかり握り締める俺の左手。

目線を前方へ上げていくと、何かを投げてそのまま動かないでいる様な奴の姿があった。
左目の周辺に赤いものが見える、俺の相棒は左目に襲い掛かったらしい。

ま、まて、落ち着くんだ天城小次郎、おそるおそる右手を左手首へ移動させる‥‥手応えが無かった。
視線を床へ落とし、首を床へゆっくりと降ろす、右手が見えてきた‥‥左手‥‥。

それを確認した瞬間、人間(ひと)が生きている証である熱き血潮が俺の右手を蓋(おお)いつくし、
先ほどまではまったく感じなかった激痛が、左手首から体中を駆け巡り始めた。

天城小次郎「ぐわああああぁぁぁぁぁ!!!!

俺は‥‥声帯へ掛かる負担などお構いなしに悲鳴を上げた。
今気を失うわけにはいかない‥‥それと‥‥激痛に耐える為、
意識を‥‥失わない(もっていかれ)ない為に‥‥吼(ほ)えた。

to be continued ...


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