2001/05/13 公開
担当:カルネアデス

ADAM THE SPIRAL FACTOR

#05 Ver.μ


 天下の往来(おうらい)を疾走する三台の車が
交通法規ぎりぎりのところで運転技術を披露していた。
その中の松乃広美の駆るユーノス・ロードスターは他の二台とは進路を変えた。

 それを合図としたのかは知らないが、空は恵みの雨を降らし始めた。
内調爆発の影響からなのか‥‥それとも――――?





甲野三郎「‥‥ん、雨‥‥かい?」

 車越しに水滴が当たる音が聴こえ始めた、
別段音を聴くまでも無くワイパーの準備をと
思っていた矢先だったのだから、気付いていなかった訳じゃないよ。

 白いオープンカーは我々とは違う方へ進路をとった、
だけど僕は赤いオープンカーに尾行(つ)いていくだけさ。

 それと車に掛かる負担は最小限に抑える‥‥それが
僕の、今時点での仕事だよ。

 この車に天城君を載せて正解だったねぇ、
この車にしかないものがあったからねえ‥‥屋根とか。

 それにしてもよもや雨が降るとは思わなかったのだが‥‥ふむ。





ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――。



少年「‥‥‥‥」

桐野杏子「‥‥‥‥」

佐久間裕一「‥‥‥‥」

少年「‥‥‥‥」

桐野杏子「‥‥‥‥」

佐久間裕一「‥‥‥‥」



ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――。



少年「‥‥‥‥」

桐野杏子「‥‥‥‥」

佐久間裕一「‥‥‥‥」

少年「‥‥‥‥」

桐野杏子「‥‥‥‥」

佐久間裕一「‥‥‥‥」



ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――。



少年「雨だね」

桐野杏子「雨ね」

佐久間裕一「雨だな」

少年「屋根無いの?」

桐野杏子「佐久間さん?」

佐久間裕一「無理言うなよ‥‥」



ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――。



少年「そこを何とか」

桐野杏子「ああ、お買い物袋がびちょびちょ‥‥」

佐久間裕一「桐野君、キミまでそんな事‥‥言うんじゃない!」

少年「桐野さんは悪く無いヨ」

桐野杏子「ねぇ、君、何で語尾が片仮名なの?」

佐久間裕一「カタカナ‥‥? 何を訳の解らない事を‥‥」

少年「画面の前の人には解るからさ、おじさん」

桐野杏子「画面? ‥‥そう言えば誰かに見られているような気が」

佐久間裕一「‥‥‥‥」



ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――。



ギャギャギャギャギャッ!!!!



少年「ちょ‥‥!?」

桐野杏子「きゃっ!?」

佐久間裕一「あ、運転ミスった」

‥‥ふ、もちろん『ワザ』とだ、悪く思うなよ。



ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――。



ギャギャギャギャッ!!!!



俺だって屋根欲しいよ‥‥まったく‥‥はぁ。






 ‥‥お、佐久間君が動いたねぇ、スリップしたようだ。
なんだい、それは動いたと言わない? それもそうだね。

 でもアレに乗っているのは今日日の男の子と杏子君‥‥
発音だけだと氷室恭子君と間違えかねないので桐野君と呼ぶことにするよ、
余裕があればね‥‥んんんん、僕も独り言を言う歳になったのかな?

 まぁ、いろいろあるよねぇ、変な言い回しだねぇ、これは。
まぁそれはともかく、動いたのは事実だよ、
ついでに目的地についたようだしねぇ。

 佐久間君はスリップした状態から四輪ドリフト
――車等の運転時に減速の手間を省いて、車体を故意に滑らせて、
次の進行方向へ安全性を欠いて向けるというモノで、
所謂(いわゆる)魅了(み)せる技術なのだが――で、
地下の駐車場に跳び込んで行ったよ、
対向車がいたらどうする気だったのかねぇ‥‥。

 僕も若い者には負けられないからねぇ〜と言うか負けたくない。

 チョット強めにアクセルを踏んで、速度を出して〜車体を滑らせてぇ〜‥‥。
なんて事はしないから安心したまえ、もうこれ以上速度を必要とはしないはず
だからねぇ、態々(わざわざ)危険を冒(おか)す事も有るまい。
天城君も居る事だし‥‥。


to be continued ... ?


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