助手席の人影「‥‥そこの交差点右折です。」 運転席の人影「はい、右折‥‥ね。」 朝の通勤ラッシュをの過ぎ去った主要道路を一台の車が疾走する。 明らかに法定速度はオーバーしているが、その走りには「危険だ」と 思わせるべき不安要素が存在しない。そこに存在しているものは「優雅」と 言う名の芸術品を賞賛する為に用いられる言葉のみが存在していた。 実際、その場に居合わせた者の口からは「ほぉ‥‥」と言った類の溜息が溢れていた。 朝日を受ける白き車体は優雅に疾走する。運転手は女性だった。 そしてオープンカーの宿命は外気を搭乗者に直接影響を及ぼすこと。 現に搭乗者の髪は風にもてあそばれている。 その影響を断ち切る為が故か二人ともサングラスを掛けている為に表情は読めない。 だが、その口元には何かに裏付けられた自信と言うべきモノを感じさせた。 助手席の人影「‥‥次の信号、多分捉(ひ)っかかります。スピードを‥‥。」 運転席の女性「‥‥判ったわ。」 法定速度を遥(はる)かにオーバー続けた車体に制動を掛ける女性。 そのスピードを殺ぐ動作さえも優雅だ、車体は悲鳴をあげることなく確実に スピードを殺いでいき、助手席の人影が予告した通り信号が点滅を始めた。 先ほどの疾走が嘘だったかの如く、横断歩道の前で停止する白きオープンカー。 助手席の人影「‥‥後二つ行った所を左折で目的地ですよ。」 先ほどの爆破によって悲鳴をあげはじめた内調内部から外へ向かって駆ける私達。 氷室恭子「表へ出る最短のル−トはこっちね?」 天城さんの左腕を肩に回している氷室さんが尋ねてくる。 私は右腕を肩に通している、男の子は天城さんを背中から押してくれているわ。 桐野杏子「ちょっと待ってください‥‥そちらは確かエレベーターだけです。」 氷室恭子「‥‥そうね、こういう状況下(とき)は無難に階段を選ぶべきよね。」 遥か彼方に見えてしまいそうな分かれ道へ急ぐ私達。 天城さんは左手首を切断されてしまった‥‥だからこそ急がないと。 桐野杏子「表といっても正面玄関に出てください、天城さんの車があるんです。」 氷室恭子「車‥‥全員乗れるの?」 桐野杏子「私に男の子に天城さんに氷室さん、それに佐久間さんと本部長‥‥きついかな。」 氷室恭子「‥‥‥‥。」 佐久間裕一「ほらほら、早く外へ!」 いきなり後ろから声が聞こえた‥‥けど振り返るまでも無く私達の前を走る佐久間さん。 甲野三郎「くぅぅ‥‥もっと鍛えとくんだった。」 それに情けない悲鳴をあげながら佐久間さんに引っ張られて仕方が無く 私達の前を走っている本部長を目撃した時(?)はみんなで少し笑ってしまった。 本部長の悲鳴に共感するように内調も更に悲鳴をあげ、 天井を形造っていた物が音をたてて崩壊し始めた‥‥。 |
感想等々は掲示板かメールまでお願いします。
感想やご意見は書き手の力の源です!