2000/12/10 公開
担当:カルネアデス
校正:めるー


機動戦艦ナデシコ

これから


#26 Ver.β


目を開くと、人影が壁に寄り掛かっていた。

顔は地面と平行にあって、両手はバンザイのソレだった。
バンザイした手首には光る何かが見て取れた。

それが拘束するために存在していたモノで有る事は容易に想像できた、
両足にも同じような光るモノを見たからだけど……。

燕「成功したようだな……かかしはそこで休んでいるんだな。」

燕さんは僕の肩に軽く手を置いて言った。

……言葉の意味は理解できたけど、ボソンジャンプを連続で行ったのに
不思議と身体が軽い、ボソンジャンプには想像を越えるほどの
集中力と体力が必要とされるというのに……。

燕「おい、テンカワ。」

そして燕さんは自らがテンカワと呼んだ人影に近づいていく。
その途中、右袖から長いモノが滑り落ち、右手に吸い込まれていく。
燕さんの服ってどうなってるんだ?

記憶喪失「……アキト!」

僕もアキトだと思っている人に近づく事にした。
燕さんが拘束具の鍵穴に先ほどの何かを差し込むと……
ふにゃふにゃだった物体が固体になったような気がした。

その固体になった物を回転させると「かちゃり。」と
鍵が開いたときのような音がした。

拘束されていた男「……だれ……だ。」

その刹那(せつな)、アキトだと思っている人物が呟いた。

僕はアキトの正面に立ち、背中へ向かって腕を回して――こうしないと
拘束具を全てはずした時、倒れてしまいそうだったからなんだけど、
その状態でアキトの耳元に囁(ささや)いた。

記憶喪失「……アキト。」

拘束されていた男「俺の……名前を訊(き)くや……つは……。」

「かちゃり。」と全ての拘束具が燕さんによって除去された。
解放された男は全体重を僕に預けてきた。

拘束されていた男「ここの……関係……者じゃない……やつだけだ。」

記憶喪失「もちろん、ここの関係者じゃないよ。」

拘束されていた男「そんな……。」

彼の語尾には驚きが滲(にじ)み出ていた。

記憶喪失「僕には名前が無いんだ、記憶喪失で……。」

拘束されていた男「そうか、あんたか……わざわざすまない。」

記憶喪失「何を言ってるんだよ、僕たちは仲間……家族だろ?」

ふっ……と息を吐くアキト。

拘束されていた男「……そうだったな、すまない。」

記憶喪失「謝ってばかりじゃないか、アキト。」

テンカワ・アキト「そういう気にもなるさ。」

突如「ごほん」と咳払いをする声が聞こえた

燕「お取り込み中申し訳ないが、そろそろ……。」

記憶喪失「そうですね、すみません、燕さん。」

テンカワ・アキト「燕?」

アキトの耳元に燕さんが顔を寄せる。

燕「月臣だよ、テンカワ・アキト。これより脱出する。」

その一言を聞いたとき僕は何かを忘れていたんだと気付かされた。

燕さんと合流して北辰に遭って……その原因はアクア・クリムゾンに
一服盛られた事だったんだけど、僕の目的……それを忘れていた。

僕はアキトの身体を燕さんに預けた。

燕「かかし?」

記憶喪失「ごめん、アキト、燕さん。僕にはまだやる事が……残っているんです。」

テンカワ・アキト「イツキさんか……。」

記憶喪失「ええ……。」

テンカワ・アキト「……ユリカの事も頼む。」

記憶喪失「解っているよアキト、何処にいるか分からない?」

テンカワ・アキト「分からない……だが、無事なのは知っている。」

記憶喪失「それだけ分かっていれば十分だよ、じゃあ、行ってくる。」

僕は意識を集中させた、先ほどまでのジャンプとは違う……
自分の意志でのボソンジャンプをする為に。

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